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山田杏奈がBL好きでゲイの同級生とつき合う女子高生を演じて考えたこと

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜

20歳になった今年、出演映画が5作公開となった山田杏奈。その掉尾を飾る『彼女が好きなものは』ではBL好きを隠す女子高生役で、ゲイであることを隠すクラスメイトとつき合う。感情をフルに出して表情豊かに演じる中で、同性愛者などの多様な価値観について考えを巡らせたという。

感情表現は増し増しで

NHKでドラマ化もされた浅原ナオトの小説が原作の『彼女が好きなものは』。高校生の安藤純(神尾楓珠)はゲイであることを隠して、年上の恋人・佐々木誠(今井翼)と密かに関係を持っていた。ある日、クラスメイトで美術部員の三浦紗枝(山田)がBLマンガを買っているところに出くわし、「誰にも言わないで!」と口止めされる。秘密を共有し、純に恋愛感情を持った紗枝が告白して、2人はつき合い始めるが……

――『彼女が好きなものは』では、紗枝を演じた杏奈さんのすごくいろいろな表情が見られました。嘆いたり、はしゃいだり、泣いたり、叫んだり……。

山田 感情がすぐ顔に出るところを紗枝の人格の柱として、まっすぐ演じようと思いました。笑っているところは草野(翔吾)監督の演出で身振り手振りを大きくしたりもしています。

――話の本筋ではありませんが、おばけ屋敷から絶叫して怯えながら出てきたのも、素で怖かったわけではなくて(笑)?

山田 あれは演技ですね(笑)。私も好んでおばけ屋敷には入らないかもしれませんけど、紗枝のリアクションは増し増しでやっていました。そうしたほうが面白いですし、直線的でオーバーなところもありつつ、芯はしっかりしていて、やさしくもあるのはいいなと思います。

――原作の紗枝もノリのいい印象でしたが、映画ではさらに起伏が大きいように感じました。

山田 純が静かで落ち着いた感じなので、そこを解いていけるようになったらいいなと思って。純と対照的なところを意識した結果、喜怒哀楽が出た気がします。

自分で観て、すごい顔をしているなと(笑)

――温泉で純が恋人の誠とキスしているのを見て、水風船を投げつけたときの表情もインパクトがありました。

山田 あれは自分で予告を見て、すごい顔をしているなと思いました(笑)。実際に自分がああいう状況を見たらパニックになるだろうし、ショックもあると考えて演じたシーンですけど、紗枝は感情を表に出す割合がいつもより高い子でしたね。

――そういう役を演じること自体はハードルでもなくて?

山田 どの役でも「この子は感情を何%出すか」と考えるところはあって、演じ方の基本は変わりません。ただ、紗枝はそこをフルで出すという(笑)。

――ある意味、すごく純粋で?

山田 そうですね。自分の想いに対しても、人の考えに対しても純粋で、すごくしっかり考える子だと思います。

――人物像は掴みやすい役でした?

山田 はい。単純に良い子だなと思って、すごく好きでした。自分の価値観がすべてだと思ってないところが、尊敬できます。たぶん自分が隠したいことを言えない経験をしているから、人それぞれに好きなものがあるのをスッと受け入れられる。それは意外と難しいことかもしれないので、素敵だなと思います。

人が何を好きでも気にしません

――腐女子やBLについては、何か調べたりもしたんですか?

山田 私も中学生のときに美術部で、BL好きな先輩もいたので、マンガを借りて読んだ記憶はありますけど、今回の役が決まってから改めて読みました。紗枝が純の病室にBL本をたくさん持ってきたシーンでは、空き時間にずーっとその本を読んでいました(笑)。

――もともとBLにはどんなイメージがあったんですか?

山田 ジャンルのひとつ、みたいな。マニアックなジャンルだとしても、だからどうとかは全然思いませんでした。紗枝は腐女子バレしないように必死でしたけど、私は「何を好きでもいい。他人がとやかく言うことはない」というスタンスです。

――ハマる人がいるのはわかる感じはしました?

山田 恋愛マンガで登場人物が男性同士ということで、少女マンガにハマるのと同じ感覚なんですかね? そこはわかりませんけど、普通に作品として面白いと思いました。

伝えたいと思えば饒舌になるので

――腐女子の師匠の奈緒(三浦透子)とアニメイトでBL話をしているときとか、リアルに会話が弾んでいる感じでした。紗枝にとってのBLを、杏奈さんにとっての何かに置き換えて考えたりもしました?

山田 私も好きな映画について話すときは、たぶん早口で饒舌になります。絶対「伝えたい!」となるじゃないですか。プラス、紗枝の明るさとまっすぐさを加えて、ああいう感じになりました。

――“受け”と“攻め”がちょいちょい会話に入ってきたり(笑)。

山田 ああいうのがちょっとずつ挟まるのは面白いですね(笑)。撮影も本当にアニメイトの池袋店で行いました。私も中学生の頃、アニメにハマっていた時期は、友だちとアニメイトに行ってました。

――そういう時期があったんですか。どんなアニメを観ていたんですか?

山田 いろいろですね。特に『進撃の巨人』にハマっていて。確か深夜にアニメがやっていたのを、しっかり観てました。

安易に「理解できる」とは言えなくなりました

――LGBTについては、劇中の紗枝同様、演じながら理解していった感じですか?

山田 わかっているとか理解があるとか、なかなか言えないと思っちゃいました。そういう話を聞くと、「私は普通にわかるから大丈夫」と考えていた部分がありましたけど、紗枝を演じて、気楽に言っていいことではないなと。私が考えていたことは、ただの第三者の意見でした。劇中で紗枝が「理解できなくても想像したい」と言っていた通り、想像することだけは怠らないようにしようと思いますけど、安易に「わかる」とは言えません。

――純のように苦しんできた人が実際にもいるであろう中で。

山田 本当に1人1人にしかわからないことが絶対にあるから、他の人の目線で語るのもどうかな……と思いました。

――「なぜ同性愛者が生まれるんだろうとずっと考えてた」という台詞もありました。そこも実際、杏奈さんも考えたんですか?

山田 難しいですね。その台詞も悩んだんですけど……。「なぜ生まれるのか?」という考え方からどうなのか。逆に「異性愛者が普通とされているのはなぜなのか?」という記事も読んだんです。学校教育でも何でもそうなってますけど、じゃあ、「普通」って何なのか? そんなことをグルグル考えてしまって。どっちが普通ということも、絶対ないと思います。

演説シーンで今までにないエネルギーを使って

――予告にもある、体育館でマイクを取って「私はBLが大好きです!」と大演説をするところは、紗枝のクライマックスでした。

山田 クランクインしてからずっと、「あのシーンまであと何日……」と考えていました(笑)。台詞の量的には、覚え始めたら、そんなに大変ではなかったんですけど。

――いやいや(笑)。5分くらいありましたけど。

山田 あまり家で何度も練習するところではないから、とりあえず台詞を覚えて、行ってやるしかない感じで、すごく緊張しました。でも、紗枝のずっとモヤモヤしていた想いを吐き出せるのは、私しかいない。それなら全部ぶつけてあげなきゃ、と思った部分もありました。

――最初から全開でいけました?

山田 段取りも途中までにしてくださって、テストもやらず、最初から本番でバーッと、フレッシュな気持ちでできました。

――紗枝は「増し増しで」とのことでしたが、その中でもあの場面は、杏奈さん史上でも最大級にエネルギーを使ったのでは?

山田 対個人みたいな場面はありましたけど、たくさんの人に伝えたい気持ちで前に立つエネルギーは、確かに今までで一番だったかもしれません。経験したことのない緊張感はありました。でも、紗枝自身も緊張していましたから。

観る人に否応なく浴びせる演技ができたら

――映画の公式ツイッターに上がっていた、神尾楓珠さんと杏奈さんの好きなものシリーズで、好きな映画について「今日は『花様年華』」と答えていました。

山田 ウォン・カーウァイ監督の作品で、あのときはそう言いました。

――同じかもしれませんが、女優として影響を受けた作品ということだと、何かありますか?

山田 『オアシス』が好きです。イ・チャンドン監督でしたっけ?

――前科三犯で刑務所から出所した男性と、脳性麻痺の女性の恋愛ストーリーでした。

山田 何回か観返してますけど、いつもすごいお芝居だなと思います。どうしたら、あそこまで疑いようもなく“生きている”みたいにできるんだろう。観ていて苦しくもなりますけど、こっちにまで否応なく浴びせられるのがすごいなと、毎回思います。観た人にそこまで思わせるお芝居を自分でもしたいです。

自分だけにしかない魅力と技量を

――杏奈さんは映画とかを観て自分もやりたいと女優になったのでなく、賞品目当てで受けたモデルオーディションから芸能界に入ったんですよね。

山田 そうです。それが小学生の頃で、映画はマネージャーさんに「これを観て感想を書いて」と言われて、「観なきゃいけないのか……」と思ってました(笑)。たぶん映画を観慣れてなかったこともあって、集中できなかったし、お芝居がすごいという見方もしていませんでした。だんだん慣れて観られるようになってから、映画が好きになりました。

――その頃に、女優への意欲に繋がった作品はありました?

山田 『川の底からこんにちは』の満島ひかりさんがすごいと思いました。私、満島さんは大好きで、『愛のむきだし』も当時の勧められたリストに入っていて、何回か観ました。満島さんにしかできない感じの演技が本当に素敵で、尊敬しています。

――杏奈さんもそういうタイプの女優さんですよね。

山田 そんなことはないですけど、満島さんとタイプ的に同じだと言っていただくのは嬉しいです。そこにプラスαで自分の魅力と、ちゃんとした技量を持てるように、しっかりやっていきたいです。

日常生活からストックするものが大きくて

――他に、たとえば音楽とか文学とか何かで、杏奈さんの人生に影響を与えたものはありますか?

山田 何ですかね? いろいろなところからちょっとずつ、ということかもしれません。作品とかより、周りの人との出会いから学ぶことが多い気がします。

――誰かと共演して、すごいと思ったとか?

山田 というより、自分の日常生活の中からです。お芝居って、言ってしまえばウソじゃないですか。でも、自分の生活で起きたことや周りの人の話は本当だから、そういうところからストックしているものが大きいかもしれません。

――別に大事件が起きるわけではないんでしょうけど。

山田 ちょっとした出来事でも、何かあったときに自分がどんな感情になるかで、人格形成に繋がっていると思います。素敵な人に会ったら「こういうところがいいな」と考えて、自分もそうなろうと行動したりします。

しっかりしなきゃと思わなくなりました

――『彼女が好きなものは』の遊園地や温泉のシーンで、紗枝が見せていた無邪気な笑顔は、杏奈さんの日常生活で出ることもありますか?

山田 ありますよ(笑)。普段から何かあるとよく笑って、ゲラと言われます。遊園地は最近は撮影でしか行かなくなっちゃいましたけど、昔より純粋に楽しめるようになりました。「せっかくこういうところに来たんだから」って。

――昔は違っていたんですか?

山田 昔のほうが「しっかりしていなきゃ」という気持ちが、ある程度あったかもしれません。たとえば友だちとディズニーランドに行くと、みんなは電車に乗り慣れてないけど、私は仕事をしていて乗っていたから、「大丈夫だよ」みたいになって。そしたら、いろいろ調べないといけなかったり。それが苦だったわけではないですけど、自然とそんな立ち位置になっていたんです。でも、この年になったら、みんなちゃんとしているから、私も好きにやるようになりました。

――遊園地に行ったら、劇中のようにジェットコースターに乗ったりも?

山田 乗りますけど、私は富士急(ハイランド)に行ったことがないので、ジェットコースターに乗れると言っていいのか。私の基準はディズニーランドのジェットコースターで、聞くところによるとマイルドな絶叫系みたいですけど、それくらいなら楽しめます(笑)。

最後は個人対個人の良いシーンになりました

――この映画が出来上がって、自分で特に良かったと感じたシーンはどの辺ですか?

山田 どこも好きですけど、最初のほうの純とファミレスで数学の勉強をしながら、「0と1は受けと攻めでハッキリしている」とか言っているくだりは、お芝居していても楽しかったです。

――ラストシーンもすごく良かったです。

山田 良いシーンでしたね。紗枝らしさが出ていて、あそこで純に言った言葉もすごく好きです。あの2人が最終的に個人対個人でどうなっていたかがわかるので、すごく良いなと思います。

――公開が12月になりましたが、今年も杏奈さんは順調でしたかね。

山田 そうですね。この先にも楽しみな仕事がたくさんあるので、やり切りたいです。

――2nd写真集『BLUE』も発売されました。ああいう撮影も好きなんですか?

山田 単純に、かわいくしてもらえるので(笑)。映画だったら見た目は二の次ですけど、写真集はただ楽しめて、全然別の感覚でした。

――年末年始に恒例ですることはあります?

山田 実家でおそばは食べますけど、「カップ麺でいいよね」という(笑)。あと、おじいちゃんの家でストーブの上でお餅を焼いて、おしるこにしたり。年末年始は好きで楽しみです。

――新年の目標を立てたりは?

山田 仕事に関しては明確な目標というより、「たくさん作品に出て上がっていけますように」というくらいです。あとは、「周りのみんなが健康で平和に暮らせますように」ですね。

Profile

山田杏奈(やまだ・あんな)

2001年1月8日生まれ、埼玉県出身。

2011年に『ちゃおガール☆2011オーディション』でグランプリを受賞。女優デビューして、2018年に映画『ミスミソウ』で初主演。近年の主な出演作は、映画『小さな恋のうた』(第41回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞)、『ジオラマボーイ・パノラマガール』、『樹海村』、『名も無き世界のエンドロール』、ドラマ『荒ぶる季節の乙女どもよ。』など。映画『ひらいて』が公開中。12月3日公開の映画『彼女が好きなものは』に出演。2022年2月11日から配信の映画『HOMESTAY』に出演。2nd写真集『BLUE』が発売中。

『彼女が好きなものは』

監督・脚本/草野翔吾 

原作/浅原ナオト『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』

12月3日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

公式HP

(c)2021「彼女が好きなものは」製作委員会
(c)2021「彼女が好きなものは」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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