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豪雪地域の屋根からの落雪の瞬間映像 地面の雪の片づけ作業は慎重に

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
雪の塊をいっきに落とすタイプの落雪型住宅(筆者撮影)

 新潟県の豪雪地域として知られる中越地方の山沿い。ここでは克雪住宅の普及が進み、屋根の雪下ろし風景は珍しくなりつつあります。むしろ屋根からの落雪で生き埋めや水路転落のリスクが高くなっています。

 落雪式住宅の周囲での地面の雪の片づけ作業は複数で行うこと、単独の場合、用水路に落ちたとか、下半身が雪に埋まり脱出できないとか、何かあったときの緊急通報ができるように作業中は携帯電話を肌身離さないことが重要です。

雪下ろしは今は昔

 新潟県中越地方の山沿い、魚沼市、南魚沼市、湯沢町あたりは日本有数の豪雪地域として知られています。今、筆者がいる南魚沼市石打あたりでは積雪が130 cmを超えていて、多い時にはそれが2 mを軽く超えます。

 このところ発信される啓発情報では、「雪下ろし中の屋根からの転落事故に注意」と頻繁に流されています。多分、「雪下ろしイコール屋根の上にのる作業」というイメージに基づいているものと思われます。ところが、南魚沼市あたりに住んでいると「いつの時代の話かな?」的な感じになったりもします。なぜならこの辺りでは、屋根の雪下ろし風景は珍しくなりつつあるからです。

 動画1をご覧ください。南魚沼市内を撮影しながら回った様子を示しています。動画の中に出てくる多くの住宅の屋根の上には雪がのっていないか、あるいは倉庫や車庫の屋根の上には時々どっさりとのっているかという様子がうかがい取れます。

動画1 新潟県南魚沼市内の住宅の様子。落雪式住宅をはじめとする克雪住宅がとても目につく(筆者撮影、1分39秒)

落雪式住宅では雪が自然に落下する

 これらは、克雪住宅と呼ばれる建物です。克雪住宅には耐雪型住宅、落雪型住宅、融雪型住宅があります。動画1では、多くの住宅で屋根の上から雪が滑って落ちている様子が写っていますので、落雪型住宅が多くあることがわかります。

 落雪型住宅とは、屋根に積もった雪が自然落下するように、屋根に大きな傾斜がついていたり、屋根の表面に雪が滑りやすい素材が使っていたりする住宅です。雪が自然に落ちるということは、人が屋根の上に上がることを想定していません。だから、雪下ろしがこのあたりでは珍しい風景となりつつあるわけです。

 せっかくですから、落雪型住宅の屋根から雪が自然落下する瞬間の映像を見てみましょう。動画2は雪がかなり積もってから落ちる様式の屋根、動画3は降った雪から自然に流れるように落ちる様式の屋根です。その家の構造、屋根の傾斜、屋根の塗装、そして周辺の空いている土地の状況などで、いろいろな落雪方法が選択されます。

動画2 かなり積もってから落ちる雪の瞬間映像(筆者撮影、48秒)

動画3 降ってくるそばから流れるように雪が落ちる様子(筆者撮影、46秒)

 この地域では、多い年には積雪が2 mを超えることもあります。毎晩の降雪が50 cmを超えることも珍しくありません。でも高齢化の波は極めて速くやってきていて、自分の家の雪下ろしが体力的に難しくなったり、人を頼んでも人材不足でなかなか下ろしにきてくれなかったり、雪下ろしそのものの作業が成り立たなくなってきました。

 そこで新潟県では、県内の特別豪雪地帯に住んでいる人が克雪住宅を新築若しくは克雪住宅に改修する際に、工事費用の一部を助成する制度を実施しています。この制度が落雪型住宅などへの転換を強く推し進めました。

落下してきた雪による事故

 新潟県がまとめた昨シーズンの雪による人的被害状況(人)を一部抜粋すると次の通りです。

              死傷者数 死者数

 雪下ろし等除雪作業によるもの  240  9

 側溝等転落によるもの      14   5 

 雪崩等によるもの          1    0

 屋根雪落下等によるもの      22   0

 除雪機事故によるもの      45   3

 特に魚沼市、南魚沼市、湯沢町のように克雪住宅が比較的に普及している地域での死者数は次の通りです。

 雪下ろし等除雪作業によるもの  2

 側溝等転落によるもの      2

「側溝等転落によるもの」とは、屋根から落ちてきた雪を片付けるために、家屋に隣接する池や用水路に近づいて、転落したものです。水の量そのものは浅くても、転落してそこから這い上がることができないと、冷水に浸かったまま低体温となります。新潟県全体の死者数5人は意外と多く感じるかもしれません。

「屋根雪落下等によるもの」とは、屋根から落ちてきた雪により生き埋めになったりしたものです。幸い昨シーズンでは死者はいませんでした。動画2でご覧いただいたように、塊で雪が落下してきたとしても、雪がパーツに分かれて落ちてくるようになっており、落下地点にいた人は怪我をすることはあっても、呼吸が長時間できなくなるような埋まり方はなかなかしないように工夫されています。

 これまでの雪下ろしを伴う除雪作業では、屋根で雪を下ろす人と地面で雪を片づける人とチームとなって作業することが多くて、どちらかに異常があればすぐに救助作業等に取り掛かることができました。ところが、克雪住宅が増えてきて地面で雪を片づける作業だけになってくると、平日の日中に1人で作業を行うことが多くなり、何かあった時には他人による発見がどうしても遅れてしまいます。

 落雪型住宅でも事故は発生します。雪の片づけ作業は複数で行うこと、単独の場合、用水路に落ちたとか、下半身が雪に埋まり脱出できないとか、何かあったときの緊急通報ができるように作業中は携帯電話を肌身離さないことが重要です。

さいごに

 昨シーズンは感染症拡大を防止するために、太平洋側にお住まいの方々は雪国にでかけることもそうそうなかったと思います。今年は帰省客や観光客の姿をここ新潟県でも多く見ます。

 久しぶりの新潟県、慣れない実家の落雪型住宅の周囲を歩き回っていたら「急に雪が落下してきて埋まった」ということがないようにくれぐれもお気を付けください。

 そして、いつも「除雪中の事故に注意」と喚起して、雪国を想っていただいている皆さま、ありがとうございます。これからも気にかけていただけると嬉しく思います。

 平野部の長岡市あたりだと、雪の量は南魚沼市ほどではありません。それでも、回数は少ないとしても今でも屋根の雪下ろしは普通に見られる風景です。新潟県全体では雪下ろし中の転落事故件数は多くて、中越地方でも長岡市の周辺では死亡につながる事故も発生しています。長岡市やその周辺も「克雪すまいづくり支援事業実施市町村」となりましたので、落雪型住宅などの普及が進み、屋根からの転落事故は今後少なくなっていくと期待されます。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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