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「あまちゃん」人気再過熱のなか、クドカンの仕事がここへ来て一気に放たれている感!?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『こんにちは、母さん』より (C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会

現在、NHK-BSで再々放送中の「あまちゃん」は、今週も「前髪クネ男」などがトレンド入り。最後の1ヶ月の怒涛展開へ向けて期待コメントに溢れるなど、10年を経てもその輝きが健在……というか、改めて宮藤官九郎の脚本への絶賛が集まっている日々である。

「あまちゃん」は、たまたま過去の作品が現在放映されているだけなのだが、その宮藤官九郎=クドカンが、このところ作品ラッシュで、今更ながらの絶好調ぶりである。

今年の6月、Netflixで配信が始まった「離婚しようよ」は、クドカンと大石静の共同脚本。人気脚本家の2人が往復書簡のようなプロセスで1つの物語を作り上げる、という特殊な製作が話題になった。二世政治家と人気女優の夫婦が、離婚と選挙を巡って繰り広げるこのドラマは、観れば「ここはクドカンが書いてる」とわかるネタの宝庫で、古田新太が現在と若い時代を演じ分けるなど「あまちゃん」とシンクロする描写も多数。評価はやや賛否に分かれた印象もあるが、クドカンのファンなら存分に楽しめる作りなのは間違いない。

『離婚しようよ』Netflixにて配信中
『離婚しようよ』Netflixにて配信中

そしてディズニープラスでは、8月9日から「季節のない街」の配信がスタートした。こちらは脚本だけでなく監督もクドカンが務め、得意とするジャンルである青春群像劇を紡いでいく。かつて黒澤明監督も「どですかでん」として映画化した山本周五郎の小説を原作に、クドカンが長年温めてきた企画の実現。12年前に起こった災害によって、仮設住宅で暮らす人々の物語は、間もなく震災のパートが出てくる「あまちゃん」とも重ねたくなるだろう。

このようにNetflixとディズニープラスという2大プラットフォームで人気脚本家の作品が相次いで配信されるのは、偶然とはいえ異例。

そしてこの2作の配信の間である、7月7日には、映画『1秒先の彼』が劇場公開されている。台湾のヒット映画『1秒先の彼女』を、クドカンが男女の役割をスイッチさせて、脚本を執筆。山下敦弘監督の下、岡田将生、清原果耶のハマリ役は絶賛された。このようにわずか3ヶ月で脚本作品が3本、世に送り出されたわけである。

さらに9月1日から公開が始まった、山田洋次の監督作『こんにちは、母さん』に、宮藤官九郎は俳優として出演している。日本映画が誇る巨匠の90本目の監督作。吉永小百合と大泉洋の親子のドラマだが、ここでクドカンは、大泉洋が演じる息子の会社の同僚役。リストラを巡る、ちょっと悲哀を滲ませる役どころを、コメディリリーフ的に演じている。クドカンの俳優としての才能は、はっきり言ってそこまで高く評価されることはなかったが、この『こんにちは、母さん』は山田洋次監督の代表作「男はつらいよ」シリーズのエッセンスも感じさせ、そんな瞬間のシーンにクドカンの演技がフィットしていることに驚かされた。巨匠の本領発揮の世界で、かなりいい味を出している。

今年、クドカンは俳優として生田斗真主演の『渇水』(6月公開)などでも精力的に活躍。

そしてこのクドカンの集中的快進撃はまだ止まらず、脚本を書いた2016年の人気ドラマの映画版『ゆとりですがなにか インターナショナル』が、10月13日に劇場公開される。もちろんこの映画版の脚本も担当。

改めて整理するとーー

6月:配信ドラマ脚本・映画出演

7月:映画脚本

8月:配信ドラマ企画・脚本・監督

9月:映画出演

10月:映画脚本

と時ならぬクドカンブームが来ている感がある。「あまちゃん」最終回に向けてのさらなる盛り上がりとも重なって、宮藤官九郎の才能と魅力を浴びまくる人は実質的に増加することになる。

『ゆとりですがなにか インターナショナル』10月13日(金)全国ロードショー (C)2023「ゆとりですがなにか」製作委員会
『ゆとりですがなにか インターナショナル』10月13日(金)全国ロードショー (C)2023「ゆとりですがなにか」製作委員会

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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