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哀しみが疾走して胸を打つ。亀梨和也が『レッドアイズ』で見せる俳優力

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)日本テレビ

 亀梨和也が主演するドラマ『レッドアイズ 監視捜査班』(日本テレビ系)がクライマックスに入る。恋人の命を奪われた元刑事が、特殊な技能を持つ元犯罪者たちと共に、監視カメラを駆使した捜査で凶悪犯に挑むサスペンス。スリリングな展開の中、亀梨の哀しみが疾走するような演技が焼き付く。

『野ブタ』や『ベム』から発揮していた特性

 今年2月に35歳になった亀梨和也が、俳優として最初に大きな注目を集めたのは、18歳の頃に出演したドラマ『ごくせん』の第2シリーズだ。ヤンクミ(仲間由紀恵)のクラスのメイン生徒役を赤西仁と共に務めた。同じ2005年に『野ブタ。をプロデュース』で主演。クラスの人気者ながら、それをキャラクターとして演じている役で、ふと「本当の俺には何もない」「俺は寂しい人間だ」とつぶやく姿は、何とも寂しげだった。昨年の自粛期間に15年を経て再放送されて、思春期そのものの演技はまったく色褪せてなかった。

 所属するKAT-TUNはクールなカッコ良さを押し出したグループだったが、亀梨は俳優業でも、どこか陰があったり、哀しみを胸に秘めた役で本領を発揮している。2006年の『たったひとつの恋』では、父親を小さい頃に亡くして場末の町工場で働きながら、母と弟のために必死に生きる役で、綾瀬はるかが演じる令嬢との恋に苦悩した。

 そんな中でも伝説的なのは、2011年の『妖怪人間ベム』。往年の人気アニメが原作で、いつか人間になることを願って悪と戦いながら、数百年の時を生き続ける妖怪人間の役。人間を助けても正体がバレて醜い姿を見られたら、助けた相手にさえ忌み嫌われる繰り返しだった。

 3話ではガンで余命少ない老人の自殺を止め、彼の“死ぬまでにやりたいこと”を手助けしながら、自ら正体を明かす。最後は老人が1人で“やりたいこと”を成し遂げるために旅立ち、亀梨が演じたベムは受け取った手紙の「君たちがいてくれて救われた」との言葉に号泣していた。

 そんなときの亀梨は、本当に胸を震わす演技をしてきた。キラキラ輝くガラス玉が、落とせば砕けてしまうようなはかなさを醸し出して。シャープな美形の裏の繊細さは、他のジャニーズやイケメン俳優にない特性。そして、哀しみを秘めながら全力疾走していくような姿が、また胸を打った。

30代に入って役の人物像に深みが増して

 亀梨自身にもデビュー以来、クールなイメージがあったが、2010年から『Going!Sports&News』にベースボールスペシャルサポーターとして出演。小学生時代にリトルリーグでプレーしていた野球好きで、「ホームランプロジェクト」といった企画にも挑戦。そうした中で、気さくで律儀な素顔も見えるように。

 昨年9月には『1億人の大質問!? 笑ってコラえて!』の2時間スペシャルで、困っている一般人にスターを貸し出す企画に参加。2人暮らしの女性の引っ越しを、汗だくになりながら明るく手伝う姿が話題になった。つい先日も『沸騰ワード10』で、30年以上取り憑かれているというイカへの愛を語り、ひょうきんなところも見せていた。

 それでもドラマではやはり、哀感を漂わせながら突き進む役が最高にハマる。2018年の『FINAL CUT』では、マスコミのミスリード報道から母が自殺した過去を持つ警察官役。2019年の『ストリベリーナイト・サーガ』では、上司の女性刑事への想いを秘めながら黙々と捜査して彼女を支える刑事役。特に『ストサガ』は台詞は多くない中で心情がジワジワ伝わり、30代に入って役の人物造形に深みが増したのが窺えた。そして、今回の『レッドアイズ』。

 これも警察もので、亀梨が演じる伏見響介は元敏腕刑事。婚約していた恋人を何者かに殺害され、警察を辞めて、元犯罪者の3人と共に探偵事務所を営んでいた。その傍ら、恋人を殺した犯人を独自に探し続けていて。3年後、神奈川県警が最新鋭の監視システムを駆使して犯罪捜査に当たる特殊部隊・KSBCを新設。伏見は元上司に請われ、探偵事務所の3人と共に特別捜査官として、この組織に加入した。

 並外れた洞察力と優れた格闘術を持つ伏見は、1話で殺人のライブ配信を予告していた犯人の居場所を冷静に突き止めるが、踏み込むと、その犯人に恋人を殺した男と同様の傷を見つけ、「お前がやったんだな!」と逆上。殺そうとしかけたが、別人と気づき踏み止まった。

痛みと共に伝わる想いはファンでなくても引き付ける

 毎回の事件で、小さな手がかりを見落とさず犯人に辿り着き、仲間のピンチも救ってきた伏見。だが、晴れやかな顔は一度たりとも見せない。一連の黒幕で、恋人を殺した犯人と思われる“先生”に辿り着けないからでもあるが、大事な人を失った哀しみの根深さを感じさせる。そして、恋人の事件と絡むことには冷静さを失い、激高を見せる。そんな伏見の哀しみと怒りが、亀梨の演技から痛みを伴って伝わる。

 前回の7話では伏見自身が拉致された。犯人は伏見が刑事時代に逮捕した高齢の夫婦。病気の娘の治療費のために強盗殺人を犯した彼らは、「娘をスイスの病院に連れて行ってから出頭します」と懇願したが、伏見は聞き入れるわけにいかず、娘は後に死亡。それを逆恨みしての犯行だった。

 伏見は監視カメラからKSBCに監禁場所のヒントを送り、救出されたが、連行されていく夫婦を見やる目は何とも切なげだった。「あの人たちは俺と同じだ。俺だって、いつあんなふうになるかわからない」とつぶやく。監禁されながら、夫婦に「こんなことをしても……」と訴えていた伏見。自分自身、もし恋人の復讐を遂げたとしても、それが本当の救いにはならないと、気づいているのかもしれない。

 一方で伏見は、仲間が捕らわれた際には、クールさの中に必死さを漲らせて救出に走る。自身が拉致されたのも、仲間を危険な目に遭わせないために単独行動をした結果だった。もう二度と大切な人を失いたくない……という想いの現れ。哀しみが疾走するような亀梨ならではの演技に、また胸を震わされる。この物語の結末と、そこで伏見が何を想うのか、見届けずにはいられなくなる。

 そんな俳優・亀梨和也の演技には、ジャニーズのアイドルとしての彼のファンならずとも、強く引き付けられるはずだ。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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