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『胸きみ』映画化で白石聖が見せた王道ヒロイン力 「何気ない場面でも想いが映るようにしました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)2021紺野りさ・小学館/「胸が鳴るのは君のせい」製作委員会

『ベツコミ』で連載されていた人気コミック『胸が鳴るのは君のせい』が映画化された。フラれても片思いを続けるヒロインを白石聖が演じている。最近はホラーやアクションドラマで主演など様々な役で印象を残しているが、この青春ラブストーリーでは持ち前の王道ヒロイン感を存分に輝かせている。

自分が今どこにいるのかわからない感覚があって

――デビューして5年になりますが、ずっと右肩上がりな感じですね。

白石 ありがたいことに、こうして映画のヒロインやドラマの主役をやらせていただけるようになりました。でも、自分が今どこにいるのか、わからない感覚なんです。私は前に進んでいるのか、どうなのか……みたいなところに来ました。

――そうなんですか? 単に忙しいせいもあるのでしょうけど。主役級が増えて、演技に自信はついているのでは?

白石 いえ、自信はないです。いまだに自分の映像を観るのが苦手で……。

――以前に「自分は観たくないけど、母が観るので、結局私も観るハメになる」と話していましたね(笑)。

白石 今もそういう感じです(笑)。それでも前よりは観るようになりましたが、お仕事を重ねていくうちに、かえって不安も出てきて。自分でそんなつもりはなくても、小手先でやっているように映ってないか。真剣に取り組んだつもりでも、流れ作業みたいに見えてないか。そういうことが結構気になります。

――仕事に慣れてきただけに……という時期なんですかね。聖さんがデビューした頃は、まず圧倒的なルックスが目を引きましたが、『絶対正義』での法律から少しでも外れることを許さない役辺りから、女優として只者でない感じがしてきました。

白石 『絶対正義』の範子との出会いは、本当にターニングポイントになりました。役と向き合ううえで、すごく大切な作品だったと思います。熟考したうえで、自分の考えだけでは到達できない部分を監督に助けていただきました。周りを山口紗弥加さんをはじめたくさんの女優さんたちが固めてらっしゃった中で、自分のペースで飲まれないようにしないといけなくて。すごく気を張っていた分、思い入れの強い作品になりました。

等身大の役は小手先に見えないことを意識して

――5年の中で、女優としての考え方や取り組み方はどう変わりました?

白石 『絶対正義』でいうと、本当に自分の中にない役だったんです。それまでは等身大で共感できる役が多かったので、「役を作るとはこういうことなんだ」と学べました。

――役柄によって、演じやすいとか入りにくいということはありますか?

白石 等身大の役も難しいです。それこそ小手先に映りやすい気がして、そうならないことを意識します。かと言って、見せ方や形ばかり固めていくと、気持ちの部分が追い付かなくなりそうで、自分と役の距離が近いほど良いわけでもないんですよね。感じ方と見え方が違ってくるのが、今まで演技をしてきた中で難しいなと思いました。

――『胸が鳴るのは君のせい』での、フラれても相手を想い続ける篠原つかさ役はどうでした?

白石 今まで自分がやってきた役をチャートで並べると、『世にも奇妙な物語』の『恵美論』の恵美に近い気がしました。

――『恵美論』では、自分のことが洗いざらい教科書になって、みんなに知られていく役でした。

白石 テンションはつかさと違うんですけど、どこかしら似たところがあって、『胸きみ』も「あのときにできたから大丈夫」と自分に言い聞かせてやってました。つかさは思ったことが顔に出やすかったり、アネゴ肌で頼まれたら断れなかったり、そういう人間味が滲み出ればいいなと思って演じていました。

――林間学校の実行委員を、クラスメイトが押しつけられそうになったのを見て、「私やります」と言うところとか、良い子だなと感じました。

白石 自分で観ると反省点ばかり出てきて、どうだったかわかりませんけど、つかさというキャラクターは私も大好きで、ちょっとでも近づけていきたいと思ってました。

人間性から応援してもらえるヒロインになれたらと

紺野りさによる累計発行部数250万部のコミックが原作の『胸が鳴るのは君のせい』。篠原つかさ(白石)は高校2年の最後の日、クラスメイトの有馬隼人(浮所飛貴)に告白したが、「そういう目で見たことない」とフラれる。高3でまた同じクラスになり、変わらずやさしく接してくれる彼に恋心が加速し、「フラれたけど頑張る!」と宣言する。

――つかさを「大好き」というのは、どんなところですか?

白石 応援したくなるキャラクターなんですよね。映画を観てくれる方たちにも共感してもらえないと、胸キュンには絶対ならないので、人間性から応援してもらえるヒロインになれたらと思いました。

――こういう王道の少女マンガの世界観は、自分では好きですか?

白石 好きです。少女マンガも実写化された作品もよく観ます。その中で『胸きみ』はわりと現実的な感じがして、共感しやすいと思いました。

――やっぱり原作の再現率も意識しましたか?

白石 そうですね。私も『銀魂』がすごく好きで、実写化されるときのファンの方の気持ちはよくわかるので。撮影に入る前から、原作の1巻の有馬の表紙を携帯の待ち受けにしたり、台本の元になっている原作の場面を読んでから撮影に臨んだりしました。ただ、再現することだけを考えていたら、絶対に原作は超えられないので、実写でしかできないことも意識しました。

――それも大事でしょうね。

白石 原作は中学から始まってますけど、映画は高1からなので、つかさも少し大人になっていたり。原作のイメージを壊さないようにしつつ、生身で演じるにはどうするかも考えました。まだ公開前で皆さんの感想を聞いてないから、正直怖いです(笑)。

――つかさがずっと有馬に片思いをしていることに、共感はありました?

白石 私が同じ立場で、告白して「お前をそんなふうに見たことがない」と言われたら、もうそこで諦めますね(笑)。あんなに気持ちを強く持てるつかさは、すごいと思います。

単純な胸キュンだけでない作品でした

――こうした青春ラブストーリーならではの演技って、あるものですか?

白石 林間学校で一緒に布団に入ったり、2人の距離が近づくシーンはこういう作品の醍醐味ですけど、『胸きみ』では何気ない場面で胸キュンが詰まっていると思いました。たとえば、つかさがいないところで有馬が「つかさはそんなことしねえから」と言ってくれたり。見えない絆みたいなものって、きっとうれしいことですよね。あと、有馬は何気なく、ときめくようなことをしてくるじゃないですか。

――洗い物をしているときに、髪を束ねてくれたり。

白石 好きな人にこんなことをしてもらえたら、ドキドキしちゃうでしょう……という気持ちはありつつ、有馬が自分を何とも思ってないからできる距離感でもあって、つかさからしたら複雑というか。単純な胸キュンだけではないのが、他の作品とちょっと違う気がしました。でも、ずっと1人の相手を好きなのは、私がやった作品だと『I’’s』でも『PRINCE OF LEGEND』でも同じでした。好きな人を想う部分はどのキャラクターでも軸にあって、そんな気持ちが何気ないシーンでも映り込むのが、共通点だと思います。

――わかりやすい胸キュンシーンでは、観る人をキュンとさせてやろうという意識もあるんですか?

白石 観る方はやっぱり、距離がグッと近づくとキャーッとなると思いますけど、林間学校で(先生が見回りにきて)布団に一緒に入るところでも、有馬は「知らないやつの布団に入ろうとしてるんじゃねえよ」と言うんですよね。単にドキドキしたのでなくて、胸キュンのあとにちょっと複雑な表情をしていることが、つかさは多くて。髪についた葉っぱを取ってもらうところもそう。だから、わかりやすい胸キュンシーンも注目していただきたいですけど、1本のストーリーとして、何気なく見えるシーンからもそのときのつかさの感情を見つけて、共感してほしい気持ちがあります。

自分の青春とは重なりません(笑)

――青春モノの定番として、文化祭や林間学校やお祭りのシーンが『胸きみ』にもありましたが、自分の思い出とも重なりました?

白石 重なっていたら良かったんですけど、私はこんな青春は送ってきませんでした(笑)。浴衣を着て一緒にお祭りに行くとか、経験したことがないので憧れます。

――聖さんの青春の思い出はどんなことですか?

白石 中学時代は吹奏楽部の部活に励んでいたのと、小・中・高とすごく仲が良かった友だちがいて、その子たちと過ごした時間は青春だったと思います。1人の子は別の高校に行ってしまったんですけど、連絡を取り合って遊んでいて、成人式の日も会いました。そういう関係性は青春が作ってくれたものだなと。大きいイベントで何かをしたような思い出は正直ないですけど、日常で友だちと帰り道にどこかに行ったり、カラオケをしたりプリクラを撮ったりして、今でも写真を見返すと、「すごく楽しかったな」と記憶が蘇ります。学校生活全体が青春でしたね。

――『胸きみ』の撮影中に悩んだり、大変だったシーンはありますか?

白石 布団をかぶったシーンは何テイクも重ねました。かぶり方とか倒れ方とか角度とか、いろいろ試行錯誤があって。あと、天候が大変でした。海のシーンで暴風だったり、最後のキャンプファイヤーのところで雨が降ったり。そこはチーム全体で、どうしようか考えました。出来上がって観たら、風も(有馬の元カノの)麻友ちゃんが嵐のように現れて、つかさが「どうしよう……」となっている心情とマッチしていて。キャンプファイヤーのシーンも雨で元の台本から変えたことで、青春群像劇っぽくて素敵に見えました。結果的に良かった感じですね。

自分で観て「紛らわしいことはするなよ!」と(笑)

――試写を観て、演じたつかさもイメージ通りになっていました?

白石 自分で観ても、フラれたシーンはショックを受けました(笑)。「何とも思ってないなら紛らわしいことするなよー!」と叫ぶところは、自分が言ったんですけど「いや、ホントにそう」と思いました(笑)。

――それくらい、つかさの想いがリアルに出せていたということでしょうね。

白石 原作の読者の方もそれぞれのつかさ像がきっとあるでしょうし、皆さんの正解にはなれてないかもしれませんけど、私が読んで感じたつかさは表現できたと思います。

――聖さんがいろいろな役を演じる中でも、やっぱり正統派ヒロインはハマるなと感じました。自分でも自分の良さが出ていたように思ったりはします?

白石 どうですかね? 「私の良さって何だろう?」と考えることが、最近多いんですけど……。

――最初に出た「自分が今どこにいるのかわからない」という話と繋がるんですか?

白石 そうなんですよね。ヒロインが合うと言ってもらえるのは、すごくありがたいです。つかさは応援したくなる女の子にはなれていた気がします。

気持ちを揺さぶるお芝居に憧れます

――日ごろから演技力を上げるためにしていることはありますか?

白石 特にしてなくて、現場で学んでいる感じです。でも、ドラマは好きなので、家にいるときは欠かさず観ています。最近だと『天国と地獄』が面白くて、『知ってるワイフ』もすれ違いや主人公の葛藤が気になって、観続けていた感じです。

――『天国と地獄』だと、綾瀬はるかさんの入れ替わりの演技に、女優として刺激を受けたりも?

白石 入れ替わっているときと自分に戻ったときがちゃんと違っていて、本当にお上手だなと思いました。終わり方もオシャレな感じで、楽しめて素敵な作品でした。

――聖さんは今「どこにいるかわからない」とのことですが、先々に見据えているものはあるんですか?

白石 今は本当に出口がわからなくて、「どうなりたいんだろう?」という感じです。でも、観ている方に衝撃や共感を与えたり、気持ちを揺さぶるお芝居ができる方にはすごく憧れます。どんな役でも新鮮さを保って、初心を忘れずにいたいと思います。

――今後ますます売れっ子になっても、そこは変わらないように?

白石 小手先にならないようにしたいです。そういうのって、本当に映像で出てしまうと思うので。

Profile

白石聖(しらいし・せい)

1998年8月10日生まれ、神奈川県出身。

高2のときに原宿でスカウトされて、2016年にデビュー。主な出演作はドラマ『PRINCE OF LEGEND』、『I’’s』、『絶対正義』、『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う』、『恐怖新聞』、『時をかけるバンド』、『やっぱりおしい刑事』、映画『半径1メートルの君~上を向いて歩こう~』など。『ガールガンレディ』(MBS・TBS系)に出演中。

『胸が鳴るのは君のせい』

6月4日公開

公式HP

(C)2021紺野りさ・小学館/「胸が鳴るのは君のせい」製作委員会 

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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