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「右折巻き込み」でライダー死亡 不可解な事故は何故起きたのか!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
写真はイメージです。(写真:Panther Media/アフロイメージマート)

右折しようとするクルマを右から追い越し?

「右折巻き込み」というのはあまり聞いたことがないが、ちょっと不可解な事故が起きてしまった。右折しようとするクルマを追い越すなんてことがあるのだろうか。

これは岡山県で9月14日午前10時頃に発生した事故である。報道によると片側一車線の見通しの良い道路で、ごみ収集車が住宅地に入ろうと右折したようだ。そこに後方から来たバイクが右側から追い越そうとして、ごみ収集車の右側面に衝突。バイクを運転していた男性(69)が死亡している。

普通に考えれば、右ウインカーを出しているクルマを右から追い越そうとするだろうか。バイクに乗っている人なら直感的に分かるはずだし、否クルマのドライバーだって同じように考えると思うが、「あり得ない」抜き方である。バイクは大型クルーザーでライダーの年齢も高いことからベテランと思われ、普通であればなおさらそんな無謀なことはしないと思うのだが……。

画像出典:Webikeニュース ※写真はイメージです。
画像出典:Webikeニュース ※写真はイメージです。

では何故、今回の事故は起きてしまったのだろう。いくつか仮説を考えてみた。

仮説(1) ごみ収集車がウインカーを出していなかった

事故現場は交差点ではない片側一車線の直線路である。追い越し禁止場所ではなく、法的には追い越し可能だったわけだ。

もしもゴミ収集車がノーウインカーでいきなりハンドルを切ったなら、加速しながら追い越そうとしていたバイクには避けようがなかったのかもしれない。

仮説(2) 「まさか右折はない」というバイク側の思い込み

事故現場は直線路で一見どこも曲がる場所はなさそうに見える。もしゴミ収集車がノーウインカーだったとしても、そこが交差点だったら「曲がるかも?」とライダーも身構えたはずだ。事故現場の映像を見ると、その場所には店舗やパーキングなどの看板もなく、歩道を横切って入っていくような細い路地に見える。

つまり、右折しそうもない場所だったのだ。最近のコラム、『バイクで最も恐ろしい「右直事故」 それは交差点で起きるとは限らない』でも書いたが、ライダーはまさかこんなところで右折してくるとは思わなかったのかもしれない。

仮説(3) ライダーが右折の兆候を見逃した

直線路から右折横断して細い路地に入ろうとする場面で事故は起きた。ごみ収集車がもしノーウインカーだったとしても、右折に備えてブレーキを踏むか(制動灯が光る)、少なくとも減速していたはずだ。ライダーがその挙動を見逃した可能性もある。

もしくは、加齢による認知・判断・操作の遅れ、あるいは、危険を認知しても間に合わない速度が出ていたのかもしれない。また、最近のバイクはナビを見たり音楽を聴けたり、走りながら様々な電子デバイスの操作もできるなど、特に高級モデルでは装備はより豪華になっている。

それは便利で快適な反面、情報過多になっているという見方もできる。もしかすると、ライダーは何か他のことに気をとられていたのかもしれない。

仮説(4) ごみ収集車が追い越そうとするバイクを見逃した

仮説(3)の逆で、すでに追い越し態勢に入っているバイクをドライバーが見逃した可能性もある。右折する場合、向かってくる対向車には最大の注意を向けるが、右のミラーに映っていたはずのバイクの姿は見えていなかったのかも。

「左折巻き込み」のリスクについては日頃から口を酸っぱくして言われるため、特に職業ドライバーは細心の注意を払っているはずだが、こちらも「まさか反対車線の後方からくる」とは夢にも思っていなかったのかも。

事故はいくつかの悪条件が重なって起きる

以上、ここに挙げた仮説はすべて可能性に基づくもので、事故の真実・真相は分からない。ただ、事故は複数の悪条件や不運などが重なったときに起きやすいと言われ、「あり得ない」ことが起きるのが事故である。そして、その原因のほとんどはヒューマンエラー(人為的ミス)によるものだ。

今回の例で言えば、ドライバーとライダー双方の不注意に加え、錯覚しやすい道路環境や、さらに3次的な何かの要因があったのかもしれない。ドライブレコーダーや街頭カメラなどに原因究明のヒントが残っていれば幸いなのだが。

ともあれ、運転中は常に次の瞬間に何かが起こる「かもしれない」と思ってハンドルを握らねばならない、ということだろう。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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