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最新作でまたもぴったりな諜報員で奇策に挑むコリン・ファースに聞く。「キングスマン」新作、じつはまだ…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
コリン・ファース(写真:REX/アフロ)

アカデミー賞主演男優賞を受賞した『英国王のスピーチ』のほか、『ブリジット・ジョーンズの日記』『ラブ・アクチュアリー』などのラブストーリー、『キングスマン』といったアクション大作、そして数々のシリアス系まで、この人が出演していると映画に「安心感」がもたらされる。まさに品質保証のスター。それがコリン・ファースだ。

そんな彼の最新主演作『オペレーション・ミンスミート ーナチを欺いた死体ー』(2/18公開)は、タイトルが示すように、第二次世界大戦における裏の攻防が描かれる。英国諜報部(MI5)が、偽の文書を持たせた“死体”をドイツ軍の勢力地帯の海岸に漂着させる。その文書を信じこませ、ドイツ軍を混乱させ、作戦を変えさせようとした。冷静に考えれば「ありえない」レベルの奇策なのだが、嘘に嘘を重ねて「真実」にしようとする攻防が、実話を基にしているというのも驚く。

このMI5の作戦を仕切ったのが、元弁護士(というのも驚き!)の諜報員で、演じたのがコリン・ファース。緊迫の戦争中、前代未聞の偽装劇も、この人が中心にいるとどこか安心感、そして人間味が加わるから不思議だ。『オペレーション・ミンスミート』のジョン・マッデン監督も「この作品の主役はコリンしかいないと考え、彼に合わせて年齢も少し上に設定した」と語っている。

本作の日本での公開直前に、コリン・ファースがインタビューに応じてくれた。

コリンが任されたユーエン・モンタギューについて、いったいどんな人物像や背景を想像して演じたのか聞くと……

「すべて、ベン・マッキンタイアーの原作を参考にしました」

と一言でばっさり。この潔い答え方もコリン・ファースらしい。

第二次大戦時のコスチュームも似合いすぎ!
第二次大戦時のコスチュームも似合いすぎ!

そうは言ってもモンタギューは、第二次世界大戦時代を生きた人間である。これまでも『英国王のスピーチ』や『1917 命をかけた伝令』などで、現代とは違う時代に生きた人物を演じてきたコリンにとって、別の時代の役にどのようにアプローチするのか。

「その時代の慣習やしきたりはともかく、話し方や服装、そして社交的な態度などは現代とそれほど違いはないと思います。人々がおたがいにどう関わり、交流するかというドラマにおいて、話し方や行動は重要な意味をもつことでしょう。そこに時代背景も大きく関係するかもしれません。でも私はむしろ、こういう役を演じるとき、現代との共通性に重点を置こうとするんですよ」

その言葉どおり、たしかに劇中のモンタギューのセリフ、行動は、戦争の最中という遠いものというより、現在のわれわれが観て共感してしまう部分が多い。それもコリン・ファースの計算だったのかもしれない。

そしてもうひとつ、この『オペレーション・ミンスミート』が現代にアピールする理由を、コリンは次のように説明した。

パーソナルな物語って、意外にどの時代であっても共感してもらえる。それが私の持論ですね。とくに今のこの時代、世界の情勢が急速に変化し、大きな不確実性が人々を覆っています。第二次世界大戦の時代とはまったく違う世界ですが、不安や脅威という点で、当時と現在、ふたつの時代がリンクするのではないでしょうか。そのように指摘されることも多いので……」

『オペレーション・ミンスミート』には、「007」を執筆する前のイアン・フレミングが、MI5の作戦の一員として登場。スパイ映画へのリスペクトと愛もちりばめられている。コリン・ファースのキャリアでも、『キングスマン』や『裏切りのサーカス』といった、いわゆる“スパイもの”が重要な位置を占める。このジャンルにはどんな思いがあるのだろうか。

「私にとって“スパイ”というジャンルの魅力は、ほとんどを小説からもらっている気がします。ジョン・ル・カレ(「寒い国から帰ってきたスパイ」)、グレアム・グリーン(「第三の男」)、ベン・マッキンタイアー(本作の原作者)、ミック・ヘロン(「窓際のスパイ」)などが大好きで愛読しています。高度なスパイの技術や国家規模の問題を軸におきながら、そこに人間の複雑な感情が絡んでいる物語に夢中になりますね。そのような作品からは、映画としての可能性も発見できるんです」

※()内は著者の代表作

『オペレーション・ミンスミート』撮影中のショットより
『オペレーション・ミンスミート』撮影中のショットより

そして映画ファンとして気になるのは、日本でも昨年末に公開された、あの映画をどう受け止めたかということ。自身が主演を務め、シリーズ2作が大ヒットした『キングスマン』。その最新作『キングスマン:ファースト・エージェント』は過去の時代を描いたため、コリンは出演していないからだ。そこに話を向けると……。

「じつは最新作はまだ観ていないんです。でも、とても楽しみにしていますよ。自分自身を考えれば、(『キングスマン』のような)肉体派よりも(今回のように)頭脳で勝負するスパイ役の方が適した年齢になったことを実感します」

好対照なスパイ役を、そう比較するコリン・ファース。最後に日本のファンに向けて、こう締めくくった。

「この『オペレーション・ミンスミート』に、私は心から楽しんで取り組みました。その思いを日本の人たちに受け取ってほしい。そして、できるだけ早く皆さんの元に戻りたいです。以前、日本を訪れたときは、本当に素敵な時間を過ごすことができましたから」

現在、『1917 命をかけた伝令』のサム・メンデス監督と再び組んだ、1980年代のイギリスの映画館を舞台にしたラブストーリー『Empire of Light(原題)』の撮影に取りかかっているというコリン・ファース。共演は今年のアカデミー賞候補にもなっているオリヴィア・コールマン。この作品が公開される頃には、彼が再び日本へ来られるような状況になっているだろうか? われわれ日本のファンも、そしてコリン自身も、そう強く願っている。

『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』

2 月18日(金) TOHO シネマズ日比谷 他全国公開

配給: ギャガ

(c) Haversack Films Limited 2021

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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