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【アプリリア・トゥオーノ660試乗インプレ】小さく軽く程よいパワー、リッターSSに迫る走りが楽しめる

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
APRILLIA TUONO660 画像出典:Webikeニュース

イタリア語で「雷」を意味するTuonoは2003年登場の初代以来、スーパースポーツのRSVシリーズと対をなす最高峰のスポーツネイキッドとして君臨してきた。そして、EICMA2019で初披露された新世代のミドルスーパースポーツ、RS660の兄弟車として今年いよいよ国内上陸したのがトゥオーノ660である。

RS660をストリート向けに最適化

フラッグシップのトゥオーノV4ファクトリー同様、このトゥオーノ660も兄弟車であるRS660のエンジンと車体の大部分を共有化している。大まかにはRS660をハーフカウル化してアップハンにした仕様だ。エンジンは新開発の水冷並列2気筒DOHC4バルブ270度クランク排気量659ccで、ちょうどRSV4やトゥオーノV4のフロントバンクを切り取ってストロークを伸ばしたようなレイアウトが特徴。元々スーパーバイクのエンジン由来ということで、生まれながらにして高性能である。

RS660とは外観もとてもよく似ているが、よく見ていくと細部に違いが見えてくる。まずRSのフルカウルに対してこちらはハーフカウル。ただ、フルカウルに近い大きな形状でハンドルマウントでなくフレームに直接マウントされているためハンドリングへの影響は最小限。ハンドルもワイドタイプなのでライポジも楽で操作しやすいのが特徴だ。また、RS660に対してアルミ製フレームとエンジンを締結しているハンガー部分が一ヵ所少なく、あえて剛性を抜いているのは明らか。

その分、乗り味も柔らかく感じるのは気のせいではないはず。また、ステップはラバー付きでタンデム用もしっかりした作り。アルミ製スイングアームにもRSにはない樹脂製ヒールガードが付くなど、より街乗り&タンデムを想定した装備がありがたい。

日常域が扱いやすくVツイン的な味わいも

跨ってみた第一印象はとにかくコンパクト。RS660と比べてもハンドルは高めかつワイドで程よい前傾度。SS由来のバイクにしては珍しくハンドル切れ角が大きくUターンも楽々。シート高は820mmと標準的だが、並列2気筒で車体がスリムなので足着きも良い。

サスペンションの設定もRSより若干ソフトめで調整機構もシンプル化されるなど、より街乗り向きの設定になっている。

街中やちょっとしたワインディング、高速道路などをひととおり試乗してみたが、ひと言で乗りやすい。その秘訣はエンジンにあり。270度クランクによるVツイン的な鼓動感が気持ちよく、低中速からパンチあって扱いやすく味わいもある。

最高出力はRS660の100psに対し95psとマップによってストリート向きに出力特性も最適化されているが、実際に乗ったフィーリングは変わらず、むしろ低中速トルクが厚くなった感じ。ピークは1万rpm以上だが4000rpmで最大トルクの80%を発揮するワイドレンジな特性で、3000rpmも回していれば何速ギアからでも加速する。

250の車格に400の車重でクルクル曲がる

何よりもパワーが手頃なのが良い。骨太なパルス感があって路面を蹴るトラクションの感じが分かりやすい。ライドバイワイヤーによる電子制御スロットルの反応も右手に忠実で、市街地によくあるタイトコーナーでも閉じて減速、開けて加速という一連の受け渡しがスムーズ。自然なフィーリングで人間の感性に馴染みやすいのだ。

加えて、車重も183kgとクラス最軽量レベルでホイールベースも1370mmと250ccクラス並みにショート。軽量コンパクトを生かしてクルクル曲がるしヒラヒラ旋回する。それでいてフロントの接地感はしっかり出している。聞けばフロントまわりのディメンションも専用に調整されているとのこと。さすがはワールドタイトルを54回も獲得してきたアプリリアのノウハウが注がれたモデルだ。

サーキットでもRS660と同格の走り

走りの良さはサーキットでも実感できた。実は先日、スクールの先導でサーキットでも試乗する機会があったのだが、同時に乗り比べたRS660と遜色ない走りができてしまう。エンジンと車体が共通なので当たり前ではあるが、自分としてはライポジの関係でトゥオーノのほうが楽に乗れた。

ここでも軽量コンパクトのメリットを最大限生かして早めに向き変え。出力特性が穏やかなので開けやすく、より早いポイントからスロットルを開け始めることができるため、立ち上がり加速も速く結果的にトップスピードも伸びていく等々、ショートコースであればリッターSSクラスと互角以上の走りができてしまうほどだ。

電制で豹変する走りを安全に楽しめる

注目したいのは電子制御の充実度だ。2輪において電制化にいち早く取り組んできたアプリリアが誇るAPRC(アプリリア・パフォーマンス・ライドコントロール)は5種類のライディングモード(ストリート3種/サーキット2種)やABSにトラコン、ウィリーコントロールにエンジンブレーキコントロール、エンジンマッピングなど最上級モデルのRSV4とほぼ同格のパッケージが入っている。

なお、クイックシフターや6軸センサーはオプション設定で用意されレベルアップすることも可能だ。ライディングモードはイタリアンらしくメリハリが利いていて、特に街乗り用の「コミュート」モードは穏やかで扱いやすく、多少ラフにスロットルを開けてもトラコンが自然に入ってくれるので安心。

対する「ダイナミック」はパリッと元気よく。さらにサーキット用モードはかなりアグレッシブでキャラが豹変。トルクが弾けて2速からでもフロントが上がってくるほど。

もうひとつ、エアロダイナミクスも本格的。ハーフなのにフルカウルに近い形状で、エアロデバイスもMotoGPで流行りのダクトカウルタイプになっていて見た目もカッコよく整流効果も抜群だ。

快適なライポジと扱いやすいパワー、軽量コンパクトな車体を生かした運動性能の高さに電制フル装備の安心感。そして、税込で約130万円というコスパ価格。トータル的に見ても、とてもバランスの良いパッケージだと思う。その上で、サーキットでガンガン走りたい人にはRS660がおすすめ。そのパフォーマンスに加え、さらに街乗りやツーリングなど幅広く楽しみたい人にはトゥオーノ660をおすすめしたいと思う。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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