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トップガンに続き甦る80年代。スタローンがロッキー名作を汗の粒もクリアに再生。今後はドラゴ新作も

斉藤博昭映画ジャーナリスト
スタローンはシリーズ中、4作で監督を務めた。

インディ・ジョーンズや車寅次郎など、映画の世界では一人の俳優が同じ役を長年演じ、その人生を体現することで、観ている側に熱い感動をもたらすことがある。その意味で、シルヴェスター・スタローンのロッキー役は最たる例だろう。

1976年に1作目『ロッキー』が公開され(日本は翌1977年)、同作はアカデミー賞作品賞・監督賞などを受賞。自身の脚本で主演も務めたシルヴェスター・スタローンは、いきなりトップスターとなった。それから「ロッキー」シリーズは6作、主人公をバトンタッチしつつ、トレーナーとなったロッキーを演じた「クリード」シリーズが2作。近作の『クリード 炎の宿敵』が2018年公開(日本は2019年)だから、スタローンはロッキー役を42年間、演じ続けたことになる。

近い例では、ハリソン・フォードのインディ・ジョーンズ役。1981年から2023年公開予定の新作まで、やはり42年間となる。(ハリソンはハン・ソロ役42年、デッカード35年という記録もあるが、演じなかった時期のブランクも長い)

このロッキー役において、もちろん第1作の『ロッキー』はすべての原点として記憶されるが、では「クリード」にも至るシリーズ全作を俯瞰したとき、改めて重要なポイントとなった作品はどれか? その問いに4作目の『ロッキー4/炎の友情』を挙げる人は多いだろう。1985年公開(日本は翌1986年)で、“殺人マシーン”と呼ばれるソ連の最強ボクサー、イワン・ドラゴが、ロッキーの親友アポロ・クリード、そしてロッキー自身とも対戦する。後にアポロの息子アドニス、さらにドラゴの息子ヴィクターも登場する「クリード」シリーズに、結果的に大きな影響をもたらしたドラマが、『ロッキー4』で展開されるのだ。

シリーズで最もヒットしたのが4作目

この『ロッキー4』、じつは興行収入でも「クリード」を含めてシリーズ最高を記録しているのである。世界、北米、日本など各カテゴリーで、すべてシリーズ1位。日本では当時、配収で29.8億円なので現在の興行収入に換算すると約60億円。1986年でこの数字は立派。この年のランクでは『子猫物語』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に続く第3位。ちなみに1作目の『ロッキー』は、配収12.1億円で年間8位だった。

ただ、この『ロッキー4』、作品としての評価はそこまで高くない。映画批評サイト、ロッテントマトの評価では、「クリード」を含めた全8作で、批評家7位、一般観客4位というランクである。

イワン・ドラゴの超人的肉体には、いま改めて観ても圧倒される。
イワン・ドラゴの超人的肉体には、いま改めて観ても圧倒される。

監督も務めたシルヴェスター・スタローンは、シリーズのターニングポイントとなる4作目を、なんとか再評価させたかったようだ。「『ロッキー4』を作った頃の俺は、今よりかなり薄っぺらだった」と語っており、当時使われなかった未公開映像を、合計でなんと42分も追加。もともと91分だった作品は、わずか3分増えただけの94分となった。つまり大幅にカットした部分もある。こうして再生されたのが、『ロッキーVSドラゴ:ROCKY IV』。日本では8/19に劇場公開される。

古臭さがネガティヴとなるシーンをカット

42分も追加」なのに「上映時間はほぼ同じ」。では、どれだけ変わってるんだ……と思ったら、基本の展開、全体の構成はそのままキープされていた! 印象から言えば、やや洗練され、観やすくなったという感じ。少しでも理想の形にすべく、アングル、編集を細かく変更した箇所が多く、スタローンの丁寧な再創造に感心する仕上がりだ。あるシーンは、モノクロの映像にすることで、より効果を発揮しているし、いま観ると“時代遅れ”なシークエンスがバッサリと削除されていたりもする。80年代を“古臭く”感じさせるのではなく、良き時代として懐かしむことのできるアプローチは、『トップガン マーヴェリック』と似ているかもしれない。

もちろん映像や音もバージョンアップされており、とくに4Kデジタルリマスターされた映像では、ロッキーやドラゴの顔にしたたる汗の粒もクリスタルクリアの輝きを放ち、異様に臨場感をアップさせたりも。

そして、これはもともと描かれていたことだが、ソ連(当時)とアメリカの対決の構図は、2022年の現在、否が応でもロシアのウクライナ侵攻とシンクロさせながら観てしまう。クライマックスにおけるロッキーのあるセリフは、時を超えて現在の世界の人々に強くアピールすることになった。

監督として『ロッキー4』を鮮やかに再生させたシルヴェスター・スタローンだが、最初のプロデューサーとの契約でシリーズの権利を得られなかったことが、ここ数日、メディアも騒がせている。一方で現在、ドラゴを主人公にしたシリーズのスピンオフ作品の企画が進んでおり、その意味でもスタローンが満を持して再生させた『ロッキーVSドラゴ』を、いま観ることは大きな意味があるのだ。

『ロッキーVSドラゴ:ROCKY IV』

8月19日(金)全国ロードショー

配給:カルチャヴィル、ガイエ

(C) 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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