Yahoo!ニュース

汚れ役や嫌われ役が生きる道。ギャル役でトレンド1位の柳美稀が「大人になったので不倫を演じたい(笑)」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
オスカープロモーション提供

春に公開された『映画刀剣乱舞‐黎明‐』で、演じた役に関連する「ギャル審神者」がTwitterのトレンド1位になった柳美稀。これまでも尖った役を振り切って演じてインパクトを残してきたが、舞台『SHINE SHOW! シャイン・ショウ!』では恋人の出場するカラオケ大会を観に行く普通の会社員の役。20代後半に入り、目指していく独自の道を聞いた。

緊張して打ち上げで何も食べられませんでした

――今年は舞台が続いていますね。

 ポン、ポン、ポンと4本決まってビックリしました。「そんなに出て、いいんですか?」という感じです。

――舞台ならではの面白みはありますか?

 ありますね。笑いが起こったり起こらなかったりするのが、生ものという感じがします。特に前回は小劇場で、お客さんが目の前にいらっしゃって、それをすごく感じました。

――柳さんは舞台度胸がありそうですね。

 いえ、緊張してドキドキが消えません。初めての舞台で、それが出ていなかったみたいで「度胸あるね」と言っていただきましたけど、実は膝はガクガク、心臓が口から飛び出そうで(笑)。終わったあと、胃が痛くて、打ち上げで何も食べられませんでした。今はさすがに、そこまでではなくなりましたけど、やっぱり緊張して「台詞を間違えないように」「こうして、ああして」と、常に頭の中はフル回転で挑んでいます。

何も言われないより罵声でも浴びせてほしい

――稽古に時間を掛けて、じっくり作るのも合っていますか?

 私は頭で「こうしよう」と考えても、パッと動けないんです。舞台だと最初は動けなくても、稽古で何回も試せますし、演出家さんが「こうしたほうがいいよ」と言ってくださって、すり合わせもできます。自分の中で納得したうえで演じられるのは、楽しいですね。

――厳しい演出家さんもいませんか?

 今だと口にできないくらい厳しいことを言われて、毎日泣いていたときもありました。疲弊して、いくら食べても、どんどん痩せていくんです。大人になってから、そこまで人に怒られたことがなかったから、萎縮して頭の回転が完全に止まって、固まってしまったり。

――相当な厳しさだったんですね。

 でも、そこまで言ってくださったのは、私にはありがたいことでした。他の舞台で、あまり指示を出されない演出家さんだと、不安になったりもします。「ダメなところがあったら、罵声でもいいので浴びせてください!」と思って(笑)。そんな体になりました。

オスカープロモーション提供
オスカープロモーション提供

プロポーズは恥ずかしくないようにしてほしい(笑)

――柳さんは尖った役のイメージがありますが、今回の『SHINE SHOW!』で演じる小出由梨は、彼氏が出場するカラオケ大会を観に来る普通の会社員ですね。

 シチュエーションコメディなので、皆さんは本当におかしくて、誇張した感じもありますけど、私は普通の役です。

――気持ち的には、変わった役より楽ですか?

 キャストがすごい方ばかりで、私が等身大でいても、包み込むようにカバーしてくださいます。置いていかれないように、稽古に励んでいます。

――事前の準備は特に必要ありませんでした?

 由梨は会社員で言葉づかいはていねいですけど、ナチュラルに演じるように意識しています。個性的な皆さんの中では普通の役なので、逆に目立つというか。ただ、お客さんをミスリードする場面もあって。そこをやりすぎていいのか。逆に、もっとやったほうが勘違いしてくれるのか。あとから「あそこは勘違いだったんだ」と引き戻すことも必要で、そこは難しいですね。

――中川晃教さんが演じる由梨の恋人は、カラオケ大会で歌ったあとにステージからプロポーズしようとしています。実際そんなプロポーズをされたら、どうですかね?

 いろいろな人が見ているんですよね。「ちょっとやめてー!」と思います(笑)。そんなの、恥ずかしくて。

――では、どんなプロポーズが理想ですか?

 日常で何気なく、みたいな。2人でソファーに座っているときやごはんを食べているときに、「結婚する?」くらいの感じがいいです。夜景の見えるレストランで指輪をパカッなんて、なくて全然大丈夫(笑)。何なら「指輪は一緒に買いに行く?」というほうが、嬉しいかもしれません。

東宝演劇部提供
東宝演劇部提供

カラオケでは絶対歌えない曲で無茶します

――今回、柳さんは歌う役ではありませんが、カラオケには行きますか?

 めちゃくちゃ行きます。1人で行って歌うくらい好きです。

――どんな曲を歌うんですか?

 様々です。アニソンだったり、山口百恵さん、中森明菜さん、中島みゆきさんなどの昔の曲だったり。今ドキだとAdoさんも歌います。あと、音程が高すぎて絶対歌えない曲なのに、無茶したりも(笑)。YOASOBIさんの『アイドル』とか、とりあえず入れてみて「やっぱり歌えなかったわ」と楽しんでいる感じです。

――山口百恵さんたちの曲は、お母さんの影響とか?

 そうです。母親が世代で口ずさんでいたんです。うちではごはん中もテレビをつけていて、昔の曲の特集を聴いて、どんどん知っていきました。

――中でもオハコというと?

 一緒に行く人によって変えています。どの世代でも盛り上がれるということだと、『残酷な天使のテーゼ』ですね。神曲なので、たくさん歌っています。百恵さんだと『イミテイション・ゴールド』や『秋桜』が好きで、オハコというなら『プレイバックPart2』。あと、『さよならの向う側』も歌って、マイクをちゃんと置きます(笑)。

オスカープロモーション提供
オスカープロモーション提供

やりたい放題でいいと気づいたら楽しくて

――柳さんは『賭ケグルイ』で、ブッ飛んだキャラクターが多い中でも最もクレイジーな生志摩妄を演じて以来、尖った役に定評があります。そういう役のやり甲斐は大きいですか?

 今も変な役や人に嫌われる役が多くて、「もしかして柳美稀は本当にこういう人なんじゃない?」と思われるのは、大好きです(笑)。

――妄を演じたときも、最初から振り切れたんですか?

 あの頃はお芝居の経験も少なくて、共演者の方やスタッフさんたちがたくさん見ている前で、狂った役をやるのは恥ずかしかったです。だんだん「これはやりたい放題でいいんだ」と気づいてから、楽しさに変わりました。「好きにやりますけど何か?」みたいになって(笑)。やりすぎと言われるのが理想です。

――最近だと、『映画刀剣乱舞‐黎明‐』のギャル女子大生の実弦役なんかは、「来た来た!」という感じでした?

 あれはオーディションがあって、ギャル役は絶対に勝ち獲る自信がありました。というか、負けるわけにはいかない。今までもギャルやヤンキーの役で目立ってきたので、これで落ちたら引退くらいの気持ちがありました。

――柳さん自身がギャルだったわけではなくて?

 そうではないですけど、ギャルはかわいくて好きです。お芝居なら絶対にやりたい。だから、受かったときは「よしっ! やっぱりギャルといえば私だ」と思いました。

オスカープロモーション提供
オスカープロモーション提供

演じないで芝居をする意味がわかりました

――舞台でも、前回の『なんだコイツ』の師走子は不気味な役でした。

 タイトル通り、「なんだコイツ」と思われるような女の子です。人格がコロコロ変わる感じ。普通にしゃべっていると思ったら、急に会話が通じなくなったり、突拍子のないことを言ったり。人が「それはダメじゃない?」となることを「何でダメなの?」という、ヤバいヤツでしたね(笑)。

――稽古で試行錯誤はありました?

 めちゃくちゃ悩みました。どういうテンション感でいったらいいのか、そもそも師走子はどんな人なのか、全然わからなくて。台詞も「何でこれを言うの?」と思って、全然頭に入ってきませんでした。

――そこから、どう役を作り上げたんですか?

 最初は師走子を一生懸命作ろうとしていたんです。演出の井上テテさんに「演じるのはやめて。自分のままでいいから」と言われたんですけど、演じないで芝居するってどういうことだろうと。でも、やってみたら意味がわかりました。「これがあって、こうなって」と繋げるのでなく、ただ言いたいから言う。そしたらスッと降りてきて。お芝居で悩んでいたことがちょっと吹っ切れて、一歩進めた作品でした。悩んだ結果、良い方向に転んで良かったです。

向いてないのかと泣きながら電話したことも

――『動物戦隊ジュウオウジャー』から始まった女優人生で、行き詰まった時期もありました?

 オーディションでなかなか役が決まらない時期はいっぱいありました。落ちるたびに「私はこの仕事に向いてないんだ」と思ったり、感情がグチャグチャになって、泣きながらマネージャーさんに電話したり。悩んでいる期間のほうが長いかもしれないです。

――もう愛知に帰ろうと思ったりも?

 帰ろうとは思いませんでした。帰ったら終わり。そこは負けず嫌いな部分があって。落ち続けても何かひとつ受かって、現場で「良かったよ」と誉められたりすると、少しずつモチベーションが上がります。

――オーディションに落ち続けて、やけ食いするようなこともないですか?

 昔はやってましたね。菓子パンが好きなので、10個くらい買って一気に食べたり。さらにお菓子を食べ続けて、ジュースをめっちゃ飲んだりもしましたけど、最近は太るのでやめました(笑)。

ヒロインは最初から目指していません

――柳さんは「私はヒロインタイプではない」と発言されていますが、昔はヒロインを目指していたんですか?

 いえ、昔から私はヒロイン顔ではないでしょうと。王道のかわいらしさも透明感も持ってないので、最初からヒロインは目指していません。汚れ役や世間で嫌われる役が、目指していた場所です。

――主役が来なくて、ふてくされたりはしなかったと。

 全然ないです。主役はやるべき方がやってください。私はそんな方たちを頑張ってののしりますので、という感じでした(笑)。暴言を吐いたり、悪いことをしたりって、人生で基本ないじゃないですか。それをやれるのは役者の特権。そこを極めたいです。「本当にやってるんじゃないか」と思われるように。

――「ムロツヨシさんの女性版を目指したい」との発言もありました。

 今でもそう思っていますけど、ムロさんの凄さはより実感していて。今回の『SHINE SHOW!』でも、コメディは本当に難しいんです。テンポや間、アドリブでも的確な台詞を言う……。ムロさんのレベルまで行くのは、エベレストを登るより険しいと思います。それでも、登ってみたい気持ちはあります。

オスカープロモーション提供
オスカープロモーション提供

基礎を磨いて軸を作れば芝居はブレないはず

――コメディを観るのは好きなんですか?

 福田雄一さんの作品を観ています。何でこんなにテンポが良くて面白いのか。私の語彙力では追い付けないほど、本当に凄いです。いつか私も出てみたい。コメディもシリアスもできるプロフェッショナルしか出られないと思っているので、そこに名を連ねられるように頑張りたいです。

――他にも、最近観て刺激になった作品はありますか?

 ヨーロッパ企画さんが制作した映画『リバー、流れないでよ』です。ループもので、同じお芝居を何度も繰り返すのが凄すぎて。一寸たりとも変わらないレベルなんです。役者の皆さんにとっては、いつも舞台でやってらっしゃることなんですよね。役作りのベースがしっかりできているからこそ、何回でも同じことがやれる。私も基礎を磨いて自分の中で軸を作れば、芝居はブレないはずだと、映画を観ていて思いました。あと、単純に面白かったです(笑)。

ゲーム配信ではクールなイメージを捨て去って

――一方、柳さんはこのところ、ゲーム配信にも力を入れていますね。

 ゲームは一時、ハマったら1日12時間とか、普通にやっていました(笑)。ごはんも食べず、ずーっと座りっぱなし。夕方から始めて、気づいたら朝だったこともあります(笑)。

――どんなゲームをやっていたんですか?

 サバイバルゲームの『ARK』です。恐竜のいる世界で生き延びないといけない。プラス、恐竜を捕まえて仲間にできて、世話もしないといけない。タスクがいっぱいありすぎて、やっていたら朝になります(笑)。サバイバルゲームは一生できますけど、それ以外のものは見えません。ワンコは構いつつ、ずーっとモニターに向き合っています。

――『エーペックスレジェンズ』をやり込んでいた時期もあったとか。

 やってます。シューティングゲームなので、さすがに12時間ぶっ続けはできませんけど、それでも6時間とか、ずーっと銃を撃ってました。ランクを上げるのに必死で(笑)。

――配信では、ざっくばらんな素顔を見せていますね。

 皆さんのイメージと違うと思います。演じている役や写真での私は捨て去っているので。普通の柳美稀がゲームでゆるーく遊んでいる感じです(笑)。

――そういうギャップは、ファンの方には知られているとしても、驚かれることも多いですか?

 驚かれることしかないです(笑)。写真で見る限り、気が強そうとかクールっぽいと思われるんですけど、実際こんな感じなので(笑)。

オスカープロモーション提供
オスカープロモーション提供

考えすぎてもプラスにはならないので

――『SHINE SHOW!』の公演中に26歳の誕生日を迎えますが、20代の後半は人生のどんな時期にしたいですか?

 まだ感情にブレがあったり、悩みを考えすぎてしまうことがあって。それは絶対プラスにならないので、まずやめたいです。いくら考えても現状は変わらない。こうしたほうがいいと、プラス思考ができる大人になりたくて。あと、しゃべり方も大人にしたいです。

――どんなしゃべり方が大人だと?

 ハキハキとしっかりした口調で話す(笑)。ニュアンスでしゃべらず、ちゃんとした言葉を使う。自分だけで納得せず、相手に伝わるように噛み砕いて話せるようになれたら。知的な女性に見られたいので(笑)。

――そのために努力していることもありますか?

 努力というか、意識はしています。今のところ、ちょっとおバカかなと思われることが多いので(笑)、挽回したいです。

人を翻弄する役は楽しくて(笑)

――女優としては、先ほど出た軸を作ろうと?

 あと、柳美稀として存在を確立させたいです。ギャルといえば私と言われるようになりたいですけど、年齢的にまだギャルができるのか。自分では高校生役もできると思ってます(笑)。

――大人な役は増えていくでしょうね。

 大人な役といえば不倫ですよね。

――そういうことでもないと思いますけど(笑)。

 私はバリバリのキャリアウーマンで不倫をされる側でなく、コネ入社で仕事はできないのに、不倫相手をキャリアウーマンの奥さんから奪う泥棒猫の役がいいです(笑)。ギャルからの流れとして、やり甲斐がありますし、人を翻弄する役は楽しくて。

――大きく言って、人生で大切にしていることもありますか?

 楽しむことはすごく大事にしてます。厳しい現場で辛い、暑い、寒いと弱音を吐くのは簡単。でも、そう言っていたら、言霊でどんどん落ちていってしまう。無理やりにでも楽しんで、自分だけでなく周りも上げていきたくて。夜遅くなって疲れ果てても、「イエーイ!」という感じでいたら、クスッと笑ってもらえたりもする。イラッとされる方がいたら、ごめんなさいですけど(笑)、人生もそんなふうに楽しんでいきたいです。

オスカープロモーション提供
オスカープロモーション提供

Profile

柳美稀(やなぎ・みき)

1997年8月24日生まれ、愛知県出身。

2016年にドラマ『動物戦隊ジュウオウジャー』で女優デビュー。主な出演作はドラマ『ふたりモノローグ』、『賭ケグルイ』、『インベスターZ』、『24JAPAN』、映画『刀剣乱舞‐黎明‐』、舞台『世界でいちばん美しい~鎌倉物語~』など。8月18日より舞台『SHINE SHOW!』(日比谷シアタークリエ)に出演。2024年1月6日~28日に上演の舞台『西遊記』(明治座)に出演。

『SHINE SHOW!』

8月18日~9月4日/日比谷シアタークリエ

作/冨坂友(アガリスクエンターテイメント) 演出/山田和也

出演/朝夏まなと、小越勇輝、花乃まりあ、木内健人、柳美稀、中川晃教ほか

公式HP

東宝演劇部提供
東宝演劇部提供

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

斉藤貴志の最近の記事