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なぜか気になる「俺たち」映画。とりあえず劇場公開なら観る価値アリ!?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『俺たちポップスター』は8月5日(土)公開

今週末(8/5)に公開される『俺たちポップスター』。このタイトルの「俺たち」に、映画ファンはとりあえず色めき立つ(かもしれない)。ここ数年、あるパターンの映画が、邦題に「俺たち」と付けることで、ジャンルというのは大げさにしても、「ああ、そういう映画ね」という立ち位置を示すようになった。(おもに)男たちのコンビやチームが、(これもおもにだが)特定の業界を舞台に、とんでもない騒動を引き起こしたりするコメディだ。『俺たちポップスター』はタイトルが示すとおり、ミュージシャンたちが主人公である。

これらの作品、もちろん原題に「俺たち」という言葉は入っていない。あくまでも日本独自の一括りな作業。最近、何かと映画邦題問題が話題になっているが、この「俺たち」の邦題に目くじらを立てる人はいない。むしろ歓迎されていると言っていいかも。

『俺たちニュースキャスター』
『俺たちニュースキャスター』

過去にも『俺たちに明日はない』、『俺たちは天使じゃない』などの作品はあったが、現在のジャンルとなった「俺たち」映画の元祖と言えるのが、2004年の『俺たちニュースキャスター』。原題は「Anchorman: The Legend of Ron Burgundy」。アンカーマンとは、日本ではニュースキャスターなので、この邦題は順当。しかしこの作品、日本では劇場公開されなかった。ハリウッド製コメディの日本での公開がどんどん少なくなってきた時期でもあり、「サタデー・ナイト・ライブ」出身の主演ウィル・フェレル、監督アダム・マッケイというコンビなので、日本では当たりそうもないという配給会社の選択も止むをえなかった。実際にこの作品、北米では8500万ドルの興収を上げて大成功しつつ、国外では総計500万ドルしか稼いでいない。しかし日本で「俺たち」のタイトルでDVD発売されると、待ちかねたファンの間で密かなブームとなったのである。

男子ペアが主人公の『俺たちフィギュアスケーター』
男子ペアが主人公の『俺たちフィギュアスケーター』

そしてついに、「俺たち」映画が劇場公開される。2007年の『俺たちフィギュアスケーター』だ。原題は「Blades of Glory(栄光の刃)」。やはり主演はウィル・フェレルで、そのつながりで邦題も決まったのだろうが、あまりに内容にぴったりなタイトルである。北米で1億ドルのメガヒットも記録したうえに、「フィギュアスケート」という日本でも人気のネタだったことで、満を持して劇場公開。フィギュア男子ペアという突飛な設定で、フィギュアファンが観たらツッコミどころも多めながら、CGも使った本格的テクニックに、ありえないほど笑えるパフォーマンスがうまくマッチし、少ない劇場数ながらスマッシュヒット。「俺たち」映画の面白さを確立した。

『ホット・ファズ〜』は新作『ベイビー・ドライバー』も好調のエドガー・ライトが監督
『ホット・ファズ〜』は新作『ベイビー・ドライバー』も好調のエドガー・ライトが監督

同じ年、『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』も公開。原題は「Hot fuzz」。これはウィル・フェレル出演作ではないし、「サタデー・ナイト・ライブ」とも無関係。イギリスのエドガー・ライト監督、サイモン・ペグ脚本・主演作で、イギリスらしいブラックジョークも満載だが、警官コンビのコメディで、『フィギュアスケーター』のヒットに気をよくしたギャガの配給ということで、「俺たち」映画に仲間入りさせた模様。満足のいくヒットとなった。

そしてウィル・フェレルの「俺たち」映画は、2008年の『俺たちダンクシューター』(原題「Semi-Pro」)を経て、『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』が、2011年に日本公開。原題は「The Other Guys」。この作品、日本では配給のソニー・ピクチャーズが劇場公開を諦めたが、他社(日活)に移って北米から1年遅れての念願の公開が実現した。ウィル・フェレルの相手役がマーク・ウォールバーグで、ドウェイン・ジョンソン、マイケル・キートンら豪華キャストで、バカらしさ、面白さとも一級品なのである。翌2012年には。やはりウィル・フェレル主演の『俺たちサボテン・アミーゴ』(原題「Casa de mi Padre=僕の父の家」)も無事に日本公開となった。

とはいえ、日本では爆発的ヒットが見込めない「俺たち」映画。DVDスルーの憂き目に遭う作品も多く、ウィル・フェレル作品では『俺たちステップ・ブラザーズ -義兄弟-』(2008)、『俺たちスーパー・ポリティシャン めざせ下院議員!』(2012)、先駆けとなった『俺たちニュースキャスター』の続編『史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク』(2013)も劇場公開されなかった。

しかしDVDスルー作品では「俺たち」映画が花盛りで、『俺たちチアリーダー!』、『俺たちプロボウラー』、『俺たちヒップホップ・ゴルファー』、『俺たちスーパーマジシャン』、なぜかデニス・ロッドマン主演の『俺たち庶民派シューター』と、もう節操がない感じ。『ディス・イズ・ジ・エンド 俺たちハリウッドスターの最凶最期の日』あたりは、今をときめくエマ・ワトソンの「黒歴史」作品として逆に注目したい。

こう考えると、「俺たち」映画に期待していいかどうかは、やはり劇場公開に係ってくる。その意味で、今回の『俺たちポップスター』は、日本人が観ても一定の面白さは保証されている。バカらしさと、業界のリアルさ。そのバランスが絶妙であれば、「俺たち」映画が愛されるレベルになるからだ。

数えきれないスターたちのカメオ出演

人気ヒップホップバンド「スタイル・ボーイズ」が、メインのメンバー、コナーがソロデビューしたことで、あっさり解散。しかしコナーもキャリアで大失敗を犯し、「スタイル・ボーイズ」再結成なるか……というストーリー。空手のコスチュームでPV撮ったり、コナーの親友がペットの亀だったり、とにかく面白ネタがノンストップで繰り出される展開は、まさしく「俺たち」映画の真骨頂。もちろん業界の裏事情も楽しく挿入され、テンポは快調そのもの。

そして「俺たち」映画といえば、豪華なカメオ出演で、『俺たちフィギュアスケーター』にもナンシー・ケリガンやスコット・ハミルトン、サーシャ・コーエンら本物のスケーターが出たように、『俺たちポップスター』は、大物ミュージシャンや俳優が大挙出演。しかもその役割がとことん笑える。なぜか「謙虚」なマライア・キャリー、裏方の料理人に徹するジャスティン・ティンバーレイク、目を凝らして観ないと発見が難しいエマ・ストーンら出てくる、出てくる……。スターの意外な怪演を追っていくだけでも楽しすぎるのだ。

「スタイル・ボーイズ」の3人を演じるメインキャストは、サタデー・ナイト・ライブの出身者で、製作は『俺たちニュースキャスター』と同じジャド・アパトーなので、この点も「俺たち」映画としては正統派。アクション大作が目立つ夏休み映画に、いろいろな意味で一服の清涼剤になるような「俺たち」映画に、今後もさらなる快作が生まれ続けることを願いたい。

画像

『俺たちポップスター』

配給:パルコ 

(c) 2016 UNIVERSAL STUDIOS

8/5(土)より、新宿シネマカリテ他にて全国ロードショー

『俺たちニュースキャスター』

Blu-ray 2,381円+税 発売中

発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

『俺たちフィギュアスケーター』

DVD 1,429円+税 発売中

発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

『ホットファズ-俺たちスーパーポリスメン!-』

Blu-ray 1,886円+税 発売中

発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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