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上白石萌歌がコメディ挑戦で愛されキャラの女子大生に 「モヤモヤした時期に踏ん張って今があります」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/小澤太一

出演作がますます増えている上白石萌歌が、アクションコメディ映画『KAPPEI カッペイ』でヒロインを演じている。世界の滅亡に備え救世主になるための修行を積んできた戦士の、遅すぎる初恋の相手の女子大生役。天真爛漫でピュアなキャラクターを体現する取り組みと共に、活動が充実している現在の心境も聞いた。

役について肉派か魚派かまで妄想します

『デトロイト・メタルシティ』で知られる若杉公徳のギャグマンガが原作の『KAPPEI』。ノストラダムスの大予言を信じて乱世の救世主となるべく、人里離れた地で殺人拳の修行に明け暮れていた勝平(伊藤英明)たち。だが、世界が滅亡する気配がないまま、師範に解散を命じられる。東京に流れ着いた勝平は女子大生の山瀬ハル(上白石)と出会い、人生で初めて恋を知る。

――『KAPPEI』のようなコメディは、あまり関わってなかったジャンルですよね?

上白石 コメディ要素の強い作品は観るのは好きですけど、お芝居で携わったのは初めてで、すごく新鮮でした。『KAPPEI』の原作を読んだら、今までマンガを通ってこなかったのを後悔するくらい面白くて。この原作の良さを最大限に活かしつつ、実写でしかできないことを目指して撮影に入りました。

――演じたハルはアクション映画好きですが、萌歌さんはそっちのほうは?

上白石 私はどちらかというと、生活の香りがする作品が好きですけど、父がアクション映画を好きで、小さい頃によく一緒に観ていました。爽快感にハマるのはわかります。特に『オーシャンズ』シリーズは、女性の勇ましい姿も見られて好きでした。

――今回の撮影に入る前に、何か準備でしたことはありました?

上白石 役をいただいたときに必ずするのが、自分でチャートみたいなものを作るんです。真ん中に役名を書いて、連想するものを枝分かれさせていっぱい書き出して、どういうキャラクターかひと目でわかるようにします。肉派か魚派か、猫と犬とどっちが好きか、どういう人とどんな結婚がしたいか。すごく細かいところまで、妄想するのが好きです(笑)。

楽しそうによく笑うことを意識しました

――ハルに関してはどんな妄想を?

上白石 見た目に反してゴツいものが好きで(笑)、食べ物だと硬くて歯ごたえがあるものが好みなのかなと。

――ステーキならウェルダン派?

上白石 そうですね。あと、お父さんが腕っぷし系とか、原作にない情報まで自分で組み立てました。それと、自分とハルちゃんに距離があるように思ったので、ちょっと小悪魔っぽいかわいさの女の子ってどういう感じか、いろいろな作品を観て考えたり、仕草を研究したりもしました。

――参考にした作品もあったんですか?

上白石 『500日のサマー』のサマーという女の子は、純白というより、いろいろな経験を経て小悪魔的になって。ハルちゃんは真っ白なまま、無自覚に人に好かれてしまうので、違うキャラクターではあるんです。でも、サマーのような柔らかくて愛らしい女の子にできたらいいなと思って、観返しました。

――ハルは本当にピュアさが溢れていて、萌歌さんから自然に出たようにも見えましたが、練り上げたものだったんですね。

上白石 みんなに愛されるハルちゃんはある意味、一番ヤバいキャラクターかもしれませんけど(笑)、人が喜んでくれる姿が好きだから、そうなってしまうと考えたくて。悪く見えないように、ハルちゃんをリスペクトする精神で演じました。純白さより、人の前で楽しそうにしていたり、よく笑う感じを意識したつもりです。

普段使わない顔の筋肉も動かしてます

――初対面の勝平を真っ赤にさせたハルの笑顔も、一瞬で恋に落ちるのが納得でしたが、ああいうのは練習をするものですか?

上白石 こういう役をやったことがなかったので、撮影中は不安が大きかったんです。原作のハルちゃんを頭に置きながら、表情の柔らかさを心掛けて、普段使わない顔の筋肉を動かして(笑)、練習はしました。

――他の場面で、終末戦士がハルのいないところで「心から笑っている屈託のない笑顔」と話していました。

上白石 同性から見てかわいい女の子って、ずっと笑っているんです。その笑い方もわざとらしくなくて、本当に心から楽しんでいるような子が素敵だと、私は思っていて。役の中でとにかくよく笑って、ずっとポジティブな精神でいるようにしていました。

――温泉で勝平に「風邪ひかないでね」と軽く手を振るところなんかも、さり気ない仕草の中にキュンとくるものがありました。

上白石 私は普段けっこう大股で歩くんですけど、なるべく小股にしてみたり(笑)。自分が思うかわいい女の子の動きをいろいろ取り出して、ギュッと詰めた感じですね。

どう考えてもおかしい状況で笑いをこらえて(笑)

――現場では「芝居中に笑いをこらえるほど苦痛なことはないと感じました」とコメントされてますが、どの辺のシーンで笑いそうになったんですか?

上白石 全部ですね(笑)。絶対に気を抜いたらいけない、冷静になったらいけないと、ずっと思っていました。シチュエーションがどう考えてもおかしいので(笑)、そこに気づいたらいけない。そういう世界の中で、どう普通にしているかを考えながら演じていて。カットがかかったら、ずっと笑っていました(笑)。

――ハルが普通にしているのも、面白かったりしますからね。

上白石 戦士たちのキャラクターがすごく濃くて魅力的なので、私はそれをどう受け止めるか、またはスルーするか(笑)。とにかく、作品全体のバランスの中でのいい位置を探りました。

――夜の公園のベンチで、勝平が眠ってもたれ掛かるハルを指一本で受け止めていたシーンは、現場ではどんな感じでした?

上白石 クランクアップの日でしたけど、原作だと普通に肩にもたれているんですね。それを監督や伊藤さんが話し合って、人差し指で止めるほうが勝平の不器用さが出るということで、その場で変えていました。私が体重を掛けても、伊藤さんは指一本でビクともしない感じだったので、甘えさせてもらいました(笑)。

角度を変えたらヒューマンな純愛の話で

――ハルは「何人もから告白されて誰ともつき合わなかった」と言われていて、ずっと堀田先輩(岡崎体育)に想いを寄せていたようですが、彼女の恋愛へのスタンスについても考えました?

上白石 自分は好きな人しか見えてないけど、無自覚のうちにいろいろな人に愛を振りまいてしまうんですよね。これだけモテるのに、振り向いてほしい人には振り向いてもらえないもどかしさ、切なさを感じました。岡崎体育さんが演じた堀田先輩は、現場でもめちゃくちゃ素敵だったので、そこはあまり役作りは要りませんでした。

――告白されて長い台詞で返すシーンは、切り取れば恋愛ものの感覚でした?

上白石 コメディ映画ではありますけど、全体的に真っすぐな純愛の話だとも思っていて。角度を変えたらヒューマンな要素もあるし、みんなが一生懸命。笑わせることより、ちゃんと目を見て伝えることは、全編で意識していて。あのシーンも真っすぐ向き合うようにしていました。

――長台詞には真摯な想いが込められていました。

上白石 ハルちゃんの初めての独白で、今までどういうことを考えていたのかわかりました。フラッシュモブのシーンから続けて、2日間かけて夜通し撮って、一番印象深かったです。

――フラッシュモブのシーンも笑いをこらえたような?

上白石 あそこはもうすごくて! 大貫(勇輔)さんだけでなく世界のダンサーが集結して、皆さんそれぞれ本場の方で圧倒されました。小澤(征悦)さんの歌も胸に来るものがありました(笑)。

映画の影響で選ぶ服が変わったりもします

――ハルにもちょっとしたアクションシーンがありました。

上白石 アクションはずっと興味あったんですけど、なかなか機会がなくて。今回は短いシーンのために、アクションの先生に練習を付けていただきました。

――最初から、うまくできたんですか?

上白石 初めてで不安でしたけど、丁寧に教えてくださって、すごく楽しかったです。またやりたい気持ちになりました。運動は好きで、普段から走ったりトレーニングはしているので、これからも継続します。

――ハルに「映画を観て影響を受けちゃうのはわかります」という台詞がありました。萌歌さんも映画好きとして、生活に影響を受けることはありますか?

上白石 映画は余韻を楽しむのがすごく好きです。映画館で1人で観ることが多くて、あとで日常のふとした瞬間に思い出します。たとえば食器を洗いながら「あそこのシーンは良かったな」とか。知らないうちに影響が出て選ぶ服が変わったり、その映画っぽく歩いてみたりはしがちかもしれません。

――具体的に「この映画を観て、こうした」というのは?

上白石 最近だと『コーダ あいのうた』が素晴らしくて、劇場でイスを揺らすくらい泣いてしまって。映画の中に出てくる音楽とか、いろいろな要素について調べました。あと、ウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』が大好きで、フェイ・ウォンさんの衣装を取り入れたり、ああいう髪型にしてみたい気持ちになりました。

年の取り方を目標にさせてもらっていて

――あと、『KAPPEI』では「ヒーロー」という言葉も出てきますが、萌歌さんにとってヒーロー的な存在というか、憧れるような人はいますか?

上白石 大好きなのは『魔女の宅急便』を書かれた角野栄子さんです。ミュージカルに出させていただいたご縁で、テレビの企画でご自宅にお邪魔したことがあって。80歳を超えたご年齢でも、本当に活発で精神的にお若くて。ああいう年の取り方をしたいと目標にさせていただいている存在ですね。

――女優さんではいませんか?

上白石 フェイ・ウォンさんは大好きです。歌も素晴らしいし、お芝居も素敵だし。

心のきれいさが伝わる言葉に注目してください

――完成した『KAPPEI』を観て、改めて感じたことはありました?

上白石 たまたま山本耕史さんと一緒の回に試写を観て、たぶん私たちが一番笑ってました(笑)。撮影のときのことも思い出しながら、何も考えなくてもずっと笑える作品だけど、グッとくるところもありました。今は大変なことがいっぱいあって、沈んだ空気の世の中に、希望や元気を与える映画だと確信しました。

――特に萌歌さん的にドッと笑えたところはありました?

上白石 戦士たちもですけど、一番は堀田先輩ですね(笑)。撮影中もツボでしたから。

――ハルのシーンを客観的に観ると?

上白石 すごく心がきれいで、口にする言葉も素敵で。勝平に悪者がいない映画のヒーローは何をすべきか聞かれて、答えるシーンでは心のきれいさが伝わるので、ぜひ注目してほしいです。

自分が役をやる意味を見出したい

――『KAPPEI』の公開に続いて、4月から萌歌さんは朝ドラ『ちむどんどん』に『金田一少年の事件簿』と出演されます。『ちむどんどん』の撮影では、朝ドラならではのものはありますか?

上白石 約1年間、同じ役を演じられる機会はなかなかないですし、設定として何10年も生きるのはすごく楽しみです。素敵な役者さんばかりで、刺激をたくさん受けながら、お芝居をしたいと思っています。

――『金田一』の美雪のような代々受け継がれてきた役では、自分らしさをどう出すかも考えますか?

上白石 そうですね。時代の色も出ますし、その女優さんが演じるから出る色もあるので、同じ役でも自分がやる意味を見出したいです。令和の新しい『金田一』を作っていけたらと思います。

10代のときの殻を破れた感覚があって

――そういった最近のご活躍は、努力してきたことが実を結んでいる感覚もありますか?

上白石 10代の頃にご一緒した方と、20代になってまたご一緒できたりすると、時の流れと自分の変化を感じます。ずっと悶々といろいろなことを考えて、モヤモヤしていた時期もあったので、そのときの気持ちを最近よく思い出します。

――モヤモヤしていたのは仕事のことで?

上白石 そうです。あのときに踏ん張ったから、今日があると思ったりもします。お仕事を始めて11年目になって、時間が経つのは本当に早いですけど、お芝居が好きな気持ちだけはずっと変わりません。これからも楽しみながら続けたいです。

――今はモヤモヤが晴れて、スッキリしているんですか?

上白石 スッキリというか、年齢を重ねて、やっと責任や自覚が出てきました。同時に、自分にとって何が心地良いのか、何がイヤなのか、そういうことも徐々にわかってきて。楽しさがどんどん増している感じはあります。

――10代の頃と22歳になった今で、大きく変わったところもあります?

上白石 10代のときは極度の人見知りで、お話するのが苦手でしたけど、年々人と接するのが好きになってきました。好奇心もどんどん広がっている感じで、自分の殻をひとつ破り捨てた感覚はあって。そこは進歩したかなと思います。

撮影/小澤太一

Profile

上白石萌歌(かみしらいし・もか)

2000年2月28日生まれ、鹿児島県出身。

2011年に第7回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリ。2012年にドラマ『分身』で女優デビュー。主な出演作はドラマ『義母と娘のブルース』、『3年A組-今から皆さんは、人質です-』、『いだてん~東京オリムピック噺~』、『ソロモンの偽証』、映画『羊と鋼の森』、『子供はわかってあげない』、アニメ映画『未来のミライ』、『劇場版ポケットモンスター ココ』など。3月18日より公開の映画『KAPPEI』に出演。4月から連続テレビ小説『ちむどんどん』(NHK)、ドラマ『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)に出演。

『KAPPEI カッペイ』

監督/平野隆 脚本/徳永友一 原作/若杉公徳 配給/東宝

3月18日より全国東宝系にて公開

公式HP

(C)2022映画『KAPPEI』製作委員会 (C)若杉公徳/白泉社(ヤングアニマルコミックス)
(C)2022映画『KAPPEI』製作委員会 (C)若杉公徳/白泉社(ヤングアニマルコミックス)

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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