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1年間、規定でTLに出場できなかったSO田村(サントリー)とSH茂野(トヨタ)が新天地で輝きを見せた

斉藤健仁スポーツライター
サントリーの若き司令塔・田村(左)とトヨタの経験豊富なSH茂野(撮影:斉藤健仁)

 今年も8月31日に開幕した、2019年、日本でのラグビーワールドカップ(W杯)を控えたジャパンラグビートップリーグ(TL)。

 

 9月1日に愛知・豊田スタジアムで行われた、王者サントリーサンゴリアスと昨季トップ4のトヨタ自動車ヴェルブリッツの激突は、予想通り、最後まで勝負がわからない熱戦となったが、サントリーが後半49分、スクラムを押し込みペナルティートライで27-25と逆転勝利を収めた。

 今季を占う大一番には、両チーム合わせて9人のルーキーがメンバー入りし、新外国人が登場するなど見どころも多々あったが、昨季、リーグの移籍規定によって1年間出場できなかった2人が新天地でリスタートを切った。

 それがサントリーの若きSO田村煕(24歳)と、トヨタ自動車のSHで日本代表6キャップを誇る茂野海人(27歳)だった。

◇2年ぶりのTLで逆転勝利に貢献。「長かったですね」(田村)

 前半29分、元オーストラリア代表SOマット・ギタウが負傷し、SO田村は予想よりも早くピッチに登場した。そこから、落ち着いてゲームを運び、2PGを決めて、さらに後半22分にはトライを挙げて、サントリーの逆転勝利に大きく貢献した。

 田村は一昨年度、新人ながら東芝ブレイブルーパスの中軸として14試合に出場し、昨年、サンウルブズで、スーパーラグビーデビューも飾った。そして同年からサントリーに移籍し、2年連続2冠を達成したチームメイトと練習をしていたが、リーグ規定によりトップリーグには出場できなかった。

 試合後、開口一番、田村は「2年ぶり(のトップリーグ)だったので、久しぶりという感じでした。まぁ、長かったですね。茂野さんとも試合が終わった後、『久しぶりですね』と話をしました」と安堵の表情を見せた。

 50分間、王者サントリーの司令塔としてプレーした開幕戦を「僕のせいでやられたシーンもありました。勝った経験があまりない中で、追われる立場の10番はあらためて難しいと思いました」と冷静に振り返った。

 15点差を付けられながらも逆転できた要因は「僕が特に何かやったわけではなく、チームとして勝ち方を知っていた。プレーしている中で僕もいけると感じた。ただ、トヨタ自動車(のディフェンス)も開かなかった。それでも勝ち切れたのは、サントリーがタフな練習をしていたものが出せました。でもあまり差はなかったです」と、日頃の練習の成果を口にした。

 「(U20日本代表候補合宿で、現在、サントリーの監督を務める沢木)敬介さんとの経験もあったし、コスさん(小野晃征)もいて、(SOとして)学べることがたくさんある」と移籍を決意した田村は、試合に出られない中でも、SOの先輩でもある沢木監督にずっと同じことを言われ続けたという。

「気持ちは難しいと思うけど、SOとしていいパフォーマンスを出せるように『目の前のプレーに集中する』、『質の高いプレーをし続ける』、『自分のスキルを出すためにしっかり準備する』と言われていました」

 試合に出られない中でも、腐らずに、チャンピオンチームの中で練習を続けて成長した姿を、見事に開幕戦で発揮したというわけだ。「去年1年間、チームが優勝する中で、いい練習ができて、それを土台にして試合に出られたのでチームのおかげです!」と晴れ晴れした表情を見せた。

 サントリーで10番を付けて試合に出続ければ、日本代表に選ばれ、おのずと、来年のラグビーW杯出場の可能性も見えてくるはずだ。ただ、現在、日本代表で絶対的司令塔として10番を付けているのはキヤノンイーグルスに所属する兄・優だ。

 弟・煕は「(兄が所属する)キヤノンの開幕戦を見ました。(DGを決めるなど兄は)調子いいですね。全然、経験が違います。僕は出させてもらっている感じです。信頼して出してもらえるようにならないといけないし、あれくらい(兄と同じくらい)でやらないといけない」と前を向いた。

◇「支えてもらった人への感謝の気持ちを胸に」(茂野)

 今年からトヨタ自動車の副キャプテンに就任したSH茂野は、9番を背負って2年ぶりにトップリーグのピッチに立った。

 茂野はラグビーW杯に向けた日本代表第2次トレーニングスコッドにも選出されており、ニュージーランドの国内プロリーグITM杯(現Mitre10杯)やNECグリーンロケッツ、サンウルブズ、そして日本代表でもプレーするなど経験豊富なSHは、長短のパスで後半36分まで試合をコントロールした。

「いやー(2年ぶりのトップリーグなので)緊張しました。でもいい緊張感の中で試合ができ、いいプレーも随所にあったと思うのですが、結果的に負けてしまったので詰めの甘さが出てしまったと思います。でもトヨタとしては自信を持つことができたので、(順位決定トーナメントの)ファイナルで勝てるようにしたい」

 試合には負けたものの、トヨタ自動車のリーダーの一人となった茂野は「悔しいですがポジティブにいきます!」と前を向いた。

 茂野はNECからトヨタ自動車に移籍した理由をなかなかハッキリとは口にはしてこなかったが、NEC時代にハーフ団を組んでいたSO田村優がキヤノンに移籍したことや、日本代表やサンウルブズを経験したことにより、プロ選手として勝負したいという思いがあったようだ。

 茂野は、2年ぶりにトップリーグのピッチに立った思いをこう吐露した。

「家族だったり、チームメイトだったり、元チームメイトもそうですし、今まで僕に関わってくれた人の全員が支えてくれた。試合に出られなくても応援してくれたファンもいました。支えてくれる人がいたので1年間頑張れたと思いますし、その人たちに応えられるような、いいプレーができればいいなと思います」

 個人としてのプレーも昨年1年間、トップリーグに出場できなかったことを感じさせるものではなかった。

「ディシジョンはまあまあ良かったですし、後半、最後は受け身に回ってしまったと思うので、もうちょっとアタックフォーカスしてやってくこと、あとは周りの選手のコントロールのところを日頃の練習から言っていって、ファイナルで完全なチームとして、できるようになったらと思います」

 開幕節のプレーを見る限り、やはり茂野は来年のラグビーW杯で日本代表のSHとして必要な選手の一人になる、と感じたファンも多かったはずだ。茂野は5月、そして8月末にも発表された、来年に向けた日本代表のトレーニングスコッドに入り続けており、日本代表を率いるジェイミー・ジョセフHCも必要な選手の一人として見ていることは間違いない。

「(日本代表のトレーニングスコッドに入っていることは)意識はしていますが、あまり意識しないで、トヨタ自動車での自分の役割をこなすことにフォーカスを置いて、そこで役割を果たせれば自然といい結果が生まれてくる。ラグビーはチームスポーツなので、一人でやるものではないので、自分の役割を確認しながらいいプレーをしたい」

 トップリーグで高いパフォーマンスを出してトヨタ自動車の勝利に貢献することこそが、日本代表に復帰することだけではなく、ラグビーW杯出場につながっていくと感じている。

 今後、茂野は「いろんな人に支えられて今の自分があるので、支えてもらった人への感謝の気持ちを胸に、今後もラグビーを続けられたらいいな」とトップリーグの舞台に再び立つことができた喜びを表現し続ける。

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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