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台風による冠水に注意 自らの命を守るために準備できること 救助は遅れます

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
自宅周辺が冠水すると水圧で玄関のドアが開かないことも。(本文動画参照:筆者作成)

 台風19号が日本列島に迫ってきています。静岡、神奈川、東京、千葉、埼玉を中心にお住まいの方々は、暴風雨が心配で、気が気でないと思います。今回は、台風19号襲来に向けて、洪水や高潮による自宅周辺の冠水から命を守るために準備すべきこと、緊急時に自らの命を守る方法について解説します。冠水したら救助は遅れます。千葉県内台風15号被災地では、やむを得ず1階で就寝する際には警戒をしてください。

冠水から命を守るために準備するもの

 厚手の着替えやタオルです。これらを図1(a)に示すようにポリ袋に空気とともに入れてしっかり口をふさぎ、(b)のようにリュックサックに詰めておきます。もちろん、時間に余裕をもってあらかじめ準備してください。避難時にこれをもっていけば、途中の道路で冠水が始まっても、緊急の浮き具になります。 

 さらに、図1(c)のようにダウンジャケットのような厚手の上着も、着るために準備しておきます。避難時に着用していれば、いきなり冠水が始まっても、ライフジャケットのように体を水に浮かせてくれます。

 秋台風で意外と忘れやすいのが防寒対策です。気温・水温とも夏場から比べるとだいぶ低くなります。濡れた体はただでさえ冷えやすいのですが、これに強い風が加われば体感温度は一気に下がります。例えば、気温25℃湿度70%なら風速10m/sで17℃ほどまで下がります。濡れたら早く着替える、あるいは厚手の服で体温を逃がさない。着替えや厚手の服の着用は、この点でも重宝します。

図1 台風に備えて準備しておきたい浮き具。(a) 衣類・タオルをポリ袋に詰める (b) ポリ袋の口をふさいでリュックの中へ (c) 厚手の上着も一緒に、常に手元に準備しておく。(筆者撮影)
図1 台風に備えて準備しておきたい浮き具。(a) 衣類・タオルをポリ袋に詰める (b) ポリ袋の口をふさいでリュックの中へ (c) 厚手の上着も一緒に、常に手元に準備しておく。(筆者撮影)

台風19号では突然の冠水に注意

 台風19号では、洪水や高潮による時間的に急な冠水が心配されます。避難をしている途中にいきなり道路の冠水が始まります。もちろん、台風接近に備えて余裕を持った避難が必要ですが、この夏に九州北部を襲った豪雨では、冠水被害にあった方々は、「まさか、もう水が来たとは」と口にしていました。夜中に寝ている間に進行する洪水や高潮。人間は寝ていても、台風は寝ることなく活動し、被害を拡大していきます。どれくらい突然襲ってくるのでしょうか。答えは、「いきなり」です。

1 km圏で冠水は10分以内

 まず洪水。関東地方内陸中心に注意。多くは河川の堤防が決壊することにより、川の水が市街地に流れ出します。決壊する箇所や時間は、誰にもわかりません。危なそうな箇所には水防作業のため、人が多く集まります。でもそこが決壊するとは限らないのです。どこかの堤防が決壊すれば激流となって市街地に流れ込みます。決壊箇所付近で秒速5 mくらいの流れ、離れても秒速2 mくらいの流れが襲来します。決壊箇所から1 kmくらい離れた場所でも500秒すなわち10分以内には水がやってくる計算です。大津波のように市街地が水に襲われると想定してください。

風速が3倍になれば海面高さは9倍にも

 次に高潮。静岡県(駿河湾)神奈川県(相模湾)、東京都・千葉県(東京湾)の湾沿岸地域は特に要注意です。高潮は、台風の低い気圧による海水の吸い上げ現象と、台風の強い風による海水の吹き寄せ現象からなります。台風の気圧が平均気圧の1013 hPaから低くなるほど、おおよそ1 hPaにつき1 cm海水が吸い上げられます。つまり950 hPaの台風であれば、60 cmくらい海面が盛り上がります。そこに南風によって東京湾の奥に海水が吹き寄せられると、例えば風速が10 m/sから30 m/sに上がれば、吹き寄せ現象による海面高さは9倍にも大化けします。気圧も風速も台風の接近に伴い急激に悪い方向に変化します。高潮は急にやってきます。

【参考】 危険!冠水時の避難 溺水トラップが事故を招きます

【参考】流れのある洪水 歩いて避難できるか? その判断基準は

台風15号の被害を受けた千葉県の皆様

 先日、被災状況を視察しました。たいへんな被害を受けており、お察しいたします。

 台風19号の大雨では、市街地特有の冠水、すなわち側溝などの排水路からの溢水にご留意ください。先日の強風で様々なものが飛び、樹木の枝などが束になり側溝のマスや排水路に入り込み、水の流れが悪くなっています。台風接近による急な豪雨となれば、時間雨量が排水能力を超える場合もあります。最大の排水能力を確保して、道路冠水をできるだけ防ぐようにしてください。排水が追い付かないタイプのピンポイント冠水は、自治体が早期に気づかない場合があります。

 2階の屋根が大きく壊れて、1階部分で生活している方も多いと思います。洪水や高潮で冠水が始まると、1階部分はすぐに浸水します。周囲が冠水しているにもかかわらず、それに気が付かないでいると、カバーイメージのように水圧でドアが開かず、室内に閉じ込められる場合があります。動画1も参考にしてください。こうなったら、庭に面したガラス窓をスライドして開けて、厚手の上着を着て浮き具になるリュックサックを背負い、深い水の中を脱出します。心配であれば、やはり台風が接近する前に早めに避難してください。

動画1 水深40 cmでドアが開かないという実験動画(筆者撮影)

最終手段はういてまて

 冠水からどうしても逃げ切れなかったら、ダウンジャケットやリュックサックの浮力を使って、図2のように浮いて救助を待ちます。ただ、台風のさなかであると、119番しても救助隊はなかなか来てくれません。体が水温で冷えていきますので、図3のように、できるだけ水から何かに這い上がるようにします。家の屋根、ベランダなどが水面から顔を出しているようであれば、這い上がります。ただし、這い上がれる高さは水面からせいぜい10 cmです。

図2 リュックサックの浮力で水面に浮いている様子。風や波が強くても浮いていられる。(筆者のカメラで委託撮影)
図2 リュックサックの浮力で水面に浮いている様子。風や波が強くても浮いていられる。(筆者のカメラで委託撮影)
図3 水面から浮遊物に這い上がる方法(筆者撮影)
図3 水面から浮遊物に這い上がる方法(筆者撮影)

 どうしても何かに這い上がれなかった場合には、少し時間はかかりますが、ヘリコプターによる吊り上げ救助、水上オートバイによる救助が徐々に始まります。決してあきらめずに信じて浮いて待っていてください。ヘリコプターによる吊り上げ救助例は次の動画にあります。

動画2 ヘリコプターによる吊り上げ救助例(訓練:筆者のカメラで委託撮影)

【参考】子どもの水難事故死を防ぐ「ういてまて」 今すぐできる小学生向けの教え方

さいごに

 以上は、東日本大震災津波災害をはじめ、様々な水害の被害者の方の体験を参考にし、こういった災害から自分の命を長らえ、生還のチャンスをつかみ取るためにどうすればよいか、水難学会が研究を重ねて得た、確度の高い情報です。冠水から自らの命を守るために、参考にしていただければ幸いです。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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