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ジャッキー・チェン70歳を迎える。近年はさまざまな評判も、アクションスターの葛藤を越えた先は?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
2022年、68歳の時のジャッキー・チェン(写真:REX/アフロ)

2024年4月7日、ジャッキー・チェンが70歳の誕生日を迎えた。あのジャッキーが70歳というのは、ちょっと不思議な感覚だが、最近はその年齢を感じさせる画像や、撮影現場の動画なども出回り、「これは役のためか?」「ジャッキー、衰えが明らか」など、SNSではコメントも飛び交っている。

唯一無二のアクションスター。香港やアジア圏だけでなく、ハリウッドも含めた世界の映画界において、これだけの業績を残し、多くの信奉者を作ったアクション俳優は他にいないだろう。今から半世紀近く前、1978年の『スネーキーモンキー 蛇拳』に始まり、『プロジェクトA』などでアジアスターのトップの座を確立し、ハリウッドへの進出では辛苦を舐めながらも『ラッシュアワー』などで大成功。2016年にはアカデミー賞で名誉賞を受賞した。歌手としても華やかな活動を続けた。そんなジャッキーのキャリアは誰もが賞賛するものだが、近年は俳優としての活動があまり話題になることはなくなった。しかし映画出演は続けており、2023年にはジョン・シナ(先日のアカデミー賞授賞式で全裸姿が話題に)と共演した『プロジェクトX トラクション』がNetflixで配信された。同作のスコット・ウォー監督は「ジャッキー作品なので劇場で観てほしかった」と漏らしていたが……。

2002年、ハリウッドのウォーク・オブ・フェームに自身の名前が刻まれる。
2002年、ハリウッドのウォーク・オブ・フェームに自身の名前が刻まれる。写真:ロイター/アフロ

親日家として知られるジャッキーチェンは日本でも大人気だったが、この10年くらいは日本での人気に翳りがみえる。、もちろん年齢のために、かつてのように前人未到アクションに挑めないこともあるが、中国共産党との親密な関係が、彼のイメージを大きく変えてしまった。何かと中国寄りで香港や台湾を批判するコメントも出しているので、日本のファンには複雑な感情を抱える人も多い。その間も新作は日本で公開されていたが、日本の映画会社の担当者によると、中国共産党の関わりが深くなってからは、公式に日本のプロモーションに呼ぶことができなくなったという。政治的な事情が絡んでいるようだ。来日キャンペーンがないと、メディアでも出演作を取り上げづらくなり、結果的にジャッキー映画は話題にならなくなった。

2015年のロンドンで、習近平と語り合うジャッキー・チェン
2015年のロンドンで、習近平と語り合うジャッキー・チェン写真:代表撮影/ロイター/アフロ

ネガティヴなイメージが先行しがちな近年のジャッキーだが、トム・クルーズと肩を並べるほどファンを大切にする姿勢は根っからのもの。ここだけは間違いない。かつて香港のジャッキーのオフィスへ取材に行った際、インタビューの合間に「僕の大好物だから」と香港名物の、おしるこ風デザートをジャッキー自ら取材者一人一人によそってくれた。そして取材が終わると「この後、時間があるなら是非」と、ジャッキー主催の豪華ディナーに招いてくれたのである。「もうあまり在庫がないけど」と、ジャッキ-・チェンのブランドのワインも出してくれた。世界的スター俳優で、メディアにこのような振る舞いをするのは、とても稀。スターとしての威厳には満ちているものの、素顔が明らかに「いい人」なのは本人に直接会えば伝わってくる。

ジャッキー・チェンのブランドワイン(撮影/筆者)
ジャッキー・チェンのブランドワイン(撮影/筆者)

近年のジャッキーのキャリアで改めて感じるのは、ファンに求められていることと、自分のやりたいことの齟齬が大きくなった“葛藤”だ。2008年に『ドラゴン・キングダム』でインタビューした際、当時54歳のジャッキーは「そろそろアクション映画からシリアスな映画へシフトしなければ」と心中を吐露していた。2年後の『ベスト・キッド』では「アジアのロバート・デ・ニーロ、あるいはダスティン・ホフマンを目指す」と語った。その翌年、監督と主演を務めた『1911』の際には、「監督として世界的マーケットを考えると、僕自身がアクションをこなすことを売りにせざるをえなかった。かつて拳銃アクションでスターになったクリント・イーストウッドは、年齢とともに監督と自分らしい役をこなしていてうらやましい」と、かなり複雑な思いを告白。

そしてアカデミー賞名誉賞直後のインタビューでは「オスカー像はすでに棚に置いて過去のもの。食生活やトレーニングも怠らず、自分で可能なスタントはこれからも挑んでいく」と、ちょっと開き直ったようなコメントを返してきた。そこから現在、つまり70歳に至るまで、作品数やスタントの過激さは減少したものの、ジャッキー・チェンはアクション俳優として自らのキャリアを継続している。

もちろん70代以降もハリソン・フォードのようにアクションに果敢に挑むスターはたくさんいる。しかしジャッキー・チェンの場合は、全盛期との落差が「衰え」と受け止められやすいのも事実。彼の70代は、どんなキャリアが築かれるのか。アクション映画ではなく、心から望むシリアス演技で新たな代表作が生まれるのか。いろいろあったけど、長年応援している日本のファンにも、次のステップでさらなる活躍を届けてほしいと切に願うのである。

2016年のアカデミー賞授賞式で名誉賞受賞を喜ぶ。
2016年のアカデミー賞授賞式で名誉賞受賞を喜ぶ。写真:ロイター/アフロ

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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