Yahoo!ニュース

薄幸な役の第一人者へ。占いに人生を委ねソープ嬢からスナックで働く役で入山法子が『明日カノ2』出演

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)「明日、私は誰かのカノジョ」製作委員会・MBS

昨年、『雪女と蟹を食う』で蟹を食べてから死ぬための旅に出るセレブ妻を演じて、話題を呼んだ入山法子。このところ薄幸な役がハマって注目されている。ドラマ『明日、私は誰かのカノジョ』のシーズン2では、占いに人生を委ね、東京のソープ嬢から地元のスナックで働く役で、後半の主役に。30代半ばからの女優活動の充実ぶりの背景を聞いた。

無とは何か考えてクラシックのリズムを染み込ませて

――しばらく前のインスタに「年を重ねたから挑戦できる人物に出会う」と書かれていました。確かに最近、ひと筋縄ではいかない大人の役を好演されています。

入山 自分が役に対してやれることは何か、深く考えられるようになったと思います。20代の頃は持ってきてもらった仕事をただ打ち返すことしかできず、自分は芝居に向いてないかもと感じていた時期もありました。今は余裕を持って、準備をできています。

――去年の『雪女と蟹を食う』の彩女のすり抜けていく感じ、体温がないような佇まいは、練習して出せるものではないですよね?

入山 彩女に関しては、内田(英治)監督に助けていただいた部分が大きいです。私自身、クランクインしてから彩女を掴むまで、ちょっと時間がかかってしまって。監督と話す中で、わかりやすいことだと「もう少しゆっくりしゃべってください」から、「無でいるように。無感情、無反応で」と言われたりしました。「でも、無とは?」ってグルグルしながら(笑)、丁寧に教えていただいて。

――虚無感はすごく出ていました。

入山 「ピアノのクラシック音楽を聴いている気持ちで台詞を言ってください」とも言われました。それで毎日クラシックを聴いて、こういうリズムの中で生活しているんだと体に染み込ませたら、だんだん感情と相まって、ああいう演技ができたのかなと思います。

どうしたら役に心の扉を開けてもらえるか

――最初に出たように、入山さんが役について深く考えた部分も?

入山 そうですね。どうしたら彼女が心の扉を開けてくれるだろうと、いつもおうかがいを立てる気持ちで役作りをしています。そうやって彩女に少しずつ歩み寄っていくような作業でした。

――そういうことが、20代の頃にはできなかったわけですか?

入山 そんなふうに考える思考回路が、たぶんなかったと思います。勉強不足を反省しながら、周りの方たちに役者としての筋トレに付き合ってもらっていたというか。無意識のうちに、そんな経験を積ませてもらっていたと感じます。

――今は役者としての筋肉がパンパンに?

入山 全然パンパンではないですけど、筋トレの仕方を覚えたというのはありますね。

理想が叶わないことで打ちのめされていて

――『明日カノ』シリーズは基本、葛藤する若者たちの物語ですが、シーズン2で入山さんが演じる40代の江美は、中年世代としてわかるところがありました。

入山 制作発表のときにプロデューサーとお話しして、「きっと特別編や留奈編とは違う層が観るんじゃないか」とおっしゃっていましたね。

――江美は「40年以上生きてきて何をやってるんだろう」と言ったりしますが、入山さんの覚えのある気持ちはありました?

入山 もちろんあります。若い頃に思い描いていた自分には、なれていませんから(笑)。でも、そういったところが人生のおかしさだったりもするし、私自身はポジティブに捉えるタイプです。江美は逆に、理想が叶わないことで打ちのめされる度合いがすごく強くて。そういう人生だと辛いですよね。

――入山さんは理想通りでなくても、打ちのめされはしないと。

入山 目の前にあるものが事実で、自分で作ってきたものでもあるので。そこに苛立ったりすることはないです。

「自分をかわいそうだと思わないで」と励ます気持ちで

――江美には「若い頃は無敵だった」という台詞もあったり、スナックで若い子と張り合うようなところも見せます。若さに対して、思うことはありますか?

入山 10代や20代の人に対して、江美のように「いいなー」と思うことはないです。そう思ってしまう気持ちはわかりますけど、今の私は年を重ねることが楽しいので。20代の人を見て、「選択肢がいっぱいあるよね」「体力があって動けていいね」というのはあります。でも、30代で動けなくなってきた体も、愛おしく思えるんです(笑)。

――「年を重ねることが楽しい」というのは、できることが増えたり、精神的な余裕ができたから?

入山 それはとっても大きいと思います。34歳くらいから少しずつ、自分の好きなものを好きと言って、チャレンジしやすい環境になってきました。言うからには責任も伴って、言うだけだとただのわがまま。では、自分はどこまで努力ができるか。そういう考え方にシフトできて、それからはすごく楽しいです。

――それだけに、江美を客観的に見るとしんどそうだと?

入山 周りの目をすごく気にしながら生きているように感じます。嫌われたくない、不幸に見られたくない。だから、自分の想いを誰にも話せず周りに合わせたり、誰かのためにした選択が悪いほうに行ってしまったり。それも人のせいにしてしまう、悪循環にハマっていますよね。結局、自分の弱さが引き起こしていることではないかと思いました。江美に対して「そんなに自分をかわいそうだと思わないで!」とエールを送る気持ちで、毎日撮影していました。

再生の物語にしたくて台詞も相談しました

――江美も「なりたい自分ノート」を作ったり、頑張ってはいますよね。

入山 方向がちょっと違うんですよね(笑)。「そこじゃないんだよな」という人とつき合ってしまったり。

――占い師にすがる江美に、リアリティは感じますか?

入山 とっても感じます。気持ちは理解できます。心がペシャンコになってしまったとき、そんな自分を受け入れてくれて「大丈夫ですよ」と言われたら、ついていってしまうかもしれません。

――入山さんも依存まではいかなくても、何かにすがるようなことはありました?

入山 誰かに、ということはないです。猫はずっと好きで、今も2匹飼っていて、いなくなったら寂しいなと思います(笑)。

――江美という役には、先ほど出たように「頑張れ」という感覚が強かったわけですか?

入山 そうですね。最初に台本を読んだときから、自分をすごくかわいそうな人だと思っている気がして。私の中では「そのままではダメだよ」というのがずっとありました。だから、江美が再生していく物語にしたいと、監督にも最初にお話ししました。いつまでも悲劇のヒロインでいてほしくない。後半で江美が自分で決断して動き出すシーンでは、台詞の細かいニュアンスも「もっと前向きにできませんか?」「相手を思いやる言葉にしたいです」と相談しました。江美の成長を一緒に見守る感じでしたね。

ひとつひとつ悩んで演じた積み重ねです

――役を演じる難易度としては、江美は高かったですか?

入山 どの役も毎回難しいです。ひとつひとつ悩みながら、対話するように演じています。

――『雪女と蟹を食う』の彩女のような掴みどころのなさは、なかったのでは?

入山 彩女役を経験したから、江美を受け入れやすかったところもあるかもしれません。やっぱり私にとって、彩女はすごく特別な存在。彼女を演じることができたから、より広い目線で江美の人生を見られたのかなと。だからこそ、自分の中で「こうしたい」というものも生まれてきたんだと思います。

――彩女役も、その前に映画『天上の花』を経験したから演じられた……と話されてました。

入山 そうですね。ありがたいことにひとつひとつ学ばせてもらいながら、積み重ねていってます。

――江美も彩女とはニュアンスが違いますが、「死にたい」と口にします。

入山 でも、江美は死にたくないんです(笑)。そこも「もう!」となるんですけど、彼女のかわいらしいところかもしれませんね。

不幸そうに見えるのが武器になれば

――入山さんはこのところ、薄幸な役がハマってます。自分でも得意な感じはしますか?

入山 得意とは思いませんけど、不幸そうに見えるとか、人生に迷ってるとか、そういうキャラクターを映像化するとき、入山法子の名前を思い出してもらえるのは、すごくありがたいです。ひとつの武器になっていたら、いいですね。

――薄幸な役の極意があるわけではなく(笑)?

入山 まったくないです(笑)。自分では全然そんなつもりで生きてないですし。

――『明日カノ』の最後に江美が辿り着く境地には、入山さん自身はもう達していると?

入山 そうですね。でも、コロナ禍になって、希望を抱いたり夢を見ても無駄だと感じる人も、たぶんいると思うんです。高校生が何の思い出もないまま卒業していたり。ただ、私はやっぱり、それではダメだという想いがあります。そこで助けになるのが、ドラマや映画や演劇。今回も心に傷を抱えた人たちのお話ですけど、最後には希望や喜びがあって。そういうものは他人に決められるのではなく、自分で獲っていくんだという気持ちで作りました。

――入山さん自身、ドラマや映画を観て、勇気付けられたことがあるんですか?

入山 たくさんあります。勇気付けられもしたし、割り切れない感情やあいまいで説明できない言動を、受け入れてもらった経験はたくさんしています。

――たとえば、どんな作品で?

入山 10代の頃に好きだったのは、岩井俊二監督の映画です。特に『花とアリス』は繰り返し観ていました。

いろいろな映画をバランス良く観てます

――最近でも映画はよく観ていますか?

入山 はい、観ます。最近、映画館で観たのは『J005311』というインディーズ映画です。自殺しようと思っている若い男性が、偶然出会った同世代の男性に運転してもらって、山に行く話ですけど、2人とも本当に入り込んだお芝居をされていて。リアルに悩みを抱えて生きている人のドキュメンタリーを観ているようでした。でも、答えはなくて「どこいきゃいいんだよ」という。観ていて苦しくなって、こういう作品もあるんだなと思いました。

――インディーズ映画にもアンテナを張っているんですね。

入山 いろいろ観るようにしています。インド映画の『RRR』もアカデミー賞の『エブエブ(エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス)』も観ました。バランス良く、片寄らないようにしていて。

――漠然とですが、入山さんはフランス映画の女優さんのようなイメージもあります。『ポンヌフの恋人』みたいな作品に出てきそうというか。

入山 あんな素晴らしい映画に? それは嬉しいです。フランス映画も大好きです。この前も『すべてうまくいきますように』を観ました。脳卒中で体が動かなくなったお父さんが安楽死を望んで、家族でスイスに手続きに行くお話で、いろいろな立場から観ることができて。「死ぬとは」「自分が直面したら、どんな選択ができるか」と考えさせられました。

どんな考えも否定しないで心を健康に

――今後、女優として磨きたいことはありますか?

入山 作品ごとにきちんと力を尽くして、演じ切りたいと思っています。大きい野望はなくて(笑)、いただいたものにひとつずつ取り組む姿勢でいます。

――以前も「求められることに対応できる体作りと心作り」という話をされていました。体作りはわかるとして、心作りはどんなことをするんですか?

入山 心身ともに健康であることは、どんな職業や世代でも同じだと思いますけど、役者にとっても大事な気がします。ハードな現場もあるので。心作りのためには、日々どんな意見も否定はしないようにしています。「そういう考えもあるのか」と自分の中に落とし込んでいく。もちろん自分の軸はありますけど、右か左か、どちらかはダメでなく、何なら上も下もある。それぞれの考えも受け入れるように心掛けています。

――体作りはジムに行ったり?

入山 ピラティスをしたり、通えないときは家でDVDを観てヨガをやったり。アラフォーで、だんだん体にガタも来ているので(笑)、健康にはより気を配っています。

――『明日カノ』でひと足先に40代を演じましたが、実際2年後の40代への展望はありますか?

入山 あっという間に40代が来るんでしょうね(笑)。ひとつあるのは、私は曾祖母、ひいおばあちゃんにすごくかわいがってもらったんです。私が大学生の頃に他界したんですけど、生き方がカッコいい人でした。新しい現場に入るたびにお墓参りをしていて、ひいおばあちゃんに報告できないことはしないと決めています。信念を持って、礼儀を大事に。人のために尽くしていきたいなと思います。

Profile

入山法子(いりやま・のりこ)

1985年8月1日生まれ、埼玉県出身。

2005年に女優デビュー。主な出演作はドラマ『祝女~shukujo~』、『霧に棲む悪魔』、『きみはペット』、『雪女と蟹を食う』、映画『ハッピーフライト』、『KG カラテガール』、『天上の花』など。ドラマ『明日、私は誰かのカノジョ シーズン2』(MBS・TBS)に出演中。

ドラマイズム『明日、私は誰かのカノジョ シーズン2』

MBS/火曜24:59~ TBS/火曜25:28~

公式HP

(C)「明日、私は誰かのカノジョ」製作委員会・MBS
(C)「明日、私は誰かのカノジョ」製作委員会・MBS

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

斉藤貴志の最近の記事