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バイクで最も恐ろしい「右直事故」 それは交差点で起きるとは限らない

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
画像出典:Webikeニュース ※写真はイメージです。

猛暑をふるった夏も去り秋の気配が漂う今日この頃ですが、遅い夏休みをとられる方も多いかと思います。ライダーにとってはお待ちかねのツーリングシーズンがやってきますね。

そこで、今一度気を引き締める意味で安全運転に考えたいと思います。

「右直事故」が再び目立っている

この夏の間も残念ながらバイク事故が多数発生し多くの尊い命が失われました。その中で最近再び目立ってきたのが「右直事故」です。直進するバイクと右折しようとする車の間で起こる典型的な事故と言われています。速度差が大きく衝突のダメージも大きいため、ライダー側の死亡事故につながるケースが多いのも「右直事故」の特徴です。

直近では9月21日午前、宮城県の国道で直進中の大型バイクと右折しようとした乗用車(58/女性 )が衝突する事故があり、ライダーの男性(47)が死亡しています。また今月初旬にも鹿児島市の県道交差点で直進するバイクと右折する乗用車が衝突し、バイクを運転していた警察官の男性(53)が死亡。乗用車を運転していた女性(50)も県警職員という、交通安全に係る方同士による痛ましい事故が発生しています。

知ってのとおり、道交法では直進車は右折車に優先されますが、事故が起きてからそれを言っても始まりません。

「右直事故」は交差点で起こるとは限らない

バイクの「右直事故」の多さはデータによっても裏付けられています。一例を挙げると、警視庁が公開している「二輪車の交通死亡事故統計(令和元年中)」を見ても、令和元年だけでなく過去5年平均ともに単独事故と右折時が多くなっています。また、公的機関から発表されている様々なデータを見てみても、バイクの死亡事故の約7割は「単独」(3割)、「右直」(2割)、「出会い頭」(2割)で占められるなど、その割合は目立っています。

右直事故というと、交差点で起こるイメージを持たれる方が多いと思いますが、実は交差点以外で発生しているケースも多く注意が必要です。

典型例は「サンキュー事故」と呼ばれるパターンです。これは、反対車線側にある駐車場などに右折横断して入ろうとしたときに発生します。対向車が停止してくれたことで挨拶に気をとられ、気持ち的にも早く右折しなくてはと焦ることで、対向車の脇をすり抜けしてくるバイクや原付を見逃してしまうことが要因です。21日に宮城県で発生した右直事故も、道路沿いの店に入るために右折横断しようとした乗用車が直進してきたバイクに気づかずに起きた事故でした。

危うく「サンキュー事故」の加害者に

先日、私も危うく「サンキュー事故」の加害者になるところでした。交通量の多い都内の片側一車線の道をクルマで走行中、反対車線に面した訪問先の駐車場に右折して入ろうとウインカーを出しながら待っていたところ、対向車線の一台の大型トラックが止まってくれました。

運転手さんはヘッドライトをチカチカさせながら「行って行って」と促しています。そこで、軽く会釈しつつそろそろと右折し始めましたが、大型トラックの陰になってしまい後続車両の様子がまったく分かりません。相手からも同様にこちらの様子は見えないはずです。

これは最も危険なパターンと判断。牽制する意味で、本当にセンチ単位でクルマの鼻先を少しずつ出していった瞬間、案の定、大型トラックの左側から250ccのスポーツバイクが飛び出してきました!そのバイクはパニックブレーキで危うく転倒しかかりましたが、なんとか立て直して難を逃れてくれたのが幸いです。

バイクと自分のクルマとはだいぶ距離がありましたが、それでもライダーは口から心臓が飛び出る思いだったでしょう。自分も寿命が縮まった気がします。今回は運が良かったですが、もしあそこで自分が勢いよく右折していたとしたら、典型的な右直事故となり加害者となってしまったかもしれません。

これは自分がバイクで右折する場合でも同じことが言えるでしょう。

精神的なストレスが判断を誤らせる

今回のパターンはいわゆる「サンキュー事故」に陥りやすい典型例です。

右直事故は経験値の少ない若年層に多いと言われています。経験を積むことによりドライバーやライダーは危険なパターンを見抜いて対処できるようになりますが、ふとしたきっかけで危険を見逃してしまうことがあります。たとえば、今回のような例。「渋滞した道で後続に迷惑をかけているのでは……」とか「対向車が待ってくれているので早く行かないと……」など、精神的なストレスが原因になることも。

普通の交差点であれば右直事故の危険は重々承知していても、渋滞路ではイライラの感情や、一見交通の流れが止まっているような景色が判断を誤らせる可能性があります。

注意一秒、怪我一生

自分が直進する側だった場合、渋滞車両の側方を走行する(すり抜けの是非は別にして)ときでも、「そこは交差点ではないのか?」「駐車場の出入口ではないのか?」など状況をよく観察し十分注意すること。

また、自分が対向車の直前を右折横断する場合は、「その脇をすり抜けしてくるバイク(原付や自転車)がいるのでは?」と疑ってかかるべき。そして、十分な安全確認をした上で、周囲からのストレスに惑わされずに落ち着いてソロリソロリと右折すべきでしょう。

「注意一秒、怪我一生」という標語が示すとおり、一瞬の気の緩みが取り返しのつかない大事故につながる可能性があります。聞きたくないイヤな話かもしれませんが、バイクやクルマに乗るときは常に心に留めておきたいものですね。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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