防げ、用水路の水難事故 来年度から国が予算化を検討

男性が命を落とした現場。水の流れを堰で変える際、足が流れにすくわれた(筆者撮影)

 全国で、毎年70人前後が犠牲になる用水路水難。NHKによれば、来年度予算案に都道府県主導の対策に国の全額補助が盛り込まれることになりました。実現すれば国の用水路水難事故対策としては初めてのことです。総延長約40万kmともいわれる用水路に対して、具体的にどのような対策が行われるべきでしょうか。

 筆者は、NHK用水路事故対策班発足時から共同して富山県の用水路水難事故を調査してきました。その経験をもとに、今回は蓋や柵の設置といったハード対策と用水路水難事故を学ぶソフト対策について焦点を絞ってお話をしたいと思います。

【参考】こんな小さな用水路で、なぜ人は次々と溺れるのか?富山の用水路の現状から

ハード対策

 そもそも人が用水路に転落しないようにするには、蓋や柵の設置が効果的です。ところが、用水路の主目的は水を利用すること。すべての用水路に蓋や柵をすると、利便性が損なわれます。さらに、一部でも蓋が空いていると、そこから人が落ちた場合、暗渠を流されることになり、発見や救出に時間がかかることになります。

 図1をご覧下さい。富山県内のある農家の庭を通る用水路の様子です。水を畑にまくばかりでなく、一段低くなったところで収穫した野菜を洗ったりします。このような箇所をすべて蓋で覆うということは、せっかくの天の恵みを利用できなくなることを意味します。

図1 手前に用水路の洗い場がみえる。この用水路は畑の中を突っ切り、どこでも水を汲んで畑にまけるようになっている(筆者撮影)
図1 手前に用水路の洗い場がみえる。この用水路は畑の中を突っ切り、どこでも水を汲んで畑にまけるようになっている(筆者撮影)

 図2は生還現場の例です。富山県内の農村地帯で、この上流を散歩していた女性が犬とともに用水路に落ちて、数十mほど流されてこの暗渠の中に入ってしまいました。女性は幸いにも暗渠の中で気が付き、自力で這って外に脱出しました。しかしながら、そのまま気が付かなかったら誰にも知られることなく、息絶えていたかもしれません。

図2 犬とともに流された女性は、この暗渠の中で目を覚ました(筆者撮影)
図2 犬とともに流された女性は、この暗渠の中で目を覚ました(筆者撮影)

 安全を確保しながら、必要な時に水を利用することができる。こういった課題をバランスよく解決するために、蓋をする方向で知恵が絞られています。例えば、耐久性のある樹脂製のネットを用水路U字溝に半固定し、必要な時にはそれが簡単に取り外せるような製品開発が進められています。外すのにほとんど力を必要とせず、コストをあまりかけず、さらに万が一の時には流された人をすぐに発見、救出できるような将来が見えています。

 また、より幅の広い用水路であれば、農作業や通学などで頻繁に人が行き来する橋の付近から、柵を設置する対策が有効です。こちらの技術開発は済んでいるので、国の事業が始まったら、住民が危機意識をもって危険箇所の優先順位を調査し、自治体にスムースに設置要求を出していけるようになると思われます。

ソフト対策

 用水路水難事故をはじめとして、水難事故は、同じような場所で繰り返し発生します。事故が多発している富山県では、住民が実際の事故現場を訪れて、どのような状況で事故が発生したのか、学ぶ活動が始まりました。

 実は、社会で把握できているのは死亡事故のみで、怪我まで含めた全容は定かではありません。例えば、NHKが各地の消防に取材したところ去年1年間に15の道府県で用水路などで少なくとも2,000人以上が死傷していることが分かっています。

 命が失われた事故にばかり目を向けるのではなく、近所情報を共有しあって、ヒヤリハットまで含めた用水路事故の全容を地域でしっかりと把握する必要があります。特に65歳以上の方が事故に遭う例がたいへん多く見られます。

 その一方でNHKでは、“富山県の調査によれば、「用水路に転落しない自信があるか」という質問に対して、「自信がある」と答えた人の割合は、70代は25.1%、80代以上は20.8%と、最も低い40代に比べて3ポイントから7ポイントほど高くなっていることが分かりました”と報告しています。70歳、80歳まで大丈夫だったので、これからも大丈夫だと思いたいところですが、最期の日は突然訪れます。

 図3をご覧ください。厚生労働省の人口動態統計によればW01 スリップ、つまづき及びよろめきによる同一平面上での転倒で命を落とす人が2018年で7,596人。そのうち、65歳以上の人は7,299人を占めます。用水路事故から生還した人の話を聞くと、「突然よろめいて、気がついたら用水路に転落していた」と多くの人が話しています。つまり、転倒した先に水があれば溺れるため、命を失えば転倒ではなく溺水にカウントされるわけです。用水路水難事故は、スリップ、つまづき及びよろめきとは切っても切れない関係にあるのです。

図3 転倒で命を落とす人の数(厚生労働省の人口動態統計をもとに筆者作成)
図3 転倒で命を落とす人の数(厚生労働省の人口動態統計をもとに筆者作成)

 こういった対策には、もちろん日頃から足腰を鍛えることが重要です。しかしながら、きっかけとなるよろめきなどを素早く検知して、万が一のときには家族等に緊急通報することも重要です。近年のスマートウォッチにはそういった機能がついており、転倒が心配な年齢になったら、ぜひ腕時計として着用したいものです。

【参考】入浴中に寝落ちで溺れたら スマートウォッチで助かる近未来がすぐそこに

まとめ

 天の恵みを運ぶ約40万kmの用水路。この補助事業をきっかけに、バランスの取れた幅の広い対策が進むことが期待されます。国の補助を活用し、都道府県主体にハード、ソフト対策を事業化し、自治体と住民が力を合わせて、全国的課題として、より安全・安心な社会づくりができればと思います。