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『罠の戦争』女性秘書役の小野花梨。どんな役でも印象を残す雑草魂と草彅剛から学んだこと

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/河野英喜

放送のたびにツイッターで世界トレンド入りするなど、話題を呼ぶ『罠の戦争』。草彅剛が6年ぶりの連ドラ主演で見せる復讐への演技が鮮烈だが、その手助けをする女性秘書を演じているのが小野花梨。序盤ではセクハラ、パワハラに苦しみつつ、名台詞を残している。これまでも数々の作品で、脇役でも強い印象を刻み続けてきた。同世代が華々しい活躍を見せる中での、彼女なりの戦い方を聞いた。

「アウトです」と言えるのが強さでも弱さでもあって

――『罠の戦争』で蛍原梨恵を演じるに当たり、国会議員秘書の仕事を調べたりもしたんですか?

小野 クランクイン前に、本物の政治家の秘書の女性3人とお話しする機会を、プロデューサーさんが作ってくれました。スーツをビシッと着た公務員みたいなイメージがあったんですけど、お会いすると全然そんなことはなくて。皆さん、とても気さくで、いろいろなお話をさせていただきました。

――劇中では「国政に関わることから雑用まで」と、代議士の好きなアイスクリームが切れないようにもしていました。

小野 実際そうみたいです。プライベートで病院に通う時間まで把握して、電話が来れば早朝でも夜中でも出ないといけない。マネージャーのような側面があって、そこが楽しさでも大変さでもあると聞きました。

――蛍原の人物像としては、仕事もテキパキできて、思いやりもある感じですかね。

小野 この仕事が好きなんでしょうね。私だったら、セクハラをしてくる上司に「それアウトです」とは言えません。もともとそういうことを言って睨まれたんだから、言わなければいいのに言葉にしてしまう。その不器用さが蛍原さんの強さでも弱さでもあって。そうしたところで、人間味が出たらいいなと思いました。

自分が図太いことに気づきました(笑)

――序盤、上司の虻川からセクハラやパワハラを受けていたときの苦しさは、どう想像しました?

小野 私にはそんな経験はありませんけど、想像することは難しくなかったです。

――以前の取材でも、セクハラやパワハラではないにせよ、「ずっと厳しくされてきた」と話されていました。

小野 私は自分が弱い人間だと思っていましたけど、最近強いんだと気づきました(笑)。人の辛かった話をいろいろ聞いていると、「私だったらへっちゃらだな」と思って。たぶん図太いんですよね。生きるってベースがしんどいし、何かあっても「ハイハイ。来た来た」みたいな受け入れ態勢があるんだと思います。

――打たれ強いんですね。

小野 根性で生きてきました(笑)。

――蛍原にはいくつか名台詞がありました。クビになった虻川に「ホント救いようがないよな、自覚のないクズって」とか。あそこの笑うでも勝ち誇るでもない、泣きそうでもある表情は自然に出たものですか?

小野 いろいろ意見がありました。もっと怒ってもいいんじゃないか、泣いても良かったんじゃないか。難しいところでしたけど、あれ以上勝ち誇ったら蛍原さんがイヤな人に見えてしまう。泣きたくなっても泣くまいとするのが人間、という気もしました。たとえ自分をいじめていた相手でも、落ちていくのを「勝った」と喜ぶ人間は魅力的でないかなと。あのバランスになって良かったと、自分では思っています。

キャラを立たせるより引いてウソのないほうに

――見習い秘書の眞人が代議士の犬飼の話を聞き、こみ上げる怒りからイスを蹴ったのをフォローする場面もありました。「怒り方を間違えちゃダメ」と諭したところは、蛍原の有能さと人柄が同時に表れていて。

小野 本当に素敵な台詞をいただきました。眞人くんだけでなく、あの言葉を聞いて、どれだけの人がハッとしただろう。自分も含めて、ですけど。悔しいのはわかる。でも、怒り方を間違えたら、結局はあなたが損をする。この世の真理ですよね。蛍原さんの有能さがヒシヒシと出た名台詞でした。

――一方で、植物学の研究をしていた眞人に「誰かの目指した夢を笑ったらダメだよね」と頭を深々と下げて謝っていました。あれは蛍原の過去が関係する台詞だったのでしょうか?

小野 表立った設定ではないですけど、小さな航空会社でCAをしていたのが、コロナ禍で倒産して犬飼事務所に入ったことになっているんです。多かれ少なかれ、挫折のあった人生だったんだと思います。

――そうした台詞や設定がありつつ、蛍原の良い感じは、小野さんが演じているから出ているように思います。

小野 そんなことないですよ。キャラクターも台本も台詞も素敵なので、きっと誰が演じても蛍原さんは良くなっていたと思います。ただ、このドラマはキャラが強い登場人物が多いんですね。その中で自分もキャラを立たせにいくか、あえて引くか、冒頭でふたつの道に分かれていて。そこで私は「不安になっても引いて演じよう」と決めた瞬間がありました。さっきの虻川さんとのシーンも、泣いたほうがインパクトがあったかもしれません。でも私がやるなら、痛いくらいリアルにしてこそ意味がある気がして。迷いながらも選択肢があったら、ウソのないほうを選んできたつもりです。

戦おうとしないのが自分の戦い方です

――草彅剛さん演じる鷲津が「弱い者なりの戦い方」という言葉を口にしますが、小野さんなりの芸能界での戦い方はありますか?

小野 昔から「同年代の女優さんはみんなライバル」という考え方があるじゃないですか。私はその考えがすごく苦手です。広い目で見たら仲間であるべきで、ライバルとは意識していませんし、焦りにも繋がっていません。みんなが大好きだし、みんなを大好きな自分でいたい。戦おうとしないのが私の戦い方というか。逆説的ですけど、みんなを愛して、自分は自分で戦っていこうと思っています。

――小野さんの出演歴を改めて見ると、『鈴木先生』から『親バカ青春白書』も『カムカムエヴリバディ』も『恋なんて、本気でやってどうするの?』も、脇ながら全部どんな役だったか、はっきり思い出せます。そこに小野さんの特別な力が発揮されていませんか?

小野 いやいや。そんなのないです(笑)。本当に良い役を良いタイミングでもらえて、恵まれすぎています。自分が頑張って苦労して生み出したような感覚はありません。周りが上げてくださって、「良かった」と言っていただけている感じ。私はただ、いただいた役を自分が一番愛して、その役の人生を楽しみたいと思っているだけです。

――『恋なんて、本気でやってどうするの?』での、ヒロインの恋敵で男性にすり寄る匂わせ女のひな子役も楽しかったですか?

小野 とても楽しかったです。ツイッターを見ると「お前は(『カムカムエヴリバディ』の役柄通りに)岡山で豆腐を作っとけ!」とか書かれていて(笑)、面白いなと思ったり。ああいう役は遊べる余白が多くて、バランスを自分で調整しながら演じるのが、やり甲斐があります。

――華々しいヒロインとかでなくても。

小野 はい。私は雑草で大丈夫です。

――今まで子役からのキャリアの中で、難しくて悩んだ役はありませんでした?

小野 初主演した映画の『プリテンダーズ』は傲慢でひん曲がった役だったから、苦しんで出した感じはします。でも、そこも楽しめなかったら、こんなに長いこと役者をやっていないと思うんです。だから、本当の意味で苦しんだことはなかった気がします。結局は楽しんだ者勝ちなので(笑)。

復讐を助ける動機はいっぱい出てきました

――『罠の戦争』での蛍原は国会議員秘書で、より大人な新境地の感じはしませんか?

小野 意外と今までやってない役だと思います。年齢が上がるにつれて、ずっと学生役だったのが大学生、社会人となって、今回はパンツスーツ。自分の成長も感じられます。

――今回はどういうふうに役を楽しんでいますか?

小野 蛍原さんは見るからに優秀で、やさしくて健気で、私自身も大好きです。セオリーのど真ん中を行くような役ですね。「なんでそうなるの?」ということはありません。

――鷲津に対して、セクハラの防波堤になってくれていたとはいえ、復讐に協力して夜中に当てもない聞き込みまでするのも、わかりますか?

小野 なぜそこまでするのか考えたら、動機はいっぱい出てきました。庇ってくれたこともあるし、憧れみたいなものも抱いていて。あと、事務所で一番下だったところに、新人の眞人くんが入ってきて、自分の背中をどう見せるかも考えていたと思います。「勝手にやって」ではなく「私もやります」となるのは、納得できました。

――眞人には好意を持たれているようです。

小野 そんな感じですよね(笑)。眞人くん、すごくかわいいですね。愛らしい役だと思います。

無理にでも自分の機嫌は自分で取ります

――最近の小野さんは演技力と共に、外見もより洗練されてきてますよね。そっちのほうでも何か努力されていますか?

小野 美容みたいなことですか? 至らないところばかりですけど、眞人くんに好かれている設定で「何でこんな女に?」と思われたら、破綻ですから(笑)。それは避けなければいけないと、頑張っているところでもあります。

――具体的にはどんなことを?

小野 私は結局、ストレスでダメになるんです。撮影をしていると、どうしても朝が早くて睡眠不足になったり、外ロケで寒かったり、うまくいかないことはたくさんあって。その中で、どう自分の機嫌を取っていくかに、最近は命を懸けています(笑)。それが結果的に、外見でも内面でも美しさに繋がるならいいなと。

――自分の機嫌を取る方法はあるんですか?

小野 これといってありませんけど、気持ちの持ち方ひとつで世界は変わりますよね。同じことが起こっても、自分の機嫌が良いときと悪いときで見方が全然違う。起きたことより自分の状態が大事な気がしていて。今腹が立ったのはその事象のせいなのか、自分の機嫌が悪かったのか? 機嫌が良いときだったら、どうなっていたか? 常に自分に問い掛けています

――大人ですね。

小野 そうでないと、やってられませんから(笑)。無理やりにでも、自分の機嫌は自分で取ります。

演じてる気配がない草彅さんにゾッとすることも

――『罠の戦争』のこれまでの撮影で、カメラが回ってないところで印象的だったことはありますか?

小野 それはもう、草彅剛さんの偉大さに尽きます。合間の時間はギターを弾いて歌ってたり、筋トレをしていたり、自由に過ごされてますけど、すごい数の差し入れをしてくださって、「今日は〇〇さん、いないね」と気遣いもされていて。フラットなところと座長としてのバランス感覚が驚異的です。どんなに朝が早くても、しんどくても、草彅さんに会えるなら現場に行きたいと思うし、会えたら本当に嬉しい。そんな人間いる? と思うくらいで、神様に近い感じがします(笑)。

――言われて刺さったような言葉も?

小野 草彅さんは主演ですから、朝から晩まで出ずっぱりなんですね。私は昼から入ったり、先に上がったりするのは申し訳ない気持ちがあって。「すいません。お先に失礼します」と帰っていたら、草彅さんに「花梨ちゃんは先に帰るとき、すごく申し訳なさそうな顔をするよね」と言われたんです。「僕はみんなが休んでくれるのがすごく嬉しいから、『バイバーイ』って笑いながら帰ってね」と。考え方も神レベルで、わざわざ言葉にしてくださって。それからは「失礼します!」と気持ち良く帰ることにしました。そんなことがたくさんあって、本当に温かい方です。

――演技面では、草彅さんからどんなことを学びました?

小野 語弊があるかもしれませんけど、肩の力が抜け切っているところに、表現者としての歴史を感じます。ここのシーンはキメるというときに切り替える瞬発力もすごいですけど、カメラの前に立たれたときも、普段の草彅さんとどっちが本当なのかわからないくらい、自然なんです。演じようとする気配がない。それでいてギャップが大きいから、ゾッとするときもあります。あのお芝居はいいなと思って手に入るものではないですけど、こっちも置いていかれないように、必死で食らいついています。

オールアップしたらポテチをひと袋食べます(笑)

――撮影がオールアップしたら、自分へのご褒美に何かしたりはしますか?

小野 全然ないです。撮影で現場にいること自体、辛いわけではなくて、好きでやっていることですから。

――なるほど。楽しいことをしていたのに、ご褒美は当たらないと。

小野 むしろ毎回、終わってしまうのが寂しくて。私には演じること自体がご褒美に近いです。だからオールアップしたら、アラームをかけずにいっぱい寝るくらいですかね。あとは、ポテチをひと袋食べようと(笑)。撮影中はいろいろ気になっていましたから。コンソメ味のポテチを全部食べてやろうと思います(笑)。

衣装協力/daichïogata(080-1212-7269)=ビスチェ、neith.tokyo(03-4361-1691)=トップス、スカート、AGU=ネックレス、指輪、イヤーカフ
衣装協力/daichïogata(080-1212-7269)=ビスチェ、neith.tokyo(03-4361-1691)=トップス、スカート、AGU=ネックレス、指輪、イヤーカフ

撮影/河野英喜

Profile

小野花梨(おの・かりん)

東京都出身。2006年にドラマ『嫌われ松子の一生』でデビュー。主な出演作はドラマ『親バカ青春白書』、『カムカムエヴリバディ』、『恋なんて、本気でやってどうするの?』、『ロマンス暴風域』、映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』、『のぼる小寺さん』、『プリテンダーズ』、『ハケンアニメ!』など。ドラマ『罠の戦争』(カンテレ・フジテレビ系)、ラジオ『おしゃべりな古典教室』(NHKラジオ第2)に出演中。

『罠の戦争』

月曜22:00~/カンテレ・フジテレビ系

公式HP

カンテレ提供
カンテレ提供

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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