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横断歩道で9割が止まらない それはヘンだよ、日本人!

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
写真はイメージです。(写真:アフロ)

横断歩道での事故が増えている

横断歩道で歩行者がクルマにはねられる事故が後を絶たない、という記事を先日ニュースで見た。

JAFの全国調査でも、信号のない横断歩道で歩行者を優先して一時停止したクルマの割合は8.6%と僅かで、9割以上は歩行者がいても止まらなかったそうだ。ちなみに東京都でも平成30年中における歩行者の交通死亡事故のうち55%が横断歩道と横断歩道付近で起きている。今や「横断歩道は歩行者にとって危険なエリア」になってしまったのだ。

そして、横断歩道上の交通事故における歩行者とクルマの過失割合は信号機の有る無しに関わらず、ほぼ0対100になることが多い。つまり、横断歩道上で事故があれば問答無用にクルマ(バイク)が罰せられるにもかかわらず、9割以上のドライバー(ライダー)がそのリスクを取っているということになる。

横断歩道で一時停止はルール

そもそも、信号機のない横断歩道では歩行者が優先で、クルマは一時停止する義務がある。

道路交通法38条の中に「車両等は、その進路の前方の横断歩道等を横断し、または横断しようとする歩行者等があるときは、その横断歩道等の前で一時停止し、かつ、その歩行者等の通行を妨げないようにしなければならない」と明記されている。

これを守らないと「横断歩行者等妨害等」の違反になり取締りの対象になるわけだが、最近はこれを無視するドライバーが急増しているそうだ。ということもあって、今年に入り各都道府県警による取締りが強化されている。来年の東京オリンピックを間近に控え、訪日外国人へのアピールも含め、ドライバーの安全意識向上を促す狙いもあるようだ。運転する皆さんも、頭の片隅に入れておいたほうがいいだろう。

海外では止まるのが当たり前

海外では日本とは逆に、あまりにクルマが止まってしまうので戸惑うことがある。米国でも欧州でも、横断歩道の近くに人が立っているだけで、渡ろうとはしていなくても必ずと言っていいほどクルマはピタッと止まってくれる。

自分がアメリカに出張したときのこと、横断歩道から1~2メートル離れて地図を見ていたのだが、ふと気づくと数台のクルマが列を成して止まっていて、本当に申し訳ないというか恥ずかしい思いをしたことがあった。彼の地ではそれぐらい歩行者優先が徹底されているのだ。

「赤信号みんなで渡れば……」の集団心理

これには2つの理由がありそうだ。ひとつは教育の違い。欧州にいる知人の話では、彼らは幼い頃から学校の授業で交通教育を学ぶそうだ。

ドイツのように本格的に取り組んでいる国もあれば、そうでもない国もあるだろうが、基本的に歩行者がいる場所では「必ず停止する」というのが大原則のようだ。

もうひとつの理由としては、交通ルールが厳格で取締りも徹底していることが挙げられる。

たとえば、東京では自転車で歩道を走っていても(自転車は車道を走るのが原則)、また車道を逆走していたとしても、よっぽど目に余らない限り取締られることはない。これがロンドンであれば警官が常に目を光らせていて、自転車でも違反をすれば容赦なく止められて安くない罰金を払わされる。

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もちろん、日本にも厳格な交通ルールがあるはずなのに、行動レベルでは曖昧なことが多いし、それを守ろうという人々の意識も低いのではなかろうか。

ちょっと古いが、「赤信号みんなで渡れば怖くない」とビートたけしが痛烈に皮肉ったブラック標語がある。日本人の集団心理を見事に言い当てていて感心してしまうが、それもお笑いの話だけにしてもらいたいものだ。

止まってくれたのは一台のバイクだった

最近、カルチャーギャップを思い知る出来事があった。

仕事で地方に出張したときのことである。見通しは良いがけっこう交通量が多く速度も出ている、どこにでもあるような田舎道。道路の反対側にある駐車場に行きたいのだが、クルマの流れはいつまで経っても途切れない。ドライバーもこちらをチラッと見はするが、止まってくれないのだ。

わざわざ手を挙げるのもなんだかなぁ、と思っていると、そこに通りかかった一台の大型バイクがスーッと減速して穏やかに止まってくれた。もちろん、後続のクルマも従うほかない。「どうぞ、渡って」と手を差し伸べてくれたヘルメット越しの顏から欧米系の人だと分かった。バイクで停止するのはただでさえ億劫なものだ。

しかも横断歩道でもないところで、若い女性でもない相手に対して止まってくれたのが驚きだった。

事故を減らすだけでなく好感度もアップ

本人は当然のことをしたまでと思っているかもしれないが、私には止まってくれた行為以上の有難さというか、人としての高潔さを感じずにはいられなかった。彼らのこうした善行を躊躇なくできるマインドは、もしかしたらキリスト教的な精神に根差すものなのかもしれないとまで思ったのだ。

こうした日々の些細な行いが、横断歩道での悲惨な事故を減らすことにつながるのはもちろんのこと、人々のバイクに対する印象も変えていくのだろう。

つまりバイクの好感度アップだ。日本人にも本来、割り込まずにエスカレーターの順番を待つなどの美徳が備わっているはずなのに、こと乗り物の運転となると堪え性がなくなる傾向があるように感じるのは私だけだろうか。

自分にもなかなかできないことだが、少しでも見習おうと思った次第だ。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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