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道路のマンホールがガタガタ鳴ってる それ、洪水避難の合図かも

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
マンホール内の圧力により噴き出す水(日本グラウンドマンホール工業会会員提供)

 マンホールがガタガタ鳴ってる、隙間から水が噴き出てる、トイレが逆流してる、家の周辺がなんとなく臭う。これらは内水氾濫の始まるサインかもしれません。これを合図に付近の高台に避難します。道路が冠水する前に。

こんな現象を見たら聞いたら、付近の高台へ避難

マンホールがガタガタ鳴いている

 もし、周辺で大雨が降っているのであれば、下水管などから水が溢れ出して市中が浸水する内水氾濫のサインかもしれません。

 道路を見ると大小さまざまなマンホールがあり、大抵は鉄の重いフタがかぶさっています。特にそのうちのどれか一つでも「ガタガタ」と音をあげて上下に振動を繰り返しているようだと、直に洪水となるサインかもしれません。

マンホールから水が噴き出ている

 「ブシュ」っと音を立てて、周期的に水が噴出している場合は、内水氾濫の始まるサインです。マンホールばかりでなく、川などにつながっている水路から川などの水が逆流してきて市中に水があふれ始まります。

 カバー写真のように定常的に水が噴き出ていたら、内水氾濫が始まったと言えます。直に道路が完全に冠水することでしょう。災害に遭遇した人の様々な体験によれば、冠水が始まり水深が深くなるまでほとんど時間がない場合が多いです。従って、マンホールがガタガタなり始めたら、それを避難の合図ととらえて、すぐに付近の高台に避難します。

トイレが逆流

 よく、洪水の時にトイレに汚水が逆流してくるという話しを耳にします。この場合、「汚い」で済む話ではありません。トイレに汚水が逆流するのは、大雨の雨水をどこかでしっかりと流せない状態となり、下水管の中の水が行き場を失いつつあることを示しています。当然、この現象も内水氾濫の始まるサインかもしれません。

 同じような話で、「家の周囲が臭う」のも、行き場を失った臭いがマンホールをガタガタさせながら地上に上がってきたものであることが十分考えられます。臭ってきたら、高台へ避難しましょう。避難が遅れると汚水で冠水が始まり、トイレに流したものの中を歩く羽目になるかもしれません。

動画 Yahoo!ニュース連携「道路のマンホールがガタガタ鳴ってる それ、洪水避難の合図かも」水難チャンネル 動画での説明はこちら(筆者作成、8分31秒)

いつもガタガタと鳴くわけではないから注意

 以上の現象は洪水避難の合図になります。ただ、「このような現象が起こらないから安全」というわけではありません。

 マンホールのフタと洪水の関係については、筆者記事「冠水道路のマンホールに吸い込まれる怖さ 事故防止技術はどこまで進んだか?」をぜひお読みください。工学の専門家の視点で、一般の読者にわかりやすく解説しています。

 その中でも触れていますが、全国津々浦々に1500万基ほどあるマンホールの中には、下水管の中の圧力がかなり高くなってから、爆発したように吹き飛ぶマンホールのフタがまだ残っていると推測されています。このようなマンホールの中には吹き飛ぶ寸前までびくとも動かないものもあります。だから、どのマンホールでも絶対にガタガタ鳴くとは言い切れないのです。

 また、自分の土地よりも低い土地でマンホールから水が噴き出すと、そこで下水管の内部の圧力が開放されるため、高い土地にいる自分の周囲のマンホールには内部に圧力がかからず異常が見られないという場合もあります。その場合には低い土地から地表を水が伝ってきて、冠水していきます。

下水道には種類がある

 家庭などから出た汚水と雨水をあわせて下水といいます。下水道には合流式と分流式があります。分流式は汚水と雨水とがそれぞれ管で分かれます。 

  合流式とは、汚水と雨水を同じ管で運ぶ方式です。分流式は、汚水と雨水をそれぞれ別々の管で送る方式のもので、汚水は下水処理場に送られ、そこできれいな水に処理されますが、雨水は河川などに直接放流されます。

 本市では、長岡地域の川東中心市街地は合流式下水道、その他の地域は分流式下水道で整備しています。

 なお、下水道管には、雨水のみを流す雨水管、汚水のみを流す汚水管、雨水と汚水を一緒に流す合流管の三つがあります。

 本市における下水道の整備延長は、合流管が165km、汚水管が1,731km、雨水管が279km、合計2,175kmです。(平成30年度末現在) 長岡市ホームページより抜粋

 大雨の時に影響を受ける下水管は、合流式の他に分流式のうちの雨水管です。合流式の下水管のマンホールから下水があふれると、当然臭気を伴った汚水を含みます。実際にその中を水に浸かりながら歩いた人の話によれば、「臭いばかりでなく、歩く時に使った靴にも臭いがついて、二度と使うことはなかった」というほどです。一方、雨水管からは汚水は上がってきません。しかしながら、雨水管は川などに直接つながっていることが多く、増水した河川の水が逆流しやすいとも言えます。

 では、自分の自宅の付近の下水道は、合流式か分流式かどうやって見分けたらいいでしょうか。マンホールのフタを見ることでわかることがあります。

 図1(a)は汚水管のマンホールのフタの一部です。「おすい」と書かれていることがわかります。(b)は雨水管のマンホールのフタの一部です。(c)は東京都23区内によくみられる合流式の下水管のマンホールのフタです。

 なかには図2のようにどこにも「おすい」などの表記のないマンホールのフタも存在します。このフタを管轄する自治体では、汚水管があるけれども、雨水管がありません。つまり、下水管と言えば汚水管なので、わざわざ表記する必要がありません。雨水については側溝などで排水が十分にできる地域です。

図1 (a) おすい管・長岡市、(b) 雨水菅・長岡技術科学大学、(c) 合流式・東京都足立区 (筆者撮影)
図1 (a) おすい管・長岡市、(b) 雨水菅・長岡技術科学大学、(c) 合流式・東京都足立区 (筆者撮影)

図2 汚水管のマンホールフタなのに、「おすい」表示のない例・小千谷市(筆者撮影)
図2 汚水管のマンホールフタなのに、「おすい」表示のない例・小千谷市(筆者撮影)

さいごに

 図に示したように、マンホールのフタには種類があると同時にその地域の名勝、名産品がデザインされていたりします。ぜひ、ご自宅の近くのマンホールのフタの表面をのぞいてみてください。なお、車道にある場合が多いので、車の往来には十分お気を付けください。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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