Yahoo!ニュース

オードリー、エルヴィス、ダイアナ妃…「伝説」がスクリーンで甦る2022年

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ティファニーで朝食を』撮影時のオードリー・ヘプバーン(写真:REX/アフロ)

今は亡きレジェンドたちを復活させること。それも映画の目的のひとつ。

フレディ・マーキュリーが『ボヘミアン・ラプソディ』で甦り、リアルタイムでその才能と偉大さを知らなかった人にも感動を届けたのは記憶に新しい。このところジュディ・ガーランド、アレサ・フランクリンらレジェンド的なスターも、俳優が演じて蘇らせているし、昨年末に配信が始まり、劇場公開もさた『ザ・ビートルズ:Get Back』のようにドキュメンタリーでその軌跡を掘り起こす作品も数多い。

2022年は、その意味でレジェンド中のレジェンドを振り返る映画が相次いでいる。すでにこの世を去りつつ、名前を聞いただけで、ちょっと胸の奥が疼いたり、ときめいたりするレベルの人たち……。

まずはオードリー・ヘプバーン

その輝きは永遠に失われない。映画史に残るスター中のスターである。そのオードリーの初のドキュメンタリーが完成。タイトルも『オードリー・ヘプバーン』(5/6公開)とそのまま。

『ローマの休日』『ティファニーで朝食を』『麗しのサブリナ』『マイ・フェア・レディ』などで時代のアイコンとなり、劇中のファッションが現在まで影響を与え続けているオードリー。「妖精」という異名をもつ稀有なスターが、1993年、63歳でこの世を去るまでの人生を追う。

PictureLux / The Hollywood Archive / Alamy Stock Photo
PictureLux / The Hollywood Archive / Alamy Stock Photo

俳優としてのキャリアはもちろんだが、飢えにも直面した戦争体験から、離ればなれになった父との関係に始まり、代表作での裏エピソードやジバンシィの衣装秘話、そして結婚生活、晩年のユニセフでの活動まで、きれいに網羅されている。オードリーをそのイメージでしか知らなかった人には驚きの事実が多いだろうし、なんとなく、あるいは細かに知っていた人には改めてその生涯をたどって感慨に浸らせる作り。いずれにしても映画ファンには必見である。

オードリー・ヘプバーンについては現在、伝記映画も進行中。監督は『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノで、オードリー役は『ドラゴン・タトゥーの女』などのルーニー・マーラ(確かに、ちょっと雰囲気は似ている)。オードリーの人気がいま再び上がりそうだ。

そして2人目は、こちらもレジェンドの名にふさわしい、というか、存在そのものがレジェンドのエルヴィス・プレスリー

「キング・オブ・ロックンロール」と称され、史上最も売れたソロミュージシャンとしてギネスにも認定。『監獄ロック』など主演映画も数多く作られた、文字どおりのスター。1977年、42歳という若さで急死し、その自宅グレイスランドは今なお聖地として訪れる人が絶えない。

そんなエルヴィスの映画は、1979年にカート・ラッセルが演じた『ザ・シンガー』というTV用作品(日本では劇場公開)や、ジョナサン・リース=マイヤーズによるやはりTV作品の『ELVIS エルヴィス』(2005年)もあったが、久しぶりに本格的な映画が完成する。それがタイトルもそのものの『エルヴィス』だ(7/1公開)。

無名時代からのライブに始まり、敏腕マネージャーの手腕でスーパースターになるまでのプロセスを描くこの作品は、エルヴィスの素顔にも迫りつつ、圧巻のパフォーマンスの数々がアドレナリンを上げるという意味で、すでに公開された予告からも『ボヘミアン・ラプソディ』に近いテイストが予感される。

エルヴィス役を任されたオースティン・バトラーは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などに出ていたものの、「大抜擢」といえるキャスティング。フレディ・マーキュリー役のラミ・マレックと同じように、その雰囲気と歌唱などの実力で選ばれたわけで、吹替ナシで挑むボーカルやステージ上の動きも話題となっている。『ムーラン・ルージュ』のバズ・ラーマン監督なので、外連味たっぷりの演出・映像も確約。マネージャー役はトム・ハンクス。

そして最後は、エンタメ界以外のレジェンドから、イギリスのダイアナ元皇太子妃

1981年、チャールズ皇太子との結婚後は来日も果たし、日本でも一大フィーバーが起こった。交通事故で亡くなってから、すでに25年。36歳の短い人生は、世界中の人々の記憶にやきつけられたままで、今は成長した2人の息子に、その面影を探すのみである。

そのダイアナの映画は、2013年にナオミ・ワッツが演じた『ダイアナ』という作品もあったが、残念ながら評価はイマイチ。今回の『スペンサー ダイアナの決意』(秋公開)は、主演のクリステン・スチュワートが先日のアカデミー賞でも主演女優賞にノミネートされており、その演技だけでも注目に値する。

(c) Pablo Larrain
(c) Pablo Larrain

ただ、この映画が描くのは、1991年のクリスマスの数日のみ。夫のチャールズの浮気に悩むダイアナ妃が重要な決断に至るまでの物語で、フィクションの部分も多いのだが、王室での生活が赤裸々に描写されるし、多くの人が記憶に留めるダイアナ妃のファッションの数々が再現されるシーンもあり、伝説を甦らせる役割を果たしている。

さらにドキュメンタリー『ダイアナ(原題)』も今年公開される。こちらは未公開フッテージも含めてその生涯をたどるもの。没後25年ということで、この秋はダイアナの伝説が復活するわけだ。

レジェンドたちの映画化は今後も数多く続く。俳優としては誰もが知る人を再現する大きなチャレンジとなるし、観客側には思い出に浸らせ、あるいは知られざる真実で感動させる効果が期待できるので、あらゆる世代へのアピールが期待できる。映画には最適なプロジェクトのひとつなのだろう。

『オードリー・ヘプバーン』

5月6日(金)TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国公開

配給:STAR CHANNEL MOVIES 

(c) 2020 Salon Audrey Limited. ALL RIGHTS RESERVED.

『エルヴィス』

7月1日(金)ROADSHOW

配給:ワーナー・ブラザース映画

AUSTIN BUTLER as Elvis in Warner Bros. Pictures’ drama “ELVIS,” a Warner Bros. Pictures release. Photo by Hugh Stewart

(c) 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

(c) Pablo Larrain
(c) Pablo Larrain

『スペンサー ダイアナの決意』

2022 年秋、全国公開

配給:STAR CHANNEL MOVIES

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

斉藤博昭の最近の記事