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山田杏奈が蔑まれて村を出た“山女”に。「私が演じるしかなかったと思わせる責任感が芽生えました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『山女』より(C)YAMAONNA FILM COMMITTEE

山田杏奈が国内外のスタッフで制作された時代劇『山女』に主演した。18世紀後半の東北の村が舞台。先代の罪を背負って蔑まれながら暮らし、ついに山奥へと去って自分の生き方に目覚める役だ。これまでも数々のエキセントリックな役で強い存在感を発揮してきたが、今回も理不尽な逆境に逞しく生きる姿を体現している。自分自身の中から出たものがあったという。

日常的な作品のほうが悩みます

――『山女』で演じた、村で卑しい身分に貶められた家族を離れて山奥で暮らす凛は、ハードルが高い役でした?

山田 この題材で「難しかったですか?」とよく聞かれますが、私はこうした系統の役のほうが多くて(笑)。逆に、日常的な作品のほうが悩むかもしれません。

――『山女』のような作品だと、自分の経験から引き出せる部分は少ないですよね?

山田 アプローチの方向が違います。普通の高校生役だと、同じ世界にいる自分とどこが違うのか……というところから探していきますけど、今回の役では“山に入って山男と暮らす”という強烈なキーワードが立っていて。そこから、どうキャラクターを作っていくか。『ミスミソウ』では“復讐で人を殺す中学生”だったり、そういう大きなワードから演じる経験が、私は多かったんです。

――福永壮志監督は杏奈さんを「山でも生きていけそう」と評されています。

山田 精神的には生きていけますけど、たぶん火を起こすとか、技術的に無理な気がします(笑)。

――実際に山で撮影して、体感したこともありました?

山田 山の中で撮影することはこれまでも結構あって、行くたびに“お邪魔させてもらっている”という気持ちになります。自分たちでどうにかしようとは思えない、大きい存在に感じます。

(C)YAMAONNA FILM COMMITTEE
(C)YAMAONNA FILM COMMITTEE

どうしたら山の中にいる人に見えるか

――凛を演じるうえで、試行錯誤はなかったですか?

山田 芝居的なことより、こういう時代背景で、山の中にいる人に見えるだろうか……という不安のほうが大きかったです。そもそも山にいそうに見えないと、全部が破綻しますよね。そこはすごくプレッシャーでした。

――そう見えるために、どんなことをしたんですか?

山田 あまり元気に見えないようにしようと(笑)。私自身はめちゃめちゃ健康ですけど、シャキシャキ動かない。ちょっとした歩き方でも、「あーっ……」みたいな気だるい感じを意識しました。あと、地面にいることに慣れている、というところですかね。手が汚れていても何とも思わない。普段なら「拭かなきゃ」となる場面で、そういうことを考えない。気持ち的なハードルを取っ払っていく感じはありました。

――ある意味、本能的な部分を抑えるような。

山田 潔癖症だったら、無理だったと思います(笑)。自分から手を汚したりもしましたし、山で撮影して爪が汚れていくと嬉しくなりました。髪もバサバサになるようにして、リップもあまり塗っていません。

(C)YAMAONNA FILM COMMITTEE
(C)YAMAONNA FILM COMMITTEE

役の生涯を想像するより周りの環境を元に考えて

――衣装も含め、形から入ったところもありました?

山田 そうですね。私が時代劇の仕草にあまり詳しくないので、衣装の宮本まさ江さんが布切れをピッと切って懐に入れて、「拭くならこれを使って」と教えてくださったり。ひとつひとつの意味を知って、ただ衣装を着せられているのでなく、ちゃんと自分の服にできたのは大きかったです。

――大きく言えば、山や村の環境そのものから得るものもあったり?

山田 今回は人間と同じくらい、自然の環境も描かれているので。凛の生涯を想像するより、そこに生きている人間として、周りの環境を元に考えていくことが多かった気がします。

――ずっと泊まり込みで撮影していたんですか?

山田 山形に1ヵ月くらい、行きっぱなしでした。それで演じやすかったところはあります。週末に東京に帰ると思ってやるのと、終わるまで帰らないと覚悟を決めて挑むのは、違っていたかもしれません。撮影期間はずっと、凛と同じ環境で考えていました。

「なるようになれ」は自分の中から出ました

――凛は傍から見ると本当に辛い境遇ですが、「あの家さ生まれてきたんだから」という諦めも強さも含め、本人は受け入れていたところがあったのでしょうか?

山田 あれだけ過酷な環境で生まれて、それでも強く見えるのは、生命力や打たれ強さがあって、根本的な意味で諦めようとしない人なんだろうなと。そうでなければ、あの状況で生きていくのは相当大変だと思います。

――福永監督は杏奈さん自身のことも「何が起きても動じないような芯の強さがあって」とコメントされています。

山田 それはわりとそうですね(笑)。動じない人でいたいし、「肝が据わっている」とよく言われます。昔から負けず嫌いで、気が強くて。そういうところが出たらいいなと思っていました。だから、凛が「かわいそうに見えない」と言われたのは良かったです。たぶん私が演じたから、そうなったのではないかと感じました。

――自分にしかできない役、という自負もありました?

山田 自分にこういう役を当ててくださるのは嬉しいですし、決まったからには、私がやるしかなかったと思わせなければならないと、責任感が芽生えました。凛には「なるようになれ」みたいな精神がどこかにあって、そこは私の中から出せたのかなと思います。

(C)YAMAONNA FILM COMMITTEE
(C)YAMAONNA FILM COMMITTEE

気づくと生傷やアザが絶えませんでした

――凛の心情で、時代や境遇を越えてわかる部分もありましたか?

山田 あまりないかもしれません。私はわりと幸せな家庭で育ってきたので。ただ、私にも弟がいて、小さい頃から自分より弟が優先される場面があるのは、多少なりとも感じながら生きてきました。娘と見なされてない凛の感覚とは少し違うかもしれませんが、言語化できない悶々とした気持ちを思い出しました。

――「疲労感と達成感のある撮影期間でした」とコメントされていますが、やっぱり大変な役ではありましたか。

山田 生傷が絶えない撮影でした。気がついたらアザができていたり、山から連れ戻されるところでは二の腕が真っ青になっていました。たぶん気づかないうちに体に力が入って、毎日「疲れたな」と思って帰った記憶があります。

――精神的にも疲弊しました?

山田 楽しい内容ではないので(笑)。ずっと「明日のシーンも大変だな」と思っていました。キツい場面が多くて、私はあまり役を引きずるタイプではないのに、宿で寝るときはぐったりしていました(笑)。

――遠野弁も覚えないといけなかったんですよね。

山田 私の中で助けになった部分が多かったです。普段は東京で暮らしていて、急に山形に行って「さあ、お芝居を」となったとき、標準語の台詞を言うより切り替えができました。もちろん方言を覚える作業は必要で、アドリブで言葉を入れられなかったりはしますけど、今回はそういうお芝居でもなかったので(笑)。

(C)YAMAONNA FILM COMMITTEE
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芸術的な部分も考えて演じるのが新鮮でした

――この『山女』に出演して、自分の新たな引き出しが開いたとか、初めて経験したようなことがあったりはしましたか?

山田 福永監督は長くアメリカで生活されていて、海外のスタッフも入って。そういう人たちの目線で切り取った山の風景があって、その中でお芝居するのは新鮮でした。好きなように演じるというより、枠がある程度決まっていて、どう見せていくか。芝居的な側面と芸術的な側面があるというか。

――映像も端正で深淵な感じがします。

山田 そこは私が考えるところではないですけど、狙いはすごくわかるので、芝居と両立させることに勝手に苦労していました(笑)。画がすごくきれいで、秩序がある感じがする。でも、その中で人間たちは自分の思うままに動いている。アンバランスさもあり、映像的な美しさもある。そこに気を配りつつ、お芝居をするのは、新しい部分でもありました。

――それも含めて、杏奈さんにしかできない役だったように思いますが、役者として芸術的な部分も意識していたんですね。

山田 そうです。これで泥くさかったら、それもいいですけど、また違う映画になったと思うんです。今回のスタッフ陣はきれいな画を撮る方が揃っていて、照明も素晴らしい。その中で、お芝居をどうすればいいかは考えていました。

(C)YAMAONNA FILM COMMITTEE
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閉鎖的な環境で人間が描かれた作品は好きです

――『山女』に出演する際、たまたま観ていたホラー映画『ウィッチ』を参考にされたそうですね。

山田 参考にしようと思ったわけでなく、アニャ・テイラ=ジョイが好きで観たんですけど、似ているなと。ただ心の赴くままに生きているのに、周りの目がどんどん変わってしまう。タイトル通り、魔女として扱われるようになってしまって。あれも17世紀の中世が舞台で、現代より知識が少ないから、すべて魔女や魔法のせいにされるのも『山女』と少し似てました。

――そういう話が好きなんですか?

山田 村社会の話は好きです。『食人村 カンニバル』だったり、カルト的な映画はかなり観るほうだと思います。マンガもそうですけど、私からしたら非現実的で、100%創作物として好きな感じです。ただ、閉鎖的な環境で人間の愚かさが描かれていたり、宗教的なことが絡んできたりするのは興味を引かれます。『山女』も村社会での人々の生き様が生々しく描かれていて、面白いなと思いました。

日本の作品を観ると仕事のことを考えてしまって

――杏奈さんからは取材のたびに、いろいろな作品が挙がります。『花様年華』とか『オアシス』とか『シカゴ・ファイア』とか……。

山田 単純に好きなだけで、休みがあればずっと観ています。

――しかも、ジャンルも幅広くて。

山田 でも、日本の昔の作品はあまり掘り下げられていません。今回、『楢山節考』を観てほしいと言われて、こっちのほうも押さえておかないとなと。日本の作品を観ると仕事のことを考えてしまうので、休みの日は海外の映画やドラマになってしまうんです。

――もともと勉強のために観るつもりはないんですね。

山田 そうです。『ウィッチ』みたいに、あとから「似てるな」と思うことがあったり、無意識のうちに自分のストックになっているかもしれませんけど、ただ楽しむつもりで観ています。

――ハリウッド作品や韓国映画は、演技の手法が違う感覚ですか?

山田 素晴らしいとは思いますけど、自分の演技の参考にしようとはならないかもしれません。韓国とは近い部分はあっても、アメリカとか地理的に遠くなると、文化も変わってくる。お芝居もやっぱりちょっと違うように感じます。

(C)YAMAONNA FILM COMMITTEE
(C)YAMAONNA FILM COMMITTEE

普段は明るくなって楽しい日々を過ごしてます(笑)

――杏奈さん自身のこれまでの代表作というと、何を挙げますか?

山田 何でしょう? 『ミスミソウ』と『ひらいて』ですかね。「観た」と言われるのは『ミスミソウ』が一番多いかもしれません。

――今後さらに名作が生まれると思いますが、『山女』は杏奈さんにとって、どんな位置づけの作品になりそうですか?

山田 公開されないとわからない部分はあります。でも、このスタッフ陣に森山(未來)さん、永瀬(正敏)さんたち大先輩の方々の中で、主演の立ち位置でやらせてもらったことは一番大きかったと思います。

――屈折した役を数多く演じてらっしゃいますが、スズキ・スイフトのCMなどでは明るい笑顔を見せていて。普段はどちらに近いですか?

山田 たぶん最近は明るいと思います。

――最近、何かあったんですか?

山田 そういうわけではなくて(笑)、『ミスミソウ』とかを撮っていたときは、人生の反抗期だったんです。その頃よりは大人になって、丸くなりました。今回の取材でも、初めての方に「イメージと全然違いますね」と言われましたけど、日々、現場でもプライベートでも楽しく過ごしています(笑)。

Profile

山田杏奈(やまだ・あんな)

2001年1月8日生まれ、埼玉県出身。

2011年に「ちゃおガール☆2011オーディション」でグランプリ。女優デビューして、2018年に映画『ミスミソウ』で初主演。主な出演作は、映画『小さな恋のうた』、『ジオラマボーイ・パノラマガール』、『名も無き世界のエンドロール』、『ひらいて』、『彼女が好きなものは』、ドラマ『荒ぶる季節の乙女どもよ。』、『未来への10カウント』、『17才の帝国』、『新・信長公記~クラスメイトは戦国武将~』、舞台『夏の砂の上』など。6月30日公開の映画『山女』に主演。

『山女』

監督/福永壮志 脚本/福永壮志、長田育恵

出演/山田杏奈、森山未來、二ノ宮隆太郎、三浦透子、永瀬正敏ほか

6月30日よりユーロスペース、シネスイッチ銀座、7月1 日より新宿K’s cinemaほか全国順次公開

公式HP

18世紀後半の東北。冷害に苦しむ村で、凛(山田杏奈)の一家は先々代が火事を起こしたことから卑しい身分に貶められ、蔑まれながら生きてきた。ある日、父親の伊兵衛(永瀬正敏)が村の蔵から米を盗み、罪を被った凛は自ら村を去る。決して足を踏み入れてはいけないと言い伝えられる山奥の森に入り、白い長髪と髭をたくわえた山男(森山未來)を目にした。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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