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酷暑のプールの楽しみ方 泳ぐときの格好は? 水分補給は?

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
(写真:アフロ)

 連日の酷暑。例年なら6月は寒さに震えながら学校プールに入る子供たちを見かけることもあるのに、今年はとにかくプールで身体を少しでも冷やそうと入場者が集まり、すでに開場しているプールは大人気です。

すでに開場している屋外プールの人気度は?

東京サマーランド、屋外プールエリア「アドベンチャーラグーン」7月オープン。日本最大級の流れるプール、全8種のウォータースライダーなど (トラベル Watch 6/20(月) 8:00配信

 すでに流れるプールは6月4日(土)~6月26日(日)の土日限定にて先行オープンしていて、感染防止のための人数制限を行いながら、入場者で大賑わいです。6月なのに人気度マックスの異様な盛況ぶりです。

 6月から7月にかけては、いつもなら寒さ対策をしながらプールを楽しむ時期なのですが、今年は暑さですでにバテ気味のファミリーに淡水の冷たさを届けつつ、いい思い出作りに貢献しているようです。

この近年、異様な暑さに包まれているプールの周辺

 すでにコロナ禍で忘れてしまっている感がありますが、2018年の夏も、2019年の夏も7月から8月にかけて異常な暑さが続いて、暑すぎて屋外プールの中止が相次ぎました。筆者が調べた限りでは、特殊な状況を除いて明確な数値的根拠が見当たらないのですが「プールで泳いでいても熱中症になる場合がある」という理由だそうです。

 今年は文部科学省の追い風もあり、マスクをせずに行うプール授業は各地で進んでいるようです。筆者の住む新潟県でも小学校のプールでは毎日のように子供たちがプール授業を受けています。小学校に勤務する教員は「この暑さの中、今年はコロナに負けずにプール授業ができてよかった」と話します。

学校生活でのマスク着用について、文部科学省は10日、熱中症のリスクを下げるために、運動部の活動などでもマスクを外すよう通知しました。(テレビ高知 6/14(火) 18:33配信

プールの熱中症は水難事故につながるか

 筆者の限られた調査能力の中で見出された、熱中症が原因だと思われる水難事故例は次の2つです。

事例1 地方国立大学の室内プール(室温33度、水温30度、湿度87%)で水泳部の男子学生(当時21歳)が50 m を全力で泳ぐ練習を8本こなしたところでコースロープにもたれかかるようにして動かなくなった。顔面は赤く熱く、意識がもうろうとしていたので、ただちに陸に上げて、冷水タオルで体をぬぐいながら様子を見たところ、意識が回復した。病院での診察結果は熱中症だった。

事例2 公営プールで朝の気温30度、日中気温36度の条件で監視業務をしていた男性(当時24歳)がプールの水を体にかけようとプールサイドからプールに身を乗り出したところ、落水した。その後、自力で上がろうとしたら、脱力して上がれなかった。周囲の監視員の手助けでプールから上がることができた。体温が38度を超えていたので、直ちに病院で診察を受け、熱中症と診断された。

 以上の事例は閉め切った室内で無風状態であったり、直射日光を浴びる炎天下の長時間作業だったり、熱中症対策が十分ではありませんでした。ということは、屋外プールで直射日光を避けて、水の中に入る時間を確保すれば、プールで楽しい思い出を作ることができます。

プールで身体を冷やす工夫

冷たい水で遊ぶ

 プールに入場すると入場口近くには「本日の水温」が掲示されています。「学校屋外プールにおける熱中症対策」によれば「水温が中性水温(33~34度)より高い場合は、体温を下げる工夫を」とあります。

 中性温度とは、水温が体温に影響を与えない温度のことで、温まりもせず、冷やされることもない水温です。ということは掲示にて知らされる本日の水温が33度以下なら「冷たい水」となります。

 25メートルプールなど十分な深さのあるプールでは常時給水を行っていることもあり、水温がそうそう30度を大きく超えることはありません。一方、幼児用プールなど浅いプールでは時間帯・給水状況によっては水温が30度を大きく超えることもあります。身体を入れて「冷えないな」と感じたら、退水することも考えます。

プールサイド休憩中は身体を拭かない

 酷暑の日は、身体が水で濡れている間は、その水が蒸発することによって身体の表面の熱を奪ってくれます。これを気化熱といいます。水に濡れた後やアルコールで拭いた後に皮膚がひんやりするのは、皮膚の熱が液体の気化によって奪われたからです。

 ならば、この気化熱を使って身体を冷やしましょう。蒸発が進んで身体の皮膚の表面が乾燥してきたら、体温は上昇に転じます。再度プールに入って身体をこまめに濡らすなどの工夫をします。

 プールに入って水に浸かっている時にTシャツなどを羽織る、あるいはメッシュのスイミングキャップをかぶるといった工夫も有効です。直射日光から身体を守るばかりでなく、Tシャツなどの生地にしみ込んだ水が気化する時に奪われる熱でも身体を冷やすことができます。

プールに入らない時間が怖い

 最も怖いのは、監視員や陸から子供を見ている家族・先生の熱中症です。プールサイドの表面は材質によっても異なりますが、温度が軽く50度を超えることがあります。座ればこの熱の間近にいるわけで、プールサイドにて気化熱を汗の蒸発だけに頼っていては、体温の上昇を招きます。「日陰で休め」と言われても酷暑の日はたとえ日陰でも体温上昇は免れません。

 やはり、プールにやってきたら子供と一緒に水に入って遊びましょう。監視員は、定期的に「水中監視」を取り入れて、水で身体を冷やす工夫をします。

更衣室は要注意

 風通しがよくない更衣室では、湿度が上がって気化熱の効果が得られにくくなります。体温が上昇しやすい場所として知られています。着替えが終わったらただちに屋外に出ます。

水分補給は十分に

 プールの水に浸かっていれば水分補給がいらないものと勘違いされますが、そんなことはありません。プールで潜ったり、泳いだりしていると息継ぎによって呼吸の深さと回数が増えて、通常の生活よりも呼吸によって消耗し、必要とされる水分が多くなります。プールで水に浸かっていても、常に水道やスポーツドリンクによって水分を補給します。

おわりに

 いつもの6月であれば、プールから上がって休憩中に身体の水を拭き取り、身体を冷やさないようにするものです。でも今年の酷暑下では、いつもの6月、7月の常識が通用しません。皆さんで工夫をしてこの酷暑を乗り切りましょう。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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