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本屋大賞『かがみの孤城』アニメ映画化で主演の當真あみ。沖縄から上京した16歳の1年の飛躍

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/S.K.

今年、ドラマ『妻、小学生になる。』の天才小説家役やカルピスウォーターのCMで注目された當真あみ。2018年の本屋大賞を史上最多得票数で受賞した辻村深月の『かがみの孤城』の劇場アニメ化で、主人公の居場所をなくした中学生の声優に抜擢された。1000人以上が参加したオーディションで選ばれたもの。高校生になって沖縄から上京した16歳。初めての声優への取り組みと飛躍の1年について聞いた。

非現実的な世界に入る気分が楽しくて

――アニメはもともと好きなんですよね?

當真 はい。『東京喰種』、『七つの大罪』、『呪術廻戦』とかアクション系が好きです。今やっている『チェンソーマン』も観ています。

――少女マンガ系は観ないんですか?

當真 たまに観ますけど、どちらかというと、非現実的なお話が好きです。観ていて、その世界に入ったような気分になれるのが楽しくて。

――では、声優の仕事にも興味があって?

當真 というより、この『かがみの孤城』がアニメになるなら、声優さんをやりたいと思いました。もともと原作をお薦めされて読んで、もう1回、自分で買って読むくらい好きでした。

――オーディションの前は「必死に練習した」とコメントされています。どんな練習をしたんですか?

當真 とにかく台本を読んで、他のアニメ作品も観て、息づかいをマネしたりもしました。何をどうしたらいいのか、正解がまったくわからなかったので、とりあえずできることは何でもやってみました。

母に「受かった」と話して実感が湧きました

――オーディションで手応えはありましたか?

當真 自分がやれることは、できたかなと思いました。監督から「こういう感じで」とちょっとした指示があって、それはたぶん全部やれました。

――主人公のこころ役に受かったと告げられたときの動画が上がっています。

當真 次の面接があると聞いて、行ったら監督がいろいろお話をされて。何を聞かれるんだろうと緊張していたら、「あなたがこころ役に決定しました」と言われました。ビックリしすぎて、聞き間違えかと思って、流しそうになって(笑)。頭が追いつくのがちょっと遅れましたけど、嬉しかったです。

――あとから何かで実感が湧いてきたりは?

當真 家族には「こういうオーディションがあるんだ」と話していたので、すぐ知らせたくて、お母さんに連絡しました。自分で「受かったよ」と話しているうちに「決まったんだな」という実感がありました。

他の人たちの意見が固まると自分は何も言えなくて

発行部数170万部突破のベストセラーが原作、『河童のクゥと夏休み』などで知られる原恵一監督による映画『かがみの孤城』。学校での居場所をなくし、部屋に閉じこもる中学生のこころは、ある日突然光り出した鏡に吸い込まれるように中に入る。そこには城があり、中学生6人がいて、狼のお面をかぶった女の子が「隠された鍵を見つければ、どんな願いでも叶えてやろう」と告げる。期限は1年。集められた7人には共通点があることが次第にわかって……。

――こころに関して「少し臆病なところもあって」とコメントされて、「私自身も思っていることを口に出せないことがある」とありました。あみさんはどんなときに、思っていることを口に出せないと?

當真 中学のとき、テニス部だったんですね。練習方法を話し合っていると、「こういう感じがいいかも」と思っていても、他の人たちの意見が固まり始めたら、もう絶対言えませんでした。

――こころのように、お母さんにも話せなかったり?

當真 そこはこころと違っていて。お母さんには学校での出来事とか何でも話していました。

――深刻な悩みも?

當真 ちょっと困ったことがあると相談したり。でも、私はこころちゃんほど深刻な悩みを抱えたことがないので、演じるときに「どういう感じだろう?」といろいろ考えました。

アフレコで未完成の画を観られて楽しくて(笑)

――原恵一監督はあみさんについて、「2日間テスト日を設け、1ヵ月後の本番で聴き比べたら、圧倒的に良くなっていた」と話されています。その1ヵ月の間には、どんな練習をしたんですか?

當真 テストのとき、息づかいのお芝居やアニメーションに合わせながら読むことを教わって、家で映像を観ながら練習しました。最初は台詞を言うタイミングが決まっているのが、すごく難しくて。

――画に合わせると、自分の間でお芝居できないわけですよね?

當真 それで台詞を言うタイミングを逃してしまったり。そういうことを練習して、テストのときよりできるように頑張りました。アフレコ中も映像に合わせるのが難しいと思いながら、その映像を観るのが楽しくて。まだ作っている途中の画だったんです。

――いわゆる線画だったり?

當真 そうです。普段は出来上がったアニメしか観られないから、こころに感情移入しながら、「こういう画があるんだ」といろいろ観て、嬉しかったです(笑)。

家の前で走って息が切れる感覚を覚えて

――声や話し方は普段のままで?

當真 はい。普段通りで、特に声を変えたりはしませんでした。

――城でアキとフウカに学校に行けなくなったことを話して、「誰かに聞いてもらいたかった」と涙するシーンなどでは、マイク前でも泣いていたんですか?

當真 涙が出るまではいけなかったんですけど、ウルッときました。アキとフウカの声が先に入っていて、そのおかげもあって、すごく感情移入できました。

――クライマックスの階段を走るシーンでは、息を切らせる演技もありました。

當真 家の前で走って感覚を覚えておいて、アフレコのスタジオで思い出していました。そうしないと、できないと思ったので。

――全体的にすごく悩んだシーンはなかったですか?

當真 はい。たとえば泣いているシーンだったら、監督が「泣きそうになっているくらいの声で」とか、すごく細かい指導をしてくださったので、やりやすかったです。

――監督に言われたことはできていたと。

當真 たぶん、できていたと思います。

友だちと10年一緒で学校が落ち着く場所でした

――こころにとってのあの城のような居場所というか、心安らぐ場所はあみさんにはありますか?

當真 こころとは真逆で、私は中学校がそういう場所でした。幼稚園から一緒の友だちがたくさんいて、10年間同じクラスだと家族みたいになっていて。そういう子たちと普段学校でしゃべっている時間は、心落ち着くし楽しかったです。

――辛いことがあって、友だちに助けられたりも?

當真 いろいろ相談に乗ってもらったりはしました。合唱コンクールでクラスのピアノを弾いたとき、ちょっと難しかったんですね。ピアノを弾ける友だちが練習を手伝ってくれて、歌ってもらって私が弾いて、「ここはどうやったら合わせられると思う?」と聞いたりしました。

――東京に出てきてからはどうですか?

當真 沖縄の友だちに電話して、最近あったこととか話しています。ずっとしゃべっていて、気づいたら3時間経っていたり(笑)。あとで考えたら、「あれ? 何を話していたんだろう?」というくらい他愛もない会話ですけど、そういう時間がすごく楽しいです。

――最近の若い方はあまり電話をしないのかと思っていました。

當真 LINEとかでやり取りするより、電話のほうが絶対いいです。文字だとちょっと伝わらないときがあって、お互い「何の話をしているんだろう?」と思ってしまったりもするので。

願いが叶うなら一瞬で沖縄に帰りたいです

――あみさんは読書もよくするそうですが、本やアニメや映画などで救われたことはないですか?

當真 まだないです。大きな悩みもないので。

――インスタに『タコピーの原罪』の写真が上がっていました。

當真 ああいう作品もたまに読みます。アクション系のマンガと違って、予想していた以上に深い内容で、読んだあとに心が重くなってしまいました。そういうのも1人で考えるより、友だちに話したくなるんです。

――この映画の取材でよく聞かれると思いますが、あみさんにはこころたちのように、どうしても叶えたい願いはありますか?

當真 毎回全然違うことを言ってますけど(笑)、今、沖縄の友だちのことを話していたら、一瞬で行きたいところに行ける力があるといいなと思いました。東京にいても、電話より直接会って話すほうがいいので。

1年が早くて、もう12月になったかと

――今年はあみさんにとって、目まぐるしい1年でしたよね?

當真 沖縄から上京して環境が変わったせいか、1年がめちゃめちゃ早かったです。「あれ? もう12月?」という感覚です。『かがみの孤城』のアフレコをしたのが8月で、公開が12月だから結構先だと思っていたのが、あっという間でした。

――東京に住むようになって、良かったこと、戸惑ったこととありますか?

當真 良いことは、自分1人でいろいろなところに行けるというのがあります。沖縄だと移動はすべて車で、お母さんにお願いしないと行けなかったので。今は行きたいところがあれば自分で電車で行けて、すごく便利だなと思います。

――東京でよく行く場所もできました?

當真 決まったところはないんですけど、映画館に行くとき、いつも同じところだとつまらないと思って。なるべく行ったことのない場所で観るようにしています。

――沖縄で乗ってなかった電車には、すぐ慣れました?

當真 上京した4月ごろは、どこに向かったらいいんだろうと戸惑いました。表示とか出ていてもわからなくて、スマホで調べながら歩いていましたけど、慣れてきました。

――新宿駅とかでも迷いませんか?

當真 大きい駅だと難しいですね。乗り換えは大丈夫ですけど、何口から出るというのが今でも迷います。

自分のポスターを見ると不思議な感じです

――この1年、1月の『妻、小学生になる。』からいろいろあった中で、特に思い出になっていることはありますか?

當真 ドラマでは他の俳優さんがたくさんいらっしゃる中で、演技をするのはすごく緊張しました。でも、テレビに出てらっしゃる俳優さんたちも、演技をしてないときは普通に夜ごはんの話をしていたり(笑)、そういうのを聞けたのは面白かったです。

――『オールドルーキー』にゲスト出演したときは、フェンシングの練習はかなりしたんですか?

當真 3~4回練習に通いました。動きや型、剣の持ち方から、先生に教わって。覚えるのは早いと言っていただけました。

――カルピスウォーターのCMや秋の全国火災予防運動のポスターは、自分でも見ました?

當真 ポスターは1回見ました。「こんなところに」って面白かったです(笑)。もちろん、撮影して貼られるのはわかってましたけど、見つけると自分がいるのが不思議に感じました。

緊張してもすぐ慣れるようになりました

――今年から高校生になって、学校での思い出もできました?

當真 あまり行事がなくて、友だちと一緒にちょくちょく遊びに行ったのが思い出ですね。一緒にまだ行ったことのない街を歩いてみたりしました。

――年末年始はどう過ごすんですか?

當真 お母さんが毎年作ってくれるお雑煮を食べたいです。ほうれん草、にんじん、鳥肉が入った普通のお雑煮ですけど、それがおいしくて。

――来年1月からはドラマ『Get Ready!』に出演します。

當真 今年はドラマ3本に出させてもらいましたけど、レギュラーで出られたらいいなと思っていたので、嬉しいです。

――1年前と比べて、自分の成長も感じられますか?

當真 最初は緊張でガチガチで、固まっちゃっていました。今も初日は緊張しますけど、すぐ慣れていけるようになったのは、成長したんじゃないかと思います。

――実写でもヒロイン役を目指していきますか?

當真 まず今年以上に、いろいろな作品に関わっていけるように頑張りたいです。

撮影/S.K.

Profile

當真あみ(とうま・あみ)

2006年11月2日生まれ、沖縄県出身。

2021年にリクルート企業CMでデビュー。2022年に『妻、小学生になる。』でドラマ初出演。主な出演作は、短編映画『いつも難しそうな本ばかり読んでいる日高君』、ドラマ『オールドルーキー』、『霊媒探偵・城塚翡翠』など。アサヒ飲料「カルピスウォーター」14代目イメージキャラクター。12月23日より公開のアニメ映画『かがみの孤城』で主演。1月スタートのドラマ『Get Ready!』(TBS系)に出演。

映画『かがみの孤城』

原作/辻村深月 監督/原恵一 制作/A-1 Pictures

出演/當真あみ、北村匠海、芦田愛菜、宮﨑あおいほか

公式HP

(C)2022「かがみの孤城」製作委員会
(C)2022「かがみの孤城」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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