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『転職の魔王様』で社畜ヒロインの小芝風花 「真面目すぎたのを後悔して人の理想を追うのもやめました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『転職の魔王様』より(カンテレ提供)

前クールの『波よ聞いてくれ』でやさぐれたラジオDJを演じて新境地を開いた小芝風花。本日スタートの『転職の魔王様』ではパワハラで会社を辞め、転職エージェンシーを訪れる役。期待に応えようとするあまり、社畜のように働くヒロインだ。真面目さが度を超すところは自身も思い当たるという。大役が相次ぐ中での変化も語ってくれた。

お芝居は天職だと思っています

――やっぱり金髪より黒髪のほうが落ち着きますか?

小芝 そうですね。しっくりは来ます(笑)。『波よ聞いてくれ』がクランクアップして、2日後には黒に戻しました。

――髪が傷んでいませんでした?

小芝 めっちゃ傷んでました。でも、次の作品までもうちょっと空いていたら、青とか色を入れてみたかったです。

――『転職の魔王様』は原作から読んだそうですが、転職に関して初めて知ったこともありました?

小芝 根本的な仕組みとして、転職エージェントは企業から紹介報酬をもらっていて、求職者はお金がかからないと初めて知りました。転職はキャリアアップというか、今の自分をより良くするイメージでしたけど、原作や台本を読むと、理由は様々なんですよね。「アイドルのライブにもっと行きたいから」とか。転職は思ったより身近なもの、という感じがしました。

――実際に転職を考えている視聴者も多いかもしれません。

小芝 「こんな理由では」と転職をためらっている人も、今の仕事に少しでも疑念を抱いているなら、視野に入れていいと思います。私は転職したいと思ったことはありませんけど。

――女優業からの転職は、微塵も考えたことがないと?

小芝 自分に合っているかどうかはわかりません。でも、お芝居はすごく好きで、それをお仕事にできていますから、天職だと思っています。辛いこともいっぱいあっても、達成感のほうが圧倒的に大きくて。

事務仕事よりは接客業が合うかも

――もし転職をしなければならないとしたら、何の仕事にしますか?

小芝 メイクさんですね。お化粧もコスメを集めるのも好きで、それをいろいろな人に試したり、「この役ならこういうメイク」と手助けできるのが楽しそうだなと。

――会社勤めはできそうですか?

小芝 私は資格もないしパソコンも扱えないので、事務仕事は絶対に無理です。接客業のほうがいいかもしれません。でも、単純作業はわりと好きなんです。

――チラシを封筒に入れるとか?

小芝 そういうのも好きですし、ネイリストさんの動画を観ていると、素敵なサロンでお客様とおしゃべりしながら、作業をするのも楽しいと思います。

――9時から5時までとか、定時で仕事するのは合いそうですか?

小芝 いいなと思うときはあります。私たちのお仕事は不規則で、事前に予定が組めないんです。仕事の時間が決まっていて、終わったら友だちと遊ぶとか、ちょっと憧れます。でも、毎日同じ時間に同じ場所に勤めるのは、たぶん私には合いません。このお仕事は同じことがないから飽きずに続けられて、「ああしたい。こうしたい」というものも出てきます。 

言葉や行動に気を遣って限界を超えそうに

――小芝さんが演じる未谷千晴は、大手広告代理店で社畜のように働いた末に、体を壊して退職しました。

小芝 強い人ばかりではないので、おかしいと思う状況にも口を出せなかったり、仕事がなくなると生活できなくなる恐怖心で身動きできなくなることは、たくさんあると思うんです。そうならないように、自分を強く持っていなければと考えさせられました。

――会見で「求められることが嬉しくて、限界を超えても頑張りたい想いは、このお仕事でもある」と話されていました。実際、限界を超えてしまったこともあるんですか?

小芝 精神的にいっぱいいっぱいになることはあります。自分の言葉や行動に責任を持たないといけない。テレビや記事に載って、言葉の選び方のせいで、もしかしたら人を傷つけてしまうかもしれない。たくさんの方と関わる仕事なので迷惑は掛けられなくて、そういうことにいろいろ気を遣ったりしていると、限界はちょくちょく超えてしまいます。

パワハラにも自分を責めてしまう役です

――そういう点も含めて、千晴の心情がわかる部分はあると。

小芝 すごく理解できますし、たぶん観てくださる方も感情移入しやすいと思います。千晴は上司が冷たく当たってキツい言葉を浴びせてきても、「パワハラだ!」ではなく「私ができないから」と自分を責めてしまう。それで体を壊してしまう人なんです。真面目すぎるのも善し悪しだなと、この役を演じていて感じます。

――千晴の叔母で転職エージェンシー社長の洋子(石田ゆり子)が、千晴のことを「子どもの頃から真面目で良い子。良い子すぎて心配になる」と言っています。小芝さん自身、学生時代は誰も見てなくても校則を守って、スカートを折らない真面目な性格とのことでした。

小芝 そうなんです。変に真面目すぎるところがあって。だから、台本を読んでいても、魔王様の言葉がグサッと刺さることは多いです。「必要とされれば家畜のように従順に働き、その人の価値観を鵜呑みにする」とか。この2~3年、もう少し楽に生きられるように変わりたいと、模索している最中なんです。そこに気づいてなかったら、今ごろ、さらに自分を追い詰めて限界だったと思います。

「やっておけば良かった」を減らしたくて

――どんな模索をしているんですか?

小芝 千晴もそうですけど、私は自分の意見があっても、周りの人の顔色をうかがって言えなかったんです。今は「これはわがままではないよな。ひとりよがりになってないよな」と熟考したうえで、ちゃんと伝えるように心掛けています。

――真面目すぎるのを変えるといっても、夜遊びをしたりするわけではないんですね(笑)。

小芝 私、ビビりなので(笑)。夜遊びなんて怖くて、したいと思ったこともありません。だけど、旅行をしたり友だちと遊んだりは、積極的にしたいです。以前は「いつ仕事が入るかわからないから無理」と、学校終わりに友だちと遊んだこともなくて。それを今、すごく後悔しているんです。1日くらい、レッスンをサボれば良かった(笑)。友だちとファーストフード店でごはんを食べたり、プリクラを撮ったり、学生時代にしかできないことだったのに、私は真面目にレッスンに行くだけだったんですよね。

――基本的にはいいことなんでしょうけど。

小芝 そのおかげで今、信用していただいている面もあります。でも、やっぱり心残りはあって。また10年後に「やっておけば良かった」ということを、なるべく減らしたいんです。時間があるなら旅行に行く。おいしいものを食べてみる。楽しいことをたくさんしたい気持ちは最近強くなっています。

――それが結局、仕事にも役立つかも。

小芝 そうですね。国内だけでも知らない場所はいっぱいあるし、いろいろなところに行きたいです。

昔なら傷ついたことが面白く思えました

――他には、魔王様こと来栖(成田凌)のどんな言葉が刺さりました?

小芝 やっぱり「人の意見を鵜呑みにする」というのが大きかったです。このお仕事をしていると、100%の素は出せませんよね。テレビを観ている方が「風花ちゃんはこういう子なんだ」と思うのは私のひとつの側面で、家での私、家族といるときの私、友だちと遊ぶときの私……という中の一部でしかないんです。もちろん応援してくださる方の理想を壊したくはないですけど、それは人の価値観で生きていることになるかなと思ったりもして、余計に自分がわからなくなりました。

――自分で理想の“小芝風花”を演じているような感覚ですか?

小芝 と言うか、それが100%の私ではないので。「いや、こんな人ですよ」と話せる場では話したり、くだけたところをインスタで出したりするようにしました。ちょっとしたひと言やアップする写真で、私の性格は出るので。

――清楚で真面目なだけではないと。

小芝 そうそう。昔は「風花ちゃんがそんなことをするなんて」みたいな否定的な意見が来ると、すごく傷ついて「これをしたらいけないんだ」と思っていたんです。でも、普通のことをして「違う」と言われても、全部その意見に合わせる必要はないかなと。そんな私を好きでいてくれる人を大事にしようと、気持ちを切り替えて、ちょっと楽になりました。

――小芝さんはもともと大阪人ですしね。

小芝 『妖怪シェアハウス』の餓鬼みたいな変なメイクとか、大好きなんです。でも、あの写真をアップしたら、ちょっとフォロワー数が減りました(笑)。「あんな怖い写真はイメージと違う」と。それも昔だったら、めっちゃ気にして「アップしなければ良かった」と後悔していましたけど、もう減ったこと自体、何だかおかしくなって(笑)。「面白いと思ってもらえないのは残念」くらいで、無理して去っていく人の理想であり続けなくてもいいかなと。これが私だし、変わらず応援してくれる人はたくさんいるので。

「もっとお仕事をしたいのに」という時期も長かったので

――来栖が求職者に「人並みの幸せなんてどうでもいい。あなたの本当の幸せは何ですか?」と問い掛ける場面もあります。小芝さんにとっての本当の幸せは、何だと思いますか?

小芝 今こうやって、お仕事をいただけているのも幸せ。でも、このペースで一生働き続けられるかと言ったら、そうではなくて。年齢も少しずつ重ねて、家庭とか子どもとか、いろいろな幸せがあるなと考えています。最近、姉に第二子が生まれて、甥っ子がめっちゃかわいくて! 今はお仕事での幸せを追い掛けていますけど、ゆくゆくは私もお母さんになる幸せも欲しいという願望は芽生えました。

――小芝さんはここ数年ずっと、出演作が相次いでいます。好きでやっていることとはいえ、千晴のように体が悲鳴を上げることはないですか?

小芝 私はデビューから12年目で、「もっとお仕事をしたいのに」と思っていた期間も長かったんです。だから今、本当にありがたくて。しかも2度目、3度目で「小芝のこういう役を見たかった」と声を掛けてくださるのは、すごく嬉しいです。でも、体力がどうしても付いていかないことはあります。睡眠時間が短くなって、肌荒れを起こして、それがストレスになったり。うまく自分でご褒美を見つけて、やっていくしかないので、本当に闘いですね。

――どんなことがご褒美に?

小芝 今はとにかく旅行に行きたくて。「この作品が終わったら〇〇に行くぞ」「2日空いたら飛行機を取るぞ」と、調べたり想像するとワクワクします。そこに向けて、頑張っている感じです。

――今だと、どこに行きたいと?

小芝 韓国と沖縄です。韓国は5月に初めて行って、めっちゃ楽しくて! ごはんがおいしいし、コスメが好きだからパックとか大量に買ってきました。コラーゲンのインナーサプリも良かったので、また買い足したいです。それで、沖縄にはのんびりしに行こうと。きれいな海を見ながら、解放的になりたくて。今年中にはどうしても行きたいので、タイミングを計っています。

現場を楽しくしたいといつも思ってました

――日ごろのコンディションを整えるために、していることもありますか?

小芝 ヤバいかもと思ったときは、高濃度ビタミンを摂ります。あとはなるべく寝ることですね。移動中はほぼ寝ています。

――忙しいと、メンタル的に落ちることもないですか?

小芝 結構あります。寝たいけど、これをやらなきゃ、準備をしなきゃ、台本を覚えなきゃ……と重なってくると、余裕がなくなってウワーッとなりますし、睡眠不足でニキビができると「これで映りたくない」と焦ります。そういうことはあっても、人には恵まれているんです。現場で愚痴を聞いてもらったり、何気ない話をするだけで、気が紛れて笑うことも増えます。

――小芝さん自身、これだけのスター女優になっても気さくで、現場を和ましていると聞きます。

小芝 一緒に仕事をするなら、楽しいほうがいいと思うんです。気分が落ちると自分もどんどんしんどくなっていくので、なるべく現場を明るくしたいというのは、ずっと変わりません。こういう取材でも、インタビューしてくださる方が「楽しかったな」と思ってくれたら幸せです。

――毎回そう思っています(笑)。高校生の頃もブレイク後も、良い意味で態度が変わらないのを尊敬してます。

小芝 次のとき、鼻が高くなっていたら、ポキッとへし折ってください(笑)。

年下も増えて甘えるばかりではダメだなと

――今は演じる役は主役やヒロインがほとんど。良い演技をするだけでない責任感などもあるものですか?

小芝 現場に年下の方が、スタッフさんも含めて増えてきました。今までは主役をやらせていただいても、周りは年上や先輩の方ばかり。役柄的にも助けられて成長していく話が多かったので、甘えさせてもらう感じだったんです。でも、前回の『波よ聞いてくれ』も自分がガツガツ行く役柄で、年下のキャストも増えたとなると、いつまでも甘えているばかりではダメだなと。言いたいことを言えない子の代わりに、自分が戦うときもきっとあるだろうし、強くいないといけない場面は増えてきたのを感じています。そういうところで、意識はちょっと変わってきました。周りのために言わないといけないこともあるし、今まで以上に周りを見ないといけない。かと言って、ただぶつけるだけでなく、良い関係で進めていくにはどうしたらいいか。伝え方、言い方を悩みながら、日々模索をしています。

――この2~3年で、役者として大きかった作品はありますか?

小芝 この前の『波よ聞いてくれ』ですね。今までで一番、やる前は不安だったんです。怒涛の1人しゃべりをどうやればいいのか、わからなすぎて。でも、演じられて本当に良かったと思うし、殻を1コ2コぶち破った感じもあります。振り回される役が多かったのが、振り回す役だったので。

タイミングを壊す攻めの芝居が課題でした

――マシンガントークがすごかったですね。

小芝 NHKさんの『LIFE!』のチームで作った『事件は、その周りで起きている』の監督に、「もっと仕掛けてほしい」と言われていたんです。「受けの芝居のリズムは完璧だけど、そのタイミングを壊してほしい」と。それが自分の一番の課題だと思っていました。攻めのお芝居ができないことに悩んでいて、ステップアップするには挑戦しないといけない。そう思っていたときの『波よ聞いてくれ』で、不安だらけだったのが結果的にすごく楽しくて、面白い作品になりました。

――原菜乃華さん、井頭愛海さんの取材では、2人とも小芝さんの切り替えがすごいと言ってました。撮影の直前まで普通に話していたのが、カメラが回ると急にやさぐれモードになって、数ページ分の台詞がどんどん出てくると。そういう切り替えは前からできていたんですか?

小芝 昔から切り替えは得意なほうです。役の性格が自分に乗り移って困るとかまったくないし、カットがかかれば小芝に戻ります。

――やっぱり女優が天職なんでしょうね。

小芝 作品が被っても、役が抜けなくて次に行けないことはありません。『転職の魔王様』ではまた全然違う役ですけど、大丈夫だと思います。

夏はかき氷の暖簾にワクワクします(笑)

――『転職の魔王様』では、夏場の撮影の大変さもありますか?

小芝 屋上のシーンはキツいです。暑いし蒸れるし。今年の夏はヤバそうなので、お水をたくさん飲むようにしています。

――夏は好きな季節ではあるんですか?

小芝 苦手です。敵がとても多いので(笑)。特に、紫外線と虫は本当にダメです。

――そんな夏の小さな楽しみはありませんか?

小芝 かき氷屋さんの“氷”という暖簾は好きです(笑)。あれを見ると、ちょっとワクワクします。

――かき氷を食べるわけではないんですか?

小芝 たまに食べます。大きな映えるかき氷ではなくて、プラスチックのコップに入った「ちょっと氷が大きくない?」というのが好きなんです。レモン味のシロップに練乳をトッピングして食べると、ちょっとテンションが上がります(笑)。

Profile

小芝風花(こしば・ふうか)

1997年4月16日生まれ、大阪府出身。

「ガールズオーディション2011」でグランプリ。2012年にドラマ『息もできない夏』で女優デビュー。2014年に『魔女の宅急便』で映画デビューと初主演。主な出演作はドラマ『あさが来た』、『トクサツガガガ』、『妖怪シェアハウス』、『彼女はキレイだった』、『波よ聞いてくれ』、映画『天使のいる図書館』、『文福茶釜』、『貞子DX』ほか。7月17日スタートのドラマ『転職の魔王様』(カンテレ・フジテレビ系)に出演。2024年2月公開の映画『レディ加賀』に主演。『ぐるぐるナインティナイン グルメチキンレース・ゴチになります!24』(日本テレビ系)に出演中。

『転職の魔王様』

カンテレ・フジテレビ系/月曜22:00~

公式HP

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公式Instagram

カンテレ提供
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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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