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データは示す「今年は豪雪だった」 雪国の人でもきつかった そして春はやってきた

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
雪解けが進み、新潟のハクチョウは北へ向かう準備に入った(筆者撮影)

 日本海側の各県の今シーズンは、中(なか)2シーズンをおいての豪雪となりました。雪の降り始めの12月から急激に積雪を増し、1月初旬から中旬にかけての降雪には流石の雪国の人でも命の危険を感じました。「いつかは終わる。春は必ず来る」と希望をつなぎ、そして春がやってきました。今シーズンを振り返ります。

データが示す豪雪

 今年の雪はどうだったのでしょうか。新潟県内を例に解説します。図1をご覧ください。これは新潟県内にて大雪警戒本部や豪雪災害対策本部が設置された市町村数を示しています。新潟県が冬の時期に例年発表している「雪による被害状況」を参考としてまとめました。警戒本部等の設置市町村数が多い年は、豪雪だったことが間接的にわかります。

図1 近年の新潟県内にて大雪警戒本部や豪雪災害対策本部等が設置された市町村数(新潟県発表の雪による被害状況を筆者がまとめて作成した)
図1 近年の新潟県内にて大雪警戒本部や豪雪災害対策本部等が設置された市町村数(新潟県発表の雪による被害状況を筆者がまとめて作成した)

 近年では2017年度のシーズンが豪雪でした。その前は2012年度と2011年度でした。今シーズン、すなわち2020年度は直近の2017年度を抜いて警戒本部等の設置市町村数が多い年だったことがわかります。つまり、この10年間で記録に残る豪雪だったことが間接的にわかります。

 2018年度と2019年度で警戒本部等の設置市町村数がゼロですから、前回の大雪から今年は2シーズン分間があきました。その分だけ油断があったし、除雪の方法などに慣れるまでに時間がかかったし、特に大きかったのは、皆さんが前回の豪雪から年齢を3歳分重ねたこと。きっと高齢者にはきつかったことでしょう。

雪の被害状況

 では、図2を使って近年の雪による人的被害状況を確認してみましょう。

 一見して、今シーズン、2020年度では死者・負傷者数が多かったことがわかります。総数で360人。このうち65歳以上の高齢者は218人で、約60%を占めました。そして内訳ですが、死者数だけ抜き出してみると22人で、全体の6%に達しました。そして65歳以上の高齢者の死者数は18人でしたから、全年齢の約80%。除雪などで命を落とすのはほとんどが高齢者だったことがわかります。このことから、高齢者にはきつかったシーズンだということが判明しました。

図2 雪による人的被害の推移(新潟県発表の雪による被害状況を筆者がまとめて作成した)
図2 雪による人的被害の推移(新潟県発表の雪による被害状況を筆者がまとめて作成した)

 事故の形態としては、屋根から転落する(雪下ろし等除雪作業)238人、側溝等に転落する13人、落ちてきた雪に埋まる22人、除雪機に巻き込まれる44人、その他(疾患発症を含む)43人に分けられます。

 ここでは水難事故を伴ったり、まるで水難事故のような特徴を持つ事故、すなわち側溝等に転落する、落ちてきた雪に埋まる事故に焦点を当てて振り返ります。

 図3は近年の雪による人的被害のうち、側溝等に転落する、落ちてきた雪に埋まる事故によるものを示します。2020年度に注目してみましょう。側溝等に転落する事故による被害者は13人で多かったとはいっても、雪の多い年では過去にも同様な数字であったのに対し、落ちてきた雪に埋まる事故による被害者は22人で、この10年間では特筆に値するほど多かったことがわかります。

図3 雪による人的被害のうち、側溝等に転落する、落ちてきた雪に埋まる事故に焦点を当てた(新潟県発表の雪による被害状況を筆者がまとめて作成した)
図3 雪による人的被害のうち、側溝等に転落する、落ちてきた雪に埋まる事故に焦点を当てた(新潟県発表の雪による被害状況を筆者がまとめて作成した)

事故の具体例

側溝等に転落する事故

・70歳代(女性)除雪作業中に池に転落しているところを心肺停止状態で発見され、死亡が確認された

・90歳代(男性)用水路の水を消雪に使うため様子を見に行ったところ、誤って用水路に転落、用水路内で心肺停止状態で発見され死亡が確認された

・60歳代(男性)除雪作業中に転落し、用水路内で倒れている状態で発見され死亡が確認された

・70歳代(女性)除雪作業中に川に転落しているのを発見され死亡が確認された

・70歳代(女性)除雪作業中に水路に転落しているのを発見され死亡が確認された

 比較的水量の多い用水路や池に転落し、溺れて亡くなる事故が多かったことがわかります。大量の雪を流して片付けるのですから、仕方ないとはいえ、冬の水に転落すると体が急激に冷やされ、たとえ浅くて背が立ったとしてもすぐに体が動かなくなり意識が遠のきます。そのまま倒れると溺れることになります。

落ちてきた雪に埋まる事故

・50歳代(男性)自宅前でうつぶせの状態で上半身が雪に埋まって倒れていた。除雪作業中に屋根から落ちてきた雪に巻き込まれ窒息した。

・60歳代(男性)除雪中に雪に埋まっているのが見つかり死亡が確認された。屋根から落ちてきた雪に巻き込まれた。

 この2件の事故では屋根の構造の詳細はわかりませんが、近年落雪式屋根がかなり普及してきています。この屋根構造に起因する事故が目立ってきました。落雪式屋根では屋根に上がっての雪下ろし作業はしなくてよいのですが、屋根から雪が落ちるときには、ある程度の積雪となって、それが屋根の傾斜に耐えられなくなると落ちてきます。今年の事故では、落ちてきた雪に埋まる事故がこの10年でも多かったことから考えると、落雪式屋根からの落雪現象に慣れていなかったことは、原因のひとつとして考えられます。

 一方で、無事に助かった例もあります。

近所の人がうずたかくなった雪の中から聞こえる「助けて」という女性の声に気づいた。かすかな声だったが、雪を掘ると40代女性の頭が見え、「子どもが近くにいる」。1メートルほど離れた雪の中で小学生の男児(8)も見つけた。協力して掘り起こしたり、応急処置をしたりした。(朝日新聞デジタル 2021年2月22日より抜粋、一部筆者編集)

 まさに、水に沈んでいた親子を水難救助したにも等しい救助劇で、助かって本当によかったと思います。気がついた近所の方のお手柄です。

春がやって来た

 豪雪には怖いイメージを持つこともあります。でもいつかは終わり春がやってきます。雪国にやってくる春は格別です。図4は筆者の職場のすぐ目の前に飛来してきたコハクチョウの群れです。この数日の間に大きな群れで集まってきています。およそ150羽くらいになるでしょうか。

 筆者は長岡に住んで40年近くになりますが、周辺でこのようなコハクチョウの群れは見たことがありません。今シーズンは豪雪の影響で餌を求めて雪の少ない地域に移動したハクチョウが多かったと聞きます。推測ですが、北関東あたりまで出稼ぎに出ていたハクチョウたちが、北方に帰る前に中継地点として長岡でしっかりと栄養補給しているのでしょうか。とても美しい風景です。このような春の風景が見られるからこそ、人は雪国に魅力を感じるのでしょう。

図4 雪解けの進んだ田んぼで餌を探すコハクチョウの群れ。背景は筆者の勤務する職場(筆者撮影)
図4 雪解けの進んだ田んぼで餌を探すコハクチョウの群れ。背景は筆者の勤務する職場(筆者撮影)

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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