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AKB48倉野尾成美が「死にたいくらいのときに支えてくれた人を思い出しました」。初主演の映画が公開

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜 ヘア&メイク/神宮好 スタイリング/松本沙也加(オサレカンパニー)

AKB48でチーム4のキャプテンを務める倉野尾成美が初主演した映画『いちばん逢いたいひと』が公開される。実話を元にした物語で、白血病を克服してひとり旅に出る役を演じた。アイドル活動の中での女優への取り組み、そして、劇中で命の大切さを訴えるに当たって考えたことを語ってくれた。

流行りのドラマを観ては友だちと話してました

――小さい頃はモデル志望だったんですよね?

倉野尾 そうです。キッズモデル上がりです。

――その頃は女優には興味ありました?

倉野尾 テレビは大好きで、ドラマはよく観ていました。世の中で流行っていたドラマを観ては、学校で友だちと話していて。

――どんなドラマを観ていたんですか?

倉野尾 学園ものですね。『メイちゃんの執事』とか『(花ざかりの君たちへ~)イケメンパラダイス』とか。『花より男子』もたぶん再放送で観ました。小学生だったので、あまり理解はできてなかったと思いますけど、好きでした。

――『花男』だと、道明寺司派か花沢類派か、みたいな話もしたり?

倉野尾 あれは一生悩みますよね(笑)。どっちのセンもいいので。

演技は自分で勉強していくものなんだなと

――では、AKB48でアイドル活動をしつつ、早くから女優もやりたい気持ちがあって?

倉野尾 憧れは心のどこかにあったかなと思います。そもそもアイドルを第一に目指していたわけでもなくて、人前に出ることをしたかったんです。

――学校で学芸会に出たりもしていて?

倉野尾 学校ではスポーツとか得意でなくて、部活動もやりたくなかったんです。それで他のことをしてみたいなと。中1のときにキッズモデルは年齢的に限界になって、事務所を東京か福岡で探そうと少し動きました。そしたら、親が(各都道府県の代表から成る)チーム8のオーディション情報を見つけてくれて、中2のときに加入したんです。

――AKB48グループのドラマ『マジムリ学園』には、どんな感覚で出ていました?

倉野尾 お芝居のレッスンはなかったので、「こんな簡単にドラマに出ていいのかな」と思いましたけど、実際に演技をやってみたら、やっぱり難しかったです。自分で勉強していくものなんだと、手探りをしていた感じです。

「こう演じる」と飲み込めてから楽しくなって

――そんな中で、演技の現場で楽しさも感じたり?

倉野尾 ドキドキして不安でいっぱいでした。そのあとに舞台に出させていただいたときは、舞台そのものを観たことがなくて、演じ方を理解できなくて。最初はだいぶ手こずりました。

――舞台は声の出し方から違いますよね。

倉野尾 そうですね。どこに届けるかわかってなくて、すごく怒られました。ドラマだとマイクがあって、声を抑えたりもしていたのが、舞台では体全体を使って出し切る感じ。ちょっと違うなと思いました。

――どこかの時点で、女優をよりやりたくなったりはしましたか?

倉野尾 舞台は怒られながら3~4回やらせていただいて、「こう演じればいいんだ」と自分なりに飲み込めるようになったら、ちょっと楽しいと感じました。まだ自信は全然ありませんけど。

――その楽しさというのは、どういうものですか?

倉野尾 舞台だと稽古期間もあって、役を突き詰めていけるんですよね。映像はお話の流れ通りに撮らないから、「はい、スタート」ですぐ違うシーンを演じるのが難しいです。役の心情を自分の中に通して作っておけば、「このシーンか」ってできると思うんですけど。最初の『マジムリ学園』はどうしていいかわからないままで、その後はあまり映像をやる機会がなかったから、また違う作品に出たいと思っていました。

自分で小学生時代から演じるのかと思って(笑)

娘が白血病になり、家族で乗り越えた経験を持つプロデューサーが企画した『いちばん逢いたいひと』。11歳の笹川楓(田中千空)は白血病と診断され、過酷な治療を受けていた。同じ頃、IT企業を経営していた柳井健吾(崔哲浩)は娘を白血病で亡くし、家庭も仕事も失う。見知らぬ少女の骨髄ドナーになれたのが唯一誇れることだった。大人になった楓(倉野尾)は命を救ってくれたドナーからの絵葉書を手に旅に出る。

――『いちばん逢いたいひと』に主演する話は、最初どんな形で来たんですか?

倉野尾 台本をいただいて、楓役に私の名前が書いてありました。だから、最初は子どもの頃から全部、私がやるのかと思ったんです。それで(身長152cmで)小さい私になったのかと、一瞬考えました(笑)。どこをどうすれば小学生に見えるだろう、とか。

――さすがに20歳を超えた倉野尾さんに、ランドセルを背負う小学生役はないんじゃないですかね(笑)。

倉野尾 小学生時代は子役さんがやるとか、書いてなかったので。見た目的にも難しいし、白血病の大変なシーンも多いし、いろいろ考えていたから、「演じるのは大人になったあと」と聞いて、一気に肩の荷が降りました(笑)。

――事前に監督やプロデューサーと会ってはいなかったんですね。倉野尾さんの過去の出演作や映像で決まったんですかね?

倉野尾 AKB48のメンバーだったり、他の方だったり、候補が何人かいた中で、母親役の高島礼子さんが写真を見て「この子が楓に合うんじゃない?」と言ってくださったのが私だった……と聞きました。嬉しかったです。

白血病で苦しんだ背景は絶対に忘れたくなくて

――倉野尾さんが演じたのは、白血病を克服して高校を卒業した楓でしたが、白血病についても調べたんですか?

倉野尾 プロデューサーの堀(ともこ)さんの娘さんの実話が入っているということで、顔合わせや本読みのときに、経験やこの映画への想いを聞きました。自分でもどういう病気なのか調べたり、こういう題材の映画やドキュメンタリーを観たりしました。

――小さい頃の楓の体験をイメージできるように?

倉野尾 私は完治して元気になってからを演じましたけど、自分が病気で苦しんでいたときに助けられたからこそ、次は自分が助ける側になっていくので。背景は絶対に忘れないでおこう、というのはありました。

――実際に死に直面した経験はないですよね?

倉野尾 死にたいくらいの気持ちになったことは何度もあります。メンタル的にやられて「もうイヤだ……」と。だから、この映画の“いろいろな人に支えられて今の自分がある”というところは、すごくわかる気がしました。

――仕事に行き詰まって、そうなったんですか?

倉野尾 そうです。辛いこともありますし、10代のときは自分の感情をコントロールできなくて、落ち込んだりしていました。もうアイドル活動をやめてしまおうと、諦めそうになった時期もあります。でも、周りにいてくれた人のおかげで、続けられました。だから、この映画のように支えてくれた人は大事にしたいと、改めて思いました。家族だったり、スタッフさんだったり。

ひとり旅のシーンは素で楽しんでました

――楓のように、ひとり旅はしたことありますか?

倉野尾 ないんですけど、考えたら中学生からアイドルをやっていて、熊本から東京まで来ていたのは、ひとり旅だったなと思います。田舎で育って、東京への憧れは昔からすごくあって、毎回ワクワクしていました。飛行機は得意でなくて、最初は緊張で体調を崩すことも多かったんですけど、あのワクワクがあったから13歳で行けたんだと思います。

――映画の中で広島のローカル線に乗ったり、山を登っているシーンは楽しそうでしたね。

倉野尾 素で普通に楽しんでいました(笑)。電車に乗るのも、きれいな景色を見に行くのも好きなので。

――楓が泊まった温泉旅館も風情がある感じでした。

倉野尾 あそこは実際は撮影しただけで、泊まってはいないんです。本当に素敵なところで、私もああいうところをゆっくり巡るひとり旅をして、泊まりたいなと思いました。クライマックスのシーン以外は、癒されていました。

大事なシーンを撮るまで気が張っていて

――そのクライマックスのシーンでは、体も張りつつ想いを爆発させていました。

倉野尾 あのシーンの撮影は最終日だったんです。大事な場面だから、撮り終わるまで安心できなくて、気持ち的にはずっと張り詰めていました。

――前の日は食事もノドを通らなかったり?

倉野尾 そこまではいきませんけど、自分がどう演じられるのか、ずっとドキドキしていました。

――叫ぶ台詞も長いですしね。

倉野尾 台詞に関しては、結構早くから覚えていました。台本を読んでいたら、どこも自然に覚えられて。ただ、他のシーンはお風呂でも練習できましたけど、最後のシーンだけはどうしても現場での感情任せになると思って、動きも自分の中で想像できませんでした。事前には台詞を小声で口にして、「ここでこういう感情かな」と確認するだけでした。

ワンカットで緊張したけど感情は出しやすくて

――現場で撮る直前は、集中して気持ちを高めていたような?

倉野尾 「話し掛けないでください」くらいのオーラを出していた気がします。緊張しすぎて、あまり記憶がないんですけど。本当に山を登って頂上まで行って、監督からワンカットの長回しで撮ると言われていました。だから、絶対間違えたらいけない緊張感はありつつ、感情は出しやすい環境でした。

――撮影を止めず、一連の流れでできるからですね。

倉野尾 感じたままを出し切ればいいと、そこは心配することなく、ブレずにできました。

――何気に言いますが、その感情に持っていけるのは、さすが女優さんですね。

倉野尾 いえ、私はまだ女優さんではないです。監督たちに助けられて、この作品をやれたと思います。

――涙も自然に出たんですか?

倉野尾 はい。台詞がストレートな言葉で、伝えたいことがハッキリしていたので、感情は出しやすかった気がします。私は大好きな『ONE PIECE』や映画を観ていても、すぐワーッと泣いてしまうので、入りやすいかもしれません。

思わず「終わったー!」と言ってしまって(笑)

――大の大人を走って追い掛けて、体にしがみついて止めるのも大変だったのでは?

倉野尾 あれは楓の勇気ある行動ですよね。「こういう感じで撮るから、この辺でしゃべる」みたいな段取りはありましたけど、そこも「想いのままにやってもらえればいい」ということだったので。考えるより感情で行って、ワンカットで2~3回撮って終わりました。

――OKが出て、自分でも納得がいきました?

倉野尾 何が正解かはわかりませんでした。でも、思わず「終わったー!」と言ってしまうくらい、安心しました(笑)。それから、よく眠れるようになりました。

――それまではよく寝られなかったんですか?

倉野尾 朝から晩まで撮影で、ずっと寝不足でしたし、最終日まで気が抜けなくて。終わったら力が全部抜けました。

ファンの方からいただいた手紙を励みに

――あそこの「価値のない命なんてひとつもない」といった台詞は共感しました?

倉野尾 自分自身にも響きました。命とか普段は口に出さないので、お芝居の中で言っていると、自分に言われているような気持ちにもなりました。

――もし倉野尾さんの前に死にたいと思っている人がいたら、どんな言葉を掛けますか?

倉野尾 話を聞いてあげたほうがいいのかなと思います。自分が落ち込んでいるときも、誰かに話すだけで、悩み自体は解決しなくても少し気が軽くなるので。

――楓は骨髄のドナーからもらった絵葉書を「ずっとお守り代わりだった」と言ってました。倉野尾さんにはそういうものはありますか?

倉野尾 先輩や同期が卒業していくとき、手紙をくれることがあるんです。1人1人に書いてくれた先輩もいました。そういう手紙は取ってあります。嬉しい言葉が書いてあったりするので。ファンの皆さんからいただいた手紙も、すごく励みになっています。SNSにいただくコメントも嬉しいですけど、手紙は書くのに時間がかかるし、言葉をまとめるのも大変な作業ですから。それを字にして送ってくれた手紙はすごくありがたくて、いつもニヤニヤしながら読んでいます(笑)。

――特に嬉しかった言葉はありますか?

倉野尾 「ありがとう」は単純な言葉ですけど、改めて嬉しくなります。自分の活動が皆さんの力になれているのを実感できると、やっていて良かったなと思えます。

就活の面接シーンは台詞を自分で考えました

――撮影でクライマックス以外の場面では、特に難しいことはありませんでした?

倉野尾 私が映画の撮影に慣れてないので、監督が要所で「こういう感じで撮ります」と言ってくださって、やりやすかったです。ただ、就活の面接シーンだけは、台詞がなかったんです。その場で「それっぽいことを言って」という(笑)。

――就活の経験はないのに。

倉野尾 「御社の志望動機は」みたいな言葉は、言ったことなくて(笑)。そこだけは下準備をしないまま、台詞を考えました。

――自分の主演映画が完成して試写で観たときは、どんなことを感じました?

倉野尾 まず、撮ったシーンがちゃんと繋がって、映画になっていたことに感動しました(笑)。自分のことはあまり見られなかったです。舞台の稽古のときも映像を撮ってもらっても、まじまじとは観られなくて、遠くから離れて観ちゃうんです(笑)。恥ずかしくなっちゃって。でも、ちゃんと観て研究しないといけないなと思いました。

いつも「自分にこの役が来たら」と想像していて

――今は自分で映画やドラマを観たりもしていますか?

倉野尾 話題作はチェックしています。自分で良い作品を見つけたい気持ちもありますけど、まずは評判になっている作品をいろいろ観て、感性を広げて勉強もしようと思っています。

――「こういう作品に出てみたい」と思ったりも?

倉野尾 どの作品を観ても「もし自分にこの役が来たら……」と想像します。いろいろな職業の、いろいろな人の役があるので、それぞれにワクワクしますね。

――いいなと思う女優さんもいますか?

倉野尾 有村架純さんのお芝居はすごく好きです。ナチュラルなのに説得力があるのが、素敵だなと思います。『花束みたいな恋をした』は特にナチュラルで、内容もリアルで、さらに切なくなりました。

ビビらず恐れず挑戦していきたいです

――主演映画を1本撮って、女優への意欲はさらに高まりました?

倉野尾 そうですね。でも、昔より新しいことに臆病になっているところもあります。アイドルは歌もダンスも経験なかったのに「やってみよう」とわりと簡単に踏み込んだのは、若かったから。わからないことだらけだからこそ、行けたんです。

――怖いもの知らずだったわけですね。

倉野尾 今は「失敗したらどうしよう?」と思ってしまったり、自信がないと進めない感じになってしまって。だけど、それではダメで、挑戦しないと得られないこともあると思うので。ビビらず恐れず、やっていきたいです。

――アイドルをやりながら、女優仕事も増やしたいと?

倉野尾 グループでの活動ももちろん大切ですけど、みんなに頼ってやっているんですね。

――チーム4のキャプテンなのに?

倉野尾 キャプテンでも支えられています。映画とかの仕事に1人で行って、メンバーがいないと全然違う感じがするので、慣れなければと。1人だと縮こまるところがあるんです。グループではキャプテンとしての責任感から「自分が言わなきゃ」という意識にはなるんですけど、1人になると素のビビりな自分が出てしまう。それは今後の課題ですね。

―――いずれはドラマでも主役を張れるように?

倉野尾 もし私がそこまでできそうになったら、チャレンジはしたいと思います。今回の映画でも自分の名前が一番上に出ていて、いまだに「大丈夫かな」となっちゃいますけど、そこも恐れずにいきたい気持ちです。

撮影/松下茜

Profile

倉野尾成美(くらのお・なるみ)

2000年11月8日生まれ、熊本県出身。

2014年に「AKB48 Team 8 全国一斉オーディション」で熊本県代表に合格。2018年4月よりチーム4兼任となり、2021年12月よりキャプテンに任命。個人でドラマ『イミテーションラブ』、映画『YOU達HAPPY 映画版 ひまわり』、人形浄瑠璃『超馴鹿船出冬桜 ちょっぱあふなでのふゆざくら』などに出演。主演映画『いちばん逢いたいひと』が2月24日より公開。

『いちばん逢いたいひと』

監督・脚本/丈 出演/倉野尾成美(AKB48)、三浦浩一、崔哲浩、中村玉緒(特別出演)、高島礼子ほか 配給/渋谷プロダクション

2月17日より広島・福山駅前シネマモードで先行上映

2月24日よりシネ・リーブル池袋ほか全国順次公開

公式HP

(C)TT Global
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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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