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三戸なつめが映画でロックシンガー役 「“売れてやる!”から見る人の活力になるのが目標に変わりました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
ヘアメイク/中安優香 スタイリスト/藥澤真澄(ピアス=ジェンマ アルス)

前髪が個性的なモデルとして注目され、音楽、女優と活動を広げてきた三戸なつめ。映画『ロックンロール・ストリップ』では、売れない劇団の座長の妹で人気バンドのボーカルという役を演じている。芸能界の裾野の物語だけに、描かれている心象には覚えがあるという。30歳になった彼女が今、演技や音楽に対して思っていることとは?

夢を追って周りが見えなくなるのはわかります

――映画『ロックンロール・ストリップ』で人気バンドのボーカル・木村朋美を演じました。三戸さん自身がシンガーでもあるだけに、響いたところはありました?

三戸  朋美が思っていることは、「共感できる」と言ってしまったら、ちょっと問題ですけど(笑)、悩みとか自分と共有できるところはありました。

――朋美は芸能界について「絶対に自分を殺さないと」と話してました。

三戸  その前に「素敵な人もたくさんおるけどな」とも言っていて。私も芸能界をひと通り見てきて尊敬できる方はたくさんいますが、自分の気持ちを100%出せないときもあって。だから、あの台詞は言いながら「そうだよね」と共感しました。

――朋美の兄で主人公の木村勇太(後藤淳平)は、売れない劇団の座長をしながら映画監督を夢見ています。彼の心情もわかりました?

三戸  はい。夢に向かってがむしゃらにやっているけど、なかなかうまく行かない。恋人に別れ話をされても、「今がチャンスだから」と突っ走ってしまう。周りが見えなくなるのはわかるし、私が同じ立場だったら、やっぱり夢を追うと思います。

――朋美は勇太に「まともに働いたほうがいいよ」と言ってました。

三戸  朋美はお兄にズカズカ正論を投げ掛けて、その気持ちもわかりますけど、私としては若干、心苦しいところがありました(笑)。

――では、もし三戸さんにああいうお兄さんがいたら?

三戸  「好きにやりなよ」と言います。お金のことは「自分で頑張れよ」と思いますけど(笑)、自分がこういう世界でやっているので、人に「普通に社会人として働きなよ」とは言えないですね。

――三戸さんにもああいう下積み的な時代はありました?

三戸  上京したての頃は、仲の良い編集の人にごはんをおごってもらったりしてました(笑)。「何でもやってやろう!」という感じで、今もそのスタンスはそんなに変わっていませんけど、20代前半は本当にがむしゃらだったと思います。

とこしえ提供 衣装協力:パーミニット(ドレス)
とこしえ提供 衣装協力:パーミニット(ドレス)

タバコの吸い方に気を取られて台詞が飛んで(笑)

――朋美は勇太に頼まれた無茶ぶり的なことを、何だかんだ言いながら聞いてあげてましたね。

三戸  そうなんです。私の台詞はほとんど、お兄に対して怒ってますけど(笑)、グチグチ言いながらもお兄のことが大好きで、応援したいと思っている。その気持ちは忘れないようにして演じました。

――一方、朋美は事務所の社長に理不尽なことを言われて、驚きの行動に出ました。

三戸  朋美のそういう破天荒なところも好きです。めっちゃハッキリしていて、ウソはつけない。まっすぐに生きたい子なんだなと思いました。

――そこは三戸さんの中にもある部分?

三戸  そうですね。自分に正直に生きたいとは、すごく思っています。

――タバコの吸い方がカッコ良く見えるようにもしたんですか?

三戸  はい。私は普段タバコを吸わないので、当時のマネージャーさんが吸うのを観察しました。腕をちょっと斜に構えて吸うのがカッコ良かったから、マネしてみたり。でも、いざ本番でやろうとしたら、タバコをカッコ良く吸うことで頭がいっぱいになって、台詞が飛んじゃったりして(笑)、ちょっと大変でした。

――他にも、演技の中で普段の三戸さんと違う振る舞いをした部分はありました?

三戸  私はこの役、オーディションを受けさせてもらって、掛け合いで監督が勇太の役をしてくれたんです。

――俳優でもある木下半太監督の自伝的小説が原作だけに。

三戸  そのとき、監督の会話のテンポがめっちゃ速かったんです。私も関西人で速いほうですけど、たぶん普段の自分がしゃべるときより1.5倍くらい速くて。そこは現場でも頑張って、速いテンポで話すことは意識しました。

『ロックンロール・ストリップ』より (C)木下半太・小学館/タッチアップエンターテインメント
『ロックンロール・ストリップ』より (C)木下半太・小学館/タッチアップエンターテインメント

私は真面目なのでロックな人ではないかも(笑)

――それにしても、三戸さんが今もオーディションを受けているとはビックリです。YouTubeチャンネルのQ&A企画でも「毎月受けている」とのことでしたが……。

三戸  演技のオーディションは今でも全然受けさせてもらってます。まだペーペーなので(笑)。

――今回のオーディションでは、朋美役に選ばれるために試みたことはありました?

三戸  朋美の本質というか、なぜ地元に帰ってきたかは大事にしようと思いました。自分のやりたい音楽ができなかった……という部分だったり。あと、原作では最後に朋美たちのバンドがライブをやるんです。そこが自分的に印象深かったことを、監督にちゃんと伝えました。

――映画でもライブシーンが前半にありました。今はこういうご時世ですが、本当のライブをやりたい気持ちも高まっていますか?

三戸  やりたいですね。ライブではお客さんと近くで会えるので、今はそれがないのがすごく寂しいです。映画の曲はCalmeraさんが作ってくれて、すごく久々に歌いました。監督はあのライブシーンで、本当はやらされている感を出してほしかったようですけど、歌っていたら楽しくなって、ノリノリで撮ってしまいました(笑)。

――アーティストの本能が出ましたかね。最近でも、自分で音楽を聴いて刺激を受けることはあります?

三戸  あります。私、爆弾ジョニーが好きなんですけど、ロックは朋美の音楽とも重なっていたので、映画を撮っていた時期は銀杏BOYZとかも聞いて、自分を上げていました。朋美自身、生き方もロックな部分がありましたから。

――三戸さんもロックな生き方をしていますか?

三戸  私はロックじゃないかもしれません(笑)。わりと真面目に、堅実に生きているので。ブチ壊したくなるときもありますけど、理性が働いて「ちゃんとしよう」みたいな(笑)。

――そう言えば、YouTubeチャンネルのQ&Aでも、“これだけはしないこと”に「ポイ捨て」を挙げていました。

三戸  ポイ捨ては絶対しません。家の前にゴミがあったら拾います。

『ロックンロール・ストリップ』より (C)木下半太・小学館/タッチアップエンターテインメント
『ロックンロール・ストリップ』より (C)木下半太・小学館/タッチアップエンターテインメント

ダメな人にも理由があると演技から学びました

――勇太が口にする「売れてやる!」というパッションは、三戸さんも持っていますか?

三戸  はい、あります。でも、漠然と「売れてやる!」ではなくて、自分が表現することでファンの人のために何ができるかを、年を取ってからはよく考えるようになりました。

――まだ30歳で「年を取ってから」は早いかと(笑)。

三戸  20代前半の頃は、本当に勇太みたいに「売れるぞ! 頑張るぞ!」という感じだったんです。「金持ちになってやる! 高級マンションに住むぞ!」と思ってましたけど、やっていくうちに頑張る意味が生まれてきました。もちろん自分のためでもあるけど、応援してくれるファンの方たちが私を見て、頑張る活力にしてほしい。そういう目線にだんだんなってきた感じがします。

――エンターテイナーとしての本質的な価値観に到達してきたわけですね。勇太の言う「しょうもない連中を追い抜いて」という感覚はあります?

三戸  そこも年を取ってから、「何をしているんだよ?」みたいな人たちにも理由がきっとあると、考えるようになりました。『ロックンロール・ストリップ』に出てくる人たちも何か理由があって、そこにいるわけだから、「しょうもない」とは言いたくないです。そういう人たちから学ぶこともあると思うし。

――本当に視野が広がったんですね。

三戸  演技のお仕事をするようになって、人の生き方を学ぶようになってから、考え方が変わった部分があります。悪者が実は昔は良い人だった……みたいな話があるじゃないですか。変わった過程を追うのが面白かったりもするので、演技をもっと頑張っていきたいです。

『ロックンロール・ストリップ』より (C)木下半太・小学館/タッチアップエンターテインメント
『ロックンロール・ストリップ』より (C)木下半太・小学館/タッチアップエンターテインメント

どんな仕事も自分のままでやれたら

――映画やドラマを観て刺激を受けることもありますか?

三戸  はい。最近だと『くちづけ』という、舞台から映画になった作品が衝撃的でした。知的障害者の方のお話で、リアルさだったり、「こういう生き方を選択しないといけない人たちがいるんだ」みたいなところが深くて、観終わった後も引きずりました。

――今の段階での自分が目指す女優像はありますか?

三戸  漠然としてますけど、100%完璧な人はいなくて、不完全なところがコンプレックスになったりしますよね。「それでもいいんだよ。不完全な姿も大切だよ」というのを、観た人に感じてもらえる女優さんになれたらと思っています。

――いろいろなジャンルのお仕事をしている中で、モデルは自分のベースになっている感じですか?

三戸  そうなのかな? 確かに私はモデルから始まったので、ベースかもしれません。

――演技とか音楽とかモデルとか、あまり切り離して考えず、どれも自分の表現という感覚だったり?

三戸  「自分のままで」というのはひとつの目標です。モデルだと私は自分の私服で出られたりするので、個性を出しやすい場所になっています。でも、バラエティに出ると、ちょっと猫をかぶっちゃうので(笑)、そういうことをしないようにしながら、何でもやっていこうと思っています。いろいろやるのが性に合っているので。

『ロックンロール・ストリップ』より (C)木下半太・小学館/タッチアップエンターテインメント
『ロックンロール・ストリップ』より (C)木下半太・小学館/タッチアップエンターテインメント

30歳でブロッコリーを食べるようになりました(笑)

――またYouTubeのQ&Aから引用させてもらうと、地元の奈良の良いところを「ガツガツしてない」としてました。三戸さん自身もガツガツしてないわけですか?

三戸  そうだと思います。ほんわかと育ってきました(笑)。ガツガツしなきゃいけないときはしますけど、普段はフワフワと生きています。

――30歳になって、精神的なゆとりが出てきた面もあります?

三戸  現場でほとんど年下の子ばかりになってきて、母性が出てきたのか、みんなのことをかわいいと思うようになりました(笑)。前はそんなふうに感じたことはなかったのに、アラサーになったら、頑張っている姿を見てパチパチ(拍手)みたいな(笑)。

――生活にも変化はありますか?

三戸  アラサーになってから、疲れや体のたるみが出やすくなっていたのが、去年、役のために始めたヨガをずっと続けていたら、めちゃくちゃ変わりました。あと、自粛期間中に毎日自炊をしていたら、肌の感じも良くなりました。

――ヘルシーな食生活になったんですか?

三戸  そうです。昔は大嫌いだったブロッコリーをめちゃめちゃ食べてます。しかも、他の野菜と一緒にドレッシングなしで。そしたら体調もすごく良くなりました。風邪は全然ひかないし、朝もパッと起きられます。

――逆に、今まではどんな食生活だったんですか?

三戸  すごいジャンクだったと思います。コンビニ弁当ばかりだったり、辛ラーメンがめっちゃ好きで週4で食べていたり(笑)。ストックもたくさんありましたけど、今はインスタントラーメンを家に置かなくなりました。

――では、体調も万全で、充実の30代を送れそうですね。

三戸  はい。お仕事も今、すごく楽しいです!

とこしえ提供
とこしえ提供

Profile

三戸なつめ(みと・なつめ)

1990年2月20日生まれ、奈良県出身。

2010年に関西で読者モデルの活動を開始。2015年に中田ヤスタカプロデュースによるシングル「前髪切りすぎた」でアーティストデビュー。2018年から本格的に女優活動。主な出演作は、ドラマ&映画『賭ケグルイ』、映画『パディントン』シリーズ(日本語吹き替え声優)、『明日、キミのいない世界で』、舞台『鉄コン筋クリート』など。『ごごナマ おいしい金曜日』(NHK)に出演中。

『ロックンロール・ストリップ』

テアトル新宿ほか全国順次公開

原作・監督/木下半太

出演/後藤淳平(ジャルジャル)、徳永えり、智順、三戸なつめ他

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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