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「自分が崩れないように伸び伸びと」 元『王様のブランチ』リポ―ター坂ノ上茜の初主演作が3年越しに公開

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/S.K.

誰からも愛されるキャラクターとルックスで、女優にバラエティに幅広く活躍している坂ノ上茜。主演した自主制作映画『愛ちゃん物語▽』がぴあフィルムフェスティバルなど各地の映画祭で評価されたのを受け、3年越しに劇場公開される(*▽はハートマーク)。今後も主演作が控える中で、「こだわりを持ちすぎるより伸び伸びと」と自然体なスタンスが垣間見えた。

「お酒が好き」と話していたら番組に繋がって

――現在、『町中華で飲ろうぜ』にレギュラー出演中で、パーソナリテイを務める『坂ノ上茜のぎゃんっ!ラジオ』も米焼酎をゲストと飲み交わしながらの番組。普段もよく飲んでいるんですか?

坂ノ上 そうですね。もともと「お酒が好きで」という話をしていたら、そういう番組のお仕事に繋がりました。今は外で飲むのが厳しければ、家で飲んだりしています。基本、人と飲むのが好きなので、1人飲みはよほどのことがない限りしません。

――『ぎゃんっ!ラジオ』でchelmicoのお2人がゲストのとき、たまたま坂ノ上さんとお店でカウンターの隣りの席になって、「よく飲むな」と思って見ていた……という話が出てました。相当イケるんですか?

坂ノ上 まあ、弱くはないかもしれません(笑)。楽しく飲んでいます。

――アテとかにこだわりも?

坂ノ上 まず枝豆がほしいです(笑)。最近は番組を通じて、梅水晶がおいしいなと思って、よく食べています。あと、しょっぱいものは間違いないですね。

女優もバラエティもできるのは嬉しいです

――『愛ちゃん物語』が公開されますが、初主演映画になるんですね?

坂ノ上 もともとクラウドファンディングをした自主制作映画で、劇場公開されるとは思っていませんでした。初主演は(来年公開予定の)『ぬけろ、メビウス!!』になる予定が、後付けで『愛ちゃん物語』になりました。

――坂ノ上さんはこれまでも数々の映画、ドラマに出演されてきましたが、3年半リポーターを務めた『王様のブランチ』でのイメージが強い人も多いかもしれません。自分の中では軸は女優とか、ありましたか?

坂ノ上 お芝居は続けていきたいです。でも、『ブランチ』は私を知っていただく機会になりましたし、『町中華』も大きくて。バラエティも楽しくやれているので、こだわりすぎずに、どちらもやっていきたいと思っています。

――最初から、そういうスタンスだったんですか?

坂ノ上 もともとテレビっ子で、ドラマもバラエティも好きで芸能界に興味を持ったので。事務所に入るきっかけの「アミューズ全国オーディション」でも、俳優・ルックス部門、バラエティ部門、歌部門とあって、私は俳優・ルックス部門賞でしたけど、最初はバラエティ部門で応募したんです。当時は『(クイズ!)ヘキサゴン!!』のブームで、バラエティ番組をしょっちゅう観ていたので。だから、今どちらもやらせてもらえているのは嬉しいです。

連続ドラマはひと通り観ています

――女優さんでは以前、木村文乃さんを目標に挙げられていました。

坂ノ上 大好きです。刑事とかクールな役が多くてカッコイイんですけど、『マザーゲーム』では明るい役をされていたり、ご自身がベビーフェイスというギャップがいいなと思って。私もわりと若く見られがちなので、理想として名前を出させていただきました。

――今もドラマや映画はよく観ていますか?

坂ノ上 はい。毎クールの連続ドラマはひと通り目を通して、誰が何に出ているとかチェックしていて。

――勉強も兼ねて?

坂ノ上 もともと好きでしたけど、今はそれもありますね。

――最近で面白かった作品はありますか?

坂ノ上 映画の『流浪の月』と『ハケンアニメ!』ですね。対照的な作品ですけど、どちらも面白かったです。特に『ハケンアニメ!』はアニメーションを作るお話で、新人監督と伝説の監督それぞれのプレッシャーや、周りで支える人たちの苦労が描かれていて。最終地点はみんな面白いものを作りたいということで、業界は違えど自分たちと近いものを感じました。観たあとに「明日からまた仕事を頑張ろう」と、モチベーションをすごく上げてもらいました。

――坂ノ上さんもあの映画の登場人物たちのように、魂を削って作品に取り組んでいると。

坂ノ上 自分でそこまで言うのは恥ずかしいですけど(笑)、多かれ少なかれ、そういうところはあると思います。

半年以上ずっと踊り倒していました(笑)

――ご自分の出演作で、特に大きかったものはありますか?

坂ノ上 大学を卒業した2018年がすごくバタバタしていました。ドラマと映画になった『BACK STREET GIRLS-ゴクドルズ-』を年末から撮っていて、お芝居だけでなく、歌とダンスにアクションもあったんですね。

――極道が性転換して女性アイドルになる話でした。

坂ノ上 その撮影をしつつ、ドラマの『チア☆ダン』のチアダンスの練習が被って、半年以上ずっと踊り倒していました(笑)。『ゴクドルズ』の撮休は全部ダンスと歌とアクションの練習。並行してチアダンスも踊っていて、2ヵ月くらい休みが全然なくて。今考えると、めちゃくちゃ体力があって、すごく頑張っていたなと思います(笑)。

――本当にそうですよね。

坂ノ上 あと、その二つの作品では、同世代の女優さんたちと共演できました。それまで、あまり接する機会がなかったんです。今でもわりと現場で紅一点というようなことが多くて。進路も考えていた時期に、同世代の人たちと一緒にもの作りをしつつ、オーディションではライバルになる。すごく刺激的でした。学生から社会人になるタイミングで、そういう経験ができたのは良かったなと思います。

――そこで身に付いたものもありました?

坂ノ上 集団行動でのチームワークですかね。『チア☆ダン』は部活みたいで、ドラマの中でチアダンス自体がひとつの作品だったので、全部踊り終わったあとはみんなで感動しました。

――そのときでも他の現場でも、女優人生の指針になったことや演技でのポリシーができたりはしました?

坂ノ上 何だろう? パッと出てきません。むしろ何も捉われず、伸び伸びやりたいかもしれません。

みんなができることをやる現場でした

ぴあフィルムフェスティバル、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭などで賞を獲った『愛ちゃん物語』。16歳の愛ちゃん(坂ノ上)は仕事人間の父に過度に束縛され、自由を知らずに成長した。友だちもなく、オシャレも知らなかったが、偶然出会った聖子さん(黒住尚生)と一緒に過ごす中で、家族のようで友だちのような関係になっていく。しかし、聖子さんには秘密があって……。

――『愛ちゃん物語』は3年前に撮影したそうですね。

坂ノ上 ちょうど3年前の8月に撮影開始だったと思います。7月にオーディションがあって。

――そうすると、忘れていることも多いですか?

坂ノ上 そうですね(笑)。取材でしゃべりながら思い出してきました。大野(キャンディス真奈)監督が、演者、カメラマンさん、衣装部やヘアメイクさんと組を作って映画を撮るのが初めてで、すごく苦戦していて。「香盤って何?」というところから始まり(笑)、どうすれば撮影がスムーズに進むか。「こうしたほうがいい」と、みんなで声を掛け合いながら、作っていく現場でした。

――その中で、坂ノ上さんは座長という立場だったわけですね。

坂ノ上 でも、あの場にいると、座長だからどうとかなくて。みんなができることをやっていく感じで、ある意味、気は楽でした。

いきなり「踊って」みたいなことが多くて(笑)

――16歳の愛ちゃん役には、自分でハマる感じはしましたか?

坂ノ上 台本を読んだときは変わった台詞の言い回しも多くて、「これ、どうしたらいいんだろう?」と思いました。でも、監督がすごく個性的な人だったので、なるほどと。ちょっと監督をマネしてみたりしました。

――逆に、監督から求められたこともありました?

坂ノ上 イメージはあっても決めすぎず、私が持っているものを活かしていきたいという考えだったそうです。あまり演出はなく、突然「踊って」みたいなことが多くて(笑)。伸び伸びとやらせてもらって、それを「いいね」「面白かった」と言ってくれる人だったから、良かったです。

――学校からの帰り道で、急にミュージカルふうに踊り出すのは面白かったです。

坂ノ上 現場でいきなり「今からこれを歌って」と音源を渡されました(笑)。キーも高い歌でビビリましたし、ちょっと音痴だから恥ずかしかったんですけど、歌って踊ったら「いいじゃん」と言われました。

――踊りは得意なんですよね?

坂ノ上 難しかったんですけど、私がダンスをやっていたからこそ、「振りを決める形にはしたくなかった」と、監督はおっしゃっていました。それもひとつの考え方だなと。想像と全然違うものが出たそうです。

このままの自分でいいと思っていました

――愛ちゃんは父親の束縛を受けて育った分、16歳で急にオシャレやメイクに目覚めて、純粋にワクワクしている感じがリアルでした。そういう時期は、坂ノ上さんにもありました?

坂ノ上 私はわりとおしゃまな子だったと、母に言われます。幼稚園に行くときも「このフリフリのワンピースがいい! これじゃないと行かない!」みたいな感じで、オシャレをしたくなったのは早かったと思います。16歳の頃は逆に制服を着ていることが多くて、規律を守っていたので、爆発することはなかったですね。普通に楽しく過ごしていました。

――愛ちゃんみたいに「変わりたいな」と思ったこともないですか?

坂ノ上 ないです。私は伸び伸びと不自由なく過ごさせてもらって、周りも自分を肯定してくれる人が多かったので、このままでいいかなと思っていました。

感情をぶつけるシーンも一発撮りで

――『愛ちゃん物語』で演技的に悩んだことはありました?

坂ノ上 お父さんに自分の感情をバーッと言うシーンは、どうしようかとちょっと悩みました。でも、現場で私が集中しているのを察して、周りで空気感を作ってくれたから、集中できて。一発撮りで、カメラアングルを変えて何回かやりましたけど、結果的にツルッとできました。

――3年前に撮った映画を今観ると、どう感じますか?

坂ノ上 若いなと思います(笑)。今は顔つきが全然変わって、3年前は幼かったなと。でも、どっちかと言うと、「あのシーンはどうだったかな? この芝居は大丈夫だったかな?」というふうに観てしまいますね。

――改めて、いい感じになっていたとも?

坂ノ上 別にそうは思いませんけど(笑)、いろいろあったことを思い出します。学校に遅刻して、教室に這って入っていくシーンは楽しかったな、とか。作品自体、あまり「こういう映画です」と決めつけないほうがいいなと私は思っていて。観る方それぞれ楽しんでもらえれば、オールOK。自分でも軽い気持ちで観ていたかもしれません。

アクションを磨いていきたいです

――今後、女優として磨いていきたいことはありますか?

坂ノ上 アクションですね。デビュー作の『ウルトラマンX』で戦うヒロインをやらせていただいたときから、アクションは楽しいなと何となく思っていて。新体操の技とか自分の個性も活かしてもらえて、ありがたい気持ちもありました。

――あのアスナ隊員はバク転したり、蹴りを使ったり、カッコ良かったです。

坂ノ上 あと、ずっとアミューズで演技指導をしてくださった先生が、私は体が柔らかいから床でクルッと回ったりすると、すごく喜んでくれたんです。レッスンのたびに「茜、あれやって。すごーい!」って。

――『愛ちゃん物語』のミュージカルシーンでも披露していました。

坂ノ上 アドリブで入れました。先生は「あなたの特技だから、ずっとできるようにしておきなさい」と言ってくれていたんですけど、去年亡くなってしまって。クルッと回ったら喜んでくれたことを思い出して、またアクションの練習をするようになったんです。そしたら、年末にアクション映画のヒロインをやらせていただけました。たぶん、来年公開になります。その現場でのアクション練習では、メソッドが違っていて。今まで教えてもらっていたのと逆を行く感じでしたけど、面白かったんですよね。「こんなやり方があるのか。こっちのほうがテンポが速くできるな」とか。

――収穫が大きかったわけですね。

坂ノ上 短い日数でキュキュッと練習したので、もっと習いたいと考えていたら、そのあと、ちょっとケガをしてしまって。ずっとアクションができなかったんですけど、また練習して、スコーピオンキックや回転を使う作品にも出られたらいいなと思っています。

面白い人たちと作品を作れて幸せです

――「アミューズ全国オーディション」での同期が野村周平さん、吉沢亮さんですが、坂ノ上さんも主役級をガンガンやっていきたい気持ちもあります?

坂ノ上 できたら嬉しいですね。でも、今は今で面白い人たちと作品を作れているから、すごく幸せです。

――仕事以外で成し遂げたいことはないですか?

坂ノ上 何だろう? 小さい頃は「別荘を建てたい」と言っていました(笑)。あまりそういうのは考えたことがなくて。普通に楽しく仕事をして、生活に困らず、自由に暮らせるのが一番です。

――高い目標は掲げないタイプですか?

坂ノ上 自分が崩れるのがイヤなんです。あくまで自分らしくいたい、というのがあるかもしれません。まず自分と周りの人がハッピーでいられる環境があって、その輪がどんどん大きくなれば、もっと嬉しいかなと思います。

撮影/S.K.

Profile

坂ノ上茜(さかのうえ・あかね)

1995年12月5日生まれ、熊本県出身。

「アミューズ全国オーディション2009 THE PUSH!マン」で俳優・ルックス部門賞。2015年に『ウルトラマンX』で女優デビュー。主な出演作はドラマ&映画『BACK STREET GIRLS-ゴクドルズ-』、ドラマ『チア☆ダン』、『監察医 朝顔』、映画『きみの瞳が問いかけている』、『人狼ゲーム デスゲームの運営人』など。7月29日公開の『愛ちゃん物語』、2023年公開予定の『ぬけろ、メビウス!!』に主演。『町中華で飲ろうぜ』(BS-TBS)、『坂ノ上茜のぎゃんっ!ラジオ』(TOKYO FM)、『アッパレやってまーす!月曜日』(MBSラジオ)にレギュラー出演中。

『愛ちゃん物語』

監督・プロデューサー・脚本/大野キャンディス真奈

出演/坂ノ上茜、黒住尚生、松村亮、保土田寛ほか

7月29日からシネクイントより順次公開

公式HP

(C)「愛ちゃん物語」作品チーム
(C)「愛ちゃん物語」作品チーム

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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