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【ラグビーW杯】第2戦・スコットランド戦、LO伊藤鐘史が初のW杯出場へ。「試合を欲していた」

斉藤健仁スポーツライター
大野に次ぐベテランのLO伊藤。ラインアウトリーダーでもある(撮影:斉藤健仁)

9月23日14時半(日本時間22時半)から、ラグビー日本代表は、イングランド・グロスターで、いよいよ、ワールドカップの第2戦となるスコットランド代表戦を迎える。

初戦で過去に優勝2回の南アフリカ代表に勝利したが、日本代表を率いるエディー・ジョーンズHCは「日本のラグビーの歴史はまだ完全に変わっていない。準々決勝に進まなければ、この勝利が無駄になってしまう」と言うように、欧州の伝統国に勝利してこそ、はじめて目標としている「ベスト8」進出に大きく近づくはずだ。

21日、スコットランド代表戦のメンバーが発表されたが、先発は6人変わったものの、登録メンバー23人で比較すると「フレッシュレッグス(南アフリカ戦に出ていなかった選手)」は3人のみ。先発にはLOアイブス ジャスティン(キヤノン)とWTB福岡堅樹(筑波大4年)、そして控えにLO伊藤鐘史が入った。

その中でも、2012年の4月、エディージャパン初の試合で、31歳で初キャップを獲得したベテランLO伊藤は、ワールドカップの舞台に立つ瞬間を心待ちにしている。

「地元でプレーしたい、そして日本代表にないたい」という強い思いから、2009年、主将も務めたリコーから神戸製鋼に移籍。そして規定により、1年間試合に出場できない苦しい時期も経験した。その後は神戸製鋼で活躍し、日本代表入り。「エディージャパン」の中で年々、存在感を増していき、ラインアウトのリーダーとして、なくてはならない存在となった。

「名バイプレイヤー」LO伊藤が、スコットランド代表戦が直前に迫った、今の気持ちを語る。

――9月19日の初戦・南アフリカに勝ちました。

伊藤 勝つことができて素直にうれしかったし、すごいことだったな。もう、ずっと叫んでいました。最初はベンチの裏で見ていましたが、最後、ペナルティもらって敵陣に入った時からグラウンドに下りようということになりました。自然に涙が出ていましたね。

素直に嬉しかったですが、ふと落ち着いて、心の中の一部に、フィールドに立てなかったところが、自分に対して悔しさがあった。スコットランド戦で(その思いを)見せられたら、と思っている。

――日本ではすごく盛り上がっているようです。

伊藤 全然、その実感はないですね。

――ブリストルまで別メニューでした。少しケガをしていた?

伊藤 (先発で出場した8月22日の)ウルグアイの1戦目あたりから、古傷の右膝のコンディションが悪かった。そのあたりから他のLOの選手たちのコンディションも良くなっていたので、2番手でしたね。この2週間くらいで、調子が戻って来ました。

――スコットランド代表(日本代表と過去の通算成績は1勝7敗)も強敵です

伊藤 チームとして気持ちを切り替えることをやりました。南アフリカに勝った後、街の雰囲気は「よくやった」「すごい」とか祝福ムードでしたが、ミーティングで「僕らの目標は先にある。しっかりやろう」ということを確認しました

――相手のLO(ロック)には、身長が2mを超える選手も何人かいます。

伊藤 スコットランド代表は予選プールの中で、一番、速くて大きくて、ラインアウトディフェスが上手い。やりがいはあるし、その時のベストのコールを出さないと(ラインアウトで並んだ選手の)ギャップをつけない。コールが大事になってくる。だから、たくさん、(分析するために)相手のビデオを見ています。個人的なメールは返せていません(苦笑)。

――試合の鍵を握るのは?

伊藤 やっぱり、南アフリカ戦と同じようなイメージで「先手を取る」ことが大事になってくると思います。コーチたちは「アグレッシブ・ファスト・スタート」と言っています。もちろん、相手のFWも強いので、FW勝負になってくる。スコットランド代表は僕たちの初戦を見て、モールとブレイクダウンにプレッシャーをかけてくる。いかに相手の勢いを止めて、敵陣でプレーできるかがキーになってくると思います。

――2日前(21日)の練習では何をしましたか?

伊藤 いつもと変わらないですね。モールディフェンス、アンストラクチャー(崩れた状態)からのアタック、そして、アタックもディフェンスも3フェイズまでのゲームシチュエーションの確認です。そしてユニットに別れてFWはモールとスクラムをやりました。

――スコットランド代表戦ではどういうプレーをしたい?

伊藤 リザーブなので、残り20分前後からの出場になると思います。ラインアウトリーダーなので、前半を見据えて、ラインアウトから正確なボールを出したいです。フィールドプレーでは後から入ったメンバーたちで運動量をあげないと、相手にインパクトを与えられないので、激しさと運動量が大事になってくると思います。

――改めて、初のワールドカップ出場に向けて、率直な今の気持ちは。

伊藤 今回の試合もメンバー入りできるかわからなかったけど、試合を欲していましたね。ずっとゲームに出たかったので、ハングリーですね。緊張すると思いますが、それも全部、自分の経験になると思うので、受け入れたいと思います。

「あの経験がより自分をタフにしましたね」。14歳で、阪神・淡路大震災で実家が半壊し、その経験から「建築士になりたい」と進学した建築学科のある兵庫工で楕円球に出会った。

そして、京都産業大学、社会人とコツコツと人知れず、努力を重ねて、世界最高の舞台に、今、立とうとしている。「鐘史(しょうじ)」という名の通り、持ち味とする泥臭くかつクレバーなプレーで、再び、日本ラグビー史に栄光の鐘を鳴らすことができるか。

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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