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ビジネスドラマ枠にド天然キャラ。コメディ色を出す『行列の女神~らーめん才遊記~』の新機軸

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)テレビ東京

大人向けのビジネスドラマ枠として確立されていたテレビ東京系の「ドラマBiz」で、4月から放送中の『行列の女神~らーめん才遊記~』。今回はラーメン業界を舞台にしたフード・コンサルティングの物語だが、ド天然で超KYの新入社員という役どころに23歳の黒島結菜をキャスティング。これまでにないコミカルなタッチを加えている。

支持されてきた大人路線のリアルな物語

 テレビ東京系の月曜22時~が「ドラマBiz」枠となったのは、2018年4月から。同局の22時台は『ガイアの夜明け』や『カンブリア宮殿』など経済系の看板番組が並んでいた中で、新設のドラマ枠も経済・ビジネスものに特化する方向性が打ち出された。

 第1弾の『ヘッドハンター』は江口洋介主演で、ヘッドハンティングと転職がテーマ。第2弾の『ラストチャンス 再生請負人』は仲村トオル主演で、倒産危機の飲食フライチャンズ会社を再建する物語。

 以後も銀行、町工場、総合商社などを舞台に、硬派でビジネス的リアリティのある作品が続き、40代など大人の視聴者の共感を呼んだ。主役も唐沢寿明、反町隆史、中谷美紀など、その世代に若い頃から馴染みの面々。1月クールの前作は小泉孝太郎主演の『病院の治しかた~ドクター有原の挑戦~』で、実話を元に病院改革が描かれた。

 3年目に入り4月から始まった『行列の女神~らーめん才遊記~』では鈴木京香が主演。演じる芹沢達美は人気ラーメン店のカリスマ店主で、ラーメン専門のコンサルタント会社の社長でもある。華やかだが過酷な業界にあって、苦境にあえぐ店を救い繁盛に導く……という展開は、これまでの「ドラマBiz」を踏襲している。

 一方、芹沢の会社の新入社員で、原作漫画では主人公の汐見ゆとりを演じるのは黒島結菜。ドラマ『アシガール』や映画『カツベン!』など数々の作品でヒロインを演じ、NHK朝ドラや大河ドラマにも出演しているが、まだ23歳だ。

23歳・黒島結菜のコミカルな演技が若者受けを呼ぶ

 「ドラマBiz」では『ハラスメントゲーム』の広瀬アリスが20代でヒロインだったが、黒島は事実上W主演で、大人キャスト中心の同枠で若手が務めなかったポジションに配されている。しかも、ゆとりはラーメン作りの腕は天才的ながら、度を越えた天然で空気をまったく読まないという、ビジネスドラマには出てこないようなキャラクター。

 1話ではクライアントとなる店のラーメンを「老人がトボトボ歩いているような味」、2話では先輩が考案した新メニューを「パラパラ、スカスカでガラガラの予感」などとサラッと言う。研究のためにラーメン店を回って思ったことが「どうして店主が怖い顔をして腕組みした写真が多いんですか?」だとか(これはうなずけるところでもあるが)。

 さらに、会社でコピーを取りながら、「どんぐりころころ」の妙な替え歌で♪コショウが出なくてコンチキショー、おっちゃん一発殴らせろ~と歌ったりして、笑わせる。それでいて、生まれて初めてラーメンを食べたのが半年前なのに、自分で作れば味で唸らせ、スープの成分をピタリと言い当てる舌も持つ。いかにもマンガ的なキャラクターを黒島が表情豊かに好演し、かつ直に言えばかわいいので、大人色の強いビジネスドラマを観なかった若者層も十分楽しめるだろう。

飯テロ要素も加えつつ経済モノの基本はブレず

 鈴木の演じる芹沢社長が、ゆとりにイラつくやり取りも面白い。実は芹沢自身も若い頃はゆとりと似ていたらしく、自分もクライアントの店主の前で「このまずいラーメンの話は置いといて」などと何気に毒舌だったりもする。こうしたコメディ・テイストは、過去の「ドラマBiz」作品にはなかったものだ。

 原作漫画では、芹沢はスキンヘッドの男性。中川順平プロデューサーは「ラーメンも変人キャラも鈴木京香さん本来のイメージとはものすごくギャップがあるのですが、だからこそぜひ見てみたいと思いました」とコメントしている。

 さらに毎回、劇中で出てくるラーメンが実においしそう。『孤独のグルメ』、『忘却のサチコ』、『きのう何食べた?』など、テレビ東京が得意な飯テロ要素も取り入れて、案の定「ラーメンを食べたくなった」といった反響が相次いだ。

 そうした新機軸を打ち出しつつ、芹沢は「おいしいだけじゃラーメン屋は成功できない」と言い、ビジネスドラマとしての基本はブレずに抑えられている。2話は高級住宅街で閑古鳥が鳴くラーメン店をリニューアルするストーリー。

 女性客が入りやすいように店内をオシャレに改装し、ゆとりの先輩が考えたトマトとルッコラのイタリアンラーメンの味も評論家が絶賛したが、客足はやはり遠のく。

 芹沢の食べ歩きにつき合わされたゆとりたちは、「女性は食いしん坊」「味付けも量も上品すぎて食事としての満足度が低かった」と気づく。そして、ボリューム感があるうえ、「上品な奥さんが食べる言い訳の要素」として“野菜たっぷりヘルシー”を謳ったバーニャカウダ風つけ麺を看板メニューにして、客を集めた。

 5月4日放送の3話からは、ゆとりのライバルとなるフードコンサルタントの難波倫子役で、元SKE48の松井玲奈が登場し、若者受けがさらに高まるのは間違いない。倫子は原作では一見穏やかだが実は毒のあるキャラクターで、予告編でも「このボケ!」とガンを飛ばしている。天然なゆとりとのやり合いでは、コメディ部分がより面白くなりそうだ。

 間口を入りやすく広げながら、ビジネスとしてのラーメン業界を描く『行列の女神~らーめん才遊記~』。今後の展開がドラマの新たな試みとして注目される。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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