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クサイ人ほど、見た目にも衰えやすい? 資生堂の発見から“ニオイの人間関係”を考える

齋藤薫美容ジャーナリスト・エッセイスト
ニオイには悪しきスパイラルが?(提供:Paylessimages/イメージマート)

クサイ人ほど、老けも早い⁈

加齢臭……この言葉には、いささか暴力的響きがある。加齢によって独特な体臭が増すという事実は、エイジングへの不安を増幅させるもの。さらにその背景には「クサイと嫌われる」という恐怖も上乗せされてくるわけだが、最新の研究で、ここに更なる残念な悪循環が生まれていることが解明された。

加齢臭を感じると、肌が自らそれを感知し、新たな肌ダメージをもたらすという、驚くべきメカニズム。エイジング→加齢臭→更なるエイジングという、悪しきスパイラルが生まれてしまうというのだ。もっと端的に言えば、「クサイ人ほど、老けも早い」……。

「加齢臭」が発見されたのは約20年前、欧米人に比べて体臭は少ないと思い込んできた日本人に衝撃を与えた。その後に明らかになる、35歳くらいから男性に目立つ「ミドル脂臭」や、男女問わず放つ「ストレス臭」や「疲労臭」などに加えて、いわゆる衣類用柔軟剤の人工香料まで含めて、他者のニオイによって精神的肉体的苦痛を受けることが、「スメルハラスメント」として社会問題化するようにまでなっている。

でも今、それがにわかに収まってきたかに思えるのは、他でもないコロナ禍で、全員がマスクをするようになって、他人のニオイを遮断しているからに他ならない。問題が解決したわけではないのだ。その上で今度は新たに、“自分自身のニオイ”に、自分がダメージを受けるという、新たなニオイ問題が加わってしまったと考えるべき。

肌がニオイを嗅ぎ取っている?

発見したのは資生堂。じつは、加齢臭そのものも、同じ資生堂の発見だった。“湿った枯れ草、または古本のニオイ“とも言われる40代からの独特の体臭を、「加齢臭」と名付けたのが同社なのだ。

同時に、その加齢臭の原因が「ノネナール」という物質であることも解明していたわけだが、今回まさにそのノネナールが、表皮細胞にダメージをもたらす事実を突き止める。細胞死を引き起こして、表皮細胞の生存率を低下させることがわかったのだ。つまり目に見えて肌を薄くし、結果として肌を衰えさせてしまうということ。

でもなぜニオイで、肌ダメージのスイッチがオンになってしまうのか? それ自体を不思議に思うはずだが、まず1つ、加齢臭のような体臭は「皮膚ガス」という気体となって、肌表面から放出されることが既に分かっている。

さらに驚いたことには、表皮には光や音なども感じ取る能力があって、皮膚ガスに含まれるニオイ物質「ノナネール」をも、直接感知しているというのである。

これまでも、ニオイが生理機能を通して肌状態に作用することはわかっていたが、ニオイが肌に直接作用することが明らかにされたのは初めて。

そう、多くの野生動物が、姿は全く見えないのに遠くにいる敵の存在を感じ取ったりするように、人間の皮膚も外部と触れる重要な部位だけに、それ自体に外部の刺激を読みとる優れた機能が備わっているということなのだ。

恐ろしい気配を感じたときに「総毛立つ」のも、その表れ。気配を感じるようにニオイも直接感知して、新たな肌ダメージのスイッチをオンにしてしまうのである。

多くのニオイ、皮膚ガスはシャワーでは消えない

ここで、なぜ加齢臭が生まれるのかについても簡単に説明しておくと、皮脂に含まれる脂肪酸の1種であるパルミトオレイン酸が、加齢によって発生する過酸化脂質や皮膚常在菌などにより酸化・分解されることで、原因物質ノネナールが発生、加齢臭となる。

体臭の種類

加齢臭……40代以降50代あたりから強くなる。皮脂の酸化、常在菌によって発生するノネナールが原因。湿った枯れ草、古本のようなニオイ(資生堂の発見)

ミドル脂臭……35歳くらいから強くなる。汗の中の乳酸、常在菌によって発生するジアセチルが原因。古い油のようなニオイ(マンダムの発見)

ストレス臭……強いストレス、緊張感、過大なプレッシャーによって発生するジメチルトリスルフィドとアリルメルカプタンの化合物が原因。面接や会議、プレゼンなどでも一時的に発生する。傷んだタマネギのニオイ(資生堂の発見)

疲労臭……強い疲労感、ストレスによって血中のアンモニアが過剰になるのが原因。大腸の劣化が原因とも言われる。ツンとするアンモニア臭(ストレス臭の一種とも)

もちろん、汗や過剰な皮脂を残さないよう心がける働きかけは重要。しかし、体調やホルモンバランス、情動、食事など様々な要素が影響を与えているニオイだけに、単にシャワーを浴びておきさえすればいいという話ではない。少なくとも、ストレス臭や疲労臭は、精神的なものが原因だったり、血液からにじみ出るものだったりするだけに、いかに清潔を心がけようと消えるものではないのだ。

したがって、ニオイそのものをマスキングして気にならなくさせる働きかけが、やはりどうしても必要になる。

幸い、加齢臭自体を抑える香料も発見され、既に商品化されているが、今回の「加齢臭による肌ダメージ発見」に際しても、マスキング効果ある香り成分が、開発された。これは加齢臭を抑えるだけではなく、ノネナールによる表皮細胞ダメージそのものを阻止する効果があることも解明されているのだ。

詳細は資生堂の下記発表を参照

https://corp.shiseido.com/jp/newsimg/3114_h4j11_jp.pdf

夫の加齢臭が、妻の肌にダメージを与えることはあるのか?

ヒトは他者のニオイには敏感だ
ヒトは他者のニオイには敏感だ写真:PantherMedia/イメージマート

ちなみに、こういう事ってあるのだろうか? 夫の加齢臭が妻の肌にダメージを与えるようなこと。実際、ストレス臭は周囲にいる他者の生理作用にもダメージをもたらすことがわかっている。もし、自分の加齢臭が他者の肌にもダメージをもたらすような可能性があるなら、誰にも起こりうることだけに、この問題、やり過ごすことはできない。

ただ、資生堂によれば、まだそこまでは解明できていないということ。可能性は無くは無いということになるが、それこそ全員が完全にマスクを外すようになるまでには、そのあたり、解明されていてほしいものである。

そもそもが、人間は自分自身が発するニオイに対しては鈍感だ。逆に自分の体臭が全くにおわない場所にいると、精神的に落ち着かないという傾向も見られるほど。その分、他者のニオイについては極めて敏感だ。他人の放つ皮膚ガスが、精神的なストレスだけでなく、もし仮に他者の肌の衰えの原因をもたらすとしたら、対人関係において、ニオイが今まで以上に大きなカギになってくる気がしてならないのだ。

加齢臭は、本人のせいではないから難しい、人間関係

どちらにしても、ニオイの世界は奥深い。良い香りのみならず不快な香りの対策について、臭気鑑定士のもと地道に研究を続けてきた資生堂が先行して、数百種類もあると言われる皮膚ガスについて今次々に明らかにしているが、こうしたニオイ研究も、日本人の嗅覚が繊細であるから実現したものとも言える。

欧米では、強い香水をまとって自己アピールするのが歴史的に主流だったのに対して、日本人は、お香など、空気をほのかに香らせることにより、不快なニオイを打ち消すという繊細なアプローチに終始してきた。

言いかえれば、日本人の嗅覚は、いつも他者との関係性においてニオイを考えてきたからこそ、未知なる「体臭のサイエンス」という新しい領域を切り開くことができるのではないだろうか。

加齢臭は本人のせいではない、だから難しい“ニオイの人間関係”。人生100年時代、いよいよ大きなテーマになりそうである。

美容ジャーナリスト・エッセイスト

女性誌編集者を経て美容ジャーナリスト/エッセイストへ。女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『されど“男”は愛おしい』』(講談社)他、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。

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