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まず垂直避難 命の危険のはじまりは豪雨冠水です

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
冠水箇所には近づかない、突っ込まない、そしてUターンする(写真:Motoo Naka/アフロ)

 午後になり、千葉県内で冠水している箇所が出てきました。これから関東北部や東北地方に冠水が広がるかもしれません。まず、無理せず垂直避難です。頑丈な建物の2階以上で様子をみましょう。どうしても外にいなければならない場合、冠水は車から降りて避難するかどうかのひとつの目安になります。流れがなければ膝下の水深で歩いて避難できます。ところが膝上になると流れを伴っている場合、流されます。車の場合も人の膝上の深さで流れがあれば流されます。車に乗っていて冠水したら、車外に避難します。その後歩いて避難する際には、溺水トラップ(注1)さらに体の冷えに注意してください。

膝下の水深

 注意信号です。まだドアの下くらいの水深であれば、車ごと流される心配はありません。ただ、冠水していると、その先が浅いか深いか全く読めなくなります。すなわち、それ以上は進まないようにします。水に浸かると、すべてが平らにみえてしまいます。来た道が冠水していなかったのであれば、もちろん引き返し、高台に向かいます。どうしようも判断がつかなかったら、一度車外に出て、冠水していないところに避難して周囲の状況と自分が置かれている状況をしっかり理解します。「その間に車が浸水したら、どうしよう」と心配になりますが、車が水没して使えなくなっても自分の命は守られたことになります。

膝上の水深

 赤信号です。アンダーパスの水たまりに突っ込んでしまい、まだドアの1/4くらいが浸水した水深で、流れがなければ、躊躇せず車外に脱出します。車ごと流される心配はありません。そして、人も歩いて冠水していない場所に移動することができます。そのまま高台に向かい避難します。車外への脱出方法については状況によってさまざまです。ドアが水圧で開かない場合は窓があけば窓から脱出します。ハッチバックの車であれば、ハッチバックを開けて脱出します。東日本大震災の津波の時には、車が浮き上がっても後方がまだ水に浸かっておらず、ハッチバックから脱出できたという証言が多数あります。

膝上の水深で流れがある時

 命の危険が迫っています。車で避難途中に流れを伴った冠水がある場合は、堤防決壊による急な洪水、台風接近で海面が急上昇して引き起こされた急な高潮、このような時です。こうなると車ごと流されます。直ちに停車して、車外に脱出します。脱出方法は上述の通りです。膝上の水深で流れがあると、例えば秒速1 m(ごく普通の川の流れ)でも人も車も流され始めます。人の場合、上流の方向を向けば頑張って立てますが、下流を向いた瞬間、足元をすくわれて、流されます。脱出後車の屋根に乗るか、あるいは周辺の浮いて流されている廃材、ペットボトル、そのほかなんでもいいのでつかんで、流されたら背浮きでラッコ浮きします。救助されるまで、流され続けるしか、助かる方法はありません。とにかく、自分の呼吸を確保してください。

車で避難するなら

 もちろん、高台に向かって避難します。低い土地、河川の付近、海岸は絶対に避けます。そして、溺水から命を守るリュックサック・ダウンジャケット、これを手元に置きながら運転します。これらが、呼吸を確保するための浮き具となります。もちろん、車の窓を破壊して脱出するための工具もあれば携行していきます。車内にあっても座席より低い位置に置いていたら、役に立ちません。床に浸水してきたら、そういう工具は探せなくなります。

溺水トラップ

 車を離れて、歩いて避難する時、水面下には様々な危険があります。

 避難途中にマンホールのトラップにはまった事故が過去にありました。マンホールに体がすっぽりと入ってしまうと、脱出はほぼ不可能です。体が垂直になり、例えば背浮きになるように体を動かすことすらできなくなります。万が一このような状態に陥ったら、背負っているリュックサックの浮力か、手に持っている空のペットボトルの浮力を使って浮き上がります。

 同じようなトラップは、道路の横に設置されている側溝、道路に沿うように存在する田畑など、道路より一段低くなっているところが危ないです。これまでも家屋に避難しようとして側溝にはまって溺死した例、田畑をみに行ってはまって溺水してしまった例があります。

寒さに注意

 この時期、すでに水温は20℃をきることもあります。人間は水温17度をきりますと、急に身体機能が落ちて低体温症のリスクが高まります。まだそこまでは水温が冷たくないと言っても、冷たいほど、寒いほど、体力の消耗が激しくなります。つまり、水に浸かったらできるだけ早く陸に上がる、濡れたら早く乾いた着衣に変える、あるいは重ね着をする、といった工夫で体温を奪われないようにしてください。

まとめ

 今回の豪雨は、台風の時に匹敵するほど急速に冠水が進んでいるようです。車ごと流されないように、歩いていてトラップにはまらないように、そして体温を奪われないようにして命を守っていきましょう。

注1:溺水トラップとは、道路冠水時に水面下にある、側溝、マンホール、田畑など、思いもよらない深みです。冠水した道路を歩いていて、このような所にはまっておぼれる場合があります。(令和元年10月31日追記)

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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