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組長、ギャルにレディースのヘッド。エッジの効いた役が続く恒松祐里「どれだけ振り切れるかが勝負でした」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)2023「Gメン」製作委員会 (C)小沢としお(秋田書店)2015

岸優太が問題児クラスに転校してくる青春エンタメ映画『Gメン』に、ヒロインのレディースのヘッド役で出演している恒松祐里。朝ドラと『全裸監督』に同時期に出たりと振り幅は大きく、最近では舞台『パラサイト』でギャル役を演じている。今回は派手な特攻服で強気な振る舞いを見せながら、恋愛には不慣れでピュアという役どころ。多彩な人物像を次々とモノにしている裏にあるものは?

変わった役が多くて衣装からいろいろ着られて

――役幅の広い祐里さんですが、最近だと極道の組長、ギャル、そして『Gメン』でのレディースのヘッドと続いています。

恒松 変わった役が多くて(笑)。衣装からいろいろ着られて楽しいですし、役者だからできることですよね。

――演じるのが難しかった役はないですか?

恒松 『Gメン』のレイナは中身は真っすぐで純粋な子なので、違和感や難しさはなく演じられました。舞台『パラサイト』では関西弁の役で、感情の乗せ方やノリは普段通りではなかったです。でも、見た目はギャルでも親に反抗している普通の女子高生で、役作りはいつもと同じでした。

――『Dr.チョコレート』での組長役は?

恒松 ちょっと特殊でしたね。私が人生で経験してないことが多すぎて(笑)、難しい部分はありました。『極妻(極道の妻たち)』を参考にさせていただきましたけど、私の役はすごく若い組長だったので。10歳のドクターの唯ちゃんとの接し方には、組長でない部分が描かれていて、他人への目線を大切にしました。

なぜ自分にこの役?とビックリしました

――『Gメン』でレディースのヘッド役のオファーが来たときは、どう思いました?

恒松 いやもう、ビックリしました(笑)。私がレディースってどういうこと? と。でも、原作マンガを読んだら、極端なところはあっても根は普通の子だったので、安心しました。

――自分に何が求められたかも考えました?

恒松 それはいまだに解明できていませんけど(笑)、瑠東(東一郎)監督からは「お芝居に色を付けすぎないで」と言われました。周りが濃いから、そのままで大丈夫だと。現場で起こったことに、レイナとして素直に反応していた感じです。

――事前に準備したことも、特になく?

恒松 レディースの精神を学ぼうとネットで探していたら、昔、本物の総長たちで結成した鬼風刃(きふうじん)というグループがあって。その曲をYouTubeでずっと聴いて、メイク部屋でも流していました。バイクで疾走しているような曲で、「仲間を傷つけたら許さねえ!」みたいな語りから歌に入ったりしていて。それを聴いて現場に行きました。

――「仲間を傷つけたら」的なことは、レイナも言ってました。

恒松 そうですね。歌からインスピレーションをもらって、レディースの仕草を本で調べたりもしました。レイナは令和のレディースなので、特攻服を着ているときは強いけど、普通の服のときは普通の女の子という感じにしています。

特攻服はアイデンティティだったので

――特攻服も似合っていました。

恒松 たまたまレイナの特攻服が私の好きなピンクで、すごくかわいくて気に入りました。ずっと「欲しい」と言っていたんです(笑)。普段も着たくて、原宿辺りならいけなくもないかなと。実際に着てみると、バイクに乗るときはちゃんと開くようになっていたり、いろいろ細工があるんです。衣装はこの作品で大切な部分でした。

――形から入ることもあったり?

恒松 そうですね。一番レイナらしい衣装が特攻服。勝太(岸優太)とのデートシーンが何度かあって、それぞれイメージの違う服装で行ってますけど、衣装がなかなか決まらなかったとき、私から「特攻服はどうですか?」と提案させてもらったんです。監督も「そうしよう」と、採用されました。結果、映像を観て本当に良かったと思いました。

――普通、デートに特攻服はないですけど。

恒松 レイナにとって、特攻服はアイデンティティでもあるので。勝太とずっとすれ違いながら、本当の自分で向き合ったように描かれていました。

――「生きて帰れると思うなよ!」とか、タンカの切り方は練習したんですか?

恒松 何回か鏡の前で練習した気はします。でも、実際は現場の雰囲気でやっていましたね。

――ヘッドとしての貫禄も意識しました?

恒松 レイナがヘッドになったのは、身体的に強いというのもありますけど、仲間を大切にして、誰にも分け隔てなく接するからだと思うんです。貫禄を意識するより、仲間を思いやることを大事に演じていました。

全部アドリブで一生終わらない気がして(笑)

――一方で、ファミレスでのレディースのメンバーとの恋愛話の掛け合いは、面白かったです。

恒松 あのシーンは撮影前に2時間くらい空いていて、レディースの3人でお芝居をどうするか、作戦会議をしたんです。テンポ感を作ったり、チーコ役の小野(花梨)さんが「男と女が会う。イコール、ホテル」という謎の方程式に手振りを付けたり(笑)。台詞は台本のまま、動作的なことをどうすれば面白くなるか、考えながら撮影して思い出深いです。

――祐里さんが出したアイデアも?

恒松 あのシーンはみんなで提案し合って、出来上がった感じです。終盤の岸さんと私の2人きりの場面は、台本はほんの少ししかなくて、2分くらい全部アドリブでした。打ち合わせもないまま長回しで、カットが全然掛からない(笑)。2分が一生続くかと思うくらいに感じられて、本当に終わらない気がしてきたところで、岸さんが手で謎のマークを作ってきて。「これは何?」と思いながら合わせたら、カットが掛かりました(笑)。2人でアドリブをやり切ったので、映画を最後まで観ていただきたいです。

素直になれず不器用なところがかわいいなと

――ファミレスでのレイナは、勝太のことを「興味ねえよ」と言ってるそばから、デレデレな感じでした。「カッコいいというより、かわいい寄りじゃん?」とか。

恒松 言っていましたね(笑)。レイナは恋愛偏差値ゼロなので、素直になれなくて不器用なところが、かわいらしいなと思っていました。

――デートでのお色気アピールは振り切って?

恒松 この作品は振り切ったもの勝ちなので(笑)。ファミレスで経験豊富なチーコに言われた通りにやりました。実際は3人のシーンより前にデートのシーンを撮ったので、「ババババーン!」はどうやるのか、小野さんに聞いたんです。「たぶん、こんな感じ」と教わって「なるほど。それやるね」と。

――資料では、祐里さんは「撮影の合間はおしゃべりに興じていながら、スイッチが入ると突然口悪のレイナに豹変」とあります。

恒松 監督が「用意スタートとカットの間だけでなく、前後も仲間でいてほしい」と言っていて。だから、ずっと同じ関係性から地続きで撮影ができていたと思います。アドリブも多くて、頭で考えるより瞬発力がより大切にされる作品でした。

――それは祐里さんの演技スタイルにも合っていて?

恒松 昔のほうが何も考えない瞬発力派でした(笑)。今は自分の役については考えますけど、シーンは相手の役者さんによって絶対変わるので。何パターンか想定しつつ、全然違っていたら、その場で返すのを楽しんでいるところがあります。

台本にないアクションを入れてもらいました

――ヤンキーたちの物語の中で、レイナも少しアクションがありました。『今際の国のアリス』もやった祐里さんには、難なくこなせた感じですか?

恒松 台本では私が捕まって勝太たちに助けられるだけで、そういうシーンはなかったんです。私が最近アクションをやらせていただいていることをスタッフの方がご存じで、追加してくださいました。嬉しかったです。

――打ち込んだことが繋がったんですね。

恒松 自分でも戦う要素が入ったことで、より現代的なヒロインになったと思います。脚を掴まれてクルンと回って、腰とか意外なところが痛くなりながら頑張ったので、一瞬ですけど注目してほしいです。

――他にも印象的だったシーンはありますか?

恒松 カフェでG組とレディースのチームでお茶しているとき、そこでバイトをしている役の田中圭さんが絡んでくると、ほぼ全部アドリブでした。最後のほうは「もともと何のシーンだっけ?」と思うくらいになって(笑)、面白かったです。

楽しめる要素があるならどんな役でも

――改めて、今はどんな役でもドンと来いという感じですか?

恒松 楽しめる要素があるなら、どんな役も挑戦したいです。

――自分の中で得意な役柄もありますか?

恒松 『リバーサルオーケストラ』のような明るい役は、やっていて楽しいです。暗い役を連日やっていると、どんどん落ち込んでいくので(笑)。でも、最近は暗い役が少ないので、そちらもやりたいです。

――映画やドラマを観ていて「こういうのをやりたい」と思うことも?

恒松 時代劇をあまりやったことがなくて、現代と価値観が違うから、新しい発見がありそうだなと思います。姫でも女中でも、他の時代の役は楽しそうですね。

――海外ドラマは最近もよく観ているんですか?

恒松 はい。今だと、もともと観ていた『ブリジャートン家』の新シリーズの『クイーン・シャーロット』だったり。あと、『THE IDOL』というポップスターのドラマは、センシティブな内容でハードなシーンも多いですけど、すごく良くできていて。ジョニー・デップの娘のリリー=ローズ・デップが主演で、歌手のザ・ウィークエンドやBLACKPINKのジェニーが出演していて、映像もきれい。いろいろな挑戦をしていて、面白いです。

海外ドラマの逆境に立ち向かう姿がいいなと

――自分でもそういう作品に出てみたいと?

恒松 『THE IDOL』はハードすぎて精神的にキツそうなので、観るだけで十分かもしれません(笑)。『クイーン・シャーロット』は男性優位の時代に強く闘う女性を描いていて、逆境に立ち向かう感じはいいなと思いながら観ています。

――役者として勉強にもなりますか?

恒松 ずっとファンなのは、『キリング・イヴ』で主人公のヴィラネルという殺し屋を演じている女優のジョディ・カマーさん。演技がすごく独特なんです。引き込まれるものがあって、とても参考になります。

――日本人にはあまりいないタイプですかね。

恒松 感性が鋭いというか、すごく繊細。殺し屋役らしく、何を考えているかわからない。そういうところは惹かれます。私もスパイ役とかやりたいと、ずっと言っているんですけど、なかなか来ないですね(笑)。

同じ画面に自分が2人いる撮影は初めてでした

――一方、祐里さんはレジーナクリニックのCMにも出演されています。お肌がきれいだからですよね?

恒松 もともと肌は荒れにくい体質なので、それを維持できるようにしています。日焼け止めを塗って、保湿クリームはたっぷりで、マスクをして寝る。普通のことしかしていません。

――CMでは、2人の祐里さんが一緒に出ていて。

恒松 撮影は面白かったです。私がもう1人の私を抱きしめるということで、体型の似た方が入ってくださって、両方の立場で撮ったものを合成しました。同じ画面に自分が2人いるのは初めてで、こういう方法で作るんだなと。

――CM内で歌っているのも「夢だった」とコメントされています。

恒松 そうなんです。練習して歌い方を何パターンか考えていたんですけど、演出家さんから「ささやくように」という要望があって。やさしさを込めて歌うことを意識しました。

カラオケでは英語の曲を歌っています

――歌は好きなんですか?

恒松 好きです。カラオケはこの前、久々に行きました。私は洋楽で育ったので、アデルやミュージカルの英語の曲を歌っています。『レ・ミゼラブル』の『オン・マイ・オウン』とかディズニーの曲とか。でも、テイラー・スウィフトやノラ・ジョーンズでも知らない人が多くて、結局日本語に切り替えることが多いです。

――J-POPも歌うんですね。

恒松 『パラサイト』の舞台で90年代の曲が劇場で流れていたので、ジュディマリ(JUDY AND MARY)の『Over Drive』や『Blue Tears』を歌っています。世代ではないですけど、好きなので。

――点数が出るカラオケもします?

恒松 あの機能は恐ろしいですね(笑)。最近はやってませんけど、得意な曲だとギリ90点はいきます。

他ではしない表情や台詞を楽しんで

――『Gメン』が公開されたら、劇場にも観に行きますか?

恒松 私は自分の出た作品を観に行ったことは、数回しかありません(笑)。恥ずかしくなってしまうので。初号(試写)で観て、あとはブルーレイが発売されたら家で観返します。

――大スクリーンに映る自分を観たいとは思いませんか?

恒松 あまりないかも(笑)。自分で2回観たのは『散歩する侵略者』くらい。あれはタイトルの文字が出るのが私が歩いているシーンで、観たくなりました(笑)。

――『Gメン』は試写で観て、改めてどんなことを感じました?

恒松 本当の高校生は誰もいないんですよね(笑)。田中圭さんまで高校生役で、大人の俳優の方々が大真面目に学園ものをやると、こうなるんだと実感しました。どれだけ振り切れるかが勝負の作品で、みんな他ではしない表情をしたり、台詞を言ったり、楽しんでお芝居しているんですよね。それが観ていて伝わります。私も楽しめました。

――残りの夏はどう楽しみますか?

恒松 花火を見に行きたいです。ここ何年かやってなかったので、夏のうちに見たくて。

――浴衣を着て行ったり?

恒松 浴衣は着なくていいです。蚊に刺されないように完全防備の服で行きます(笑)。でも、私は秋が一番好きです。誕生日もありますし、ちょうどいい気候で、蚊もいませんから(笑)。ゆっくりお散歩の秋にしたいです。

アミューズ提供
アミューズ提供

Profile

恒松祐里(つねまつ・ゆり)

1998年10月9日生まれ、東京都出身。

2005年にドラマ『瑠璃の島』で子役デビュー。2015年に映画『くちびるに歌を』で注目される。主な出演作はドラマ『女子高生の無駄づかい』、『全裸監督シーズン2』、『おかえりモネ』、『御手洗家、炎上する』、映画『凪待ち』、『アイネクライネナハトムジーク』、『タイトル、拒絶』、『きさらぎ駅』、舞台『ザ・ウェルキン』、『パラサイト』など。映画『Gメン』が8月25日より公開。

『Gメン』

原作/小沢としお 監督/瑠東東一郎 脚本/加藤正人、丸尾丸一郎

出演/岸優太、流星涼、恒松祐里、矢本悠馬、森本慎太郎、りんたろうー。ほか

8月25日より公開

(C)2023「Gメン」製作委員会 (C)小沢としお(秋田書店)2015
(C)2023「Gメン」製作委員会 (C)小沢としお(秋田書店)2015

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埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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