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水辺で「子供から目を離さないで」では足りない!「子供に寄り添って」事故を防ごう

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
海水浴はライフセーバーのいる海岸で楽しもう。監視は命の最後の砦(筆者撮影)

 今年も海、川、プールを中心に水難事故が発生し、子供が犠牲になっています。よく水辺では「子供から目を離さない」と繰り返されますが、実はそれではどうしても大切なことが伝わりません。お盆のシーズンを前に「お子さんに寄り添って」海、川、プールを安全に楽しんで、夏休みの思い出作りをしてみませんか。

今年発生した子供の水難事故

 今年も夏のシーズンに入ってから、次の5件の水難事故のニュースが飛び込んできました。

  • 8月8日に琵琶湖で小1男児が溺れ死亡した。男児は家族らと琵琶湖を訪れていた。姿が見えなくなり、家族が探していたところ、湖岸から約20 m沖に浮いているのを発見したという。水深は約3 m。(出処:京都新聞 8月8日
  • 熊本県荒尾市では8月5日に遊園地のプールで5歳の女児が溺れて、心肺停止の状態で病院に搬送された。女児は家族と遊園地を訪れていたという。プールの水深は最大で1.4 mほど。(出処:共同通信 8月5日
  • 富山県の朝日ヒスイ海岸オートキャンプ場付近の海岸で8月2日に小学1年男子が行方不明となった。3日朝に発見され死亡が確認された。家族6人で海水浴に訪れていた。両親が目を離した隙に溺れたとみられる。(出処:テレビ朝日系 8月3日
  • 7月26日沖縄県北谷町のアラハビーチで「4歳の男の子が溺れている」と119番通報があった。香港から観光で来ていた4歳男児が意識不明の状態で本島南部の病院に搬送された。意識は戻っていない。男児は両親とその友人らとビーチを訪れ、両親が目を離した間に姿が見えなくなった。付近を捜索したところ砂浜から約7 m離れた海でうつぶせで浮いているのが見つかった。(出処:沖縄タイムス 7月28日
  • 高知市で、7月7日の朝、父親とともに河川敷の清掃活動に参加していた3歳男児が、近くの川の中で見つかり、その後、死亡が確認された。男児が見つかった場所は水深が1.4 mほど。(出処:NHKニュース 7月7日)

 いずれの水難事故でも家族と一緒に遊びに来ていた子供が溺れています。今年もお盆とともに海、川、プールでのレジャーの最盛期がやってきます。家族で水辺に出かける前に、これまでよりさらに安心・安全に過ごすために、どんなことに気を付けたらいいでしょうか、ピンポイントで解説します。

寄り添いましょうと掛け声

 掛け声を「目を離さない」から「寄り添いましょう」に変えましょう。上の5件はいずれも家族と一緒にいながら、子供が単独行動を起こしてしまったがために事故の発見が遅れ、最悪の場合では命を落としてしまいました。

 実は「目を離さない」と刷り込まれてしまうと、近くにいても遠くにいても「子供の姿から目を離さなければよい」と思い込んでしまいます。高知市で発生した事故のニュースに寄せられたコメントの中には、「父親は母親に比べて子供をきちんとみていない」という意見がありました。お子さんに対する愛情は父も母も変わらないのでしょうが、この意見は父親と母親の感じている子供との実際の距離感に言及しているように感じます。

 それであれば、言葉を言い換えればよいわけで、水難学会では水難事故を防止するため、あるいは水難事故に遭った時の周囲にいる家族ができることとして「寄り添い」というキーワードを4年ほど前から使用するようにしています。子供と水遊びを楽しむ時には、お互いに「子供に寄り添いましょう」と言葉を掛け合えば、上で触れたコメントを書きこんだ方の思いがより伝わるようになるかと思います。

「寄り添い」で、水遊びがどう変わるか

〇更衣室から水辺に子供が「先に行くよ」と出ていくのを止めて、寄り添いながら水辺に出る

〇子供がトイレに行きたいと言ったら、寄り添いながらトイレに行く

〇浮き輪にのって遊んでいる子供を見ながら眠くなったら、寄り添って浮き輪遊びをする

〇スマホを見ながら、「子供から目を離さない」ではなくて、スマホを止めて子供に寄り添って水遊びする

〇海辺や川辺のキャンプなどでも、子供と寄り添ってご飯を作る、バーベキューを楽しむ

 このように、「水辺では子供に寄り添いましょう」と皆で声掛けするだけで、活動時の子供との距離感が近くなるように感じると思いませんか。図1を見ると、ごく普通に家族がお子さんに寄り添いながら海水浴を楽しんでいます。これだけでも、悲しい事故を起こさなくて済みます。

図1 子供に寄り添って海に入り、海水浴を楽しむ家族(筆者撮影)
図1 子供に寄り添って海に入り、海水浴を楽しむ家族(筆者撮影)

大人数が逆に裏目に

 「目を離さない」という言葉には、さらに落とし穴があります。大人数で水遊びに来ていれば、誰かが目を離さないで見てくれると思ってしまう瞬間があり、これが裏目に出る場合があります。

 2年前のお盆には新潟県の海水浴場で6歳の男児が溺れました。この時には家族や親せき合計約20人で海水浴を楽しんでいました。大勢で遊んでいる中、母親が6歳男児の弟にあたる子供をテントに連れていくために海から上がり、目を離したすきに事故が起こりました。

 また、4年前にある温泉で発生した事故では、母親と祖母とお風呂を楽しんでいた3人の子供のうち、女児1人が浴槽に落ちて溺れました。この時、母親も祖母もそれぞれが女児を見ていてくれていると勘違いしていました。それが女児の単独行動を引き起こしてしまいました。

万が一の時には

 とはいっても、様々な事情で子供のそばを離れてしまう瞬間をすべて消せるわけはありません。そういう時に最後の砦となってくれるのが、図2に示すように、海水浴場で活躍するライフセーバーをはじめとする監視員や救助員です。やはり水遊びはこのようにしっかりと監視されている場所と時間で楽しみたいものです。

図2 きちんと監視されている場所並びに時間に水遊びを楽しみたい(筆者撮影)
図2 きちんと監視されている場所並びに時間に水遊びを楽しみたい(筆者撮影)

 

おわりに

 水辺のレジャーで耳にタコができるほど聞く「子供から目を離さないで。」この声掛けで、これまで多くの子供の事故を未然に防ぎました。これからはさらに突っ込んだ表現「子供に寄り添って」を皆で声を掛けながら、今年の水遊びの最大の山場であるお盆を楽しく過ごして、よい思い出作りをしてください。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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