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川遊び ライフジャケットがあればいいというものではない 命を守る注意点3つ(16日アップデート版)

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
川遊びにライフジャケットとは言っても、救助体制がダメなら大きな事故に(筆者撮影)

 お盆の8月16日、川遊びをしたくなるような天気が続きそうです。でも、川遊びに慣れていないのであれば、ライフジャケットを着用してまで深い所に敢えて入り、無理して遊ばないようにしましょう。大人も子供も、せいぜい膝下の水深に足を浸ける程度にしましょう。大切なことですから、SNSなどで、今、川で遊んでいる家族や知人にも知らせてあげてください。

 そもそも水難事故死というのは、安全そうに見えた水辺で、突如危険な事象が起こり、それに人が対応できなくなって溺れ、呼吸ができなくなることによって発生します。思い込みで語れるほど甘くありません。突如発生する危険な事象をしっかり捉えて、対応する事故防止策を考えなければなりません。それを今回は注意点として分類しました。(8月16日 3:40追記)

注意点1 流される怖さ

 海に発生する離岸流よりも速い流れがあるのが当たり前です。腰より上の水深で人は簡単に流されます。ライフジャケットは当然自分の呼吸を確保しますが、ライフジャケットを着用しながら流されると、そうそう岸に向かって泳いで戻ることができません。

 突然「助けて」と声を出せば、その声を聞いて慌てて飛び込んだ人を事故の巻き添えにする危険性が大です。多重水難事故は、始めに流された人によって引き起こされるものであり、その場に居合わせた人たちのことまでも含めて、総合的に事象を捉え、考えなければ事故防止につながりません。

 きちんとした川遊びの組織が実践しているように、下流で岸に上がれるように支援者を配置するなど、救助体制をしっかりしている場合を除いて、一般論として「川にライフジャケットを着用して入ろう」ということを軽々しく助言したり、安易に考えたりすることは間違いです。

 例えば、救助体制が構築されていない中、ライフジャケットをつけた子供が2~3人でも本流にて流されれば、現場はパニックに陥ります。ライフジャケット(救命胴衣)は、本来は緊急時に呼吸を確保するために使うもの。使ったということは、立派な水難救助対象案件となります。

 そもそも、カバー写真のような集団が全員流されることなど、想定していますか?気を付ければ大丈夫だと思うし、実際にスタッフも本人たちも結構気をつけていますので、このような場面で大事故につながることはそれほどありません。

 ところが、次に示すような「まさか」に出会うと、大人数が流されるような大事故に発展します。

注意点2 水は浅く見える怖さ

 水底は浅く見えます。それは屈折率による錯覚です。空気に比べて水の屈折率は高くなります。その分、ものが近く見えるのです。図1をご覧ください。紙コップにそれぞれ10円玉が入れてあります。水が張ってなければ十円玉はほぼ紙コップに隠れてしまいますが、水が張られると浮きあがって見えてきます。実験では比較ができるのでよくわかりますが、大自然の中では錯覚には気が付きません。

 晴天続きの川は透明度が高くなります。透明であるほど、水底がよく見えることになります。目線が低い子供の目には大人よりもさらに水底が浅く見えます。

 きれいな川ほど、陸から見てかなり浅く感じることになります。浅いと思って飛び込んだら、深くて足がつかず溺れてしまいます。ライフジャケットを着用していると、ここから流されます。リーダーの錯覚で、子供たちが次から次に飛び込んでしまったら、そして集団で流されていったら、後に「浅く見えた」という言い訳は通用しません。

図1 屈折率の関係で、水底が浮き上がって見える。つまり、実際の川底は思ったより深い(筆者撮影)
図1 屈折率の関係で、水底が浮き上がって見える。つまり、実際の川底は思ったより深い(筆者撮影)

注意点3 足元が崩落する怖さ

 そもそも、渓流に敢えて入って遊ぶ人は、相当川遊びに慣れた仲間同士で、それなりの安全対策をしています。

 キャンプなどのアウトドアのついでに川遊びをするとすれば、流れの穏やかな河畔で遊ぶものです。ところが、流れが穏やかなところは砂質の斜面である場合が多いので厄介です。

 砂質斜面では、常に砂の崩落と砂付きを繰り返しています。要するに、硬くないのです。例えば向こう岸まで泳いで、図2に示すように傾斜がついている砂質の底にたどり着きました。岸に上がろうとして、そこで立とうとすると、底の砂が崩落して、そのまま体が沈んでいきます。「おかしい、こんなはずではない」とさらに斜面を登ろうとすると、次々に崩落が始まり、上がれません。そして、そのままアリジゴクの巣のように深い所にもっていかれて溺れます。ライフジャケットを着用している子供たちなら、この「まさか」をきっかけに集団で流されます。

図2 砂質の斜面では、砂の崩落とともに身体が沈む。傾斜の高い砂浜海岸の戻り流れでいっきに30 mくらい沖に流されるのも同じ原理(筆者作成)
図2 砂質の斜面では、砂の崩落とともに身体が沈む。傾斜の高い砂浜海岸の戻り流れでいっきに30 mくらい沖に流されるのも同じ原理(筆者作成)

結局は

 水難事故のきっかけは、入水時と退水時、そして深さの急激な変化点にあります。この基本を今回は例を使って解説しました。

 上のストーリーでは、イメージしやすく集団を軸に展開しました。でも、これは家族でも立派に成り立つ話です。自分の子供が1人、2人流されても追いかけるのはお父さんやお母さんです。お父さん、お母さんもライフジャケットをしていれば、そうそう溺れて命を落とすことはありません。でも、イメージ通りに動くことができないので、家族全員が要救助者です。それ以上、救助に飛び込む人がいなければいいのですが、大人数が流されているのを見ると、大抵は飛び込んで犠牲者が出るものです。

まとめ

 水難事故は、人の行動範囲内で発生します。川は人の生活行動の範囲内のいたるところにあります。つまり、人が入り込めればどこでも事故が発生するのが当たりまえです。わが国に安全に泳げる川はほぼありません。逆に言えば、どこも危険です。

 夏休みの楽しい思い出を作るためにも、遊ぶのであれば、大人も子供も膝下の水深まで、足を冷やす程度にしましょう。

追伸(15日13:15追記)

 読者から、ホワイトウオーターについて、質問がありました。本来のWhitewaterは「気泡を伴う渓流」の意味なのですが、日本に言葉が輸入された際に「気泡を含む水」にすり変わりました。

 気泡を含んでいるので、ライフジャケットを着用していても沈むという都市伝説があります。水難学会ではこれに関する実験を相当数こなし、結論を得ています。気泡を含む水では、「気泡とともに水が湧き上がるので、身体は沈むのではなく、気泡の消えている水面に向かって流される。」物理でもきちんと説明できます。ライフジャケットは有効的に働きます。

 なお、水中の微生物により界面活性剤の成分が発生し、波や風の影響で水面に泡が大量に発生した場合、その中では身体を浮かせることができず、ライフジャケットの浮力も無効となります。波の華の大量発生で溺れた事故が海外で報告されています。

 

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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