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「この体格でもできることを証明したい」。サンウルブズ経由で日本代表復帰を目指すFL金正奎の思い

斉藤健仁スポーツライター
機動力が武器のFL金。サンウルブズでさらなる飛躍なるか(撮影・斉藤健仁)

参入して2年目を迎えている日本を本拠地とするサンウルブズ。3月4日のキングス(南アフリカ)戦でスーパーラグビーの舞台で初めて「7」番を背負い、ピッチに立つ男がいる。

それは世界的に見ればFL(フランカー)としては小兵(身長177cm、体重95kg)の金正奎だった。常翔啓光学園、早稲田大時代から、トライの嗅覚に長けた選手として知られていた。

「ラグビーは体格だけじゃない」「この体格でもできることを証明したい」と常々語っていた金は、2月25日の開幕戦、17-83で大敗した昨シーズンの王者・ハリケーンズ(ニュージーランド)戦で、マルジーン・イラウアの負傷で前半34分に途中出場。機動力とタックル、そしてランで持ち味を発揮し、後半29分にはSH茂野海人のパスからインゴールに飛び込み、自身スーパーラグビーでの初トライも挙げた。

「過程が良かった。全員の頑張りがあったからのトライだと思います。(個人的には)昨年まではディフェンスにフォーカスしがちだったのですが、今年はもっとアタックに絡んでいきたい。そこの自信を取り戻したいと思っていたので結果が出て良かった」

そんな金は2015年から16年にかけて飛躍の時を迎えていた。

トップリーグ2年目の2015年度、所属するNTTコミュニケーションズシャイニングアークスで9試合に出場し、「ベスト15」の栄誉にも輝いた。その勢いのまま2016年、ジュニア・ジャパン、そしてアジアラグビーチャンピオンシップに出場した日本代表で低いプレーで結果を残し、同年6月にはカナダ戦、スコットランド戦にも出場を果たす。さらに7月、サンウルブズにも追加招集されて、途中出場ながらスーパーラグビーに2試合に出場した。

だが、好事魔多し、である。

決して気を抜いたわけではないだろう。ただ、昨年7月、自身初となる南アフリカ遠征で、強豪・ブルズ戦に途中出場したものの、左膝(じん帯損傷)と左足首を負傷してしまい、3ヶ所の手術を余儀なくされた。2016年度はNTTコミュニケーションズで新キャプテンを務めることになっていたが、試合に出場できずリハビリ生活が続いた。

目標としていた日本代表となり、スーパーラグビーの舞台にも立ち、いよいよこれからという時期に大きなケガを負ってしまった。メンタル的に落ち込んでしまってもおかしくない中でも、金はポジティブな姿勢を貫いた。

「ケガは思っていたよりひどかったですね。ケガをしたらしょうがない。焦りとか不安はなかったです。そう思う時間がないくらい忙しかった。とにかくできることを100%やったら、早く復帰できました。ただ、ここまで早く復帰できるとは思っていなかった」

ケガをしてから5ヶ月後の昨年12月にトップリーグで復帰を果たし、最後の5試合は先発出場してキャプテンも務めた。ただ、ケガは良くなってはいるが、本人曰く「油断はできない」とのこと。まだ調整は続けている状態で、そうしないとパフォーマンスは上がってこないという。

また昨年11月、日本代表のテストマッチでは、自分と同じ身長180cmくらいの体格のFL、現在はサンウルブズのチームメイトでもある三村勇飛丸(ヤマハ発動機)、布巻峻介(パナソニック)、松橋周平(リコー)の活躍に大いに刺激を受けた。

「たくさんのライバルがいて、もっともっとやらないといけないことが見つかりました。でも、同じくらいの背丈、サイズの選手が日本代表の試合に出ているのは嬉しかった!モチベーションになりましたね」

迎えた2月18日、プレシーズンマッチとなったトップリーグオールスターズ戦は、サンウルブズ側で先発、復調している姿を見せて、フィロ・ティアティアヘッドコーチの信頼を得る。そして開幕戦では控えながらメンバー入りを果たし、前述の通り、高いパフォーマンスを発揮したというわけだ。

ただ、金は開幕戦の大敗を真摯に受け止めている。

「サンウルブズはスーパーラグビー経験者が一番、少ないチームだと思います。多くの選手が経験できたことは大きかったし、僕自身もそうですが一皮剥けたと思います。そういった意味では有意義な試合だった。ただ、現実から目を背けてはいけない。現状を受け止めて、修正できるところは修正し、長所は伸ばしていかないといけない」と前を向いた。

3月4日のキングス戦を皮切りに、サンウルブズは南アフリカ勢と4連戦が待ち受ける。

金は「ニュージーランドカンファレンスのチームと違い、南アフリカのチームは、どんどんフィジカルで勝負してくる。受けずに、ディフェンスでプレッシャーを与え、相手がミスしたことを得点に結びつけるのが大きなプランです。開幕戦は不用意な反則が目立ったので、そこに注意すれば、勝機が見えてくる」と意気込む。

もちろん、自身が置かれている現状には満足していない。長所は「80分間プレーし続ける運動量と低さ、速さ」である。ただ「そこに精度がついてくれば、もっといい選手になれる。(日本代表の)ジェイミー・ジョセフヘッドコーチにも、タックルやブレイクダウンの状況判断でミスが多いので、もっと高めてほしいと言われています。サンウルブズでもっとレベルアップしていきたい」と語気を強める。

昨年とは違い、今年のサンウルブズはほぼ日本代表であり、スコッド54名中53名が日本代表経験者、もしくは将来的に日本代表資格を得られる選手で構成されており、サンウルブズと日本代表の連携は密になった。

2016年、6キャップを獲得した金は、サンウルブズ経由で日本代表復帰を目論む。もちろん、最大の目標は2019年ワールドカップ出場である。「日本代表になることがラグビーをしている意味というか、日本代表がないとラグビーをしていない。絶対になりたい」と静かに闘志を燃やしている。

「7」番をつけて、誰よりも早く、低く、攻守にわたってボールに絡み、チームの勝利に貢献する--サンウルブズでの活躍が桜のジャージー、そしてワールドカップへの絶対的な近道となる。

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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