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豪雨時のマスク避難はアリかナシか? 歩行が困難な方は雨が降り出す前に避難を

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
大雨の中をマスクをしながら車椅子で避難するシミュレーション(筆者撮影)

 突然の大雨。豪雨時のマスク避難は、場合によっては呼吸困難に陥ります。特に歩行が困難な方のマスク着用は致命的な結果になることも。自力歩行困難者は雨が降り出す前の避難をご検討ください。

 1時間当たり50 mmの「非常に激しい雨」と風速10 m/sの「やや強い風」の暴風雨の中を3分間(注)にわたって歩いて避難すると、顔につけたマスクの吸水状態は次に示すようになります。

状 態    不織布マスク  ウレタンマスク

傘さし歩行  ほぼ吸わない  吸う

カッパ歩行  吸う      吸う

車椅子座位  多く吸う    多く吸う

担架仰臥位  極めて多く吸う 極めて多く吸う

図1 時間雨量50 mmの大雨の中を3分間歩いた行動に相当する雨を受けた際に人のマスクが吸水した量。サンプルの最大値を示しているもので、統計的な処理はしていない生データであることに注意(筆者作成)
図1 時間雨量50 mmの大雨の中を3分間歩いた行動に相当する雨を受けた際に人のマスクが吸水した量。サンプルの最大値を示しているもので、統計的な処理はしていない生データであることに注意(筆者作成)

 昨年の11月に筆者が客員教授を兼務する明治国際医療大学(京都府)の学生が京都大学防災研究所宇治川オープンラボラトリーにて授業として体験した時に学生が着用していたマスクの吸水量を測った結果が図1です。同学木村隆彦教授とまとめました。「およその呼吸可能ライン」については、人の顔面の凹凸状況やマスクの形状などの影響を大きく受けるので、あくまでも目安です。

 以下に映像をもとにして具体の解説を進めます。

傘をさして歩行

 上からも横からもたたきつけてくるような雨の中を、動画1のように比較的大きくて深い傘をさして徒歩で避難している状況を再現しています。歩行する前方から雨粒が横向きの強風にのって体に打ち付けてきます。

動画1 傘をさして暴風雨の中を歩く体験(筆者撮影、24秒)

 歩行時の特徴ですが、両手でしっかりと傘の柄をつかんで風で傘がとばされないようにしています。傘は深くさし、前傾気味にして、顔面に水しぶきが当たらないようにしています。

 このような恰好では、不織布マスクでは0.1 gから0.2 gのごくわずかな水を吸収する程度でした。呼吸には何ら支障はありません。ところがウレタンマスクでは1 gから2 g程度の水を吸収していました。これも呼吸をする分にはあまり影響はありません。

 不織布マスクとウレタンマスクとの間の吸水量の違いは、ウレタン生地で通気性がよい点が挙げられます。呼吸とともにウレタン内部に水が吸い込まれやすいと考えています。

カッパ着用歩行

 傘を持たずに歩行してみました。動画2ではポンチョタイプのカッパを着て歩いています。フードを頭全体にかぶっています。歩く時の特徴は前傾姿勢となっていることです。前から風を受けているので、自然とこのような恰好になっています。

 このような恰好では、不織布マスク、ウレタンマスクとも2.5 gから3.0 g程度の水を吸収しました。呼吸には少々不便を生じる程度です。

動画2 カッパ姿で暴風雨の中を歩く体験(筆者撮影、10秒)

車椅子座位

 傘をさすことなく、カッパを着用した状態で車椅子に座り、他の人に押してもらい移動してみました。動画3に示すように、座っている人は車椅子の背もたれに背中をつけているせいか、顔が正面を見るような姿勢となりました。その顔面を容赦なく雨粒が襲います。一方、車椅子を押す役の人は前述のカッパ着用歩行の時以上に前傾姿勢となりました。車椅子のハンドルに手をかけて歩けば自然とそのような体勢になります。

動画3 車椅子に座り暴風雨の中を移動する体験(筆者カメラ撮影、18分36秒スローモーション 360度VR)

 車椅子に座ったまま押されて移動すると、不織布マスクでは4 gから7 gの水を吸いました。ウレタンマスクでは5 gから6 gの水を吸いました。いずれも呼吸に支障をきたします。カッパを着用しない状況だと、およそ13 gの水を吸っていました。こうなると呼吸できなくなります。一方、車椅子を押す役の人のマスクは、不織布マスクでは1 gから2.5 gの間の吸水となり、ウレタンマスクでは0.1 g程度の少量の人もいれば、3 g以上の人もいました。

 ここで課題となるのが、車椅子に座っている人のマスクの吸水量に比べて、車椅子を押す人のマスクの吸水量が圧倒的に少ないことです。つまり、車椅子を押す人が「マスクが呼吸を邪魔している」という認識になかなかつながらないことです。

担架仰臥位

 車椅子にも座れない状況の中で、やむなく担架にて搬送する場合を想定しています。仰臥位とは仰向けのことです。動画4に示すように、顔面を直接雨粒が激しくたたきつける様相となりました。

動画4 担架に横たわり暴風雨の中を移動する体験(筆者撮影、1分18秒)

 極めて厳しい結果となりました。不織布マスクでは12 g程度の水を吸水しました。より吸水しやすいウレタンマスクでは何と15 gの水を吸う結果となりました。体験した学生は呼吸ができないため、マスクをずらし呼吸を続けました。

 担架搬送の場合は、基本的には仰臥位の人の顔の位置で担架を持つ人が担架側を向くので(動画4の通り)仰臥位の人の顔付近の異変に気が付きやすいのです。しかしながら、雨の量によっては視界が十分にとれず、異変に気が付きにくいので、要注意となります。仰臥位の人のマスクは初めから外すことに尽きると言えるでしょう。

まとめ

 豪雨時のマスク避難はアリかナシか?の答えは、ナシです。特に車椅子や担架で移動することになる方については、雨が降り出す前に避難を始めることが肝要です。どうしても雨の中の避難になった場合にはマスクは外すか、フェースシールドなどに交換する必要があります。

:あくまでも3分間の推定結果です。時間が経つにつれてはじめは吸水量の少ない状況でも長時間にわたり雨に濡れていけば、いずれ呼吸困難な量にまで吸水がなされることになります。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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