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20歳の実力派女優・山口まゆが『樹海村』でホラー初主演。「撮影が刺激的すぎて辛さが麻痺してました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
映画『樹海村』にW主演した山口まゆ

中学時代から数々の作品で胸を打つ演技を見せて、若手実力派女優の代表格と目される山口まゆ。自身初のホラー映画でW主演した『樹海村』が公開された。恐怖におののき怯えたり泣いたりもしながら、観る者を惹きつけるのはホラーでも変わらない。新たな挑戦を振り返ってもらうと、生みの苦しみは大きい撮影だったようだ。

音楽を聴いて自分を奮い立たせて撮影現場へ

――去年の緊急事態宣言の頃、まゆさんが14歳で妊娠した役を演じた『コウノドリ』の5話が“傑作選”として再放送されて、反響を呼びました。

山口 観ていただいた方が結構いらっしゃったみたいで、SNSでたくさんの感想を目にしました。

――5年前に撮影した作品でしたね。

山口 まず「こんなに幼かったんだ」と驚きました(笑)。でも、時が経ちすぎていた分、意外と客観的に観られました。すごく素敵なお話で、出演させてもらって嬉しかったと改めて思いました。

――母性に目覚めて、赤ちゃんを養子に出すときに号泣するところまで、本当に感動的で視聴者の胸を強く打ったようです。ただ、まゆさんはあのドラマに限らず、以後も毎回そういう演技をされていますよね。

山口 昔の作品に反響をいただくのはすごく嬉しいことで、それを超えなきゃとも思いながら、プレッシャーになるので過去は過去と考えています。でも、ひとつひとつの作品に思い入れはあって。私、家を出て現場に行くとき、音楽を聴いているんです。「あのドラマを撮っていたときはこの曲にハマっていたな」とか、作品と音楽を一緒に思い出します。

――初ホラーの『樹海村』を撮っていたときは、どんな音楽を聴いていたんですか?

山口 TWICEを聴いていました。『樹海村』と全然マッチしてなくて(笑)、ただの自分の中の流行りですけど、毎回撮影前に聴いて「よし行くぞ!」って、自分を奮い立たせていた気がします。だから、今もTWICEを聴くと「あのときは大変だったな」と思い出します(笑)。

映画『樹海村』より
映画『樹海村』より

自分に近い役で台詞がスッと入ってきて

――まゆさんは心に闇を抱えた役のときに、1ヵ月くらい人と会わないようにしたとか、役作りを念入りにするそうですが、今回は事前の準備でどんなことをしましたか?

山口 オーディションで役が決まったのが去年の6月末で、7月にインしたので、バタバタしていて考える時間はあまり取れませんでした。でも、オーディションで清水(崇)監督が私の人となりをいろいろ聞いてくださって、決定してからお話をしたら、役にマッチするかを探ってらっしゃったらしくて。「山口まゆの延長で役を考えてもらえばいい」と言ってくださったので、気負わず自分の中にあるものを使えて、役作りの部分で苦労することは特にありませんでした。

――自分でも天沢鳴役がフィットする感覚はあったわけですか?

山口 自分に近い役だったと思います。私も長女で妹が実際にいたり。役を私に寄せていただいた部分もあって、特に“ここが似てる”というわけでなくても、台詞が違和感なくスッと入ってきました。その分、撮影に入ってから、鳴がどう振り回されるかが難しかったんですけど、監督もプロデューサーさんも私を信じてくださったので、自分なりに身を任せてやるしかないと思っていました。

映画『樹海村』より。山口が演じる天沢鳴は不可解な発言をする妹の響に嫌悪感を持つ
映画『樹海村』より。山口が演じる天沢鳴は不可解な発言をする妹の響に嫌悪感を持つ

ホラーを映画館で観る勇気が出なくて(笑)

――一方で「ホラーは苦手」とのコメントもありました。レンタルショップのホラーのコーナーに少し行っただけで、夜寝られなくなったとか。

山口 実際に心霊的なものを見たことは1回もないんですけど、DVDのパッケージの写真でも、脳裏に焼き付くのがちょっと怖かったんだと思います。

――普段から怖がりだとか?

山口 昔はすごい怖がりでした。お風呂も1人で入れなかったし、トイレも1人で行けない。電気も全部つけておかないと寝られなかったり、ホテルだとテレビもつけてないと怖くて。でも、ある日を境に、自分の中で「全部がフィクション」みたいな感覚になりました。

――急にですか?

山口 高校生の頃だったか、普通に家に帰る道を歩いていたら、急に「ホラー映画は作りものなんだ」という考えがフワッと出てきたんです(笑)。それからはまったく怖くなくなって、夜は逆に真っ暗でないと寝られなくなりました。もう全然余裕です(笑)。

――では、『樹海村』出演に当たって、清水監督の代表作の『呪怨』やシリーズ前作の『犬鳴村』を観たそうですが、そこまで怖がることもなく?

山口 私、今回のお仕事が決まるまで、ホラー映画は実写の『ゲゲゲの鬼太郎』しか観たことがなくて。

――あれはホラーというんですかね(笑)?

山口 小さい頃に観て、当時すごく怖かったんです。アニメの『ゲゲゲの鬼太郎』が大好きで、お母さんが実写版に連れていってくれたんですけど、怖くて映画館で大泣きしました(笑)。その印象が今も抜けません。『呪怨』は友だちと家で観たんですけど、『犬鳴村』はまだ上映していたんですね。でも、映画館に行く勇気がなくて、始まるギリギリまで「行きたくない、行きたくない、行きたくない……」とずーっと考えていて、結局完パケのDVDをもらいました(笑)。

――完パケも恐る恐る観たような?

山口 恐る恐るでしたね。映画館だとしゃべれないけど、家だと「ああ、来る来る」とか言っておけば安心するから、ひとり言をいっぱい言いながら観てました(笑)。

映画『樹海村』より
映画『樹海村』より

常に息が荒くて家でも普通の呼吸ができなくて

『樹海村』は昨年ヒットした『犬鳴村』に続く『恐怖の村』シリーズの第2弾。古くから人々を戦慄させてきた禍々しい呪いの箱が、富士の樹海の奥深くに封印されてから13年後、天沢響(山田杏奈)と鳴(山口)の姉妹の前に出現して……。

――演技的にはホラーならではのことはありましたか?

山口 結構ありました。息づかいとか表情とか、ヘンな筋肉を使っている感覚がずーっとあって。息は常に荒くて、ハァハァしているのがベースになって、家に帰ってもそのまま。通常の呼吸ができなくなって、息苦しい毎日だった記憶があります。

――叫んだりもしていました。

山口 昔はノドが弱くて、すぐ声が嗄れるタイプでしたけど、そこは大丈夫でした。本当にすっごく叫んでいたんですよ(笑)。1シーンでもいろいろな角度から撮るので、1日に何回叫んだか覚えられないくらい。それを毎日やってましたけど、1回も嗄れることがなかったので、ノドが強くなったなと思いました(笑)。

――目の前で人が首を切って死ぬときの鳴のリアクションも、すごくリアルでドキッとしました。

山口 あのシーンも20テイクくらい撮りました。タイミングとかいろいろあって、テイクを重ねるうちに、何が正解かわからなくなってきてしまって。監督が求めるものと私がやったお芝居がマッチしないときもあって、ホラー映画でのきれいな叫びとリアリティのある叫びとか、いろいろ教えていただきました。叫びが大きすぎてもウソっぽくなって観る人が冷めてしまう。かと言って弱すぎても、そんなに怖くないように見えてしまう。そのあんばいが難しくて。自分の中で解決するより、「監督のOKが出たらOK」という認識でやるようにしていました。だから正直、何が正解かは撮影中は最後までわかりませんでした。

重たい芝居をする日は涙がずっと止まらなくて

――今回に限らず、まゆさんは演技中に役への憑依感はありますか?

山口 鳴に関しては自分と似ているところがベースで、自分自身との境い目があまりわかりませんでした。私がその場にいるような感覚があったり、鳴として心に受けたものに自分の気持ちが混じっていたことは結構ありました。重たいお芝居をする日なんかは涙が止まらなくて、段取りが終わったあとにトイレに駆け込んで、1人でずーっと泣いていて。そのときは山口まゆでなく鳴として泣いていたので、入り込んでいるような感覚はありました。すごく苦しかったんですけど。

――ただ涙が出るだけでなく、気持ち的にも辛くなっていて?

山口 もうワケがわからない気持ちになっていました。とにかく涙が後から後から出てきて。その日は誰も話し掛けてこられないくらい、ズーンとしていたと思います。

『樹海村』より
『樹海村』より

撮休の日も引きこもって重い映画を5本観ました

――ハリツケになったり幽霊に追い掛けられたり、極限的な場面も多くて、精神的にキツい撮影だったのでは?

山口 辛いという感覚は麻痺していて、よくわからなくなってました(笑)。わかりやすかったのは、体が疲れていたことです。毎日、腹から息を出す、悲鳴を上げる、叫ぶ……みたいなことが多かったので、体力を消耗して、撮影を重ねるごとにしんどくなって。もしかしたら精神的に辛くなっているかもと思ったのは、樹海での撮休の日にホテルに引きこもって、5本くらい映画を観たときです。全部重めの作品で……(笑)。

――どんなラインナップだったんですか?

山口 市川由衣さんと池松壮亮さんの『海を感じる時』を朝8時から観て(笑)、そのあとに園子温監督の『冷たい熱帯魚』に、『情愛中毒』という韓国の激しいラブロマンスを観て、それから『タクシー運転手』に『パラサイト 半地下の家族』と韓国映画を続けました。お話がゴチャゴチャになったりもしたんですけど(笑)。

――どうしてそういう作品を選んだんですか?

山口 わかりません(笑)。毎日の撮影が刺激的すぎたので、刺激が強いものを求めていたんですかね(笑)? 『冷たい熱帯魚』を今観たらすごく怖いのに、当時は「ふーん」くらいにしか感じなくて、思い返せば、すごい精神状態だったのかもしれないなと(笑)。ただ茫然と映画を観ていました。

――『樹海村』の後半では樹海で泥だらけになっていました。

山口 樹海のシーンはセットでの撮影だったんですが、そこは本当に辛かったです。後半は「今日も泣かなきゃ。叫ばなきゃ」とずっと気を張って、「もう行きたくない」と思ってました(笑)。

――出来上がった作品を観て、どう感じました?

山口 まずCGのすごさに驚いたのと、ホラー映画ですけど怖がらすだけでなく、怖さの延長に姉妹愛とかリアルさがあると感じました。清水監督はお芝居を丁寧に撮られる方で、1日に2~3シーンのペースで時間をかけていたのが映像にちゃんと出ていて、オカルトもリアルに感じられてさすがだなと。この映画の世界に入れて良かったなと、改めて感じました。

映画『樹海村』より
映画『樹海村』より

明るい役も探り探りで勇気を身に付けないと

――一方、放送中のドラマ『江戸モアゼル』での歴女で江戸マニアの蔵地寿乃役は、まゆさんには珍しい明るいキャラクターで楽しそうですね(笑)。

山口 私には初めての試みという感じの役で、探り探りなところはありました。インしたときはぎこちなくならないか、不安でした。役のことはいくらでも考えられますし、実際に家でずーっと考えてましたけど、今回は本読みがなかったので、いざ現場に入ったときにちゃんとマッチするのか。たとえば葉山(奨之)さんが演じるいとこの蔵地がどんなテンションで来るのか、行ってみないとわからなくて。私がその場で言った台詞でキャラクターが決まるから、初日のドキドキはヤバかったです。

――結果、いい感じになったようで。

山口 もう中盤で世界観に慣れてきましたけど、すぐに染まれる瞬発力、そこに飛び込む勇気は身に付けなきゃいけないと思いながら撮影しています。でも、いろいろ発見もありました。今までは役を演じることで精いっぱいだったのが、「その場でいろいろ芝居を広げられたらいいな」と、ひとつ上の何かを見つけられそうな気がしていて。すごく勉強になってますけど、視聴者の方に楽しんでもらうことが一番なので、そこは忘れないでやっていきます。

――単純に、闇を抱えたような役より、楽にできるわけでもなくて?

山口 自分が自分を使って、どう表現できるかをずっと考えていて、どの役でも難しいです。

ドラマ『江戸モアゼル』より。山口が演じる寿乃は江戸時代からタイムスリップしてきた花魁の仙夏(岡田結実)と意気投合する
ドラマ『江戸モアゼル』より。山口が演じる寿乃は江戸時代からタイムスリップしてきた花魁の仙夏(岡田結実)と意気投合する

春休みに短編小説を書こうかと思ってます

――まゆさん自身、歴史には興味あるんですか?

山口 あまりなかったです。でも、ドラマに出てくる歴史の話は面白いです。江戸時代と令和で通じるところがあったり、歴史って本当に過去にあったことなんだと思えて、自分も台本を読んで視聴者感覚で「なるほど」となっています。

――大学生でもあるまゆさんですが、何か自分で勉強したいと思うこともありますか?

山口 もうすぐ春休みで、友だちと「どうしようか? 暇だね」みたいな話をしていたら、「小説を書いてみたら?」と言われて、「楽しいかも」と思いました。昔、学校の授業で楽譜を渡されて、歌詞に沿った物語を書く宿題が出たんです。そのときに書いたものが先日出てきて、読んだら妄想の世界で楽しそうだったし、意外とポンポン話が出てくるものだなと。春休みにちょっと短編みたいなのを書いてみようかという気になっています。

――書けたら公開するんですか?

山口 それはどうですかね(笑)。人にはあまり見せないと思います。でも、SNSを通して、皆さんと何か共有できないか、考えていたりもしていて。写真が好きな友だちと「テーマを決めて撮って、1枚だけ上げてみようか」と話しています。

ドラマ『江戸モアゼル』より
ドラマ『江戸モアゼル』より

人と比べずに自分の道を一歩ずつ進めたら

――去年の11月に20歳になりましたが、新成人の女優さんは、『樹海村』でW主演した山田杏奈さんもそうですけど、逸材揃いの世代。ライバル意識を持っていたりもしますか?

山口 うーん……。意識したくないですけど、せざるを得ない状況というか。でも、私は私なりの道を行きたいですし、ヘンに張り合っても得はないと思います。『樹海村』で同世代の杏奈ちゃんと共演したのはすごく刺激になって楽しかったし、友だちや顔見知りも多くなってきましたけど、人と比べず自分の道を突き進みたいです。

――まゆさんはよく“若手演技派”と言われますが、どう受け止めていますか?

山口 私はモデルもできないし、トークがうまいわけでもないので、芝居で勝負するしかないなと自分では思っています。うまい子はたくさんいて、まだまだ精進が必要ですが、そう言ってもらえるなら、ありがたく受け止めさせていただきたいと思います。

――今後どんな女優を目指していきますか?

山口 大きな目標を決めて、そこに向かう道筋を立てるのは得意ではないんです。「行かなきゃいけない」みたいな使命感を持つと、楽しくなくなってしまうので。それより、今やっている作品を自分なりにどれだけできるか。そこから一歩一歩、前に進んでいければいいなと思います。お芝居は楽しいだけでは続けられないので、オーディションでアピールしたりチャンスを掴んでいかないといけないですけど、楽しめなくなったら終わりだとも思っていて。楽しみながら自分なりのものを探して、コツコツ頑張っていくのが性に合っている気がします。

大学でも映画を専攻している山口まゆ(フラーム提供)
大学でも映画を専攻している山口まゆ(フラーム提供)

Profile

山口まゆ(やまぐち・まゆ)

2000年11月20日生まれ、東京都出身。

2014年にドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』でドラマデビュー。主な出演作はドラマ『アイムホーム』、『リバース』、『明日の約束』、『マンゴーの樹の下で~ルソン島、戦火の約束~』、映画『相棒‐劇場版Ⅳ‐』、『僕に、会いたかった』、『下忍 赤い影』、『太陽の家』など。ドラマ『江戸モアゼル~令和で恋、いたしんす。~』(読売テレビ・日本テレビ系/木曜23:59~)に出演中。

『樹海村』

2月5日より公開中

公式HP https://jukaimura-movie.jp/

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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