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「好感度は気にしません」 生駒里奈が役者に目覚めた原点と指針を持たない理由

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『好感度上昇サプリ』に出演中の生駒里奈(C)テレビ東京

乃木坂46を卒業して5年になる生駒里奈。精力的に舞台出演を続け、昨年からはドラマの主演も続く。放送中の『好感度上昇サプリ』では、好感度が数字で見える主人公の同僚役でヒロイン。肩肘張らないスタンスで女優人生を歩んでいるようだが、その裏の想いは?

自分自身を見られるより役を被っているほうが楽

――乃木坂46を卒業して5年になりますが、当時から女優として生きていく決意は固かったんですか?

生駒 そこまでかたくなにこだわるタイプではないです(笑)。芸能界ではやりたいと思ってもできる保証はないですし、コレがダメならアレ、アレもダメならソレ……と、のらりくらりやっていきたくて(笑)。固く決意することは、今までもこれからも性格上ないと思います。

――演技はやりたいことではあったんですよね?

生駒 やりたいと思うきっかけをくださったのが、劇団の少年社中さんです。舞台に出させていただいて、主宰の毛利(亘宏)さんや劇団員さんたちともっと一緒に芝居がしたい気持ちになって、役者業に挑戦していこうと思いました。

――自分に向いている感覚もあって?

生駒 自分自身を見られるのが苦手で、人前に立つときは役を被っているほうが楽なんです。役としてお客さんの前に出て、笑顔になってもらうのを見るのが一番楽しいと気づきました。そこから役者業を頑張ろうという想いが芽生えてきました。

――それがいつ頃の話ですか?

生駒 ここ最近ですね。舞台から始めて、25歳を過ぎた頃にやっと慣れてきて。緊張するだけでなく周りを見られるようになって、楽しんで芝居をする余裕が少しずつ出てきました。

100点を獲ろうとして95点だと失敗と思ってしまう

――乃木坂46時代のドラマや映画出演は、どんな気持ちで臨んでいたんですか?

生駒 私にお芝居はできないと思っていました。選抜メンバーだから出させてもらっているんだな、役者になりたい子はいっぱいいるのに申し訳ないな……という気持ちが大きかったです。私にとっては、少年社中さんの『モマの火星探検記』という舞台が、役者の始まりでした。

――生駒さんの初の主演舞台でしたが、そこで何かに目覚めたんですか?

生駒 毛利さんが稽古から自分をちゃんと見てくれて、良いところも悪いところも指摘してくださって。劇中の「やりたいと思うことをやればいいんだ」という台詞に背中を押してもらいました。その舞台で「私はこれがやりたい」と思えたので。

――この5年で、作品の準備の仕方とか演技に面白みを感じるポイントとか、変わったところはありますか?

生駒 台本をより読み込めるようになったのは、成長かなと思っています。自分の役がどういう動きをしたら作品にプラスになるか、前よりわかるようになりました。場数を踏まないと見えなかったことがあって、2~3年後にはもっと深い読み方ができる気がします。

――監督や演出家さんに言われたりして、演技の指針になったことは?

生駒 毎回いろいろご指導をいただきますが、私はそれを指針にしすぎてしまうと、そこから少しでもブレたらダメだと考えがちなので。100点を獲ろうとしたら、95点でも失敗だと思ってしまうんです。自分の軸には少年社中さんがあって、そこはブレず、様々なことを吸収するようにしています。

普通の女性役が一番やりにくいかも

note「創作大賞」受賞作品をドラマ化した『好感度上昇サプリ』。出版社の営業として働く谷村雄二(三浦貴大)は、地味でさえない人生を送っていた。SNSに流れてきた広告から「好感度サプリ」を服用すると、頭上に数字が出現。それは自分に好感を持つ人間の数を表していた。同僚の斉藤佳奈(生駒)は営業部のエースとつき合っている。

――生駒さんはホラーやキャラクター系の役も多いですが、『好感度上昇サプリ』の佳奈は出版社の営業部員で、いわゆる普通の役。演じやすい感じですか?

生駒 私からしたら、普通の女性像が一番表現し辛いかもしれません。会社員の経験がないですし、想像して演じるしかなくて。だから、街で見掛けるOLさんの格好やしゃべり方、歩き方を観察して、自分のストックに入れるようにしています。意外とオーバーリアクションなところもあったりするので、参考にして引き出しています。

――佳奈役ではどんなストックを活かしました?

生駒 佳奈はバリバリ働くタイプではないので、ずっとおとなしく演じていました。

――「同性からよく思われない要素も兼ね備えてしまっている女性」ともコメントされていました。どういうところでそう思ったんですか?

生駒 台本にもそう書いてあったんです(笑)。監督に確認したら「そういう子です」と言われて、男性と女性では印象が違うから、衣装さんやメイクさんにも「嫌われるタイプですよね?」と聞いてみたら、「そうですね」ということでした(笑)。

――佳奈を演じるうえで、特に意識したことはありますか?

生駒 これ!というものはないですね。私自身も27歳になったので、等身大で演じられる役でした。

薄幸な役に入り込むと気持ちが沈んでしまうので

――主役の三浦貴大さんにはどんな印象がありました?

生駒 『仮面ライダーBLACK SUN』を観ていたので「ワーイ!」と思いました(笑)。初日に「ビルゲニア、めちゃくちゃ凄かったです! 自分でアクションをされていたんですよね?」という話をさせていただきました。

――他に、撮影で覚えていることはありますか?

生駒 私は数える程度の日数しか撮影がなくて、ほとんど会社のシーンでした。佳奈は男性に怒鳴られることが多くて、「なんで今日も怒鳴られるんだろう?」と思いながら演じていました(笑)。

――演技とはいえ、キツいものですか?

生駒 最近、幸が薄い女性の役が続いていて、入り込むと気持ちが沈んでしまうので。演じるときだけ必死になって、それ以外は考えないようにしていました。

――インスタでのこのドラマに関する投稿で「一番のコンプレックスの自分の声に向き合うのが本当に辛いのです」とありました。意外な感じもしますが。

生駒 自分のコンプレックスを好きになることは、かなり難しいと思うので。変にふてくされるのはやめて開き直って、うまくコントロールしようと考えています。

世間から見られる自分はまったく別ものでした

――好感度については、どう捉えていますか?

生駒 昔からある言葉で、SNS社会になってからは、表に出る仕事ではない方まで気にするようになっていて。ちょっとの失敗にもかかわらず、好感度が下がってしまい、そのせいで仕事に影響が出てしまうケースも見てきました。ですが、私自身は好感度は気にしないタイプです。

――気にしなくなるきっかけがあったんですか?

生駒 きっかけはなくて、私の性格ですね。乃木坂46で最初に一番目立つセンターをやらせていただいて、世間から見られる自分と自分自身がまったく別ものだったんです。「私はこういう人です」と言っても、良くも悪くもイメージや好感度という物差しでしか計られないんだと、若いながらに知ることができました。その経験があったからこそ、好感度にはこだわらず仕事をしていこうと、17歳くらいから思っていました。

――好感度を上げるために何かするようなことはなかったと。

生駒 それより、たとえばテレビ番組でMCの方に振られたら話を返せることであったり、ダンスをちゃんとできることであったり、そういう努力のほうが重要かなと考えています。

――生きていくうえで、好感度より大事だと思うことはありますか?

生駒 貯金ですかね(笑)。お金が好きというわけではなくて、自分で自分を生きさせるために、必要最低限の稼ぎは大事かなと思います。

「入れたら面白そう」と使われる役者になりたくて

――好感度と同じかもしれませんが、女優としての評価も気にしませんか?

生駒 どちらかと言うと、使っていただける役者になったほうがいいなと思います。「この人はこういうところがいいよね」と言われるより、プロデューサーさんや制作さんに「生駒ちゃんはいろいろやれるから、ここに入れたら面白くなるんじゃない?」と思ってもらいたい。そこを一番大切にしています。

――その中でも、自分の役者としての強みだと思うところは何ですか?

生駒 今は特にないと思います。まだタレントや“アイドルだった生駒ちゃん”のイメージが強いところもあると感じるので。もっと役者として面白いと思ってもらえて、安心して使っていただけるようになっていきたいです。

――日ごろから、演技力を高めるためにやっていることはありますか?

生駒 ないですね (笑)。「これはお芝居に使えそう」と思ったら覚えるようにしていますが、私は集中力がなくて、常に演技のことばかりは考えられないんです。稽古や撮影期間はガッと集中して、現場ごとに「絶対ひとつは何かを盗んで帰るぞ!」という気持ちでいます。

いつかヒーローに変身するのが目標です

――先ほど出た『仮面ライダーBLACK SUN』のように特撮に関する発信はよくされていますが、それ以外の映画やドラマも観ていますか?

生駒 私はファンタジーが好きです。一番好きなのは『パイレーツ・オブ・カリビアン』。戦いが繰り広げられるような作品を観ます。

――変身はしなくても。

生駒 そうですね。信念を持って戦っている人たちが好きです。

――演技のモチベーションの話も出ましたが、何か作品を観て影響を受けることはないですか?

生駒 ないですね。「こういう女優さんになりたい」というより、「あんな人にはなれない。到底かなうわけない」と思ってしまって。お芝居は好きでも、どこかドライなんです。映像を観て見せ方を学ぶより、個人的には現場で直接お芝居を見るほうが勉強になります。「この人の見せ方はいいな」と思ったら、大先輩の方でも新人の方でも関係ないです。

――どんな共演者の演技に学びがありました?

生駒 私はヒーローになりたい節があるので、カッコいい人が好きなんです。今まで共演した女優さんだと、南果歩さん。あと、アニキと呼んでいる役者さんはたくさんいらっしゃいます(笑)。自分の中のヒーロー像に当てはまる人はみんな尊敬していて、そういう人たちのいいところを、いっぱいいただきたいスタンスです。

――チョクにヒーロー役もやりたいと?

生駒 そうです。いつか絶対仮面ライダーになりたい、変身したいという目標はあります。

A.M.Entertainment提供
A.M.Entertainment提供

楽しさが半分、生きるためが半分です

――以前、「30歳までに役者としての地位を確立させたい」と発言されていましたが、順調に来ている感じですか?

生駒 どうなんでしょうね。当時はざっくり、そういうふうになれたらいいかなと思っていて。それは今も変わりませんが、特にレールには乗ってないです。

――いずれにしても、女優人生は続いていくんですよね。

生駒 私は勉強も苦手だし、パソコンも打てない。たぶん接客も苦手。芸能界のお仕事しかできないので、生きるためにやるのが半分、楽しいのが半分という感じです。

――30代に向けて、仕事以外での展望はないですか?

生駒 プライベートでは特にないです。すぐ家に引きこもっちゃうので(笑)。仕事が充実すれば、おのずとプライベートも潤うので、仕事がいっぱいできたらいいなと思います。

Profile

生駒里奈(いこま・りな)

1995年12月29日生まれ、秋田県出身。

2011年に乃木坂46に1期生として加入。デビューシングルから5作連続でセンターを務め、2018年に卒業。本格的に俳優として活動を始める。主な出演作はドラマ『真犯人フラグ』、『OTHELLO』(主演)、舞台『僕とメリーヴェルの7322個の愛』(ひとり芝居)など。ドラマ『にがくてあまい』(東海テレビ・Lemino)、『好感度上昇サプリ』(テレビ東京)、学校教育番組『ストレッチマン・ゴールド』(NHK Eテレ)に出演中。映画『忌怪島/きかいじま』が6月16日より全国公開。

『好感度上昇サプリ』

テレビ東京/日曜25:35~

公式HP

(C)テレビ東京
(C)テレビ東京

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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