6月と7月は年間でもため池の水難事故が最も多い時期。特に若い人や親子連れの釣り中の事故が頻発します。「ため池に近づこうかな」と思ったら、その前にぜひ見てください。水中から撮影した事故を再現した実験動画が「やっぱりやめようよ」と説得します。

速報:警察庁令和2年中水難の概況が発表されました。中学生以下子供死者行方不明者数28人(昨年比ー2)、生還率 子供84.1%(昨年比ー0.1)、高校相当年齢以上51.4%(昨年比+0.7)

実験で想定したモデル事故

 ため池の中でも特に落ちやすく、上がりにくい遮水ゴムシートの斜面をモデルとしました。図1に実在する遮水ゴムシート張りのため池の様子を示します。ゴムは乾燥していると滑りにくいのですが、少しでも濡れると急に滑りやすくなります。「まさか、滑るとは」のマサカが恐ろしい水難事故につながります。

図1 遮水ゴムシート張りのため池の様子。数あるため池の斜面の中でも絶対に近づいてはならない斜面だ(筆者撮影)
図1 遮水ゴムシート張りのため池の様子。数あるため池の斜面の中でも絶対に近づいてはならない斜面だ(筆者撮影)

実験1 ゴムシート表面での滑落

 全国的に普及している遮水ゴムシート張りのため池の斜面を模しました。プールでよく使用されているプールフロア(通称あか台)の上に、ため池で一般的に用いられている遮水ゴムシートを敷きました。水辺でよく使う夏用の樹脂サンダルを素足に履きました。

 ゴムシート表面の条件として、①ところどころ乾燥している半乾燥状態と②水濡れ状態としました。斜面の角度としては一般的なため池より少し緩めの斜度20度としました。

 ゴムシート上では、乾燥しているとさほど滑らないのですが、濡れているとよく滑ります。半乾燥している表面もたちが悪いことがわかりました。なぜなら、滑らないと安心している中でマサカを迎えるからです。

 動画1をご覧ください。前半と後半とに分かれています。前半では半乾燥状態の斜面に載ってから2歩くらいは歩けました。ところが水に濡れている部分に足が載った瞬間に滑落しました。一方後半では、水濡れ状態のゴムシート斜面に足を載せただけで、瞬間に滑落しました。

 滑った瞬間に何もできずに落水している様子がわかります。落水後少ししてから水面に顔を出しました。もし、この時にマスクをしていたら、一発で呼吸が止まることでしょう。マスクが水に濡れると呼吸できなくなるからです。特に後半で見られますが、しばらく声が出ないのは、軽い脳震盪状態で意識が飛んでいたからです。本当に手足が動かせずしばらく水中を漂っていました。底が深かったら、もしかしたら溺れていたかもしれません。

 今回の実験ではゴムの下にあるのが比較的柔らかい樹脂板だからいいものの、これがコンクリートなら頭などあちこち打って大けがするかもしれません。

動画1 遮水ゴムシート張りのため池に滑落する水難事故の実験(筆者撮影 1分11秒)

実験2 斜面が上がれない様子を水中から見る

 これまでリクエストが多かった実験の結果を動画2に示します。この実験では、斜度30度に設定したごく一般的なため池斜面を模しています。その斜面を這い上がるべく、短パン、Tシャツ、運動靴姿の被験者が挑戦しました。水中動画を中心に解説します。

 まず普通に這い上がります。靴が滑るため、まったく前進することができません。両手のかきを使って何とか前進しようしますが、ダメです。次に匍匐前進に挑戦します。かなり静かな動きとなりました。一歩一歩前進できますが、あるところで足が滑って腹ばいになりました。気を取り直して再度挑戦すると、数歩前進できました。ところが腰が水面に出ると足が滑り腹ばいとなりました。

 両手を使って泳ぐようにして上がれるか試しました。静かにゆっくりかいても前進しないので、パニック状態を模して思いきり両手をかきました。ダメでした。両手を斜面の表面において摩擦で這い上がろうとしましたが、滑ってダメでした。これがコンクリート表面だったら、指先が大根おろし状態になることでしょう。ジャンプも試みましたが、やはりダメでした。

 背面で上がることにしました。背中と手のひらの摩擦を使って少しづつ上がろうとしましたが、ダメでした。足が斜面についてないと踏ん張ることができません。そこで、足を斜面につけました。そうしたら、上がれそうな感じになりました。もう少し、というところで足が滑り沈みました。

 結局3分間頑張りあの手、この手と読者からリクエストされた上がり方を試しましたが、上がることはできませんでした。

動画2 ため池斜面を上がれない様子を水中から見る(筆者撮影 3分19秒)

お願い

 ため池は主に農業用水や治水を目的として設置されています。斜面になっているのはため池の崩壊を防ぐためです。レジャー用として設計されていません。 

 ため池に釣りとかで出かけたくなったら、あるいは出かけたいという家族がいたら、ぜひこの記事を家族でお読みください。「世の中には簡単に命を落とすことってあるんだ」と思っていただければ幸いです。

※本実験の被験者は筆者です。緊急時の自己保全技術を有しています。万が一の救助要員として赤十字水上安全法救助員を現場に配置しています。