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大作『華麗なる一族』に「東宝シンデレラ」の福本莉子が出演 「愛憎劇の中で空気を明るくする存在に」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜

沢口靖子、長澤まさみ、浜辺美波らを輩出した「東宝シンデレラ」オーディションで、5年前にグランプリを受賞した福本莉子が、WOWOW開局30周年記念のドラマ『華麗なる一族』にレギュラー出演している。山崎豊子の小説が原作で、これまでも映画、ドラマ化されてきた名作。一族の愛憎渦巻く物語の中で、明るさをもたらす三女の役を演じた。今年の大躍進が期待される彼女に、この作品がどんな経験になったかを聞く。

毎回ピリッとした空気感がありました

――『華麗なる一族』では莉子さんが演じる万俵三子も、昭和の名家らしく、衣装や髪型からゴージャスな感じですね。

福本 ここまで支度に時間をかけて、ヘアメイクからガッツリ作り上げる作品は、あまりないなと思いました。普段自分ではできない髪型で、眉毛も今はふんわりが流行りですけど、黒く濃くして時代を感じました。衣装によって毎回リボンを変えているので、そこも見ていただけたら。

――万俵家のリビングとかも重厚です。

福本 廊下に鹿の首が飾ってあったり、大きい壺が置いてあったり、「これを割ったら大変なことになるな」というものがたくさんありました(笑)。家のシーンで出てくるごはんもすごくおいしくて、カットが掛かってからも、ずっと食べてました(笑)。

――新年会のシーンは、実際に志摩観光ホテルで撮影したそうですね。

福本 そうなんです。前乗りして、ホテルのレストランで食事をいただいて、それもおいしかったです。お肉か海鮮かでめちゃくちゃ迷って、お肉にしたら、マネージャーさんが海鮮を頼んだので、ひと口ずつ分けました。撮影でもシェフの方が作った料理が出て、フォアグラが乗ってました。

――福本家の新年会だと、どんな感じなんですか?

福本 年越しそばは必ず食べて、関西なので、にしんそばです。お雑煮も白みそ。それくらいです(笑)。

――撮影現場の雰囲気も重みがありました?

福本 初日はどの作品でも緊張しますけど、今回は毎回現場に入るたびに、ピリッとした空気感がずっとありました。でも、食事のシーンは楽しくて、笑いもありました。

――キャストも錚々たる顔ぶれの中で、最年少として居心地はいかがでした?

福本 松本穂香さんが演じる二子ちゃんとのシーンが多かったので、松本さんとは休憩時間もいろいろお話しさせていただきました。皆さん本当にやさしくて、銀平お兄さま(藤ヶ谷太輔)ともお話しましたし、お嫁さん役の吉岡里帆さんとのシーンを撮った日が、私の20歳の誕生日だったんです。皆さんが祝ってくださって、すごく嬉しかったです。

台本を読むのに時間がかかって一族が衝撃的で

『華麗なる一族』の時代設定は大阪万博を控えた高度経済成長期。預金高10位の阪神銀行の頭取でコンツェルンの総帥・万俵大介(中井貴一)は、銀行再編で生き残るため、大手銀行の吸収・合併を画策する。万俵家には、コンツェルンを支える阪神特殊製鋼の専務で長男の鉄平(向井理)ら家族の他に、大介の愛人・高須相子(内田有紀)が長く同居。関西の政財界での閨閥作りを進めていた。

――『華麗なる一族』について、原作とか過去の映像作品とか、知っていたことはありました?

福本 タイトルは知っていて、どういうお話かは知りませんでした。でも、親世代の方に話すと、みんな「知ってるよ」と言っていて。私は台本で初めて触れて、原作も読んで、三子ちゃんがどういう人なのか研究しました。

――原作は上・中・下の三巻にまたがる大作ですね。

福本 台本も読み進めるのに時間がかかってしまいました。銀行の経営の話があったり、登場人物もたくさん出てくるので、覚え切れなくて。

――万俵家については、客観的にどう思いました。

福本 衝撃的でした。お母さんの寧子さんと吉岡さんが演じる万樹子さんがとにかくかわいそうで、「銀平は何なんだ?」とモヤモヤしながら読みました(笑)。こんなにドロドロした作品に、私は今まで関わったことがなくて。三子ちゃんは能天気で陽気な子ですけど、他のキャストの皆さんは大変だろうなと思いました。

思ったことを言って切り込める唯一の役でした

――他にクランクイン前の準備として、やったことはありましたか?

福本 衣装合わせのとき、この時代にあった出来事をスタッフの方がまとめてくださった冊子をいただいて、それを読んでいました。昔の東京オリンピックとか、鉄平たちがしていた狩りとか、今はあまり馴染みのないことが出てくるので。

――三子が直接関わる部分ではなくても、高度経済成長期の時代背景は押さえていたわけですね。

福本 私が生まれる前のことなので。ただ、監督に言われたのが「三子はとにかく元気で楽しくしてくれていたらいい」と。ドロドロした一家の中で、いかに明るくできるか考えて、盛り上げ隊として頑張りました(笑)。

――そういう意味では、作品の空気感とは別に、三子役は自然体に近い感じでした?

福本 普段よりもテンション上げめでした。この作品で思ったことを言って切り込めるのが三子ちゃんしかいなくて、場の空気を変える存在なので。愛憎劇の中で、私が出ているシーンでは皆さんがひと息つけたらいいなと思って演じました。それから、言葉づかいが今と違っていて。「お父さま」「お兄さま」という呼び方だったり、「~かしら」みたいな語尾だったり。それが馴染むように、家でもボソボソ言って練習しました。

――特に今っぽくなかった言葉は?

福本 馴染みがないということだと、1話の志摩のホテルでの食事シーンで、「パリのマキシムの献立と一緒」と言ったじゃないですか。私はマキシムって行ったことがないので、「何だろう?」と思って調べたら有名なレストランで、もう閉店していました。いつかパリに行くことがあったら、訪ねてみたいと思っていたんですけどね。

姿勢を意識して着物の所作も調べました

――他にも、令嬢役として気を配ったことはありますか?

福本 姿勢ですね。座っているときも背筋をピンとさせることは意識しました。手元も丁寧に見えたらいいなと思って、指先をダラーンとさせないで、ちゃんと揃えていました。

――食事のシーンでは、そこまで映るわけではないにせよ、テーブルマナーもしっかりと?

福本 そうですね。ナプキンを膝に置いて、ナイフを置くときは刃が外側に向かないように気を付けました。

――そういうのは福本家でも教えられたんですか?

福本 見よう見まねです。お箸の持ち方は小学生のとき、自分で直しました。何かちゃんと持てなくて、修学旅行のタイミングで、きれいに持てるようになりたいと思って。それから、お着物でお芝居するときには着慣れた感じでいられるように、所作を調べました。手を上げるときに袖を押さえて開かないようにするとか、座るときは膝の上に重ねるとか。

――披露宴のシーンですね。

福本 そうです。振袖は撮影や成人式で着て、車の乗り方とかは調べたことがあるんですけど、日常の細かい動きの中でどう扱うかは知らなかったので。

あの家庭の中で和ませざるを得なかったのかも

――『華麗なる一族』に出演して、特に印象に残ったことというと?

福本 どのシーンもインパクトがありましたし、自分の台詞がないときに皆さんのお芝居を見て、勉強にもなりました。お父さま役の中井貴一さんとは、2人のシーンはあまりなかったんですけど、休憩時間とかに必ず「元気?」とか声を掛けてくださって。皆さんにそうされていたのが、座長としてカッコイイなと思いました。あと、内田有紀さんの美しさには毎回圧倒されました。立ち姿も座っている姿もすごくきれい。記者発表でも高いイスでヒールだったのに、どう座ったら美しく見えるかを意識されていたみたいで、常に自分の見せ方を研究してらっしゃるようでした。

――劇中では内田さんが演じる相子に対して、三子は他の兄弟ほど反感は持ってないようです。

福本 そうですね。あまり深刻に考えてなくて。でも、三子の明るさは、そうせざるを得なかったのかな、とも思いました。あの家庭って、親子でも上辺で話しているところがあるじゃないですか。三子がいることで場が和んで、いなかったらシーン……となりそう。三子自身、家庭が暗くならないように明るくしているのかなと、だんだん思うようになりました。

――なるほど。「三子は元気で明るく」というのは、キャラクターとしての見せ方だけでなく、物語の人物としても必然だったと。

福本 だから、三子はすごく賢いんじゃないかと思います。策士という見方もできるのかなと。

――莉子さん自身は、自分の結婚相手を人に決められるような状況だったら?

福本 それはNOですね(笑)。二子ちゃんと同じで、自分で決めたいです。でも、三子はたぶん二枚目好きで、ミーハーなところがあるように思います(笑)。

運動を始めて仕事と良いバランスを取れたら

――莉子さんはこの『華麗なる一族』以外に、好きな昔の名作はありますか?

福本 自粛期間に昔の映画を観るようになって、印象に残っているのは、小津安二郎監督の『東京物語』です。家族のあり方や関係性が今でも通じると思いました。実の子どものほうが親を嫌がるとか、昔の映画なのに普遍的なものを感じました。

――だからこその名作なんでしょうね。『華麗なる一族』の放送が始まった4月は新年度ということで、莉子さんも新たな何かに取り組んだりはしてますか?

福本 前からやりたいと言っていた運動を始めました。ピラティスに通っています。体作りというか、筋肉量がなさすぎるので、ちょっと付けようかと思って。

――莉子さんは細いですからね。

福本 体幹も頑張って鍛えられたらと。週2で通っていて、難しかった動きが次の回にはできるようになっていたりするので、筋肉が付いてきた実感があります。やっぱり体を動かすのはいいですね。普段も極力歩くようにしています。あと、最近できていなかった料理もまたやろうかなと。お仕事も頑張りつつ、プライベートと良いバランスを取れたらいいなと思います。

撮影/松下茜

Profile

福本莉子(ふくもと・りこ)

2000年11月25日生まれ、大阪府出身。

2016年に第8回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリ。2018年に映画『のみとり侍』で女優デビュー、同年にミュージカル『魔女の宅急便』に主演。主な出演作は映画『思い、思われ、ふり、ふられ』、『映像研には手を出すな!』、ドラマ『パパがも一度恋をした』、『歴史迷宮からの脱出~リアル脱出ゲーム×テレビ東京~』、『夢中さ、きみに。』など。5月14日公開の映画『しあわせのマスカット』に主演。

『連続ドラマW 華麗なる一族』

原作/山崎豊子『華麗なる一族』(新潮文庫刊)

WOWOWプライム、WOWOW4K、WOWOWオンデマンド/日曜22:00~放送・配信

公式HP

『華麗なる一族』より(WOWOW提供)
『華麗なる一族』より(WOWOW提供)

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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