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主役は風景やご当地グルメ? 遠出がままならない時世を潤す鉄道旅情ドラマ

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)「鉄オタ道子、2万キロ」製作委員会

 新型コロナウイルスの第6波となる感染拡大により、国内旅行もはばかれる状況が続いている。そんな中、深夜に鉄道旅の気分を味わえるドラマが放送中だ。1本が『鉄オタ道子、2万キロ』。玉城ティナが演じる鉄道オタクの会社員が、毎回全国のローカル駅を旅する小さな物語で、放送時間の3割が風景などの描写に当てられていたりも。また、眞島秀和主演の『#居酒屋新幹線』では、サラリーマンが出張先でテイクアウトのご当地グルメと酒を買い込み、帰りの新幹線のお楽しみにしている。

舞台は全国のローカル駅

 都会から離れた日本各地のローカル駅が毎回の舞台となる『鉄オタ道子、2万キロ』(テレビ東京ほか)は、家具メーカーに勤める大兼久道子(玉城ティナ)が主人公。歴10年の鉄道オタクで、休日に1人で列車に乗り込み、旅に出る。

 第1話で訪れたのは、駅構内に民宿があり日本で唯一の“泊まれる駅”として知られる北海道の比羅夫駅(函館本線)。雪景色の中を走る列車の映像から、道子のナレーションと共に車窓に蝦夷富士と呼ばれる羊蹄山が現れる。雪の降り積もった比羅夫駅に降り立つと「ここ、どこだよ」と定番の台詞。由緒ある駅舎も映し出された。

 サラリーマンを辞めて民宿を継いだ主人、夫を亡くして一人旅をする相部屋の女性らとのさり気ない触れ合いも描かれるが、白銀の風景や鉄道、駅舎が非常に多く映った。主題歌やエンディングなどを除く正味21分37秒のうち、人が映ってない風景などのみのシーンが計5分39秒。26.1%に上った。

 2話の舞台は、年間利用者が100人未満という秘境駅、栃木県の男鹿高原駅(野岩鉄道)。こちらは「“何もない”の限界値」が逆に見どころとあって、風光明媚ではないためか、景色などのみのシーンは3分45秒、17.4%に留まったが(それでも通常のドラマよりは多いだろう)、冒頭から1分47秒に渡り鉄道周りの映像が流れた。

(C)「鉄オタ道子、2万キロ」製作委員会
(C)「鉄オタ道子、2万キロ」製作委員会

走る列車やきらめく湖…。放送時間の3割が風景

 そして3話では、道子は湖の上にせり出す屈指の絶景駅、静岡県の奥大井湖上駅(大井川鐡道)に出向いた。冒頭から2分48秒も鉄橋などを走る赤いトロッコ列車や車窓からの風景が続き、トンネルを抜けると雄大な長島ダムが目に飛び込む。駅に降りると、眼下にエメラルドグリーンの接岨湖が広がっていた。

 線路脇の鉄橋を歩きながら『スタンド・バイ・ミー』を口ずさむ道子。たまたま居合わせた2人の外国人観光客と合唱に。道子はさらに、隣りのひらんだ駅も訪れる。接岨湖の湖畔まで歩を進め、大井川鐡道ビールで1人で乾杯。釣りに来た地元のおじいさんから、ダムに沈んだ町の話にも耳を傾けた。

 この回は湖周りの風景や鉄道などのみのシーンは6分23秒。全体の30.2%にも及んだ。そのうえに毎回、景色を引きで撮って、玉城が小さくポツンと映るだけのシーンも多い。物語でも特に大きなことは起こらず、玉城のナレーションベースでゆったり進む。

 放送は金曜深夜。玉城によると、スタッフからは「旅行に頻繁に行けない今だからこそ、リラックスして観られて、旅先の風景と合わせて楽しんでもらえるドラマにしたい」と言われたとか。まさにドラマでありながら鉄道旅の雰囲気も味わえて、鉄道オタクでなくても、1週間の仕事を終えた週末の深夜に安らげるだろう。

(C)「鉄オタ道子、2万キロ」製作委員会
(C)「鉄オタ道子、2万キロ」製作委員会

出張帰りの新幹線での密かな楽しみ

 『#居酒屋新幹線』では、損保会社の内部監査室で働き、日帰り出張に飛び回る高宮進(眞島秀和)が主人公。仕事終わりにご当地の酒とテイクアウトのアテを仕込み、帰りの新幹線の自分の席で「主は俺、客も俺1人」という“居酒屋”を開くのを密かな楽しみにしている。

 こちらはジャンル的にはグルメドラマで、眞島の至福なほどにおいしそうな食べっぷりは特筆もの。一方、仕事を片づけてから新幹線が出るまでの時間を使い、地元の店や駅ビルを回って自分だけの宴のための買い出しをするのは、サラリーマンの出張を“旅”にするワクワク感がある。

 第1話の出張先は青森。ランチで食べ損ねた海鮮を求めて、高宮は青森魚菜センターを訪ねた。津軽弁の聴き取りに苦労した揚げ句、生もののテイクアウトはダメとも言われながら、にしんの切込とミズの煮物を買う。さらに、街を歩いて匂いに惹かれて立ち寄った店で、生生姜味噌おでんとサービスの手作り若生おにぎりを入手。さらに、米や水などすべて青森産の地酒・菊乃井も取り揃えて、席に着くと卓に並べ、帰りの車内が唯一無二の時間になった。

(C)「#居酒屋新幹線」製作委員会・MBS
(C)「#居酒屋新幹線」製作委員会・MBS

ご当地グルメと地酒を卓に並べて

 2話では仙台で、笹巻きえんがわずしやお豆腐揚げかまぼこ。3話では古川で、凍みっぱなし丼やローストスペアリブ。4話では宇都宮で、焼餃子や元祖かぶと揚げ……といったご当地グルメが、地元の酒と共に並べられた。

 バイプレイヤーのポジションが多い眞島は、主役を張るこのドラマについて「食べ物やお酒が主人公。それを視聴者の方に伝える役割だと思ってます」と語っていた。劇中の新幹線はガラガラで、実際に隣りの席に他の乗客がいたら、“居酒屋新幹線”は開きにくい気もするが、多くのサラリーマンはこんなふうに、出張の1人打ち上げをしたい気持ちになりそう。

 また自由に旅ができる日がいつ来るか見通せない中、こうした心の空白を埋める旅ドラマは、深夜のひとつのトレンドになっていくかもしれない。

(C)「#居酒屋新幹線」製作委員会・MBS
(C)「#居酒屋新幹線」製作委員会・MBS

『鉄オタ道子、2万キロ』玉城ティナインタビュー

『#居酒屋新幹線』眞島秀和インタビュー

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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