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AKB48グループ卒業から2年、女優・北原里英の進化 「いつどんな役が来ても大丈夫な自分でいたい」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜  ヘアメイク/MARVEE スタイリング/丸山恵理子

AKB48グループを卒業して2年となる北原里英。舞台や映画に主演したりと女優として活躍を続けている中、ヒロインを務めた映画『HERO~2020~』が公開される。演技に対する意識の変化や“普通の女性”を演じた今回の作品への取り組みを聞いた。

女優を目指したルーツは不倫ドラマ?

――今さらですが、北原さんはもともと女優志望で、この世界に入ったんですよね?

北原  そうです。テレビっ子で女優さんになりたくて、いろいろなオーディションを受けていた中で、受かったのがAKB48だったんです。

――女優を目指したルーツというと?

北原  「なりたいかも」と思ったきっかけは、米倉涼子さんと松下由樹さんの『不信のとき』という不倫がテーマのドラマです。私は当時中学生でしたけど、不倫は今よりセンセーショナルで、なかなかのドロドロ劇でした。中学生なりにそのドロドロ感が面白くて、友だちとシーンを再現していたんです(笑)。それがすごく楽しくて「こんなことを仕事にできたらいいな」と思ったのが原点でした。

――原点は不倫ドラマでしたか(笑)。どんなシーンを再現していたんですか?

北原  唯一覚えているのが、米倉さんが不倫をしている旦那さんにキレるシーンですね。衝撃的な台詞があったので記憶に残っています。そんな『不信のとき』のマネを、学校で人に見せながらやっていました(笑)。

――北原さんの10年前の6月の生誕祭絡みのブログでも「私は女優になるのが夢」と書かれていました。そして、この6月にはヒロインを務めた映画『HERO~2020~』が公開。夢は叶っていますね。

北原  確かにやりたいことをやらせていただいて、ある意味、叶ってますけど、正直、難しいところです。夢ってキリがないので……。まだまだ前進していきたいです。

――女優の道を順調に歩んではいるのでは?

北原  毎回「好きだな」と思える作品に携わらせていただけてます。素敵な方たちと一緒にお仕事できて、全部がちゃんと良い形で終われているのは、ラッキーだったなと思います。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

正解だと思ったことを壊す舞台で鍛えられて

――特に手応えがあったとか、意識が変わった作品はありますか?

北原  『新・幕末純情伝』は初の本格的な舞台で初主演、グループを卒業して間もなく取り組んだ大仕事でもあったので、思い入れは強いです。卒業するまでは舞台は自分が出たいというより観ることが好きだったのですが、実際に経験して考えが変わりました。

――舞台のどんなところに惹かれたんですか?

北原  もともと“団結!”みたいなことが大好きだったんです。学校の体育祭に向けて、みんなで準備したりとか。それとまったく一緒にするわけではないですけど、舞台の稽古期間はずっと体育祭前夜のような感覚なんです。みんなでひとつになって作り上げる作業が、自分にすごく向いている感じがしました。

――演技が鍛えられた部分もあったのでは?

北原  ありました。舞台の稽古は何回も同じシーンを繰り返す中で、何が正解なのかわからなくなる瞬間もあるし、早い段階で「これがベスト」と思っても、そこからさらに進化させていくんです。場合によっては、一度正解だと思ったことを壊さないといけなくて。そういう面で、確かに舞台は鍛えられますね。

――役ともより深く向き合うことに?

北原  そうですね。稽古から本番と少なくても1ヵ月は、その作品のことだけを考える贅沢な時間を味わえるので、すごく魅力的だなと思います。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

気まずさが伝わる間を試行錯誤しました

『HERO~2020~』はもともと、監督・脚本の西条みつとしが主宰する劇団TAIYO MAGIC FILMの2012年の旗揚げ公演作。2019年に再演され、主人公の廣瀬智紀とヒロインの北原らが映画版に引き続き出演した。広樹(廣瀬)と2年限定の約束でつき合い始めた浅美(北原)。まる2年が経とうとしていた日、ケガで入院した広樹を見舞い、彼の別れの決意が変わらないと知って沈む……。

――『HERO~2020~』も元は舞台でした。浅美を演じるに当たり、試行錯誤はありましたか?

北原  たくさんありました。特に冒頭の病院に広樹のお見舞いに来たシーンは、何度も稽古を重ねました。この2人が今どれだけ気まずいか、観ている人に最初に伝えることが大事だったので。

――その気まずい空気をどう出したんですか?

北原  やはり間(ま)ですね。どれくらい会話の間を空けるか。でも、観ているお客さんを飽きさせてもいけないので、集中力を途切れさせない程度に気まずさが伝わる間を、稽古で試行錯誤しました。映画でも冒頭のシーンは舞台と一番変わらないところだと思います。

――浅美が約束を忘れているかのように振る舞いながら、不安を隠せないぎこちなさがリアルでした。映画だと微妙な表情をカメラで捉えられたりできる点では、舞台よりやりやすかったのでは?

北原  私は今まで、映像のほうが難しいと思っていたんです。舞台は稽古で何回も練習できるし、開演したら時系列で気持ちも自然に生まれていく。映画だと物語の順番通りに撮るとは限らないし、練習時間も少なくて、インして直前にテストして本番で答えを出さないといけなくて。でも、今回ひとつの作品を舞台と映画でやらせてもらって、舞台には舞台の難しさがあることに気づけました。

――たとえば、どんな点で?

北原  映像はカットが入るし、間もある程度は調整できますよね。それに、たとえばコンビニの場面なら実際にコンビニで撮りますけど、舞台は何もないところをコンビニに見せないといけなかったり、ないものをあるようにして演じないといけないときもある。しかも、舞台に上がったら全身を見られて、映像のような映っていない時間はない。そういう点で、舞台の役者さんはすごいと改めて思いました。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

感情を抑えて心を動かす芝居は難しくて

――今回だと、普通の女性を演じる難しさもありませんでした?

北原  そこはすごく難しかったです。舞台の『HERO~2019夏~』のときは『どろろ』の天真爛漫な子ども役の後だったこともあったし、『新・幕末純情伝』など舞台では感情を爆発させる役が多かったので。感情を抑えるお芝居をして、それを広い劇湯で伝えるにはどうしたらいいか、最初はすごく不安でした。

――でも、乗り越えたんですよね?

北原  終わってみたら、何とか乗り越えられたと思いますが、初日の前のゲネプロまで、自分の中で完全には納得いかないままでした。「これで初日を迎えて、浅美を魅力的に演じられるのか……」という。でも、お客さんのパワーに乗せてもらって、初日にやっと浅美になれました。舞台に立っている自分を客観的に見ることはできない中でも、ゲネと初日の違いをはっきり感じたくらいでした。

『HERO~2020~』より
『HERO~2020~』より

――自分が浅美と同じ立場で約束の2年が経ったら……とは考えました?

北原  浅美は意外とその約束を受け入れてましたよね。私だったら「絶対イヤだ!!」となりそうです(笑)。「本当に別れる? 別れないよね!」みたいに確認すると思うので、浅美とは違っていて。ちゃんと浅美を理解して寄り添えるかは、映画でも不安なところでした。

――広樹がそんな約束をした理由を知った後のシーンは、浅美の見せ場でした。

北原  あそこは緊張しました。なぜかというと、広樹はすごく意志が固かったので。浅美のことが好きで、しかも2年も一緒にいたら、絶対に情が移るはずなのに、それでも別れようとしている。そこまで芯が強い広樹の心を動かして、観ているお客さんにも違和感があったらいけない。しかも、浅美は真っすぐぶつかっていくキャラではないから、アプローチの仕方が難しかったです。

――そこで意識したことはありますか?

北原  監督の西条さんと共に、いろいろ試行錯誤はしました。稽古中は「強すぎる」と何度も言われたし、一連の流れを細かく調整しながら作り上げた印象です。

タレント性も高い女優さんになれたら

――引きつけられて息を飲むシーンになっていました。それで、北原さんが48グループを卒業して2年が経ちました。「卒業生の誰とも被らない活動をしたい」と話していたこともありましたが、どういう方向で行くか見えてきましたか?

北原  被らない活動をしたいのは変わらず強く思っていることですね。今はバラエティもちゃんとできる女優さんになるのが目標です。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

――笑いも取れるような……ということですか?

北原  そこまでできるかはわかりませんが(笑)、しっかり流れを理解したうえで発言したり、ロケを滞りなく行えるような、タレント性も高い女優さんになれたらと思います。

――演技力がありつつ、バラエティでは指原莉乃さんのような存在になるイメージ?

北原  指原はその道のプロで尊敬してますけど、私もバラエティに出演したら、もう一度呼んでもらえるくらいのことができるようになりたいです。

――女優としても、自分の強みが見えてきたり?

北原  見えたりもするし、特には見えなくなったりもします。たとえば『どろろ』をやっていたときは、キャラクターに引っ張ってもらって「太陽みたいだね」と言っていただけて、そこが自分の強みだと思ったんです。でも、他の現場に行ったら、そうはいかないことも多くて。だから、自分の強みはまだ模索中です。

――ドラマ『フルーツ宅配便』では、太陽とは逆の陰なコミュ障のデリヘル嬢役で、すごく印象深かったです。

北原  さっき意識が変わった作品を聞かれたとき、『幕末』か『フルーツ宅配便』かで迷ったんです。あのレモンちゃんは自分と正反対でしたけど、演じていて楽しくて、たくさん反響もいただいたので「伝わるんだな」と感じました。自分と近くない役にもどんどん挑戦したいと思うようになりました。

大きい目は武器にも邪魔にもなります

――10年間に渡りアイドル活動をしてきたことは、女優業にも活きていますか?

北原  それはすごくあると思います。まず人前に立つことには慣れたので。ただ、その感覚は忘れていくんですよね。『どろろ』の地方公演で舞台ではなかなかない大きい会場だったとき、「こんなに広いところでやるの?」と思って。

――広いといっても、北原さんは東京ドームでライブをしたこともあったのに(笑)。

北原  そうなんです(笑)。周りには「もっと広いところでやっていたでしょう?」と言われましたけど、お芝居では全然違うので。でも、アフタートークではアイドルでの活動が一番活きると思います(笑)。

『HERO~2020~』より
『HERO~2020~』より

――『HERO~2020~』の西条監督は北原さんについて「目の芝居が上手い」と評しています。

北原  ありがたいですけど、それもさっきの強みの話と似ていて。もともと目が丸いので、上手く使えば目で伝わるものがある反面、目が邪魔することも多くて。私がチラッと見た視線ひとつに意味が生まれてしまって、舞台の稽古でよく「そんなに目線を動かさないで」と注意されるんです。だから、目は武器になったらいいなと思いつつ、まだ課題のひとつです。

――演技力向上のために日常生活でも何か心掛けていますか?

北原  役者は生きているだけで勉強になる職業だと思うので、感情が動きそうなことは積極的に見たり体験しようと、常に思っています。特に舞台を観るのはすごく好きで、趣味のひとつでもあります。

30代を前に美容に力を入れています

――『HERO~2020~』公開後に29歳になりますが、30代に向けて考えることもありますか?

北原  すごく意識していて、まず美容に力を入れています。

――前はそうでもなかったんですか?

北原  AKB48グループにいたときは何もしなくても美容に関する情報が入ってきたし、同年代の細い子や色の白い子が周りにいっぱいいたので、意識せざるを得なかったんです。卒業してからは見た目より内面を磨くほうに目を向けて、「心がきれいな人に」と思っていたんですけど、いざ30歳を前にすると、内面の一番外側が外見ではないかと。それで、見た目にまた気を使うようになりました。

『HERO~2020~』より
『HERO~2020~』より

――具体的には、どんなことをしているんですか?

北原  ここに来てダイエットを頑張っています(笑)。あと、単に趣味でもあるんですけど、(コロナ禍の前は)サウナに入って肌を活性化させるように気をつけたり、ジムにも定期的に行くようにしていました。

――それは女優業にも役立ちそう?

北原  役立つと思います。常にいつ呼ばれてもいい状態でいるのは大事ですし、今までは時間に余裕があると怠惰な生活を送りがちだったのをグッとこらえて、たとえ次の日が遅い時間からでも、飲みに行くよりお風呂に入って早く寝るような毎日を過ごしています。

理想像より来たものに全力で向き合います

――将来的に目指す女優像も明確になってきました?

北原  前はどんな役にもなれるカメレオン女優に憧れましたけど、最近は夢だった役者を職業としてやっている中で、来たものに全力で向き合うことがテーマになっています。だから、特定の「こうなりたい」という像は前ほど強くないかもしれません。

――職人的に、受けた注文は何でも応える感じですか?

北原  お話をいただいたら何でも挑戦してみたいです。ただ映画はすごく好きなので、いつか映画で賞を獲りたい夢は持っています。

――あと、何年か前に「東京オリンピックが終わった頃に結婚したい」との発言もありましたが……。

北原  言ってましたね~。思ったより早く、その年が来てしまいましたけど、オリンピックが延期されて、私も今のところ予定はありません(笑)。でも、結婚願望は常にあります。女優さんもずっと続けていきたいけど、子どもが大好きなので、お嫁さんになって家族を持つことも大きな夢です。

――いろいろな意味で充実した人生を送ろうと。

北原  そうなりたいです。結婚がゴールではないけど、独身だからできることを今のうちに全部やっておきたいとも、すごく思っています。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

Profile

北原里英(きたはら・りえ)

1991年6月24日生まれ、愛知県出身。

AKB48のメンバーとして2008年にデビュー。2015年にNGT48に初代キャプテンとして移籍後、2018年に卒業。一方、グループ在籍中から映画『ジョーカーゲーム』、『サニー/32』に主演するなど女優としても活動。主な出演作は『映画 としまえん』、『騎士竜戦隊リュウソウジャー THE MOVIE タイムスリップ!恐竜パニック!!』、ドラマ『フルーツ宅配便』、舞台『「新・幕末純情伝」FAKE NEWS』、『どろろ』など。

『HERO~2020~』

監督・脚本/西条みつとし 配給/ベストブレーン

6月19日よりシネ・リーブル池袋ほか全国順次公開。

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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