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将来に悩む高校生が“神様”と出会い…。『ペテロの帰り道』で映画デビューした吉田あかりの光と涙の理由

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/S.K.

父親を幼い頃に亡くし、将来について悩む高校生が、「自分は神様」と名乗る中年男性に出会って……。『ペテロの帰り道』で映画デビューにして主演した吉田あかり。これまでモデルとして活動してきた17歳は、この奇妙だが温かい物語で独特な存在感を放っている。その人となりを探ると、ユニークな感性がうかがえた。

映像の見栄えや空気感は重視してます

――4月に「早くハロウィンこないかな」とツイートしてました(笑)。

吉田 私、ハロウィンが一番大好きなんです! 年に一度、おバカなことをしても許されるハッピーな感じが楽しくて、毎年、大々的にというより、個人的に盛り上がってます。

――仮装して街に繰り出すわけではなくて?

吉田 ではなくて、お友だちと仮装して、写真を撮ったりします。バンパイア、ゾンビ、赤ずきんちゃん、不思議の国のアリス……。いろいろやりました。お洋服は日本より海外の通販サイトのほうが奇抜で派手なものが多いので、そっちで買います。

――内輪で写真を撮るためだけに、わざわざ海外から調達するんですね(笑)。

吉田 ヘンなこだわりがあって(笑)。ハロウィンはもともと海外の文化ということもありますから。

――プロフィールの趣味には“ドラマ、映画を見ること”があります。どんな作品が好きなんですか?

吉田 ストーリーももちろん大事ですけど、見栄えといいますか、映像の空気感やポスタービジュアルの雰囲気を重視して見ることが多くて。そういう意味で、蜷川実花さんの作品はすごいと思います。華やかな中に少し毒があって、美しいけどトゲがある強い女性が描かれていて。

――蜷川実花さんの作品の中でも、特にお気に入りというと?

吉田 今のところ、全部見てます。『さくらん』、『Diner ダイナー』、『人間失格 太宰治と3人の女たち』、『FOLLOWERS』……。その中でも一番好きなのは『ヘルタースケルター』です。

――公開は7年前でしたが、配信で見たんですか?

吉田 もともと母が原作のマンガを好きで、テレビでやっていたのをたまたま見ました。小6か中1のときだったと思います。

――その年齢で見るには刺激が強すぎませんでした(笑)?

吉田 まあ、そうですね(笑)。でも、芸術として見ると、すごく美しかったです。そのあと、気になって配信で何度も見ました。りりこのカリスマ性に憧れて、私も誰もが憧れるような女の子になりたいと思いました。

撮影/S.K.
撮影/S.K.

幼稚園の頃からテレビに出る人になりたくて

――では、『ヘルタースケルター』が芸能界を目指すきっかけだったんですか?

吉田 お芝居に興味を持ったきっかけはいろいろありましたけど、『ヘルタースケルター』の沢尻エリカさんに「何だ、この女性は!?」という衝撃を受けました。でも、幼稚園の頃から、なぜか「テレビに出る人になりたい」と憧れを持っていて、他の夢を考えたことは一度もなかったです。

――自分からオーディションに応募したりも?

吉田 小学生の頃から、原宿を歩いているとスカウトされることは多かったんですけど、まだよくわからなくて、両親もちょっと不安だったみたいで。中学生になって「始めてみようか」と思ったタイミングで、声を掛けていただいた事務所にお話を聞きに行きました。

――それから主にモデルとして活動してきましたが、映画デビューで主演となった『ペテロの帰り道』の水華役は、オーディションで決まったんですか?

吉田 マネージャーさんが「会わせたい方がいる」ということで、オカモトナオキ監督とお話しさせていただきました。1時間半くらい、『ヘルタースケルター』のことや「普段何してるの?」みたいな世間話をして、最後に「これを読んでみて」って台詞を渡されたんです。パッとカメラを向けられて、正直戸惑いました。お芝居って、相手がいてやるものだと思っていたので。

――それは『ペテロの帰り道』にある台詞だったんですか?

吉田 そうです。最後のほうに出てきた「おじさん、本当はどこから来たの?」という台詞で、台本を読んだときに「あっ、あのときの……」って思い出しました。

撮影/S.K.
撮影/S.K.

誰かに必要とされる実感が初めて湧きました

『ペテロの帰り道』で吉田あかりが演じたのは、通信制の高校に通い、友だちもあまりいない水華。幼いときに父親を病気で亡くしていた。財布を拾ったのをきっかけに「自分は神様なんだ」と名乗るおじさんに出会う。信じてはいないが、時々不思議なこともあって、おじさんと散歩する時間の中で水華は徐々に変化していく。吉田は無邪気さと葛藤が入り混じる10代特有のたたずまいを醸し出し、かつ、どこか愛嬌もあって引きつける。

――監督との面接で決まった水華役は、自分でもハマる感じはしました?

吉田 撮影に入るまでは、初めて映画に出られることがうれしすぎて、正直ただただ浮かれていたんです。「ヤバイ! 私、女優デビューだ!」って、ゴキゲンでルンルンしていましたけど、撮影が始まる数日前に監督から直筆のお手紙をいただいて、実感がすごく湧いてきました。

――どんなことが書かれていたんですか?

吉田 他にも候補の女優さんがいた中で私を選んでいただき、「力を貸してほしい」と書かれていて……。今でも思い出すと泣きそうになっちゃいます。この世界で初めて誰かに必要とされたというか、代わりのいないお仕事をいただけた気がして、すごくうれしくて……(涙)。その瞬間、プレッシャーも初めて感じました。

――いきなり主役ですしね。

吉田 台本も最初に読んだときとは、まったく違う印象になりました。たぶんそれまでの私は素人感覚で、ただ楽しそうと思っていたんです。でも、監督のお手紙をいただいてからは、女優として台本を読んで、一気に深く役に入ることができました。何回も読んで何回も台詞を言って、気持ちは充実していました。

――水華の感覚は自分と近いものがありました?

吉田 近いようで遠いような、何とも言えない感じでした。通信制の高校に通っていたり、友だちが多くないところは、私と似ています。でも、私は突発的に行動するタイプで、水華ちゃんは引っ込み思案で抱え込みやすくて。思春期の悩みや葛藤は私も同じでしたけど、やっぱり何か違うような感じがしました。

――水華は「この先どうすればいいか考えないといけない」とか「自立したい」と言っていました。

吉田 そこはすごく共感しました。私も「自分の力だけで生きていくんだ」という気持ちがあったので。でも、実際そうはいかない。この世界も不安定で確約されているものは何もない中、自分はどういられるのか? そんな不安を抱えながら、この作品に出合えて、私も水華ちゃんと一緒に成長できた気がします。

『ペテロの帰り道』より (C)OBVERSE&REVERSE
『ペテロの帰り道』より (C)OBVERSE&REVERSE

頭は真っ白で気持ちだけで台詞を言いました

――水華が言われていた、見た目が「大人っぽい」というのは、吉田さんも言われがちでは?

吉田 「本当に17歳?」とよく言われます。「27歳?」と言われたこともあって、「私はアラサー?」って(笑)、ビックリしました。20歳くらいに見られることが、一番よくあります。

――水華の話し方は普段の吉田さんのままですか?

吉田 普段通りでしたね。演技しているとき、気持ちは自分と別人でしたけど、出来上がった映画を見て、「ハーッ、しまった……」と思いました(笑)。イメージより幼い感じで、「私って、こう見えているんだ」と、少し恥ずかしくなりました。

――ちょっと舌ったらずなんですかね?

吉田 そうなんです。滑舌は今後この仕事をやっていくうえで、改善点だと思います。

――“神様”に「なんでお父さんは早く死んだの?」と問い詰めるところは、自然に感情が高ぶったんですか?

吉田 撮影現場は和気あいあいとしていて、お昼はみんなでピクニックしている感覚だったり、にぎやかだったんです。でも、その大事なシーンを撮る前はすごくソワソワして、ずっと考えていました。撮影が始まって、(カチンコが)カチッと鳴った瞬間、頭が真っ白になりましたけど、気持ちだけで全部言えました。試写では新しい自分の顔に見えました。

――普段の吉田さんは、感情の起伏は大きいほう?

吉田 感情が上下することは多くて、よく高ぶっちゃいます。テレビでドキュメンタリーを見ていたら、同じ気持ちになって泣いてしまったり。だから、感情に任せて思い切り何かを言うシーンはやりやすかったです。逆に、日常会話がすごく難しくて。

撮影/S.K.
撮影/S.K.

自然な会話に見えるように何度もやり直して

――なかなかOKが出ないシーンもありました?

吉田 ありました。お兄ちゃんとお部屋で、進学するのか話すシーンは、たぶん一番NGを出してしまって。お兄ちゃんはこの作品に出てくる唯一の家族なんです。水華ちゃんの素の一面というか、年相応の悩みをぶつけている姿は、監督もすごくこだわられていました。

――どんなダメ出しがあったんですか?

吉田 どこがダメというのでなくて、「もっと自然に」と。家族とだから気を張らないで、ナチュラルに家にいる感じが出るように、何度もやり直しました。

――自然な演技が一番難しいと言いますからね。ちょっとしたところだと、水華がうどんを食べるシーンは本当に幸せそうでした(笑)。

吉田 すごくおいしかったんですけど、実はひとつハプニングがありました。途中で七味をかけたとき、缶の上の小さい穴から出るタイプだったのに、間違えてフタを外して振ったから、大量の七味がうどんにかかってしまって(笑)。でも、そこでお芝居を止められないじゃないですか。そのまま食べ続けて、ちょっと辛かったです(笑)。

――水華は“神様”のことを心配して、お兄さんの働くデイケアの施設に連れてきたり、根はやさしい子みたいですね。

吉田 やさしいけど自分の感情をうまく出せなくて、すごく複雑な子です。中身は本当に純粋なのに、見栄を張って強がったり、大人っぽく振る舞ったり。そんな中でも、神様との会話で年相応の子どもっぽさが出たり、打ち解けていくのが見えたのは、かわいかったですね(笑)。

撮影/S.K.
撮影/S.K.

90年代のコアな文化に憧れがあります

――吉田さんは学校ではどんな子だったんですか?

吉田 振り返ると授業でも積極的に発言して、ムードメーカー的な存在だったと思います。

――今はJKっぽいことはしてますか?

吉田 高校生にもなると、1人1人いろいろ趣味があって、何が女子高生っぽいのかわかりません。でも、私なりに高校生っぽく感じたのは、授業中にこっそりイヤホンでブルーハーツを聴いていたときですね。青春っぽい気持ちなりました。

――ブルーハーツは今の10代にも青春を感じさせます?

吉田 音楽がもともと好きで、いろいろ聴いていた中でブルーハーツを知って、刺さるものがあってクセになりました。カラオケでも『青空』とか『リンダ リンダ』を歌って騒いでます(笑)。

――最近の流行りの音楽よりも響いたんですか?

吉田 私は昔のロックやヒップホップのほうが好きです。その流れだと、尾崎豊さんも聴いています。共感というより憧れがあって、あの時代に行ってみたい気持ちになりますね。

――盗んだバイクで走り出しますか(笑)?

吉田 バイクは盗みませんけど、自分の自転車で(笑)。世の中の傾向的にも、90年代志向になりつつあるので、影響は受けています。ファッションでも、当時流行っていたケミカルのデニムやスケータースタイルがまた流行り出して、当時のコアな文化をもっと知りたいです。

撮影/S.K.
撮影/S.K.

自分の感覚は変わっていると思います

――吉田さんのプロフィールの趣味には“ファッション”や“買い物”もありますが、どの辺の街に出没してますか?

吉田 裏原の古着屋さんや渋谷のビンテージショップに行ってます。時々レコード屋さんも回って、気に入ったアナログレコードをジャケ買いします。昭和のアイドルの方のレコードがめちゃめちゃかわいくて、松田聖子さんのアルバムを買って、お部屋に飾ったりもしました。

――感性が独特なんですかね?

吉田 変わっているとは思います。同年代とはなかなか話が合いません(笑)。でも、それも楽しいので。

――今は何をしているときが一番楽しいですか?

吉田 こんなご時世ですけど、人と会っているときですね。自粛で家に籠っていると、自分のことだけになってしまって。一歩外に出たら、近所の誰かに会うだけでも、扉が開いて世界が広がる感じがします。

――『ペテロの帰り道』に主演して、夢も広がりましたか?

吉田 今まではモデルさんへの憧れが強かったのが、この作品に出たことがきっかけで、お芝居がすごく楽しくなりました。自分でない人になれるなんて、普通に生きていたら絶対ないので。今後も積極的に女優のお仕事をやっていきたいです。

――目指していることもありますか?

吉田 レッドカーペットを歩きたいですね。いつか表彰もされてみたいです。まだ始めたばかりで改善点ばかりですけど、一歩ずつ進んでいけたら。もっといろいろな作品を見て、本も読んで、今までの自分になかった世界へ視野を広げていきたいと思います。でも、まずは滑舌からですね(笑)。

撮影/S.K.
撮影/S.K.

Profile

吉田あかり(よしだ・あかり)

2004年1月2日生まれ、東京都出身。

モデルとして『関西コレクション2021 S/S』、『ACUOD by CHANU2021年春夏コレクション』などに出演。6月18日公開予定の映画『ショコラの魔法』に出演。

『ペテロの帰り道』

アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー

公式HP

(C)OBVERSE&REVERSE
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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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