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【ラグビーW杯】SO/CTB立川理道が語る南アフリカ戦活躍の要因と、3戦目・サモアの攻略法

斉藤健仁スポーツライター
立川は25歳。W杯を経てさらなる成長が期待されるSO/CTB(撮影:斉藤健仁)

立川理道(25)。天理大ラグビー部を初の大学選手権の決勝へと導き、クボタスピアーズに入部すると同時にラグビー日本代表に選出。現在、ラグビーワールドカップを戦っているエディー・ジャパンの中で、指揮官であるエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)の信頼厚いディシジョンメーカー(意志決定者)の一人だ。

南アフリカ戦では急遽、控えからインサイドCTBとして先発し、力強いランで金星奪取(○34-32)に大きく貢献した。続くスコットランド戦では敗戦(●10-45)したものの、司令塔であるSOとしてチームを牽引。理道(はるみち)という名前から「ハル」という愛称で親しまれている立川は、指揮官に「大会中に成長している選手の一人」として名指しされるほど、初のワールドカップを「楽しんでいる」。

◇南ア戦の活躍は荒木コーチの存在が「大きかった」

そんな初戦の南アフリカ戦で立川がパフォーマンスを発揮できたのは、試合後、「香織先生が良い仕事をした」とFLリーチ マイケル主将が言ったように、エディー・ジャパンが始動した2012年より、メンタルコーチとして、スポットコーチを務める荒木香織・兵庫県立大准教授の存在があった。

立川は振り返る。「南アフリカ戦の前は、すごく緊張していたんですが、試合の2日前くらいに、荒木さんと話して、楽になりました。自分のプレーに集中できるようになった。本当に(荒木コーチの存在が)大きかったです。

自分が不安に思っていることを言葉に書いて全部はきだして、その対処方法を考えました。例えば深呼吸するとか、ミスが起きたときに何が起きるか書き出した。全部、言えたのが僕にとっては良かった。試合に集中できました」

立川は荒木コーチとマンツーマンで1時間ほど、キャッチミス、キックミス、パスミスなど想定されるミスを書き出して、それが起きたときに何をするかを考えた。

「(控えから先発へ)メンバーチェンジもあって、いろんなプレッシャーがかかるかなと思ったら、逆に、自分のやることが決まって、頭スッキリしました。そして実際にゲーム入るとき、本当に自分W杯に来たなと楽しくなってきました!」

自身初めてのワールドカップ、しかも相手は優勝2回の強豪の「スプリングボクス」こと南アフリカとの対戦にも関わらず、「楽しかった」と言い切れるのは試合に集中していた証拠だ。それが、マンオブザマッチ(MOM)に選出されてもおかしくないほどのパフォーマンスの要因の一つとなった。

◇「意志決定者」立川の考えるサモア対策とは?

ただ、立川は司令塔として先発し、敗戦してしまったスコットランド戦は、「僕だけではなく一人ひとりが、アタックで自分勝手なことしてしまった」と反省している。

「もうちょっとチームとして動けるようにコントロールをしたかった。判断の容量が多くなってしまうと、ジャパンは全員で動き出してしまう。(個々が勝手に判断すると)狂ってきてしんどくなってくる。

基本的な(アタック・シェイプという)ベースを崩さず、そこに良い判断を加えていきたい。フミさん(SH田中史朗)は、良い判断しますが、その判断に付いていく人は少なくていい。それが多くなると(チームで攻める)ジャパンのアタックができなくなる。そこは修正していきたい」

一人ひとりみんな判断するのではなく、9番、10番、12番の回りにFWやBKが立つ重層的な「アタック・シェイプ」という戦術を基に、チームとして組織として戦い、その中に意志決定者の判断を入れいくという考えこそ日本代表のアタックである。

そんな立川は、3戦目となる10月3日のサモア戦(@ミルトンキーンズ)に向けて、こう考えている。

「アタックではアンストラクチャーに持ち込ませないようにプランを考えて、セットプレーで圧倒してコントロールしたい。ディフェンスでは相手のキーマンである9番(カーン・トゥイアリィ)、10番(トゥシ・ピシ)、15番(ティム・ナナイ=ウィリアムズ)をマークして、相手のペースにならないようにしたい」

特にサモア戦では、キックを蹴った後やターンオーバーされた後に生じるアンストラクチャーの状況をあまり作らせないようゲームコントロールしたいという。

「今まではインプレーの時間を増やすために、相手にボールをあげてもいいというところに蹴っていたが、サモアに怖いランナーがいるのでキックでタッチに切るときは思いっきり蹴って、フェイズ中にもタッチラインに狙いながらキックを蹴りたい。ターンオーバーが起きたときは、グループで相手をマークしていきたい」

また相手は個々で強いため、ビックタックルを受けないように組織で戦うことがより大事になってくる。立川は「僕自身、速いテンポで攻めて、ゲインラインにアタックしていくことを大事にしながら、サモアがビッグヒットを狙ってくると思うので、(チームとして)良いモーションと良いムーブメントで攻めていきたい」と語気を強めた。

もちろん、日本代表のアタックを遅くするめたに、接点にプレッシャーをかけてくることは容易に想像できる。そのことは立川も十分に承知している。

「サモアもジャパンの戦い方はわかっていると思います。スコットランド戦でも接点でプレッシャーを浴びて、ジャパンの戦い方ができなかった。サモアはPNC(パシフィック・ネーションズカップ)で戦っていて、ジャパンのやり方がわかっている。どこと戦うときも同じですが、接点への2人目のプレーの質、寄りのはやさをやっていきたい」

◇まずは目の前のサモア戦で結果を出したい!

南アフリカ戦に勝利するという金字塔を打ち立てても、まだコーチ、選手たちは当然、満足していない。「一番大事な試合」(ジョーンズHC)が言うように、「ベスト8」という目標を達成するためには、サモア戦には絶対、勝たなければいけない。

4トライ以上のボーナスポイントうんぬんは、勝ってから考えることだ。当然、現在予選プール4位の日本代表は勝利しなければ、準々決勝進出の道は閉ざされてしまう。

「負けたら終わりだと思います。それはこっち(日本代表)も向こう(サモア)も同じ。勝点4で並んでいるので、この一戦が大事だということは、みんなわかっている。まず、先のことを見ずに、サモアに戦むけて、自分たちできることやって、結果を出していきたい」(立川)

2012年秋、日本代表として初の欧州遠征から戻ると、立川は肉体的、精神的な疲れから1週間ほど寝込んでしまったという。トップイースト、そしてトップリーグと日本代表を行き来しながら、少しずつ成長してきたハルの顔は、ワールドカップに入ってより精悍になった。どこか、自信にも満ちあふれているようにも見える。

サモア戦で、小野晃征(サントリーサンゴリアス)が10番に復帰すれば、おそらくインサイドCTBを任されるはず。一回りも二回りも成長したハルが、エディー・ジャパンを前人未踏のベスト8とへと導く。

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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