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TLでも見てほしい!進化を続ける日本代表WTB福岡堅樹。「グリット」を持った文武両道を地で行く韋駄天

斉藤健仁スポーツライター
6月のアイルランド代表戦でも活躍したWTB福岡(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

 今、ラグビーのトップリーグ(TL)で最も見てほしい選手の一人が、9月に25歳になったばかりのWTB福岡堅樹(パナソニック ワイルドナイツ)だ。福岡は15人制のラグビー日本代表として2015年のラグビーワールドカップ(W杯)、そして7人制ラグビー(セブンズ)の日本代表として2016年のリオデジャネイロ五輪に出場した唯一の選手でもある。

 そして2017年、福岡は初めて参加したスーパーラグビーのサンウルブズでも活躍し、4トライを挙げる活躍を見せてシーズンMVPにも選出。8月に開幕した今シーズンのトップリーグでも第5節を終わって、同じパナソニック&日本代表のWTB山田章仁の7トライに次ぐ5トライを挙げてトライランキング2位につけて好調をキープしている。

◇「スポットライトの当たらないところでも仕事をしている」(ディーンズ監督)

 トップスピードに入る一瞬の速さはもちろん、力強いラン、トライを取りきる力が福岡の魅力であり、タックルや接点の攻防で身体を張ることも厭わない。かつてスーパーラグビーにおいてクルセイダーズ(ニュージーランド)を5度の優勝に導いたパナソニックのロビー・ディーンズ監督も手放しでこう褒めたたえた。

「今までたくさんのトップ選手たちと仕事をしてきたが、福岡はその中でもトップのカテゴリーに入れるくらいだと思います。オープンスペースで(WTBとして)明るいスポットライトが当たるところでも、そうじゃないスポットライトの当たらないところでも仕事をしている。一番素晴らしいのはどんな時でも100%、全力を尽くすことです」

 また福岡は「文武両道」を地で行く選手としても知られる。2019年のW杯、2020年の東京五輪をターゲットにラグビーキャリアを終えて、その後は医学部に進学する意志を固めている。

◇困難に立ち向かいながら、W杯も五輪にも出場した

  個人的には大学1年時から福岡を取材していて感じるのは「Grit(グリット)」を持った選手であるということだ。Grit(グリット)という言葉の意味は「困難にあってもくじけない闘志、気概」を意味する英語で、物事に対して情熱的に目標を持って粘り強く努力する「やり抜く力」を指す言葉としても知られる。

 

 高校3年時、「ディフェンス練習ばかりでアタック練習をした記憶がありません」(福岡)という福岡高(福岡県)で「花園」こと全国高校ラグビー大会に出場。祖父が医者、父親が歯医者という医者一家だったこともあり、「ラグビーも医学の道もあきらめたくなかった」と一浪の末、筑波大学を志望した。ただ医学部に合格することはかなわず、後期試験で合格した筑波大の情報学群に進学した。

 高校時代に両膝のじん帯を断裂する負傷を負ったものの、勉強しながらリハビリを続けて大学1年時には復帰する。そして「世界に通用するスピードを持っている」と日本代表のエディー・ジョーンズHC(当時)に認められて、大学2年時に代表デビューを飾った。その後は、負傷などもあり、日本代表でレギュラーに定着するまでは行かず、2015年のW杯では日本代表が唯一負けたスコットランド代表戦1試合のみの出場に終わった。「勝ったときにグラウンドに立っていたかったという思いはありました」(福岡)

 また2016年は7人制ラグビー(セブンズ)日本代表としてリオデジャネイロ五輪のメンバーにも選ばれ、ニュージーランド代表撃破などどの試合にも出場し、チームの4位躍進に貢献した。チームプレーに徹していたものの、開幕一週間前にWTB後藤輝也(NEC)にレギュラーの座を奪われる憂き目も見た。

 W杯も五輪も出場こそしたが、100%完全燃焼とは言い切れないことも事実だった。福岡は再び、前を向いて歩み始めた。

◇サンウルブズ、日本代表でさらなる成長を遂げた

 2016年度の自身の1年目となるトップリーグは、8月まで7人制ラグビーに専念していたこともあり、すぐにチームにフィットすることはできなかった。だが、昨秋、ジェイミー・ジョセフHCが就任したばかりの日本代表では先発の座をつかみ、ジョージア代表戦、ウェールズ代表戦でトライを挙げるなど持ち前の決定力を披露した。

 するとトップリーグでは欧州から戻ってきた12月のホンダヒート戦で6トライを量産して「ダブルハットトリック」を記録するなど、一気にギアを上げて終盤の5試合だけで計10トライと存在感を見せつけた。そして、2017年は日本を本拠地とするスーパーラグビーチーム「サンウルブズ」でもプレーし、9試合に出場し4トライを挙げてシーズンMVPにも選出された。

 さらに今年の6月、2019年のW杯で日本が対戦することが決まっているアイルランド代表との第2テストマッチでは、試合には負けたもののトライを挙げるなどインパクトあるプレーを見せた。試合後、アイルランド代表のキャプテンFLリース・ラドックは「(福岡は)ボールに対する執念が私たちにとっては脅威だった」と言えば、敵将のジョー・シュミットHCも「福岡が印象的だった」と言わしめた。

◇今季のTLでも福岡の勢いは止まらない

 そして今シーズンのトップリーグでも5節を終えて、全勝でホワイトカンファレンス首位を走り続けるパナソニックのWTBとして福岡は試合に出続けて、トライを重ねている。好調の原因を本人は「サンウルブズを終えた後、休みをもらえて、メンタル的な切り換えもできた。昨年度、(ルーキーながら)使ってもらっていたので、合わせる時間が短くても入りやすかったし、チームに上手く馴染めている。またチームには出たくても出られない選手もいるので手を抜く余裕はありません。常に100%でプレーすることはいつも心がけています」と分析している。

 今シーズン、パナソニックは、昨シーズンは攻撃のパターンをある程度、決めていた部分があったが、臨機応変に判断して攻めている。福岡もWTBとして外で待っているだけではなく、スペースがあれば積極的に仕掛けている。「自分からチャンスは作っていきたい。また(パナソニックは)一人ひとり状況判断できる選手も多いので、そういう人たちに声を掛けてチャンスをもらいたい」(福岡)

 また日本代表やサンウルブズの一員として、高いレベルで世界と戦ってきたため「最近、自分の中でもフィジカルでも戦える自信がついていきた。無理に勝負するだけでなく、判断して(外に出されないで)残して味方につなげるか、以前よりもやれるようになったと思います。また春、練習していたハイボールキャッチも自分の形で飛べれば取れるようになってきた」と自信をのぞかせた。

◇どこまで速くなるのか? 2019年に向けて進化する!

 プロ選手としてラグビーに打ち込むだけでなく、医学の道もあきらめず、2020年の東京五輪が終われば、医学部への編入を考えているため、時間を見つけては勉強も続けている。一方で、高校時代に両膝を断裂しても勉強しながらリハビリし、大学時代に日本代表になりワールドカップに出場しても、そしてオリンピアンになっても、ラグビーに対して常に真摯に向き合い続けて、一歩一歩、目標に向かって努力しつづけてきたことが今の福岡を支えていることは間違いない。

 まさしく福岡は「Grit(グリット)」も持った選手であると言えよう。

 調子のいい福岡に最近、「身体がイメージ通りに動いているのでは?」と聞いたことがある。本人は「本当に速いときは『風になった』ように感じになりますが、そこまでではありません。キープは2年後の2019年(W杯)にもっていきたい」と笑顔を見せた。

 本人はまだまだ「伸びる」と感じているというわけだ。ケンキの進化はとどまることを知らない。

◇パナソニックの今後の試合日程(10月)

 5節を終えて、ホワイトカンファレンス首位に立つパナソニックの10月の試合日程は下記の通り。明日(10月1日)も、もちろんWTB福岡は先発予定だ。また10月21日に行われる、5節を終えてレッドカンファレンス首位のサントリーサンゴリアスとの一戦は、今シーズンを占うビッグマッチになること間違いだろう。

10月1日(日) 対NTTコミュニケーションズ 13:00~(@宮城・ひとめS)

10月7日(土) 対豊田自動織機 14:00~(@埼玉・熊谷陸)

10月14(土) 対神戸製鋼 14:00~(@大阪・万博)

10月21日(土)対サントリー 13:00~(@埼玉・熊谷陸)

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スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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