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近くにいそうで「何か惹かれる」福地桃子。『鎌倉殿の13人』『消し好き』に続き主演映画も本日公開

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)LesPros entertainment

『鎌倉殿の13人』で北条泰時の妻・初役、『消しゴムをくれた女子を好きになった。』のヒロインなど、出演作が続く福地桃子。主演映画『あの娘は知らない』が本日公開された。若くして海辺の旅館を営み、静かに暮らす役。派手なタイプではないが、観る者に「何かいい」と感じさせる佇まいと演技が、さらに注目を広げそうだ。

何かを意識するより思ったままを届けようと

――『消し好き』の伊藤さとみは、主人公の福田くんならずとも、男子がつい好きになってしまう感じがすごく出ていました。イメージした女子像はありましたか?

福地 脚本を読んで、とても素直な子だなと思ったり、監督と「場が明るくなるような人にしたいですね」と話したりしました。会うと元気をもらえる人って、すごく魅力的。でも、演じるときは何かを意識するより、そのときに思ったことを相手に届けようとしていました。

――バイバイするときに手を振るのが、かわいいなと思ったりもしましたが、それも自然に出たもの?

福地 何かで研究したとかはないです。でも、あいさつひとつで2人の関係性は出ると思ったので、しっくりくる手の振り方などを試して練習をしていました(笑)。

――福地さん自身が持つものも滲み出ていたのでは?

福地 どうなんですかね。自分の要素が何かプラスになっていたら、いいなとは思っていました。

――『鎌倉殿の13人』では、坂口健太郎さんが演じる北条泰時の幼なじみから妻になった初役。泰時に「あなたのそういうところが面白くない」とストレートに言ったりしていました。

福地 初登場から、どういうキャラクターかわかりました(笑)。私も思ったことは人に伝えようと意識はしながら、一度整理して話すようにしています。

――撮影で大河ドラマならではのことは多いですか?

福地 お着物での所作は難しいなと思いつつ、それも含めて楽しませてもらっています。こういう機会がないと聞けないことも多くて、扉の開け方ひとつでも毎回学びがあります。

自分が演じさせてもらう意味を考えます

――このところ出演作が相次いでますが、自分の中で何か掴んだような感覚はありますか?

福地 このお仕事は出会いの連続だなと、最近は特に思うことがあって。毎回の現場で出会う方たちも全然違いますし、役を通して自分の知らなかった自分も見つけています。

――以前、福地さんが目標として「何かいいなと思ってもらえるような心地よさのある人に憧れます」と発言されていました。今の福地さんは、まさに「何かいいな」という感じを醸し出しているように思います。

福地 そういう人は今も憧れです。いいなと感じたり、自分の気持ちが豊かになったときに、せっかく出会えたなら他人ごとにしない。そんな向き合い方ができたらと思っています。

――演技のうえでは「何かいいな」感を出すためとか、心掛けはありますか?

福地 毎作品、自分がやらせてもらえる意味をどこかで考えている気がします。みんなが真剣なはずで、誰でも良かったわけでないなら、なぜ私なのだろうと見つめる時間があって。外見なのか、内面なのか。自分でわかっている一面もあれば、わかってなかった一面もある。そういう意味でも、発見があるなと思います。

役が身に付けているものが気になります

静岡県伊東市の海辺の街が舞台の『あの娘は知らない』。家族を早くに亡くし、若くして旅館の主を務めている中島奈々(福地)。休業中にひとりの青年・藤井俊太郎(岡山天音)が「どうしても泊めてほしい」と訪ねてくる。1年前に亡くなった恋人が、直前にこの旅館に宿泊していたという。

――福地さんは『消し好き』のさとみでも『あの娘は知らない』の奈々でも、いい意味で“いそう”な感じがします。

福地 毎回作品に馴染む人でありたいなぁと思っています。役作りでいつも気になるのは、その人の身に付けているもの。服やカバン、髪につけるピン留めでも、きっと大事にしていている理由があって。気持ちも身に付けたものに引っ張られることが、ある気がするんです。

――奈々もそういうところから入ったんですか? 白のシャツとかワンピースとか、シンプルないでたちでした。

福地 奈々の服や履いていたサンダルは、衣装合わせの段階で監督の中でイメージがしっかりあったので、そこから想像していきました。

――想いを胸に秘めた役で、無言で表情のアップとかも多いですね。

福地 台詞のないお芝居も多かった中で、俊太郎さんとの会話に繋がる感情を抱いていて。露天風呂で仕切り越しに話をするシーンは、顔を合わせていないのに初めて目を見て会話している感覚があって、とても好きです。撮影前は、自分と育った場所や境遇が違う中で、奈々の抱えているものをどう表現したらいいか、とても難しいと思いました。でも、実際に海辺の街に行ってみると、奈々の当たり前がいっぱいあって。ここで生活していることも、家族がいないことも、1人でごはんを作るのも当たり前。もしかしたら抱えているものですら、当たり前に体に馴染んでいるんだろうなと感じました。

自然の中の音で芝居が変わりました

――そういうことは脚本を読んでいるだけでは、感じ取れなかったと。

福地 現場で波の音や街のぬくもり、そこにある空気に触れて、想像できていなかった景色もたくさんありました。イメージがさらに広がって、それを伝えられることも映画の良さなんだと、改めて感じました。映像を観ても撮影したときの空気が残っていて、とても嬉しかったんです。

――風景もひとつの主役ですよね。

福地 言葉にするのが難しい想いを伝えるお芝居をするとき、海だったり雨だったり、自然の中で常に変化する音にとても影響を受けました。もし雨が降ってなかったら、この言葉は言えなかったかもしれない。晴れていたら、相手に違った届き方をしたかもしれない。そういうことがたくさんあったんです。

――俊太郎と2人で海に入ったシーンは、まさにそうでした?

福地 はい。緊張感もとてもありました。その場にいた全員がリズムを揃えて撮っていたように思います。それで自然の音を聴きながら、気持ち良く演じられました。

――確かに、海辺の光景に溶け込んだシーンが多かったですね。

福地 それと、岡山さん演じる俊太郎さんと会話を重ねていく中で、奈々がどういう人か引き出してもらった部分もありました。1人で脚本を読むだけでは出会えなかった感情に、その場で出会わせてもらって。私自身、気持ちがほっこりして、たぶん奈々も俊太郎さんと過ごしていた中で、そういう瞬間がたくさんあったんでしょうね。

境遇でなく内面に自分と近いものがあって

――奈々は俊太郎に「誰も私の前に現れなければ、ずっと静かに1人でいられたのに」とも言ってました。

福地 奈々はその生活が体に馴染んでいたから、ずっと寂しいと感じていたわけではなかったようにも思いました。俊太郎さんとの距離が近づくにつれて、日常の中に隠れていた温もりに気づいてしまったんだろうなと。出会ったことのない感情で、知るのが怖かったのかもしれない。けど、ほっこりもするし、どんどん前向きになっていく。人と関わるって、そういうことではないかと、奈々としてではなく私として思いました。

――泣いたことがなかった奈々が夢から覚めて、涙を流すシーンもありました。

福地 撮影をする前に井樫(彩)監督の実体験を聞かせてもらって、私の想いも話しました。時間をかけて大事に撮ったシーンです。

――福地さん自身は、普段は泣くことはあるんですか?

福地 よくあります。いろいろな感情があって、なぜかわからないけど涙が出てきた……ということは多いです。

――先ほど出た「自分がやらせてもらう意味」は、『あの娘は知らない』に関してはどう捉えました?

福地 今回は脚本ができる前に井樫監督とお会いして、お話をしたんです。そこから脚本が出来上がって、私の要素も奈々という役に投影されたと聞きました。だから、境遇などが自分に近い役だと勝手に想像していたのですが……。

――そういうことではなかったと。

福地 決して簡単ではなかったです。さっきもお話ししたように、奈々が抱えているものを、どうやって自分の中に普通に存在させられるか考えました。ただ、初めに脚本を読んだとき、2人の空気や距離の縮まり方に違和感はなくて。内面の部分で、自分に奈々と近いものがあると気づきました。

――その内面の近さが現れたシーンもありましたか?

福地 「何でこんなことを言うんだろう?」と思ったところはなくて、2人が過ごす時間が居心地いいなと。人との関わり方や「今ここで、この人に話したい」と思うタイミングが、すごく近い気がしました。

朝と夕方の犬の散歩が1日の良いリズムに

――福地さんは自分でも映画はよく観ますか?

福地 配信で観たりしています。最近だと、ドラマの『スナックキズツキ』が印象的でした。

――原田知世さんが傷ついた人だけが辿り着くスナックのママ役で主演していました。

福地 毎回癒されているお客さんを見て、自分も癒されながら、何だか笑ってしまいました。人間らしさが出ていて、みんな一生懸命生きているんだと感じるドラマでした。

――3年前に取材させてもらったときは、早寝早起きの生活の話が出ていました。朝6時にはごはんを食べて、犬の散歩をして、夜10時には寝ると。今もそんな感じですか?

福地 早寝早起きはしています。でも、6時にごはんは早かったな(笑)。今は季節によって違いますけど、朝ごはんは7時とか8時とか。夜も寝られるなら、早く寝たいです。ただ、仕事が夜遅くなるときもあるので、そこで眠たくならない体作りも大切なんです(笑)。

――いつも寝ている時間に仕事をするのは辛いですよね。

福地 でも、基本的には早寝早起きが、自分には一番いいです。朝と夕方に犬とお散歩に行くのが、すごく良いリズムになっています。その二つだけで大仕事ですけど(笑)。

――自分の生活には欠かせないもの?

福地 お散歩が好きなので。特に朝の太陽を浴びる時間は、犬と一緒に生活してなかったら、たぶん毎日は取れなかったので、感謝ですね。

――季節的には、秋はどんな潤いがありますか?

福地 食べ物だと、ぎんなんや栗が好きです。栗きんとんやモンブランが思い浮かびます。街をお散歩していると、植物も変わるので、写真を撮りたくなりますね。寒くなってきたら、お鍋もしたい。そして、公開される作品もあるので、どんなふうに届くかも楽しみです。

*写真は『あの娘は知らない』より

Profile

福地桃子(ふくち・ももこ)

1997年10月26日生まれ、東京都出身。

2016年に本格的に女優デビュー。主な出演作はドラマ『なつぞら』、『女子高生の無駄づかい』、『#リモラブ~普通の恋は邪道~』、『消しゴムをくれた女子を好きになった。』、『鎌倉殿の13人』、映画『あの日のオルガン』、『サバカン SABAKAN』ほか。

『あの娘は知らない』

9月23日より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

公式HP

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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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