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数cmの積雪が危険という事実 スリップしてケガをしないための雪かき術

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
階段の雪を除いても道路でスリップする、命に関わる危険箇所(筆者撮影)

 日曜日の朝から除雪作業に追われる関東甲信でしょうか。実は、数cmの積雪は極めて危ないのです。凍った雪で歩行中のスリップや側溝などへの転落を防ぐためには、雪かきの初動が大切です。

 雪かきは雪が軟かいうちにさっと済ませましょう。排雪は側溝に詰め込まないようにしましょう。

積雪の何が危ないか?

 雪国でも降り始めの季節は、積雪でスリップしてあちこちで人が転倒したり、車が衝突事故を起こしたりします。大ケガをして救急車で病院に運ばれる人もいます。降り始めにある、ごく普通の風景です。

 意外かもしれませんが、数cmの積雪というのは、とても、とても、危険です。とくに凍ってしまうと始末におえません。カバー写真をご覧ください。建物の出口の階段の雪はきれいに除いてあります。ところが、階段を下がりきった所と道路の表面には雪が薄く氷になってへばりついたままです。こういう場所ではスリップで大ケガするのです。

 原理は簡単です。乾いた表面では摩擦が効いていて、歩いている時にスリップしにくいのですが、凍った雪の上では摩擦が効かなくなり、スリップして体勢を崩します。例えば、転倒する時に階段に頭をぶつければ大変なことになります。

 プールサイドで歩いていてスリップして派手に転倒する原理も全く同じです。転倒しやすいポイントはプールサイドからオーバーフローに降りた所です。プールサイドが乾いていて、その一方でオーバーフローが濡れていて、双方の間で摩擦が急に変化するためです。こういった摩擦が大きく変化するポイントが、転倒して大ケガをするポイントとなります。

なぜ凍って雪が残っているのか

 一言で、雪かきの初動に失敗したからです。歩行する場所は狭くてもいいので丹念に雪かきをしなければなりません。圧雪のままにして朝を迎えると、雪同士が接合して凍ります。凍れば薄い氷の層となって地面にへばりつきます。

 氷の層が地面にへばりつくと、これを取り除くのがとてもたいへんです。「ま、いいか」とそのまま放置すると、図1のように日陰であればいつまでも残っています。東京の寒いシーズンでは1週間近く残ることもあります。

 スリップして大ケガすることがとても心配なのですが、「昨日は大丈夫だった」「今日も大丈夫だった」「明日も大丈夫だろう」という考えだと、明日に大ケガするかもしれません。なぜかというと、その日の気温によっては氷の表面が少し溶け出し、濡れてスリップしやすくなるからです。

 日中、凍った雪の表面が溶けて、朝の寒さでまた凍って、また日中少し溶けて。この繰り返しで、氷の表面はどんどん滑らかになり、スリップのしやすさに拍車がかかります。

図1 日陰の雪は凍り付き、地面にへばりつく。最高に滑りやすい(筆者撮影)
図1 日陰の雪は凍り付き、地面にへばりつく。最高に滑りやすい(筆者撮影)

雪かきは初動が大切

 要するに、軟らかい雪のうちに雪かきしていれば、歩行中のスリップが防止できます。少なくとも、幅は狭くていいので、人の歩く通路だけはまめに取り除いておきましょう。

 雪かき用具にもいろいろとあります。そして、雪の状態によって使い分けます。どのような道具を使うにしても、軟らかい雪のうち、つまり初動の雪かきが大切です。

金属スコップ

 鉄とアルミニウム製があります。

鉄スコップ 角スコップと丸スコップがあります。雪かきには図2のような角スコップでないと、雪の軟らかい初動にはつらいものがあります。でも雪が固まったら、角でも丸でも金属スコップは威力を発揮します。ザクザクと氷のような雪を削り、地面から取り除いていきましょう。

アルミニウムスコップ ほぼ角スコップです。軽いので雪かきの初動には最適です。ただ、雪が固まりほぼ氷の状態になると、スコップが痛みやすくなります。

図2 鉄製の角スコップの例。先端が四角様という特徴をもつ。硬い雪でもザクザク削れる(筆者撮影)
図2 鉄製の角スコップの例。先端が四角様という特徴をもつ。硬い雪でもザクザク削れる(筆者撮影)

 金属スコップでは温度が零度を下回るような低い時には雪がへばりつきやすくなります。もともと重い上に、雪がへばりつくとどうしようもなくなります。池に向かって雪を投げようとしたら、スコップにへばりついた雪が外れず、その弾みで体勢を崩してスコップもろとも池に落ちた人がいました。

 雪がへばりつく時は、スコップをしばらく雪の中に刺して、スコップの温度と雪の温度が同じになるようにしてください。

プラスチック製品

 ポリカーボネートなど、比較的壊れにくいプラスチックでできています。軽くて、作業中に雪がスコップにへばりつきにくい特徴があります。

スノースコップ 図3に示しました。これがだいたい全国どこにでもある共通の除雪用具ではないでしょうか。壊れにくいとはいっても、図3の右に示すように硬い雪には歯が立ちません。従って、雪がまだ軟らかいうちに地面を這わせるようにして、雪を取り除いてください。地面にて氷のように固まったら、金属スコップで取り除いてください。

図3 プラスチックスコップは軟らかい雪で威力を発揮する。右のような硬い雪には使わない(筆者撮影)
図3 プラスチックスコップは軟らかい雪で威力を発揮する。右のような硬い雪には使わない(筆者撮影)

スノープッシャー 図4に示しました。新雪をかき分けて道付け(人の通り道を作ること)をするのに、たいへん役立ちます。名前の通り、雪を押すことで積雪を地面からザクザクと排除することができます。スノープッシャーも硬い雪には歯が立ちませんので、これも雪かきの初動で使います。これを使って頻繁に降り積もる雪を取り除いて、朝になって歩行中にスリップして転倒することを防止しましょう。

図4 プラスチックスノープッシャーは道付けに威力を発揮する。ただし、雪かきの初動にのみ有効(筆者撮影)
図4 プラスチックスノープッシャーは道付けに威力を発揮する。ただし、雪かきの初動にのみ有効(筆者撮影)

排雪に側溝は避ける

 雪かきしたら雪をどこに捨てるか。これは関東甲信ばかりでなく、雪国でも深刻な課題です。

 融雪装置が設置されていない地域では、道路の端に取り除いた雪を積み重ねるしかありません。ただ、その際に道路脇にある側溝に雪を捨てないようにします。場所によっては、大変な結果を招くことになります。

 図5をご覧ください。ふたのない側溝の上に雪の塊が積み上げられています。その下の側溝は空洞になっています。側溝を流れる水の温度は当然零度より高いわけですから、側溝の中の雪から溶けていき空洞を形成します。

 雪国の子供たちは、こういう雪の塊の上に上がらないように教えられていますが、そのような教育を受けていない場合、子供がこういった空洞の上に乗る可能性があります。「そんな馬鹿な話が」と思われるかもしれませんが、先日埼玉県で氷の上に乗って記念撮影をしようとした高校生が池に落ちました。地域によって教育が違う現状をまざまざと知った感がありました。

図5 側溝の上に残った雪の下は空洞になっている(筆者撮影)
図5 側溝の上に残った雪の下は空洞になっている(筆者撮影)

 記録的な大雪となった新潟県糸魚川市では10日、同市新町の酒造会社猪又酒造(猪又哲郎社長)の酒蔵に、近くの流雪溝からあふれた水と雪が流入し、酒造りの資機材が浸水する被害があった。 新潟日報 2021/01/12 18:17

 雪国のあるあるの一つです。大雪になって、あちこちで流雪溝に雪を捨て、その雪が流雪溝の水の流れをせき止めてしまいます。このような事故は、新潟県内のあちこちで起こっており、床下浸水での被害など、よく聞く話です。事故防止のために、実際に地区ごとに排雪時間を決めているくらいです。

 雪国ではない地域の道路脇の側溝は流雪溝として設計されていません。従って、側溝に雪を詰め込んで流雪溝のマネをしたら、状況によっては周辺の住宅に浸水被害を起こすかもしれません。

まとめ

 この記事を書いている最中に、国土交通省が大雪に対する緊急発表を出しました。該当地域の皆様はぜひ国や自治体の発表に注意してください。そして、雪かきの初動に関するこの記事、特に人の通り道だけでいいのでまめに雪かきをするようにと、参考にしていただければ幸いです。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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